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隠れた脳

カテゴリー:人間

著者  シャンカール、ヴェダンタム  、 出版  インターシフト   
 隠れたところで人に影響を与える力を隠れた脳という。隠れた脳とは、気付かないうちに私たち人間の行動を操るさまざま力のこと。隠れた脳の大半は、自覚の及ばないところにある。脳の活動のなかに意識的に気付かないものがあることは、科学者のあいだでは昔から知られていた。
意識的な脳は、ゆっくり慎重に作業する。教科書を読んで理解し、ルールや例外を学ぶ。隠れた脳はすばやく推論し、即座に順応するようにできている。隠れた脳は、正確さよりもスピードを重視する。
 無意識のバイアスは毎日の生活の隅々にまで入りこんでいる。たとえば、人は賛同できる話を聞いたときには、すぐに、しかも情熱的に反応する。賛同できないときは反応がほんの少し遅れる。それは、隠れた脳が話の行き詰まるのを予測して、衝突を前に身構えるからだ。
あなたの隠れた脳は、単独で働いているのではなく、他人の隠れた脳とネットワークを築いている。
 近い関係にある人間同士だと、嫉妬心から強くなる。
 隠れた脳は、他の物体より人の顔を好んで認識するようにつくられている。
なぜ、人は災害時に反応を誤るのか?
 9.11のとき、WTCで88階にいた人は助かって、89階の人は助からなかった。なぜか?
 人が決断するとき、ふだんなら個人の性格やモチベーションがそこに反映される。しかし、集団でいるときに災害にあうと、個人の意思よりも集団自体の行動のほうが決定要因になることが多い。隠れた脳の奥底で起こって実際の行動を左右したのは、その人が属していた集団の大きさだった。大きな集団ほど、脱出するのに時間がかかる。思いがけない災害にあったとき、人は無意識のうちに周囲の人との合意を求める。そして集団は共通の物語。つまり何か起こっているのか誰もが理解できる説明をつくりあげようとする。集団が大きいほど、同意が成立するまでに時間がかかる。
 現実には、人間は自分を傷つけ、全体の生存可能性を減らしても、お互いを助け合うことがある。
 ヒロイズムは、危機に際して個人の利益より集団の利益を重視する。隠れた脳が生み出す無意識の問題解決法である。
 重大な危機に陥ったとき、隠れた脳がその力を発揮して、何が起こっているのか、まわりの人たちと共通の理解を得たいという強烈な願望が生まれる。集団の同意があれば安心できる。進化の歴史をみると、集団でいる方が安全を保たれる。警報が鳴ると不安が引き起こされ、集団を頼るよう隠れた脳が指令する。それは、祖先の時代から集団でいたほうが危険にさらされる可能性が低く、安心と安全が手に入りやすかったからだ。
 なーるほど、ですね。
 かなりの数のテロリストは裕福な特権階級の出身だ。大学を卒業し、医師、エンジニア、建築家といった専門職についてる。自爆テロの犯人(テロリスト)は異常心理をもつ操り人形であるとか、虚無主義だという調査結果はない。むしろ、その集団の中の他の仲間より理想主義的な思想をもっていた。洗脳されて、命令に従うだけの愚か者ではない。
 自爆テロリストたちは異常者ではない。ごくふつうの人が自爆テロリストになる可能性がある。自爆テロリストは死を強制されたとはほとんど感じていない。
 自爆テロリストは、入るのがきわめて難しい、排他的なクラブに所属している。その排他性こそが、クラブの大きな魅力なのだ。自分がやろうとしていることをビデオの前で誇らしげに語り、仲間らか称賛の言葉を浴びて心理的な報酬を受けたあとでは、その使命を成し遂げられなければ、自分の人生を意義深いものにする要素を失うことになる。
 隠れた脳は、周囲からの承認と行動の意義を求める。そして、小さな集団には、そのような承認と意義を与える力がある。 自分より大きいものの一部になりたい、自分が特別な存在だと思いたい、その存続と安定が自分の命より大切な集団の一部になりたいという衝動だ。
 人は大きな数字の扱いが苦手である。人間の想像力をかきたて、同上を引き出すのは、一つの顔、一つの名前、一つのライフストーリーである。1匹の犬を救助するために大金を出しても、12匹の犬を救うためにはお金を出し惜しみする。これを望遠鏡効果という。これは、仲間や親戚を優先的に好むように進化したために生じたものだ。
隠れた脳を知らなければ人間を知ったことにはならないのだと実感し確信しました。刺激にみちた素晴らしい内容の本でした。
(2011年9月刊。1600円+税)

