法律相談センター検索 弁護士検索

三池炭鉱・「月の記憶」

カテゴリー:社会

著者  井上 佳子  、 出版  石風社   
炭鉱節で有名な福岡県大牟田市には与論島出身の子孫が今もたくさん住んでいます。
戦前、明治31年(1898年)に与論島が台風に襲われ、人々が島で生きていけなくなったため、長崎県口之津(島原半島)に移住していった。当時、口之津は日本最大の石炭積出港で、そこで働いていた。ところが、1910年、大牟田の三池港が開港、石炭は口之津港から積み出されなくなった。そこで、与論島の人々は、73人が口之津に残り、623人が与論島に帰り、428人が三池に移った。
与論の民のことをユンヌンチュという。タビンチュとは本土の人間のこと。
大牟田市の中心部、延命動物園のすぐ横に与論島出身者共同の納骨堂があり、「奥都城」(おくつき)と書かれている。これは日本の古語で「お墓」のこと。与論島には、日本古来の言葉が残っている。
与論島には、面積20平方キロメートル、周囲23キロメートルの小さな島だ。人口6000人。かつては観光地として栄え、年に15万人もの観光客がやって来た。しかし、今はブームも去り、年間7万人がマリンスポーツを目的にやってくるのみ。島民は漁業とさとうきび栽培を生業としている。
 与論島出身者は、大牟田市内の海岸に近い新港町社宅に住んだ。
1997年、三池炭鉱は閉山した。官営時代から124年間、三井の経営になって109年間の歴史に幕を下ろした。
三池炭鉱の歴史を支えた労働者集団の一翼としての与論島出身者の人々に焦点をあてた貴重な労作です。熊本放送がテレビで2009年2月に全国放送したものをもとにした本です。
(2011年7月刊。1800円+税)

KARA、少女時代に見る韓国の強さ

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者   朴  倧玄 、 出版  講談社α新書
 テレビを全く見ませんし、歌謡曲を聴くこともない私ですが、活字を通して、いま日本で韓国の少女そして男性芸能人が大いにもてはやされていることは知っています。その秘密を知ろうと思って読んでみました。
いやあ、韓国人って芸能人を育てるのに長い時間そして莫大な手間とひまを(もちろんお金も)かけているのですね。驚いてしまいました。
 そして韓国の高校生の唯一の楽しみが遠足であり、そこでクラス対抗の歌と踊りを披露して日頃のウサ(ストレス)を発散させるというのです。日本以上に韓国では苛烈な受験戦争がまかりとおっているとのこと。韓国は日本以上の学歴社会。試験は年に1回だけで、応募できるのも3校まで。高校から大学に持ち上がるシステムはない。
韓国では、人気のある歌手の踊りを男女を問わず、すぐに「ものまね」する。それもお笑いまじりでやって、大喝采を受ける。
芸能事務所の練習生期間は長い。たとえば少女時代のユナは5年2ヶ月をそこで過ごした。うひゃあ、5年あまりもの練習生なんて、とても信じられません。よくぞ若いなか我慢したものです。
少女時代には、短くても3年、長いものは7年もの練習生時代を送ったメンバーがいる。韓国では、芸能事務所の練習生が1000人いて、そのなかで実際に歌手としてデビューできるのは、毎年4~5グループ、20~30人ほど。これは厳しい選抜ですが、スターになるには当然のことなのでしょうね。
 韓国には、芸能人になりたいと思う子が、日本以上に多くいる。芸能事務所が練習生一人にかける費用は、トレーニング費、車両維持費まで含めると、毎月15万円。整形・美容に要する費用まで含めると年間250万~290万円。練習生の平均を5年とすると、一人あたり1500~2200万円かかる。すごいですね。元を取り戻したくもなりますよね。
東方神起がデビューするまで、練習生一人当たり145万円の費用がかかり、平均の練習期間が5年だとすると一人3700万円が投資された。
宿舎購入費、CDやミュージックビデオ、衣裳などの制作費をふくめると、デビュー前に1億4000万円ほどかかった。それにマーケティング費用までかけたら、東方神起は5億 9000万円のプロジェクトだった。そして、5年間の売上高は36億円。それまたすごいですね。
日本ではAKB48のようにデビューしてから人材を徐々に育てていく。韓国では、莫大な投資と練習生時代に厳しい競争をくぐり抜けてアイドルが生まれてくるので、すでに踊りも歌もうまい。
 韓国のアイドル・グループの多くは、練習生時代だけでなく、デビューしてからもひとつのマンションで合宿生活を送る。この合宿生活こそ、世界で活躍するパワーの源となっている。
日本人は、電車やバスの中でも本を読む。韓国人は、日本人ほどには本を読まない。韓国人は、女も男も整形手術を平気で受ける。韓国では普通にスターは自分の肉体を見せ、ファンと視聴者はそれを見ながら喜ぶ。
似てるようで違いのたくさんある韓国について知ることができました。
(2011年5月刊。838円+税)

