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芥川龍之介

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 関口 安義(編集) 、 出版 新潮社
 新潮日本文学アルバムの1冊です。前から本棚にあったものを引っぱり出しました。
 さすがの天才です。早くも小学生のとき、同級生とともに回覧雑誌を始めています。たいしたものです。そのころ、漢詩・漢文も学んでいて、素読に励んでいました。10歳のころからは、英語と漢学を学んでいます。英語はナショナル・リーダーを、漢学は日本外史をテキストにしています。いやはや、とんでもない早熟さですよね。
中学生のときも回覧雑誌を発行していて、「我輩も犬である」を書いたというのです。そして、「義仲論」を書いて活字になっています。
 「彼の一生は失敗の一生也…。しかれども彼の生涯は男らしき生涯なり」
 芥川龍之介が「鼻」を発表すると、それを読んだ夏目漱石から激賞されます。
 「大変面白いと思います」
 「上品な趣があります」
 「文章が要領を得て、よく整っています」
 ところが、若くして文壇に出現した芥川龍之介をねたんで、酷評・妄評、そして嫉妬評につきまとわれ、「芥川を批判したら一流」とまでの風評があったのでした。
 どこの世界でも、出る杭は打たれるというのですね。しかし、芥川の偉いところは、そんな評言を読むたびに次作で彼らを見返そうと、厖大な執筆エネルギーを得て、さらに小説を書き上げていったことです。すごいものです。
 芥川龍之介は、「桃太郎」伝説を読み替えました。
 「鬼」たちは平和を愛し、安穏に島で暮らしていたのです。誰に迷惑をかけるでもなく、踊りを踊ったり、古代詩人の詩を歌ったりして、妻や娘たちと一緒に平和に生活していました。
 そこへ、何の理由もなく桃太郎たちは攻め入り、「進め、進め。鬼という鬼は見つけ次第、一匹も残らず殺してしまえ」と、日の丸の扇を打ち握り、犬猿雉の3匹を引き連れて鬼を殺してまわったのでした。
 これは、まさしく帝国主義日本の戯画です。芥川龍之介は、戦前の日本で桃太郎に軍国主義の権化を見たのです。この芥川による「桃太郎」は、1924年7月1日号の「サンデー毎日」に発表されたものです。まさしく大正末期ですが、軍国主義が強まっている状況でもありました。芥川の状況認識(歴史認識)は、見事に的確なものでした。いやあ、さすがですよね。
 1923(大正12)年9月1日に起きた関東大震災のとき、31歳の芥川龍之介は田端の自宅付近で自警団に加わり、朝鮮人狩りを目撃しました。そして、「侏儒の言葉」のなかに、「我々は互に憐(あわれ)まなければならない。いはんや殺戮(さつりく)を喜ぶなどは…。相手を絞め殺すことは議論に勝つよりも手軽である」と書いています。芥川龍之介は朝鮮人迫害を厳しく告発しているのです。
芥川龍之介は1927(昭和2)年7月に大量の睡眠薬を飲んで自殺しました(35歳)が、その3ヶ月前にも妻の友人と帝国ホテルで心中しようとしたというのです。驚きました。
 「唯ぼんやりした不安」と遺書に書いて自死を選んだ天才作家の心中は、なかなか理解しがたいものがあります。いま、昭和初期の日本の状況を調べていますので、そのなかで登場する芥川龍之介について、少し紹介しました。
(1983年10月刊。980円)

