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スペイン内戦(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

著者    アントニー・ビーヴァー  、 出版   みすず書房
 第二次大戦直前に起きたスペイン内戦の実情を詳しくたどった大変な労作です。上下2巻の分厚い本を読み通すのに苦労しました。なんといっても、重すぎる内容なのです。
『誰がために鐘は鳴る』など、いくつもの文学作品に登場するスペイン内戦ですが、その内容はあまりにもおぞましいものがあり、人間の理性がもっと働いていれば・・・、と思わせるところが多々ありすぎました。ともかく、たくさんの人が無情に殺されていく記述に出会うたびに、それが頁をめくるたびに出てくるので辟易させられますが、前途ある有為な人々がかくもたやすく抹殺されてしまうのか、涙と怒りが噴出してくるのを抑えることができませんでした。
スペイン内戦は、左翼と右翼の衝突としてさかんに描写されるが、それは割り切りすぎで、誤解を招く。他に二つの対立軸がある。中央集権国家対地方の独立、権威主義対国家の自由である。
共和国政府側の陣営は対立と相互不信のるつぼであり、中央集権主義者と権威主義者、とくに共産主義者と地方主義者と反国家自由主義者とが反目しあっていた。
無政府主義者が早くからスペイン労働者階級の最大多数を獲得したのには、いくつかの理由があった。それは、腐敗した政治制度と偽善的な教会に対する強力な道徳的選択肢を提供していた。
マルクス主義者が他と比べて成功しなかった理由の一つは、中央集権国家を強調しすぎたせいである。スペインでは、工業の大部分はカタルーニャに集中していながら、そこは無政府主義の牙城となっていた。1919年末までに、社会党系UGTの組合員は16万人、無政府労働組合主義系CNTの組合員は70万人までに増えた。
1933年11月、共和国新憲法はスペイン女性に参政権を認めた。
1936年。左翼の革命蜂起と軍・治安警備隊による左翼への残酷な弾圧のせいで、両者に妥協の余地はまったくなかった。どちらの側にも感情の傷が深すぎた。双方とも、終末的な言辞を弄し、どちらの追従者にも政治的結果ではなく、暴力的結果を期待させた。
コミンテルンの幹部たちは、中産階級をひきつけることにほとんど無関心だった。人民戦線は権力の手段にすぎなかった。
1921年に結党したときのスペイン共産党はたった数十人しかいなかったが、その影響は相当なものがあった。そして1936年半ばには、3万の党員が10万に増えていた。
1936年の選挙で、人民戦線は15万票の差で勝利した。1936年初夏、ヨーロッパ情勢は緊張していた。ヒトラーはベルサイユ条約を破ってラインラント地方に軍隊を再配備した。
スペイン軍は、1936年に10万人から成っていた。そのうち4万人がモロッコに駐屯する手強くて有能な部隊だった。本土にいる残りの部分は無能だった。
右翼側が蜂起を準備している証拠がたくさんあるのに、共和国派指導者は恐ろしい真実を信じようとはしなかった。反乱将軍の行動に対して共和国政府はためらい、逡巡して行動せず、それが命とりとなった。共和国の首相は労働組合を武装させる決心がつかなかった。