学級崩壊

カテゴリー:社会

著者  吉益  敏文・山崎 隆夫 ほか  、 出版  高文研   
 現代日本社会において子どもたちは昔ほど大切にされていないんだな、そして、教師の奮闘努力がむなしく空回りさせられることも多い現実を知って、改めて愕然としました。
 授業が成り立たないのは中学校ではなく、小学校から。一人ひとりは明るく、優しく、一生懸命で、けなげなのに、クラスとなると、なぜか荒れてしまう。なぜ、子どもたちは荒れるのか?
 とにかく、今の子どもたちは忙しい。月曜から日曜まで、全部予定が入っていて、本当に忙しい。家に帰ってのんびりするとか、今日帰ったら何やろうかなどと、自分でやってみようと思ってやってみるといった経験が圧倒的に少ない。
 たとえば、5年生で荒れている中心にいる子は、中学受験のため毎日塾に行っている。そして、学校ももちろん教師も忙しい。
 学校で授業が6時間、家に帰ってからの時間は限られているのに、ほとんどゲームとテレビで費やされている。ゲームの3時間以上は20人のうち11人もいた。
 子どもは、失敗しながら育っていくものなのに、それが出来ない。子どもはゴチャゴチャになりたい、荒れたいと思っているのではないか。それを出せる唯一の場が学校なのではないか・・・・。
 教師にとって、まずは自分の身を大切にすること。自分が折れてしまうのが一番いけない。子どもにとって、先生が折れたり、辞めてしまうのは、一生の傷になってしまう。そういう傷だけは与えてはいけない。折れそうだったら、その前に逃げる。無理だけはしてはいけない。
 学級がゴチャゴチャしてしまうのは、ある意味で、子どもに選ばれたんだという気がする。子どもも、どこかで自分を取り戻したいという思いを持っていて、それを自分により近い気持ちを持っている人の前で表出している。
 止めてもらいたくて暴れてみたり、本人は自覚がないけれど、あれはヘルプを求めているサインではないか・・・・。
 この時代を「勝利者」として生き抜くための激しい進学競争に子どもたちが巻き込まれている。都市部を中心に多くの子どもが公立中学への受験を選択する。こうした「人生の成功」に対する圧力は、子ども世界の豊かな時間や仲間関係を奪い、子ども期の喪失は一層強まっていく。加えて、労働や他者との共有を大切にする価値が失われ、消費欲望の世界があおられる。
 子どもたちのストレスは激しい苛立ちとなって体内に蓄えられていく。それは、これまでの古い伝統をもつ学校秩序と対立しはじめる。12歳の少年少女にとって、やり場のない怒りの矛先をどこに向けているのか分からない。自分の苛立ちやムカツキの原因が何であるかも分からない。実在感のない浮遊するような感覚・自己喪失感、あるいは私とは何かを問う飢餓感が、そうした状況下で生まれ、現在も続いている。
 子どもたちの納得できない思いや苛立ちが教室の一場面で表出されると、それが他の子どもの抱えていた苛立ちや不全感・不安感と連動し、強化され攻撃性へと転化する。
 教師が反抗してくる子どもを抑えられなければ、学級は正義を失う。子どもたちは、注意したら聞いてくれるという関係性、それは教師の力に支えられながらだが、そのなかで安心して過ごすことが出来る。ところが、教室の中に、その関係性=正義が失われると、子ども同士で注視しなくなるし、相互批判が出来なくなる。
 子どもは、お互いに批判し合っていくという関係性のなかで学びが成立する。相互批判が出来なくなると、荒れの中心にいる子どもは自己中心性から抜け出せない。自分を客観視できないし、もうひとりの自分が育たない。
 相互批判がないと、子どもは自己中心性の固まりのまま、自分勝手な振る舞いを続けていくことになる。そうなると、周りの子どもたちは、どこにも頼るものがないから、自分の身を守るためにカプセルの中に入らざるをえない。おとなしい子どもほど、ますますカプセルの中にこもらざるをえなくなるという構造になっていく。
 崩壊してしまった関係を元に戻すときの一番の決め手は、ほめること、ほめ続けることである。そうなんですね。やっぱり、ほめて育てるのが一番なんですよね。
 日本の将来を背負う子どもたちを取り巻く恐ろしい現実、だけど目をそむけてはいけない事実が語られ、最後にちょっぴり希望の持てる本ではあります。一読をおすすめします。
(2011年6月刊。1400円+税)

