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兵士たちの戦後史

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  吉田  裕     、 出版  岩波書店   
 兵士体験者の生存数は2008年7月時点で40万人とみられている。大激減しています。それはそうですよね。終戦時に20歳の兵士であっても、今なら85歳ですからね。
 私の叔父は90歳を過ぎていますが、中国で八路軍としばらく行動をともにしていました。そんな戦争体験を早いこと聞き出しておかないと、歴史の闇に埋もれてしまいますよね。
 戦場の現実。第一に、戦病死という名の事実上の餓死者が大量に発生した。餓死者は140万人、餓死率は61%という推定がある。第二に、多数の将兵・軍属そして船員が船の沈没によって戦没した。40万人近くが溺れ死んだ。第三に、特攻死が初めて登場した。航空特攻だけでも、陸軍1327人、海軍2616人の戦死者を出している。
 戦艦「大和」が沈没したとき、アメリカ側は12人が死んだだけで、日本側は3700人もの戦死者を出した。
 硫黄島で死んだ日本軍の将兵のうち、敵弾で戦死したのは3割。残り7割の日本兵は、自殺が6割、1割が他殺、残りは事故死によって死んでいった。むむむ、これは実にむごい比率です。
日本への復員船のなかで、上官に対する吊るし上げやリンチが公然と行われた。階級による厳格な軍隊内秩序に対する兵士たちの怒りが爆発した。そして、社会全体の復員兵に対する態度は冷ややかなものだった。巨大な政治勢力と化して権力を乱用した軍部や権力的地位にあった軍上層部に対する反感・反発が復員兵全体に向けられた。とりわけ戦前にはヒーローだったパイロットたちへの反動には大きなものがあった。
私たちは民族自身のために戦ったのではなかったから、祖国の土を踏んでも、祖国の人たちと、まるで他人同士のようにしか接しなかった。これは、ある復員兵の述懐した言葉ですが、やはり戦争目的が他国への侵略だと、こうなるのでしょうね。
 中国からの帰還兵には、自分たちは負けていなかったとして、襟章を外そうとしない者が多かった。決着のつかなかった中国戦線の兵士たちには、日本軍の襟章・階級章は、むしろ誇りであった。
1961年に、軍人恩給に加算制が復活した。これによって在職期間が割り増しされた。その結果、1960年の軍人恩給を受けている47万人から1970年には126万人近くにまで増えた。
 1972年1月、グアム島のジャングルに28年間潜伏していた元日本兵の横井庄一・陸軍伍長が島民に発見された。また、1974年には、フィリピンのルパング島で30年にわたって潜伏活動を続けていた小野田寛郎・陸軍少佐が発見された。
 1974年12月には、インドネシアのチロタイ島で元日本兵の「中村輝夫」(台湾の高砂族出身。実名はスニョン、中国名は李光輝)が発見された。
軍隊のなかでは、私的制裁つまりリンチが横行していた。中隊長は父、班長は母、古年次は兄というのが建て前で、実際には会話なんてない父、継母、また暴力団の兄というのが真相だった。
元兵士たちは、残虐行為などの戦争犯罪に関して証言しても性暴力、とりわけ自分自身が行った性暴力については語ろうとはしないのが一般的である。性犯罪について話すのは、殺人よりも精神的に辛い。それは「命令でやった」という免罪符のつかえない犯罪だからでもある。
戦友会は、会員の高齢化のため、次々に解散し、活動を停止しているとのことです。
 日本軍の将兵の実態を知るうえでたいへん貴重な労作でした。
(2011年7月刊。2800円+税)

世界をやりなおしても生命は生まれるか?

