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死なないノウハウ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 雨宮 処凛 、 出版 光文社新書
 軍事予算ばかりが際限なく増大していっています。そのときは財源のことは誰も(マスコミも!)問題としません。政府(自民党も公明党)も財源がないとは絶対に言いません。年金やら教育そして司法予算のときは、財源がないから難しいというくせに…。
 そして、生活が苦しい人はますます増えています。そして、その多くが、残念なことに投票所に足を運びません。あきらめきっているのです。悪循環の典型です。
 みんなが今の悪政への怒りを投票所に行って投票で意思を表明したら、この日本だって劇的に変わるのですが…。
 先日の衆院補選で「自民党全敗」は、それを裏づけています。それでも、投票率は5割を切っていましたよね。長年の自民党支持者が怒りのあまり自民党に投票しなかったというのであれば、それは許せるのですが…。
 日本では年間150万人が死亡し、そのうち10万6千人が、誰も弔(とむら)う人がいない。うち「無縁遺骨」は6万柱。
1人暮らしの65歳以上の5割近く(46.1%)が貧困ライン以下の生活を強(し)いられている。
 著者は、50歳台を目前にした独り身、そしてフリーランスの文筆業。なるほど、生活は大変だろうと推察します。著者は19歳から24歳までフリーターでした(1994年から1999年まで)。よくぞ生きのびましたね…。
 著者の人生初の海外旅行先が北朝鮮というのには驚きました。また、サダム・フセインの長男ウダイ氏と会談したなんて、珍しい体験をしています。
 日本では、「何か」があれば、生活が根こそぎ破壊される層が膨大に存在する。これは弁護士生活50年、そして地方の小都市でしょぼしょぼと弁護士をしてきた私の実感でもあります。タワーマンションなんて、はるか彼方の遠い別世界の話です。
 日本は、メニューを1字1句まちがえずに正確に、しかも正しい窓口で「注文」できた人だけが利用できる制度が提供されるというシステムの国。なるほど、そうなんですよね…。
 初め「ムテイ」というコトバを聞いたとき、何のことか分かりませんでした。
 本当にお金がない人が病気にかかったとき、「無料低額診療」を受けられるシステムが日本にはあるのです。そんなことを知らない人がほとんどだと思います。もっと知られていいシステムだと私は思います。根本的には、そんなシステムなんか必要ないほうがもちろんいいとは思いますが…。
 生活保護は、持ち家があっても受給できます。これは、実際、私も何件も体験しています。東京都内だと3千万円以下の持ち家なら、そこに住みながら生活保護を受けられるのです。年金を受けとっていたら、その差額ということにはなりますが、それでも医療保護で自己負担なくというのは強い味方になります。
 この本には、入居時に6千万円を支払ったうえ、毎月35万円を支払うという高級な老人マンションに入居した人の話が紹介されています。トータルで1億円とか1億5千万円もかかるそうです。とてもとても、そんなところには住めませんよね。ところで、そんなところに入って、いい景色を毎日ずっと眺めていたら、刺激が乏しくて、認知症に早くなってしまわないか、心配します。著者が話を聞いた人は、結局、そんなマンションから早々に脱出したそうです。やはり実社会でもまれてきたほうが、生きているという実感がありますからね。
 私は、やはり、人間と人間の関わり、多少わずらわしいくらいの関わりがあることを大切にしたいです。生き抜くためのヒントがたくさんある本です。
(2024年4月刊。990円)