オバマの戦争

カテゴリー:アメリカ

著者  ボブ・ウッドワード  、 出版  日本経済新聞出版社  
 アメリカのイラク侵略戦争は、まったく間違った戦争でした。たとえフセイン元大統領が圧制をしいたとしても、軍事力によって力づくで抑えこむなんて最低です。おかげで、あたら有為のアメリカ人青年が何千人もイラクで亡くなりましたし、なにより、その何十倍もの罪なきイラク人が殺されてしまいました。
 そして、アフガニスタンへの進出です。アメリカは、いつまで世界の憲兵役を気でるつもりなんでしょうか。軍事力に頼らず、平和外交こそを強めて欲しいものです。ノーベル平和賞が泣きます。そのオバマ大統領も、この本によると、アメリカを抑えこむのには苦労しているようです。軍人というのは、とかく強がりを言いたがり、また、最新兵器を欲しがります。軍人まかせにしておくところ、ろくなことにならないのは、戦前の日本で立証ずみなのですが・・・・。
 取材するとき、先方がオフレコだということがある。他の情報源から同じ情報を得られないときには使ってはいけないということを意味する。ほとんどの場合、他から情報が得られたから使うことができた。なるほど、オフレコって、そういうものなのですね。別に裏付けを取ればいいのですね。
 連邦ビルのなかに、秘密保全措置をほどこした密室がある。枢要区画格納情報施設と呼ばれる。盗聴を防ぐために設計された部屋で、窓はない。監禁部屋のようで、閉所恐怖症を起こしそうになる。そんな部屋になんか入りたくありませんよね。
 パキスタンは、アフガニスタンにおけるアメリカの同盟国だが、表裏がある。嘘は日常茶飯事だ。パキスタン軍の統合情報局(ISI)には、6重ないし7重の人格がそなわっている。
 北朝鮮の指導者たちは狂信的だ。その政権と交渉しようとすると、ブッシュ政権の轍を踏むことになる。交渉、いい逃れ、危機拡大、再交渉のくり返しになる。北朝鮮は口先ばかりで、嘘をつき、危機を拡大させれば、交渉を決裂させると脅し、また交渉しようとする、そういう仕組みになっている。
 アルカイダ幹部を無人機で殺せば、アルカイダの計画・準備・訓練能力に甚大な打撃を与え、テロ対策上は大勝利とみなされる。しかし、無人機による攻撃は戦術的なものであり、戦況全体を変えることにはならない。たとえ大規模空襲を行っても、戦争には勝てないというのは、第二次大戦やベトナム戦争で得た最大の教訓である。
 アフガニスタンのカルザイ首相は、情報によれば、そううつ病と診断されている。気分がころころ変わる。
 アフガニスタン国民のことをアメリカ軍はほとんど理解していないことが分かった。恐怖を広めて威圧するタリバンのプロパガンダが住民にどれほど影響を与えているか、軍には判断できていなかった。
 42カ国の連合軍の兵士たちは、一般のアフガニスタン人と隔離するように造られている基地で生活している。住民との接触が不足しているため、街で何が起きているのか、把握できていない。現地人の通訳をたくさん確保しなければならないが、数十億ドルと兵士十数万人を投入してもなお、十分に確保できていない。
アルカイダは、タリバンに寄生しているヒルだ。タリバンの力が強まれば、ヒルの力も強まる。
タリバンの組織内は決して一枚岩ではなく、いくつものレベルから組織は成り立っている。筋金入りの主義者は上層レベルで5~10%、これは撃滅する必要がある。次が中級で、15~20%。主義に打ち込んでいる理由はさまざま。説得は可能かもしれないが、なんとも言えない。タリバンの70%は下っ端の兵隊であり、食べるための手段だったり、外国人を国外へ追い出せるという理由から参加している。読み書きもきちんとできない教育程度の低い若者たちだ。
 アフガニスタンにとっては、パキスタンの演じる役割が決定的だ。パキスタンがアフガニスタンのタリバンの指導者たちをかくまい、安全地帯を提供しているあいだは、アフガニスタンでの成功は不可能だ。
 アフガニスタンは、イラクより数百倍も困難だ。民族もさまざまなら、文化も多様で、識字率ははるかに低く、地形が険しい。
 アフガニスタン政府が犯罪組織にひとしいことは、アメリカ政府も分かっている。しかし、アメリカ軍は治安を改善し、主導権を取り戻さなければならない。腐敗とアフガニスタンの警察も、鎖の輪のもろい部分だ。アメリカの存在そのものがアフガニスタンに腐敗を招いている。
開発プロジェクトを扱う民間業者は、すべて保護してもらい、道路をつかわせてもらうためにタリバンに賄賂を使っている。つまり、アメリカと、その連合軍のお金がタリバンの資金源になっている。そのため開発、道路の往来、兵員が増えると、タリバンの実入りも増える。
アフガニスタンの警官の80%が読み書きができない。そして、麻薬中毒もあたりまえ・・・・。イラクとは違って、石油などの国家的権益がほとんどからんでいないアフガニスタンは、ブッシュ政権下の8年間なおざりにされ、アフガニスタン戦争は「忘れかけている戦争に」なっていた。
政府が軍人のいいなりになっていいことは一つもないように思います。
(2011年6月刊。2400円+税)