あたりまえという奇跡

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山下 欽也 、 出版 センジュ出版
 「岩手・岩泉ヨーグルト物語」というサブタイトルのついた本です。
 51歳の著者が2億8千万円の累積赤字をかかえる会社の社長に就任し、3年目で黒字を達成して、今や年間20億円を売り上げているというのです。主力はアルミパウチに入った「岩泉ヨーグルト」。社員20人の社員をかかえているというのもすごいことです。
 舞台となる岩泉町は、岩手県の中央~東部の小さな町。人口は8千人ですが、本州の町の中では、もっとも広い面積を誇っています。といっても、町の総面積の9割以上は山林。
社長としての決断は、ヨーグルトに特化すること。牛乳ではもうからない(ヨーグルトのほうが利益率が高い)。
 岩泉ヨーグルトが他のヨーグルトと違うのは、必ず生乳、それも岩泉町とその近辺のホルスタイン牛の生乳を使うこと。
 他のメーカーのヨーグルトは粉乳を水で溶き、そこに乳酸菌を入れているので、水っぽいヨーグルトになる。
 生乳でこそ生まれる濃厚なコクと風味豊かな味わいがある。そして、後発酵と低温・長時間発酵。後発酵とは、生乳に乳酸菌を入れて、パック詰めにしたあとに発酵させるもの。発酵温度は33~35度。かなりの低温状態で20時間、通常の3~4倍の時間をかけて、じっくりと発酵させる。大量にはつくれないが、これによって酸味のないまろやかな味とコク、決して水っぽくない、しっかりとした食感をもつヨーグルトになる。
 凝固剤や酸化防止剤、香料などの添加物は一切使わず、ひたすら自分の力でヨーグルトが固まるまで、じっくりと待つ。
アルミパウチを使うと、酸素を通しにくいし、遮光性があるので風味が劣化しにくい。湿気も通しにくいし、香りを逃しにくくて、匂い移りも防げる。バリア性が高く、断熱性もあるので、熱がじっくり伝わる。アルミパウチの熱の伝導性が低温長時間発酵に最適。
生乳を生み出す牛は町有牛。町が所有して、酪農家に貸し出す。仔牛が生まれたら、町に返す仕組み。
 美味しい生乳を出してくれる牛を育てるためには、美味しい草が必須。そのためには、良質な土壌をつくる必要がある。1年を通して安定した品質の草を生産し、栄養状態のもっとも良いタイミングで収穫する。それを乳酸発酵させて飼料にする。なので牛乳が甘い。
 かつて60軒あった酪農家が、今では20軒にまで減少した。
大企業と同じ土俵には乗らない。大手と同じことをやっても絶対に勝てない。戦おうとしたら価格や量の競争になり、コストダウンに重きを置いて品質をあとまわしにしてしまう。それでは負けてしまう。
あの大谷翔平選手が何かのインタビューのとき、岩手県の名物として「岩泉ヨーグルト」をあげたそうです。すばらしいことです。
 「辞めたくない会社」を心がけている社長は、直感を大事にしています。そのためには、自分の目できちんと見て、触れ、食べて、しっかり観察して、自分なりに情報収集して、そのうえで直感に頼ったらいいと断言しています。傾聴に値するコトバですね。
ぜひ、「岩泉ヨーグルト」を味わってみたいと思います。
(2023年12月刊。1600円+税)

罪を犯した人々を支える

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 藤原 正範 、 出版 岩波新書
 著者は、家裁の調査官を28年間つとめ、大学で教員もしてきた「少年非行の専門家」。
 そして、最近は、ひまを見つけて裁判所に出かけて法廷を傍聴しているのです。著者は、多くの人に刑事裁判の傍聴をすすめています。すすめている傍聴の対象は民事裁判ではありません。民事裁判だと、法廷での証人尋問はあまりありません。書類の交換の場と化している口頭弁論も、今ではインターネット上がほとんどですので、傍聴自体が出来ません。
 刑事裁判だと、公開の法廷で進行しますし、ほとんどの事件では傍聴券が発行されることもなく、自由に傍聴できます。
数多くの裁判を傍聴した著者の感想の一つは、「今の裁判は、関係者が寄ってたかって被告人に恥をかかせ、人格を貶(おとし)めているようにしか見えない」というもの。弁護人として活動することのある私には、少し意外な感想です。
高齢男性に性欲が動機になる犯罪が少なくない。性犯罪を犯した少年より高齢者のほうが「要保護性」が高いように思われる。この指摘は、そうかもしれないと、私も思います。
 刑事司法手続きの中に、人を大切にする気持ちを育(はぐく)む機能は内包されていない。したがって、更生とは、裁判の結果、送り込まれる刑事施設で自分を見つめ直し人間性を回復すること、というのはフィクションだ。この点は、私もまったく同じ考えです。
 刑務所に入ったら、かなりの人が(決してすべてではありません)、悪いことを覚えてしまう危険があります。自覚して人間性を回復するようなことは、現実にはあまり期待できないと私は考えています。なので、実刑より執行猶予の判決のほうが、よほど本人の更生に役に立つことが多いというのが私の考えです。
 「罪を犯す人」は、日本全国で1年間に600万人いる。ええっ、そんなにいるの…、と思ったら、なんと580万人は道路交通法違反です。一時停止違反とかスピード違反が含まれています。警察庁が起訴した人は年間8万人ほど。そして、裁判所で実刑判決を受けた人は1万6千人弱です。執行猶予の判決は3万人が受けています。
 受刑者の罪名は窃盗と詐欺(万引と無銭飲食など)、そして覚せい剤取締法違反の三つで、男性の7割、女性の9割を占めている。
刑務所に収容される人の高齢化が進んでいる。男性で8%、女性で14%を占める。なので、刑務所では介護や認知症への対応に追われている実情にある。
国選弁護人の比率は地裁で85%、簡裁で92%を占める。私は被告人国選弁護士を30年前は月1件ほど受けていましたが、今では年に1.2件です。ただし、被疑者国選は2.3ヶ月に1件の割合で受任しています(今も)。
 罰金が支払えないので、労役場(刑務所)に入る人が年間3千人近くいる。
 弁護士が社会福祉士と連携して、「犯罪を犯した人」の社会での再出発を援助する制度が始まっています。まだ私は体験していませんが、社会福祉士の役割は司法の場でもますます大きくなっていると、最近つくづく実感しています。
(2024年4月刊。920円+税)