腐敗する「法の番人」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 鮎川 潤 、 出版 平凡社新書
 日頃、気になりながら、つい忘れかけていたことをいろいろ思い出させてくれる新書でした。
 まずは警察とマスコミの関係です。新聞・テレビを漫然とみていると、なんだか日本の社会は凶悪犯罪が次々に起こり、犯罪が増えて治安が悪くなっていると思わされます。
 ところが、実際には、以前は毎月1件以上は国選弁護事件を担当していましたが、このところ、年に1回あるかないか、です。被疑者弁護事件はときどき担当していますが、ともかく犯罪が圧倒的に激減しました。これは全国共通の現象です。
 殺人事件は戦後最低件数を更新しています。犯罪の認知件数はピーク時の3分の1にまで減っているのです。ところが、その事実を多くの国民が知ったら、警察の人員や予算を減らせという声が湧きおこりかねず、また、警察幹部の天下り先の確保が難しくなってしまいます。それで、「日本の治安はこんなに悪くなっている」と日本人に思わせるよう、警察はマスコミを操作しているのです。
 警察白書を発表するとき、警察は見出しの文句まで用意しておくそうです。いやはや、それをそのまま垂れ流すマスコミも、どうかと思ってしまいます…。
 今、高齢者の犯罪はたしかに増えています。それはスーパーやコンビニでの万引事件です。そこには病的な面もあるわけです。万引を繰り返していると、確実に実刑になります。コンビニで100円ほどのおにぎりを万引きして、常習累犯(るいはん)窃盗として、1年間も刑務所に入れておくことになるのが、珍しくありません。いったい、それにどれだけ意味があるでしょうか。なにしろ、1人を1年のあいだ刑務所に入れて国が面倒みると300万円もかかるのです。まるで費用対効果にあいません。
 刑務所の収容者は急速に高齢化しています。65歳以上の人が男性で1.4%(1990年)だったのが、13%(2020年)、女性は1.7%(1990年)だったのが、19%(2020年)に激増しているのです。そして、重罰化・長期刑化のなかで、刑務所の医療は、病気治療だけでなく、終末医療まで求められているといいます。だから、介護・福祉だけでなく、終末医療も必要というのです。驚くべき現実です。
 万引事件が増えたのは、防犯カメラの設置が増えたことにもよるといいます。コンピューター・システムの発達は「犯罪増加」にもつながっているのですね…。
 警察の裏金が大きな社会問題となりました。今ではまったくなくなったのでしょうか。とてもそうは思えません。勇気ある現職警察官による内部告発によって明るみに出たことでしたが、今もひそかにやられていないと果たして断言できるでしょうか…。
 ともかく、警察の裏金は図体がでかいために、ケタ違いでした。検察庁でも裁判所でも裏金づくりはやられていました。それはカラ出張によって旅費を浮かせているのが主流でした。しかし、公安警察ではスパイへの報償金という仕掛けがあります。スパイですから氏名を秘匿した人に支払うわけなので、それを担当刑事が着服していないか、誰もチェックできないのです。この手法を使えば、いくらでも裏金をつくり出すことができます。
 警察がスパイをつかっていないはずはなく、その報償金が明朗会計になっているはずもないのですから、今でも警察では裏金が公然と横行していると私は考えています。でも、よく考えてください。それって、業務上横領事件です。しかも、税金ですから、被害者は国民、つまり私たちなのですよ…。犯罪を取り締まるはずの役所が自ら犯罪しているとしたら、大問題です。
 検察、そして裁判所についても、その「腐敗」を鋭く暴いている真面目な新書でした。
(2024年2月刊。980円+税)

