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さもなければ夕焼けが こんなに美しいはずがない

カテゴリー:社会

著者 丸山 健二、    出版 求龍堂
 
 安曇野にこもり、ただ一人の力で執筆と作庭に明け暮れる小説家のエッセイです。
 芥川賞受賞作家が執筆活動とあわせて壮絶な庭づくりに挑んでいる状況が伝わってきます。ちょっと真似できません。今回も口絵の写真で庭が紹介されていますが、まさしく芸術作品と言うべき庭です。私の庭のように、春はチューリップ、なんていうのんびりしたトーンとはうって変わって、自然との真剣勝負を感じさせる緊張感あふれる作庭の業です。
 庭作りは、自分好みの植物を片っ端から集めて植え、あとは水と肥料さえ与えておけばひとりでに様になってゆくと考えるのは大きな間違いだ。
庭と自然の決定的な差異は、要するに秩序と無秩序の違いだ。庭においては、膨大な時間を短縮するための絶え間のない手入れが欠かせず、人為的に、やや強引とも言える秩序を施してやらなくてはならない。
 大胆に棄てられない、優柔不断な性格の持ち主には作庭は向いていない。
 美は無限であり、底無しであって、ために、ひとたびそこに足を踏み入れ、本道を歩むことの醍醐味を味わってしまった者は、二度と抜け出せない。
となると、日曜の午後に何時間か庭に出ているだけの私なんか、とても庭づくりをしているとは言えないわけです。それでも、1年中、庭に出ていると、少しずつ庭の様相も変わってはきているのですが・・・。
 著者の庭は350坪。私の庭はせいぜい80坪もあるのでしょうか・・・。その350坪をめぐって展開する美の葛藤・・・。
華道家と作庭家との決定的な差異は、植物を単なる物と見なすか、生き物と見なすかにある。
 私は、庭に咲く花を摘んで生花として家の中に飾ることはしません。できないのです。せっかく生命を咲かせてくれた花を摘むなんて、心情として忍びがたくて、私にはできません。ただ、風に倒されてしまったような花は、もったいないので、摘んで花瓶に差して賞でてやります。その美がもったいないからです。
 この本のタイトルは18世紀の詩人の詩の一節だそうです。
 庭作りの執念を文章にすると、こんな本になるのですね。都会ではない、田舎に棲む良さの一つが花を育てることです。その一点で、私は著者の言動に共感します。
(2011年2月刊。1600円+税)

廃墟となった戦国名城

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  澤宮 優、  出版  河出書房新社 
 
 この本に登場するお城のなかで私が行ったことのあるお城を先に挙げてみます。
 安土城、大阪城、肥前名護屋城、上田城そして原城です。
 安土城には2度行きました。安土城の大手道は広くて一直線に山をのぼっていきます。両側に秀吉邸跡そして前田利家邸跡があります(いずれも「伝」となっていますので、確定したものではないようです)。そして、天守閣のあとの礎石が残っています。
五層七階、地下1階、地上6階。壁の色は、下部が黒、上部が白。上部3層は金や朱の色で飾られていた。この天主台跡地に立つと、信長が天下を見下ろしていた気分をいくらか偲ぶことが出来ます。安土城の石垣をつくったのは石工集団の穴太(あのう)衆だとされていますが、この本は、それを否定しています。
むしろ、信長は寺院建設に生かされてきた石垣をつくる技術者たちを寺院から解放し、再編して安土城の石垣造りに生かした。
 肥前名護屋城は、玄界灘に面した高台に今も廃墟が残っています。すぐそばに立派な博物館があって、住時を偲ぶことが出来ます。秀吉は16万の兵を朝鮮に渡らせた。名護屋城には徳川家康ら11万、京都に警護として秀次ら10万の兵が置かれた。総勢37万の挙国態勢だった。
 この出兵は朝鮮半島を植民地として支配するのではなく、明(中国)征服のために朝鮮半島全滅に道筋を確保することにあった。実に途方もない発想です。いくらなんでも、誇大妄想としか言いようがありませんね。独裁者の思い込みというのは、いつの世も恐ろしいものです。今も昔も何もない名護屋城がこのときばかりは20万人の大都市に変貌したというのです。
 島原の乱の激戦地である原城跡に行ったのは、つい最近のことです。現地に着いてみると、海に面した丘陵地帯で、ほとんどが農地になっています。土産品店も何もありません。立て籠もった兵力は2万3千人。女性と子どもも1万4千人いた。命令系統をきちんとして、住居グループごとにまとまった小屋を建てた。信仰を基盤とした結束が生かされた。戦後、徹底的に破壊されたわけですが、それでも地下を掘ると、今でも当時の人骨が出てくるそうです。幕府軍は3万7千人を皆殺しにしており、一人も(1人の画師を除いて)助かった人はいません。
日本には、まだまだ行ってみたい廃城があることを知ります。小田原城も高天神城もいってみたいものです。
(2010年12月刊。1700円+税)