朽ちていった命

カテゴリー:社会

著者   NHK取材班 、 出版   新潮文庫
 1999年9月30日、茨城県東海村の核燃料加工施設JCOで起きた、とんでもない事故によって被爆した労働者のその後の死に至るまでの状況を詳しく明らかにした本です。
 放射能の恐ろしさが実感をもってよくよく伝わってきて、読んでいるだけでゾクゾクし、ついには鳥肌が立ってきました。
 この日、臨界事故が発生し、東海村付近の住民31万人に屋内退避が勧告された。
 村に「裸の原子炉」が突如として出現した。まったくコントロールがきかないうえ、放射能を閉じこめる防御装置もないというもの。19時間40分にわたって中性子線を出し続けようやく消滅した。
 被爆した労働者は溶解塔の代わりにステンレス製のバケツを使っていた。もちろん違反行為である。バケツだと洗浄が簡単で、作業時間が短縮できるというのが理由だった。
 放射能被曝の場合、たった零コンマ何秒かの瞬間に、すべての臓器が運命づけられる。全身のすべての臓器の検査値が刻々と悪化の一途をたどり、ダメージを受けていく。放射能によって染色体がばらばらに破壊されてしまう。染色体はすべての遺伝情報が集められた、いわば生命の設計図であるので、染色体がばらばら破壊されたということは今後新しい細胞は作られないということ。被曝した瞬間、人体は設計図を失ってしまったということ。
 うへーっ、これは恐ろしいことです・・・。
 皮膚の基底層の細胞の染色体の中性子線で破壊されてしまい、細胞分裂ができない。新しい細胞が生み出されることなく、古くなった皮膚がはがれ落ちていく。体を覆い、守っていた表皮が徐々になくなり、激痛が襲う。
 腸の粘膜は血液や皮膚とならんで、放射能の影響をもっとも受けやすい。
 腸の内部に粘膜がなくなると、消化も吸収もまったくできない。だから摂取した水分は下痢となって流れ出てしまう。
 被曝して1ヵ月後、皮膚がほとんどなくなり、大火傷したように、じゅくじゅくして赤黒く変色した。皮膚がはがれたところから出血し、体液が浸み出していた。全身が包帯とガーゼに包まれ、肉親もさわれるところがない。ガーゼを交換するたびに皮膚がむける。そして、まぶたが閉じなくなった。目からも出血した。爪もはがれ落ちた。
 出血を止める働きのある血小板を作ることができなくなっているため、腸の粘膜がはがれると、大出血を起こしてしまう可能性が高い。
 下血や皮膚からの体液と血液の浸み出しを合わせると体から失われる水分は1日10リットルに達した。
 心拍数は120前後。マラソンをしているときと同じくらいの負担が心臓にかかっていた。
 そして、被曝から83日で35歳の労働者は死に至った。遺体は解剖された。全身が大火傷したときのように真っ赤だった。皮膚の表面が全部失われ、血がにじんでいる。胃腸は動いていなかった。粘膜は消化管だけでなく、気管の粘膜までなかった。骨髄にあるはずの造血幹細胞も見あたらない。筋肉の細胞は繊維が失われ、細胞膜だけ残っていた。ところが心臓の筋肉だけは放射能に破壊されていなかった。
 放射能の恐ろしさは、人知の及ぶところではない。
 福島第一原発事故で、メルトダウンした核燃料棒が今どういう状態になっているのかも明らかでないのに、野田首相は産業界の圧力に負けて、国連で原発輸出は継続すると明言してしまいました。放射能の恐ろしさ、怖さを首相官邸にいると忘れてしまうようです。残念です。情けないです。
(2011年9月刊。438円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.