コスタリカ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版 高文研
 中米にある小さな国、コスタリカから日本は学ぶべきところが本当にたくさんあると実感させられる本です。著者は前は朝日新聞の記者で、今は国際ジャーナリストとして活躍しています。コスタリカ訪問ツアーのコンダクターとして、最近もコスタリカに行って帰ってきたばかりです(私はFB仲間なのです)。
 早朝というより夜中の3時に出発して、2時間かけて森の中のケツァールを見に行くというのです。極彩色の見事な小鳥なんですが、このスケジュールには私なんか恐れをなしてしまいます。
 コスタリカの人口520万人は、北海道の6割ほどの広さに住む。コーヒーやバナナを生産する農業国。
 コスタリカには軍隊がない。ええっ、それでどうやって国土を守っているのか。近くには、内戦が絶えなかったニカラグアやパナマそしてコロンビアなどがあるのに…。
国境警備隊と警察はある。しかし、両方あわせても1万人にみたない。戦車も軍艦も、戦闘機だって持っていない。自動小銃と迫撃砲しかない。
 でも、まず軍事予算の支出がないため、教育と福祉が充実している。教育費も医療費もタダ。
 こんな問いかけを受けたとき、あなたはどちらを選択しますか?
 兵士になりたいのか、いい教育を受けたいのか。兵隊になって上官から怒鳴られ人殺しをやらされるのを選ぶのか、人生で自分のモチベーション(動機)を見出すのか、どちらを選びますか…。
 いやあ、決まっていますよね。私は隣の韓国はすごいと日頃から思っていますが、一つだけ見習いたくないのは、韓国には徴兵制があるということです。有名な歌手の若者たちも、いろいろ騒がれながら、とうとう軍隊に入りましたよね。日本ではそれがないのを本当に私は良かった、すばらしいことだと確信しています。だって、人殺しの訓練なんか受けたくないし、朝から晩までしごかれるなんてまっぴらごめんですよ。
 病気になっても、コスタリカでは、薬も治療も、さらに手術代までも医療費は無料です。これだと安心して病院にかかれますよね。日本では、いくらか身体の具合が悪くても我慢している人が信じられないほど多い人です。医療費が高いからです。
 もっとも良い防衛手段は、何も防衛手段を持たないこと。本当にそのとおりです。
「抑止力」を持つといって、相手国が手を出したくないほどの軍備を持っていたら戦争が起きないっていう考えは明らかに間違いです。中国の軍事力を上回る軍事力を日本がもつなんて不可能ですし、もし本気で軍事力を増強したら国の経済は破綻し、国民生活は成り立たなくなってしまいます。
コスタリカの教科書には、政治家を信じるな、政府に批判的な目を持てと書かれている。
日本では、政府にモノ言わない、従順な生徒づくりがますます強まっていますよね。
自民党の政治家のあの無恥、厚顔ぶりを毎日のように見せつけられたら、政治家は信じられないと子どもたちは思うでしょう。でも、その次の行動が違います。
コスタリカでは子どもたちも選挙に積極的に関わります。選挙運動もするし、模擬投票もして、選挙はいつだって身近なものであり、大切なものだと実感しています。
ところが、日本では、「あなたまかせ」、投票所に足を運ぶことの大切さをまったく理解していません。残念です。
コスタリカでは国会議員は連続再選できない。選挙のたびに国会の構成が変わるのです。そして、完全比例代表制。いやあ、これはぜひ日本でも取り入れてほしいものです。日本では連続どころか、二世、三世の議員の議員だって珍しくないのです。おかしいと思います。政治家を職業とし、父子相伝にするなんて、私は間違っていると考えています。
そして、コスタリカの国会議員は男女ほぼ平等です。というのも、名簿の順番は男女を交互にするように定められているのです。うらやましい限りです。
コスタリカのツアーに参加した日本人が、現地に行って、道路はでこぼこ、学校の校舎はみすぼらしい、ホームレスが町にいる…といって、がっかりするそうです。そうなんです。コスタリカは天国ではないのです。それでも、人々は親切で、優しく、生きています。難民だって受け入れているのです。
どうでしょうか、こんな小さい国でやれることが日本で出来ないってことはないのではないでしょうか。読んで元気の出てくる本です。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2024年3月刊。1800円+税)

奄美でハブを40年研究してきました

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 服部 正策 、 出版 新潮社
 ハブ捕り名人がいるそうですし、1匹4000円(今は3000円)でハブを地方自治体が買い取ってくれるそうですから、今やハブは絶滅危惧種の一つだと勝手に思い込んでいました。
 ところが、なんと奄美にハブは7万匹、徳之島にも4万匹はいるそうです。奄美大島の人口6万人弱よりも多いのです。なあんだ、絶滅を心配する必要なんてないのですね。
 ちなみに、奄美のマングース退治は成功し、ほぼ絶滅状態になったそうです。
それでも、今でもハブに咬まれる人が年に30~50人はいるとのこと。かつては年に300人以上だったそうですから、減ってはいます。
 そして、ハブに咬まれて死ぬ人は、明治時代は2割ほどだったが、今では10年ぶりに1人亡くなったという程度。
 ハブに咬まれたら、ともかく患部を吸い出したらいいそうです。そして、ハブ毒は飲み込んでも、それで死ぬことはないとのこと。
 ハブは神経質で臆病な生き物なので、人間を恐れている。ハブがいきなり襲ってくることはまずない。
 といっても、家の中に侵入してきて、就寝中にハブに咬まれる人がいるそうです。ともかく、油断しないこと、油断した人が、どんなにベテランであってもハブに咬まれるそうです。楽天的で大雑把な人ほどハブに咬まれる。
 ハブの毒は、ヤマカガシやマムシより弱い。ええーっ、そ、そうなんですか…。これも、イメージと違いますね。
 わが家の庭にも昔からヘビが棲みついていますが、マムシではなく、ヤマカガシではないかと心配しているのです。黒っぽい身体に毒々しい黄色なのです…。
 ハブに咬まれたら、体を温めて、すぐに病行に行くこと。咬まれたところを切開し、毒を洗い出し(吸い出し)、血清を注射すれば、まず生命は助かる。
 ハブは7月に産卵し、8月から9月にかけて孵化(ふか)する。
子ハブも大きいハブも木の上にいることが多い。ハブの寿命は最長30年ほど。
 ハブは寝たふりをして人間をやり過ごすことが基本だが、産卵後だけはピリピリしていて攻撃的。
ハブは気まぐれで、人に飼われてもなつかない。ハブは飛ばない(飛べない)し、いきなり飛びかかってくることもない。
 著者は、今では島根の山あいの田舎で農業をしているそうです。お元気にお過ごしください。面白い本でした。
(2024年3月刊。1600円+税)