スペイン軍の将校には自由主義的な思想の持ち主はまずいなかった。それは、植民地に勤務していると、自分たちの信じる国家価値なるものを誇大視しがちだったからだろう。彼らは政治家を軽蔑し、アカを憎悪した。
内戦に入ったとき、地面に潜って戦うなど、スペイン人の戦争哲学から言えば、もってのほかだった。勇猛果敢こそが勝利に導くという確信を持っていた。
国民戦線軍(右翼)の最大の軍事的強みは、実戦経験を積んだモロッコ駐屯軍4万の兵士だった。それに加えて、訓練が乏しく装備も貧弱だが、本土部隊5万の兵士がいた。さらに17人の将軍と1万人の将校が蜂起に参加した。総数で13万人の将兵に達した。
これに対して、共和国は、5万人の兵士、22人の将軍、7000人の将校、などで総勢9万人だった。
フランコ将軍は、内戦が終わったとき、こう言った。
私には敵は一人もいない。私は一人残らず殺した。
国民戦線軍による殺害と処刑は、あわせて20万人にのぼる。
1931年から32年の共和制の最大の成果は教育と非識字退治の面で実現された。共和国の成立する前22年間に、学校はわずか2000校しか建てられなかったのに対し、共和国になってから1700校が建てられた。その結果、非識字率は50%だったのが劇的に減少した。
フランコは、実は非常に月並みの人物だった。労働者民兵は市街戦にあっては、集団でいることの勇気に押されて、向こう見ずな勇敢さを発揮した。しかし、障害物のない開けた場所では、砲撃と爆撃にはかなわないのが普通だった。というのも塹壕掘りを拒否したからだ。スペイン人にとって、地面を掘るなんて沽券にかかわることだった。
民兵制度最大の短所は自己規律の欠如だった。無規律は、それまで外部からの強制と統制にしばられていた工場労働者のような集団でとくに顕著だった。逆に農民や職人のように自営だった人々は、自己規律を失わなかった。
ほとんどの将校は、共産党と協力するほうを選んだ。その理由は、民兵組織に恐れをなしたからだ。一般に政府に忠実な将校は年配者で、本国軍に勤務していた官僚的な人々だった。若い、積極的な将校はフランコ側の反乱軍についた。
共和国軍指揮官には、第一次大戦の時代遅れの理論しか持ち合わせがなかった。コミンテルンは、スペイン内戦中に、国際旅団を組織した。国際旅団の志願兵の動機の無私無欲は疑いようがない。イギリス志願兵の80%が、職を辞めたか失業中の肉体労働者だった。その多くは、戦争とは何を意味するのかほとんど分かっていなかった。その指揮者であるアンドレ・マルティは陰謀強迫観念にとりつかれていた。スターリンによって始まったモスクワの見世物粛清裁判に影響されて、ファシスト=トロツキス=スパイがそこらじゅうにいると信じこみ、このスパイを根絶やしにする義務があると思い込んだ。その結果、マルティは国際旅団兵士の1割にあたる500人もスパイとして射殺した、このことを内戦のあとで認めた。
スペイン内戦に従軍したソ連要員の正確な人数は判明していないが、800人を超えたことはなかった。ソ連軍顧問の多くが、実は指揮経験の乏しい下級将校でしかなかった。
スペイン内戦が始まって1ヵ月ほどしてスターリンによる大粛清裁判が始まった。
スターリンの犯罪的行為と判断の誤りがスペインにも多大の被害をもたらしたことを改めて認識しました。スペイン内戦の恐るべき実情が語られている本です。
(2011年2月刊。3800円+税)