カテゴリー:生物

長沼 毅 朝日出版社
 10人の高校生との対話をベースにした本です。分かりやすい反面、とても難しいところがありました。
 10人の高校生の知的レベルの高さには驚かされます。モノを食べない動物がいる。ええっ、ウ、ウソでしょ・・・。ところが本当なんです。暗黒の海底に棲息するチューブワームです。
 チューブワームには消化器官、つまり口・胃腸・肛門がない。栄養は内部から摂る。目には見えない特殊な微生物が体内に棲んでいて、チューブワームに栄養をつくってくれている。体内微生物の名前は、イオウ酸化細菌、イオウ酸化バクテリアともいう。これは植物の光合成と同じことをしている。ただし、暗黒の海底なので、光の代わりに海底火山のエネルギーを利用する。そして、でんぷんを作っている。
 この共生微生物とチューブワームはバラバラに切り離すことができない。単独での培養に成功していない。ええーっ、世の中には、こんな生き物がいるのですね。
 地下生物圏に棲息する微生物は3兆トンから5兆トンいると推測される。これは、陸上・海洋生物圏の2倍以上にもなる。すなわち、地球の内部こそが巨大な生物圏なのである。そのポイントは海底火山、地球の内部がアクティブであること。
リンキアというヒトデがいる。カリフォルニアや沖縄の海にいるヒトデである。このリンキアというヒトデは、腕を切り離すと、その腕の断片からも全体が復活する。
 同じようにプラナリアも、切っても切っても再生する。ある研究者がプラナリアを100個以上の断片に切り刻んだところ、その全部が全体を再生した。
 もし太陽がなくなったら、海底火山から出てくる、あるいは地下世界に秘められた化学エネルギーだけしか使えなくなる。太陽からは1367ワット/㎡のエネルギーが来るのに対して、地球内部からは69ミリワットしかない。太陽からの方が2万倍も大きい。もし太陽がなくなったら、地表はもう荒れ果てた平らな世界になるかもしれない。
 生命とは、問題を解くことである。そして、この宇宙で唯一、問題を解くことのできるものが生物である。
 生物の極限の状態を考えることが出来る本でした。
(2011年7月刊。1600円+税)

「蛮社の獄」のすべて

カテゴリー:日本史(江戸)

著者   田中 弘之 、 出版   吉川弘文館
 天保10年(1839年)5月に起きた「蛮社の獄」はシーボルト事件とともに、いわゆる蘭学者弾圧事件として名高い。前年に起きたモリソン号来航事件をきっかけとして、江戸の蘭学者である高野長英は永牢の判決を受け、のちに脱獄中に死亡した。渡辺崋山は自決した。このほか、僧侶と町人たち4人が取調中に拷問を受けて死亡した。この「蛮社の獄」は事件当時は話題となったものの、その後はしばらく忘れられていて、45年後の明治17年に自由民権運動の論客によって本が書かれたあと話題となった。
 オランダ通詞の本木庄左衛門は、鎖国という排外的閉鎖政策を批判した。
 松平定信が百姓一揆とともに警戒した「おそるべき蛮夷」そして「外国、遠く候ても油断いたすまじきこと」という戒めは、天保の老中・水野忠邦、目付の鳥居耀蔵にも共通していたようだ。「蛮夷」に対する恐れと、「国民」に対する警戒が「蛮社の獄」で崋山が町民たちを「国外脱出」「異国人との応接」という無実の罪を着せてまで断罪するに至った。
 鳥居耀蔵は林家の三男であったところ旗本の名家である鳥居家に養子となって入り、目覚ましい出世を遂げた。目付に登用され、町奉行、勘定奉行という幕府の要職を歴任した。由緒ある旗本の鳥居家の当主としての誇りと使命感が、徳川幕府への異常なまでの忠誠心となって彼の行動を律したと考えられる。
 「蛮社の獄」の首謀者といわれる目付の鳥居耀蔵は天保の改革でも庶民の恨みを買ったため、当時からその悪人ぶりを語るエピソードは枚挙にいとまがないほどだった。鳥居耀蔵は「蛮社の獄」の6年後(1845年)、家禄を没収されたうえ、終身禁固として讃岐の丸亀藩に預けられ、幽因23年に及んだ。73歳で明治を迎えたあと、ようやく釈放された。
 渡辺崋山は鎖国の撤廃を求める開国論者であった。それを知らない江川太郎左衛門は親交を結んだ。この二人は同床異夢の関係にあった。
 崋山は、鎖国海防を批判し、強力な西洋艦隊の前では、わが国の海防強化は無意味だとほのめかしていた。「蛮社の獄」の「蛮社」とは「尚歯会」を指すが、この「尚歯会」それ自体は「蛮社の獄」で追及・弾圧はされていない。
 渡辺崋山について、鳥居耀蔵は、すでに前からスパイをつかって身辺を探っていた。
 北町奉行の大草安房守は、崋山を標的とした鳥居耀蔵の奸計を退けた。
 天保のころの江戸幕府のなか決して一枚岩というものではなかったことを知りました。
 そして、「蛮社の獄」というより「無人島の獄」と呼ぶべきだろうと著者は提唱しています。なるほどと思いました。
(2011年7月刊。3800円+税)