数学の苦手が好きに変わるとき

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 芳沢 光雄 、 出版 ちくまプリマー新書
 はて?と不思議だと思うこと、これが科学の芽だというのはノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎博士の名言。
 著者は45年間ものあいだ、10の大学で教え、1万5千人の大学生に対して楽しく数学を教えてきました。このほか小・中・高校生の1万5千人にも数学の話をしてきたそうです。そんな経験をふまえた楽しく役に立つ小話が盛り沢山です。
 私は高校2年生の終わりに理系から文系に志望を変更しました。数学のひらめきが自分には欠けていると自覚したからです。それでも高校3年の数Ⅲまではしっかり勉強しました(すっかり忘れてしまったので、中学数学を勉強しなおしたこともあります)。
 この本では、数学を楽しく学べる話がいくつも紹介されています。
 たとえば、宇宙飛行士の宇宙遊泳の姿は、ネコが高いところから落ちるときの態勢の変化を参考として編み出されたもの。ネコはビルの50階(地上から250メートルの高さ)から落ちても助かることがある。空気抵抗を最大限に利用して、落下速度が一定以上は大きくならないようにしている。
人間の「じゃんけん」は、一般的にはグーが最多で、チョキが最少、パーはその中ごろに…。なので、じゃんけんは、一般論として、パーを出すのが有利だということ。学生たちが自ら実験して得たデータなので、確実です。
1000ミリが入るはずの牛乳パックは底辺が7センチで高さ19.5センチなので体積を計算すると、955.5センチ立法メートルしかない。すると、この差44リットルはどこに消えたのか…。その答えは、なんと、牛乳パックは、横にいくらかふくらんでいるから…。なんと、そういうことなんですね。単純な計算どおりではないというわけですね。
列車速度を腕時計ひとつで測る方法があるといいます。いったい、どうやって…。
路線の長さは1本が25メートル。なので1分間に何回鳴くか、カウントすればその列車の進行スピードを把握することができる。なーるほど、ですね。
好きこそモノの上手なれ、ですよね…。数学が好きになったら、苦手意識を克服したら、新しい世界が目の前に広がることは間違いありません。
(2024年1月刊。880円)

陸軍将校たちの戦後史

カテゴリー:日本史(戦後)

(霧山昴)
著者 角田 燎 、 出版 新曜社
 旧陸軍のエリートとして戦争の中枢にあった陸軍将校たちのうち生き残ったものは戦後、政治活動から距離をとって、親睦互助を目的とした偕行社を設立しました。
 本書は、その偕行社が、当初は戦争責任も問い、自己批判もしていたのですが、次第に政治団体となっていき、戦争責任をあいまいにする方向で動いていくのです。本書は、その経過をたどっています。
 陸軍士官学校(陸士)の卒業年次には大きな意味があります。といっても、最後の陸士61期の生徒は5000人を超すとのこと。東条英機は16期、牛島満(沖縄戦の司令官)は20期、硫黄島で戦った栗林忠道は26期、悪名高い辻正信は30期、そして戦後に政界で暗躍した瀬島隆三は44期。
 太平洋戦争の特徴の第一は、大量の餓死者を出したこと、第二は、海没者が多いこと。海軍の軍人・軍属が18万2千人に対して、陸軍もほぼ同数の17万6千人となっている。
 第三は、特攻隊、特攻戦死が登場したこと。第四に、自殺や軍医等による傷病兵の殺害、投降兵士の殺害が多かったこと。
「偕行」とは、「共に軍に加わろう」という意味。偕行社は、1957年に財団法人となった。
 やがて偕行社は、強烈な反共主義的姿勢をもち、軍人恩給などの権利を求める団体として活動していくようになった。
 ビルマ(ミャンマー)でのインパール作戦の指揮官・牟田口廉也(22期)は、戦後なお、「自分のやったことは間違っていなかった」などと堂々と開き直りました。
 偕行社は、会員の老齢化によって、元本の取り崩しが続いて、29億円の資産が13億円となってしまった。そして会員が減少するなか若い人たちを迎え入れるため、自衛官も会員になれることにした。
 私の母の異母姉の夫(中村次喜蔵)は、第一次大戦時の青島(チンタオ)攻略戦において、独軍の要塞を攻略したことで、大正天皇の面前で講和をしたとのことです。この中村中将は、日本の敗戦後、なおソ連軍と戦おうとしていました。そこへ、無駄な抵抗はやめろと言わんばかりの停戦命令が大本営から来たあと、自決したのでした。その自決の前後を知りたくて、偕行社に照会したのです。すると、自決したときの状況や場所など、本当に細かいところまで教えてくれました。本当に助かりました。偕行社が実際に生きた団体であることを実感しました。
(2023年7月刊。2900円+税)

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