進化の運命

カテゴリー:人間

著者    サイモン・コンウェイ=モリス 、 出版   講談社
 この広大な宇宙のなかで地球上に存在する人間は進化の必然だったのか。必然だったとすれば、この広い銀河のどこかに別のよく似た存在がいてもおかしくはない。では、どこにいるのか・・・。どこにもいないとしたら、人間は宇宙における偶然の産物にすぎないというのか。そしたら、それは意味も目的もないということになるのか・・・。
 こんな問題意識のもとで、宇宙において人間が実在する意味を問い詰めようというものです。
モリブデンは生命にとって欠くことのできない元素である。さまざまな酵素で大切な働きをしている。しかし、地球においてこの元素がどれくらい手に入るかというと、とてつもなく乏しく、その産出量は実際にもわずかでしかない。
 意外なことに、生命の基本ブロックの少なくとも何種類かは、太陽系形成のはるか以前に合成されている。合成された環境は星間空間である。生命がすめそうなところではない。そこでの有機合成プロセスは、極低温・高真空で、放射線にさらされた中で進行する。有機物だけでなく、水(氷)やその他の揮発性物質が豊富に含まれている窒素質隕石や彗星などの地球外物質のかたまりがなかったなら、地球上に生命は現れなかっただろう。地球外物質がなければ、何十億年もの進化を経て、意識をもつ種が少なくとも一つ現れ、生命の起源について考え始めることはなかっただろう。
 揮発性物質とともに生命の前駆物質が天から何度も初期地球の表面に降ってこなかったら、地球上には海も大気もなかっただろう。
 生命は実験室の中でつくることは出来ないし、出来そうなきざしもない。生命の誕生は、百京回に1回のまぐれ当たりだった。生命の出現は、ほとんど奇跡だった。
 月面が今のような姿になったのは、太陽系の歴史初期を襲った激しい衝突事故による。大衝突によって、月面は何度もぼろぼろの瓦礫の山にされ、表面が粉々にされ、クレーターがつくられた。
地球は質量が月の百倍もあって重力も大きいから、さらに激烈な衝突に見舞われた日が設定されている。厳しい衝突期の終わりごろ、いずれも海洋を蒸発させ、おそらく地球を無事に産みだした。
過去10億年で居住可能領域は大幅に縮小した。しかも、これから10億年たつと、居住可能領域は地球から外れてしまう。
銀河の中心は、星が非常に高密度に集積しているので、安全ではない。どうしても爆発は避けられないし、もちろんブラックホールも待ち構えているだろう。
計算によると、もし人間が複眼をつかって今と同じ視覚を確保しようとしたら、その幅は少なくとも1メートル、望むらくは12メートル以上が必要になる。
 人間が色を見分けることができるのは、樹上性だった人間の祖先が適切な色の果実や葉をどうしても見分ける必要があったからだと一般に考えられている。
 ハダカデバネズミにはあきらかに視力がないので、通常なら視覚に用いられる脳の領域が、体性感覚皮質に取って代えられている。ハダカデバネズミは、おそらく歯をつかってものを「見て」いる。
ボーア戦争の少し前のころ、南アフリカにジャックというヒヒがいた。事故によって両膝から下を失くした男性の下で、ジャックは鉄道の仕事を手伝っていた。さまざまな信号を一つ残らず理解し、どのレバーを引けばよいか覚えていた。間違えたことは一度もなかった。このほかにもポンプで水を汲んで運んだり、庭いじりをしたり、ドアに鍵をかけたりしていた。これは、知性は人間だけにあるのではないとうことを実証する事実だ。
 イルカの鳴き声は複雑で多様である。水が不透明であることから、顔の表情を利用することはかなり限られる。そこで、音を出す音響方式が優先されたのだろう。イルカは、かなり離れた場所との間でも交信することができる。イルカにとって、半球睡眠は群れの仲間とはぐれないためらしい。
 なぜ、進化は繁殖期の終わった女性の存在を「許して」いるのか?
 アフリカゾウではメスのなかでも一番の長老が概して一番賢く、よそから来たゾウのことをもっともよく覚えていて、必要な社会の知識を自分の「家族」に伝えていくことができる。
 このような母系社会の一族でもっとも大きい最年長のメスを殺すのは愚かなことだ。なぜなら、蓄積された知識が群から奪われ、繁栄が妨げられてしまうからだ。
 いろいろ難しいこともたくさん書かれていますので、もちろん全部は理解できませんでしたが、この広大な宇宙に果たして人間と同じような知性をもつ生命体がいるのかいないのか、改めて考えさせてくれた本でした。
(2010年7月刊。2800円+税)
アジサイが咲き、ホタルが飛びかう季節となりました。我が家から歩いて5分あまりのところに毎年ホタルが出る小川があります。ふわふわと漂うように音もなく軽やかに明滅するホタルの光は、いつ見ても夢幻の境地を誘います。なくしたくない自然です。すぐ近くまでバイパス道路が迫っているのが心配です。
軒からヘビが落ちてきました。屋根裏のスズメの巣を狙ったのでしょう。数日後、急にスズメたちがやかましく鳴き騒いでいました。
自然が身近な生活はヘビとの共存も強いられることになります。こればかりは勘弁してよと言いたいのですが・・・。

ともしびをかかげて

カテゴリー:ヨーロッパ

著者    ローズマリ・サトクリフ  、 出版   岩波少年文庫
 心おどる活劇の本です。
 イギリスはかつてローマ帝国に支配されていました。すごいことですよね。イタリアの首都ローマから発した軍団がフランスを支配し、次いでドーバー海峡を渡ってイギリスまで支配していたのですから・・・。
 2世紀はじめのことです。まだ、イギリスではなく、ブリテンと呼んでいました。ローマの軍団はワシの旗印をかかげています。ブリテンに住むケルト族はブリトン人(ブリテン島の住民という意味です)と呼ばれて、ローマ文明を受け入れ、ローマ化されていきました。征服者のローマ軍団の方は、逆に徐々にブリトン人に同化していました。
 そして、3世紀には、大陸から新たにゲルマン民族の一派であるサクソン族がブリテン島に侵入してくれるようになりました。この物語では「海のオオカミ」と呼ばれています。
 ローマのワシは、400年以上もブリテンを支配したあと、ブリテンから撤退します。そこで、この本の主人公アクイラはブリトン人としてローマから離れて生きるのを決断し、悲劇が始まるのでした。
 じっくり味わい深い、手に汗にぎる展開となって話は進んでいきます。
 子どものころに水滸伝を読んでいたときの胸騒ぎを思い出しました。
 ローマン・ブリテン四部作の一つだということです。
(2008年4月刊。680円+税)