密売人

カテゴリー:警察

著者  佐々木 譲  、 出版  角川春樹事務所   
 うまいですねぇ・・・・。いつ読んでも、この著者の警察小説はほれぼれしてしまいます。情景描写といい、ストーリーといい、なるほど、そうか、そうだろうなと思わずうなずき、ぐいぐいと作中の部隊に引きずり込まれてしまいます。
 本書のタイトルからすると、覚せい剤とか拳銃の密売人を扱っているかと思わせますが、違います。では、何を売ったのか・・・・?
暴対法ができて、そのあと6、7年前が、警察庁が全国一の暴力団の徹底し壊滅を指示して以来、やつらは本当に食えなくなっている。私文書虚偽記載で組長逮捕だ。型式犯だ。子分が銃刀法違反で、何も知らない組長が6年の実兄だ。以前なら考えられないような微罪で逮捕、刑務所送り。昔ながらのしのぎも成立しなくなっている。上の連中は逮捕覚悟で俠客の看板を掲げているが、日々、実入りは少なくなっている。義理かけもままならなくなっているが、いまの組長クラスだ。
こんなセリフがありますが、本当でしょうか。
 福岡県内は暴力団の密度が日本有数に高いので有名です。中州も、北九州も、そして、筑豊も筑後も、至るところで鉄砲の弾が飛びかっています。それは、暴力団同士というのもありますが、主としてゼネコンなど土木・建築会社がターゲットになっています。公共工事の3%ルールをこれまでどおり守れというヤミ社会からの催告かつ警告の弾丸です。
 いま九州新幹線の乗車率の低さが問題となっています。事前の予想乗車率の3割しかない駅があります。田舎の田んぼの真ん中に忽然として誕生した新幹線駅は、まさしく政治家と暴力団が私たちの血税を喰いものにしている象徴です。
 そんなことを考えたとき、暴力団が不景気だというのも、にわかに信じる気にはなません。先日の久留米の組長宅襲撃事件では、ついにマシンガン(機関銃)まで登場してきました。恐ろしい世の中です。
 この本では、警察の上層部と暴力団の癒着も暴かれています。お互い、持ちつ持たれつの関係があるというのです。これまた許せないことです。そう言えば、この間の一連の発砲事件で、犯人が警察に逮捕されたなんて、聞いたことありませんよね。どうなっているのでしょうか・・・・。もっと、しっかりしてくださいな、警察官の皆さん。
(2011年8月刊。1600円+税)

原発はいらない

カテゴリー:社会

小出 裕章 、 幻冬舎ルネサンス新書
 著者は安全な原発などないと断言しています。
 全国各地にある原発は、地震や津波とは無関係に、しばしば事故を引き起こしている。それは設計自体にミスがあったり、操作についての人為的ミスなどによる。
 そうなんですよね、玄海原発でもつい最近、人為的ミスと思われる事故が発生しています。事故が起きてしまったら、もう人間の力ではどうしようも出来ないのが原発、そして、核の恐ろしさです。
 安全な原発などない。すべての原発は危険。だから、原発の運転即時停止を求め続けている。
 私も大賛成です。エネルギー政策をどうするこうするという議論のまえに、大人も子どもも、そして日本列島に将来にわたって安心して住めるようにするためには、「ノー原発」の声を大きくするしかありません。
 原発は、東京や大阪、そして福岡市内につくることは認められていない。なぜか? これは原発が危険なものであることが国も分かっているからだ。
 まことにそうなのですよね。でも、原発事故の恐ろしさは今回の福島第一原発が証明しました。放射量からすると、福島市内から、少なくとも子どもは全員疎開・退避させるべきだという専門家の指摘があります。東京だって、3月15日には放射能雲に覆われていたことが今では判明しています。人口の少ない田舎につくったから大都会は安全だ、というわけにはいかないのです。
福島第一原発の周辺でプルトニウム238が検出された。これは原子炉がかなり初期にメルトダウンしていたことを示している。それを政府が発表せずに隠していたため、大量の住民が放射能を被曝してしまった。なんと恐ろしいことでしょう。内部被曝したところで、すぐに異常がでることはない。しかし、長期的にみるとがんを発生するリスクが高まるのは明らか。
 子どもは大人の4倍もの放射線の感受性があるので、20ミリシーベルトを被曝することは80ミリシーベルトを被曝するのと同じこと。これでは、子どもたちに将来、きみはがんになる危険性が高くなるけど、仕方ないんだと言っているのに等しい、とても冷酷な仕打ちだ。
 子どもを守るには、大人が責任を果たすしかない。大人は福島産の食品を食べ、子どもは九州産の食品を食べることも考えるべきだ。
 ふむむ、本当に事態は深刻なんだと痛感させられる本です。今のまま誰かが何か、どうにかしてくれるだろうなんて考えは、この際、きっぱりと捨てるべきです。
 福岡でいうと、やっぱり玄海原発ですよね。九州電力の支配する九州の政財界の横暴を黙って見過ごすわけにはいきません。これだけ重大な事態をひき起こしていながら、やらせメールが発覚しても社長も会長も責任をとらないなんて許せませんよね。
                (2011年7月刊。838円+税)

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