謎の平安前期

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 榎村 寛之 、 出版 中公新書
 平安時代は400年間続いた(794年から1192年まで…)。この本は、前半の200年は何事も起きていない平穏・無事な世の中だったという世間の強い誤解を払拭しようとする意欲にあふれています。
 藤原道長や紫式部が生きた、『光る君』の時代は、平安時代の後半の200年間。その前の200年間の実相を明らかにする本なのです。としても刺激的な内容でした。
 平安前期の200年間は、「巨大な転換期」であり、「面白く変化に富んだ時代」だというのが著者の考えです。
 墾田永年私財法は、崩壊寸前だった民政に民活を導入し、地域の再生を図る「雇用の創出」だった。
 地方に赴任した国守(こくしゅ)を受領(ずりょう)といい、受領は、五位程度の下級貴族にとってのもうけ口だった。
平安京をつくった桓武天皇は律令国家の王としては、変わった天皇だった。その生母は、倭新笠(やまとのにいがさ)、つまり渡来系氏族の出身だった。
桓武天皇は、天皇になれる皇族の条件をほとんどクリアにしていないまま即位した。奈良時代以前なら、天皇には、まずなれなかった。
 桓武天皇は、大学で教える漢語の発音を、伝統的な呉音(長江周辺の発音)から、漢音(長安周辺の発音であり、唐の標準発音)に切り替えた。
 日本でも、中国の科挙システムにならった、官人登用試験は8世紀以来やられていた。
 ただし、対象は大学を修了した者に限られる。大学は国家による教育機関。
8世紀から9世紀にかけて行われていた高等文官試験は、重箱の隅をつくような試験ではなく、現場の課題を解決するために必要な秀才を確保するという性格を明確にもっていた。
たとえば、その設問は、「新羅(しらぎ)に対する軍事行動の是非について、戦わずに服属させる方向で意見を述べなさい」というもの。これって、北朝鮮と戦争しないで平和共存する方策を述べよといわんばかりの設問ではありませんか…。
 平安時代前期には、一介の庶民が天皇や皇太子に学問を教えるまでに成り上がることを可能としていた。秀才たちをストックするのが「博士職」だった。うむむ、これはすごいことです。学者が優遇されていたわけですね。
 9世紀の前半までは、女官の身分は高く、自立性が高かった。
8世紀の日本は、貴族も庶民も、好きになれば婚姻し、飽きたら自然に切れる(離婚)というもの。実に規制のゆるい時代だった。なので、不倫を働くという観念自体がなかったのでしょう。『源氏物語』も、言ってみれば、「不倫」が不倫として非難されていませんよね。
 奈良時代には、宮廷に勤める男女は奔放に恋をしていた。その実例が何人もあげられています。
平安時代には社交界というものがなかったとしています。宮廷で仕事をしていない限り、貴族の男女が公的に出会う機会はなかった。歌会などは社交界じゃないかと勝手にイメージしていたのですが…。
 以上のことをしっかり認識するだけでも、本書を読んだ甲斐があるというものです。弁護士を50年してきた私の実感でもあります。日本人は古来、性におおらかなのです。
 統一協会に汚染された自民党政治家の主張の誤りは明白です。
(2024年2月刊。1100円)

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