まんが原発列島

カテゴリー:社会

著者   柴野 徹夫 ・向中野義雄  、大月書店  出版   
 福島第一原発の大惨事が起きて、22年前(1989年)に刊行されたマンガ本が復刊されました。
 22年前に指摘されていた原発の危険性が、今や現実のものとなったわけですが、原発について「絶対安全」だなんて大嘘ついて推進してきた東京電力をはじめとする電力会社のドス黒い体質も鋭く告発されていて、読みごたえのあるマンガ本です。
 新聞記者として、日本の原発の実態について潜入・徘徊・取材を重ねてきた著者は、電力会社から尾行され、脅迫されていたのでした。
 今から22年も前に、
① 現在の原発は未完成で、致命的な未来のない巨大な欠陥商品である。
② アメリカの世界支配戦略として押し付けられた原発によって、日本はさらに対米従属を深める。
③ 放射能廃棄物の処理は膨大で危険きわまりない。
④ 国と電力会社による専制的な地域支配・監視管理、秘密主義が進行している。
⑤ 原発の底辺労働者は日常的に奴隷のように被曝労働を強いられている。
などなど、目下、現在進行中の大惨事を予測していたのでした。
国と電力会社は日本の将来を奪いつつあると言って決して言い過ぎではありませんよね。東電の社長が6月に交代するようですが、年俸7200万円というのですから、莫大な退職金が予想されます。しかし、とんでもないことです。むしろ歴代の社長全員から退職金を吐き出させて、被災者支援にまわすべきではないでしょうか・・・・。
今、強く一読をおすすめしたいマンガ本です。
(2011年4月刊。1200円+税)

不破哲三・時代の証言

カテゴリー:社会

著者  不破 哲三    、中央公論新社 出版   
 日本共産党のトップが、あのヨミウリで自分の半生を語った新聞連載が本になりました。
 「意外な新聞社からの意外な話」だと著者も述べていますが、いかにも意外な組み合わせです。しかし、準備に半年かけ、1回の取材に3時間をかけて10回ものインタビューに応じたというのですから、共産党や国会の裏話をふくめて密度の濃い内容になっていて、とても読みごたえがあります。
30回の連載をもとに、さらに記述を膨らましてあるようですので、新聞を読んだ人にも、恐らく重複感は与えないと思います。日本の現代政治史を考える資料の一つとして大いに役立つ内容だと思いながら、私は一気に読了しました。
著者は、幼いころ、虚弱体質、腺病質だったとのこと。泣き虫で、悲しいにつけ、うれしいにつけ、床の間に行ってこっそり泣くので、「床の間」というあだ名がついた。うへーっ、そ、そうなんですか・・・・。とても感情が豊かな子どもだったのでしょうね。私は小学校まで笑い上戸だといって、家族みんなから笑われていました。
そして、著者は本が好きで、小学校3年生のときから小説を書いていたというのです。どひゃあ、恐れ入りましたね。いかにも利発そうなメガネをかけた当時の顔写真が紹介されています。
 戦争中は、ひたすら盲目的な軍団少年だったとのこと。まあ、これは仕方のないことでしょうね。それでも、やはり早熟なんですよね。なんと、16歳、一高生のときに日本共産党に入党したというのです。そして、婚約したのも早く、19歳のときでした。いやはや、早い。
会費制の結婚式を駒場の同窓会館で挙げたとのこと。私も大学一年生のとき、そこで開かれたダンスパーティーに恐る恐る覗きに行って、尻込みして帰ってきました。踊れないので、輪の中に入る勇気がなかったのです。本当は女子大生の手を握って踊りたかったのですけど・・・・。
 著者が共産党の幹部になってから、ソ連や中国共産党からの干渉と戦った話は面白いし、さすがだと感嘆します。大国の党の言いなりにならなかったのですね。アメリカ政府の言いなりになっている自民党や民主党の幹部たちのだらしなさに改めて怒りを覚えました。
 著者は国会論戦でも花形選手として活躍したわけですが、対する首相たちも真剣に耳を傾け対応したようです。
質問していて一番面白かったのは田中角栄だ。官僚を通さず、自分で仕切る実力を感じさせた。このように、意外にも角栄には高い評価が与えられています。大平正芳も真剣に対応したようです。
 この本で、私にとって興味深かったのは、宮本顕治へ引退勧告するのがいかに大変だったか、それが語られていることです。私の敬愛する先輩弁護士のなかでも、引け際を誤って、老醜をさらけ出してしまった人が何人もいます。本人はまだ十分やれると思っていても、周囲はそう見えていない、ということはよくあるものです。老害はどこの世界でも深刻なんだよなと、つい思ってしまったことでした。
 かつて共産党のプリンスと呼ばれたことのある著者も今や80歳。70歳のときにアルプス登山は卒業しました。そして、今、インターネットを通じて社会科学の古典を2万5千人の人に教えているそうです。すごいことですよね。
 先日、毎日新聞の解説員が絶賛していましたが、原発問題についての講話はきわめて明快で、本当に出色でした。目からウロコが落ちるとはこのことかと久しぶりに実感したことでした。小さな小冊子になっていますので、ぜひ手にとってご覧ください。老いてますます盛んな著者の今後ともの活躍を期待します。
(2011年3月刊。1500円+税)

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