33人チリ落盤事故の奇跡と真実

カテゴリー:アメリカ

著者    マヌエル・ピノ・トロ 、 出版   主婦の友社
 
 チリ鉱山で、700メートルの地底に2ヶ月以上も閉じ込められ、全員が無事に救出された状況が描写されている本です。
サンホセの鉱脈は、1889年に拓かれてから100年以上たっている。坑道は地下800メートルの深さまで、らせん状のスロープになっている。100年もの間、作業員は量りきれないほどの銅や金を採取してきた。
 落盤事故から2週間たった。33人の居場所を探すために、砂漠の地面を掘る掘機を操作していた。ドリルがふっと何かをつき抜けた感触がした。そして、かすかな衝撃があった。急いでドリルを地底から引き揚げる。ドリルを見ると、先端あたりに赤い色がついているのが見えた。地底の作業員たちがドリルに色を塗ったのだ。ドリルの中身を引き抜くと、何かくくりつけたものが出てきた。湿ったビニール袋がくっついている。しかも中に紙が入っていた。くしゃくしゃの紙に文字が書かれている。
「我々33人は、避難所にいて、生きている」
 すごい感激の一瞬でした。しかし、問題はそこから始まります。どうやって救出するか。地底の人たちが耐えられるかです。
やがて地下700メートルの深さから映像が届き、電話で会話できるようになった。地下の気温は34~35度。湿度は80%をこえる。避難所は50平方メートルの広さで50人が収容できる。酸素ボンベで、食料、水が貯蔵されていた。乾電池もライトもある。地下には人工的な昼と夜がつくりあげられた。
 地下の作業員が四六時中、救出のことばかりを考えて過ごすようなことがないように、不安材料はなるべく取り除く。地下の作業員はグループに分かれ、仕事を割り振られてシフト制で働いた。これが士気を高め、雰囲気の改善につながった。
 家族との対面は1分間。そして絶対に落ち込ませないよう、明るく穏やかな話題だけにすることという条件がついた。
アルコールは地下の作業員には差し入れなかった。集団に深刻な精神的不安定をもたらす危険があるからだ。湿度のせいで、より早く汗をかくので、外の環境と同じ方法では、アルコールは身体に吸収されない。
33人の着る服は、特殊繊維のもの。非常に優れた通気性をもち、防水性があって汗を効果的に発散できるため、皮膚を常にドライに保てた。そして、抗カビ作用もあった。
2010年10月13日、70日ぶりに地上へ生還した。救出作戦は23時間に及んだ。
すごいですね。33人もの男たちが70日間も700メートルの地底に閉じ込められ、そして全員が生還したのですからね。勇気と知恵あふれたチリの人々に拍手を送ります。
(2011年2月刊。1500円+税)

胎児の世界

カテゴリー:人間

著者    三木 成夫、 出版   中公新書
 
 1983年に初版が出ている古典的な名著だというので読んでみました。
 人間が生まれる前、母体でどんな生活をしているのか、その形や顔、そして機能はどうなっているのかを教えてくれる本です。
胎児は3ヶ月になると、一人前に舌なめずりをし、舌つづみを打ちはじめる。
 胎児は羊水に漬かっているが、この羊水を思いきり飲み込む。来る日も来る日も、これを飲み続ける。こうして羊水は、胎児の食道から胃袋までくまなくひたし、腸の全長に及ぶ。さらに、肺の袋にまで液体は流れ込む。羊水呼吸は、半年にわたって、出産の日まで続く。出産のとき、この羊水は最初に勢いよく吸い込まれた空気に押されて、たちまち両肺の周辺部に散らばり、一種の無菌性肺真の状態となる。これは一ヶ月で血中に吸収される。
 ニワトリの卵は21日で孵化する。ところが、温めはじめた4日目、正確には4日から5日にかけて、それは一つの危機を迎える。同じように、胎児の発生は決して一様ではない。途中、山あり、谷あり、ときには危険な時期もある。
40日を迎えた胎児の顔はもはやヒトと呼んでも差し支えない顔をしている。真正面を向いた二つの目玉と、大きな鼻づらがある。
60日目の胎児になると、巨大な大脳半球が目立つ。
 人間が人間となっていく過程を明らかにしていく、この本を読むと、その神々しいまでの神秘さに沈黙せざるをえません。こうやって、この世に生まれてきたんだね、生きてて、良かったね、っていう感じです。
(2007年10月刊。700円+税)

パタゴニアを行く

カテゴリー:ヨーロッパ

著者   野村 哲也、 出版   中公新書
 
 パタゴニアとは南アメリカ大陸の最南端にある地方です。
 自然の豊かな写真に魅了されますが、住んでいるのはほとんど白人。つまり、先住民は絶滅させられたわけです。虐殺だけでなく、白人が持ち込んだ病気に抵抗力がなかったようです。
背の高い(男性180センチ、女性170センチ)先住民は、巨人伝説を生み出しました。混血によって美人も多いようです。
 それにしても豊かな海産物、そして果物も豊富です。
富士山によく似た山もあります。
 お城の山と呼ばれる山は面白い変わった峰を抱いています。
 海に出ると、クジラ・ウォッチングも出来ます。クジラたちが潮吹きをすると、卵をたくさん食べたあとのオナラの匂いを立てることを知りました。たまらない臭さのようです。
 ペンギンもあちこちいます。ペンギンはリーダーのいない動物。誰が偉いという感覚がない。みんな平等に泳ぎまわる。
 夜になると、満天の星空が手にとれるような近さで迫ってきます。
 15年間にわたって世界中を旅した著者が一番気に入っているというパタゴニアの素晴らしさがよく伝わってくる写真集です。
(2011年1月刊。940円+税)

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