日本人事

カテゴリー:社会

著者   斉藤 智文・溝上 憲文 、 出版   労務行政
 企業の人事部で現に活躍している人、また過去に活躍していた人が次々に登場してきます。人事部の裏面は出ていないので、きれいごとだけですませていないのか、そんな疑問を感じながらも読みすすめました。まあ、それにしてもさすがは人事のプロですので、その指摘はもっともだなと言うところが多々あり、勉強になりました。
 無印・良品で有名な良品計画の社長は私と同世代、学生運動に身を投じて逮捕・拘留されたこともあるとのことです。びっくりしました。今では経営のトップなのですからね。
 大事なのは部下である。上司はいずれなくなるが、自分がいなくなるまで長くつきあうのは部下である。上司に気をつかうより部下を大事にしなさい。なーるほど、ですね。
 自分はダメだという思い込みが曲者(くせもの)だ。ダメだと感ずるだけで、どこがダメなのかを具体的に合理的に考えない。それは知識のなさとか技術の未熟であったりする。いずれも、後天的なもの、努力すれば身につくものがほとんど。自分はダメだという概念が、自分という存在はダメだということになり、必要以上に自分を傷つけてしまう。
 なるほど、自己肯定感って大切なんですよね。若いときから、自分はダメだというのではなく、自分もこれがやれる、これならやれるという確信を持たせる、持てるようにするのが大切だと思います。
 江崎グリコは、従業員の雇用を大切にする。これは創業以来の変わらぬ経営理念。これまで希望退職をふくめて、強制的な退職施策をしたことがない。ふむふむ、この会社は非正規雇用はいないのでしょうか・・・?
 取締役になると、入ってくる情報の7割は嫌なことばかり。組織の上に立つと、困ったことや嫌な情報だけが上がってくる。これはNECの人事部にいた人の言葉です。
しかし、悪い情報が上に上がってくる会社はいい組織である証し。業績が低速すると、まっ先に人に手をつけようとする企業が増えている。そこでは、社員をコストと考える風潮が蔓延している。
 本当にそのとおりです。終身雇用制という言葉はもはや死後になってしまったかのようです。使い捨ての駒のようにポイ捨てされる非正規雇用がありふれ、若者が将来展望を持てず、企業もユニークなアイデアが生まれる源泉が枯れはじめています。ソニーの業績低速はそのためだという指摘があります。
 もっと人事部のホンネの部分を聞いてみたいものだと思いました。
(2011年10月刊。1800円+税)

もう原発にはだまされない

カテゴリー:社会

著者    藤田 祐幸 、 出版   青志社
 原子力発電所で炉心溶融事故(メルトダウン)を起こす原因はいくつもある。
 その一は、配管破断事故。何らかの理由で主蒸気配管が破裂すると、一瞬にして蒸気が噴出し、原子炉が空焚きになり、炉心溶融に突入してしまう。この大口経配管破断事故は過去に起きた実績がある。2004年8月に福井県美浜原発で起きた。
 もう一つは、全電源喪失事故。原子力発電でありながら、原発が停電したらどうなるかという問題。これが今回起きたわけだが、これまで、「停電になることは、ありえない」と国も電力会社も言い続けてきた。
 1980年、フランスのラ・アーグ核燃料再処理工場で、事故が起きて従業員があきらめ、「家族と一緒に死にたい」と帰宅していったという深刻な事態が発生した。このときは、近くのフランス海軍の兵士たちが決死隊をつくって突入し、電源を回復してポンプを回すことに成功して事なきを得た。もし、これが成功しなかったら、フランスからドイツまで深刻な放射能被害にあったはず。
 福島第一原発では、メルトダウンが起きていることは分かっていても、原子炉のなかで一体、何が起こっているのかは予測しがたい。しかし、原子炉が体をなしていないことは確実だ。
 福島第一原発事故では、「止める」ことには成功したが、停電のために「冷やす」ことに失敗し、相次ぐ水素爆発によって「閉じ込める」ことにも失敗した。
 原発建屋内で作業員が着ている防護服は、放射線に対してはまったく無力。防護服は放射性物質が身体に付着しないように加工してあるだけ。被曝を避けるためなら、厚さ5センチもの鉛の鎧を着なければならない。それでは重すぎて、とても仕事にならない。なんと、あの防護服は放射性物質が付着しないように加工されているだけだというのです。これでは心配ですよね。
 そのうえ、政府は福島原発について内部補修を行う労働者の被曝濃度を50ミリシーベルトから100ミリそして210ミリシーベルトに上げていった。
 内部被曝は長期間に免疫力や抵抗力を低下させかねない。
 原発事故の本質、それに至るまでの問題が見事に整理されています。読みすすめるのが恐ろしいのですが、目をそらすわけにはいきません。政府・東電が工程表を発表して、何となく事故対策が進んでいる気にさせられていますが、今も放射能が空中そして海中・地中に拡散しているのは事実です。原発は一刻も早く日本から廃絶するしかありません。
(2011年8月刊。1500円+税)

回転寿司の経営学

カテゴリー:社会

著者   米川 伸生 、 出版   東洋経済新報社
 私は恥ずかしながら回転寿司店なるものに一度も行ったことがありません。外から店内を見て、あのぐるぐる回るすしの姿にベルトコンベアーに向かって働かされる流れ作業の工員を連想し、そんな状況に我が身を置くことへの拒絶反応を抑えがたいのです。
 この本を読んで、昨今の回転寿司の実情を知り、いささか偏見を取り除きました。でも、まだ店内へ入ってみようという気にはなりません。これはマックやケンタの店に入りたくないのと同じ気分です。
 いまの日本には、回転寿司店が4000店ある。100円寿司の大手チェーン店が、その3割を占める。100円均一の店舗は他に1000店はあるが、100円寿司の業界勢力は全体の半分ほど。業界は100円均一店とグルメ回転寿司に二極化されていて、どっちつかずの店は衰退の一途をたどっている。
 100円寿司大手チェーンの躍進は、ボックス席の成果である。ゆったりとボックス席で家族だけの時間を過ごせる。そもそも回転寿司は、アミューズメント・パークなのである。うむむ、そういうわけなんですか、ちっとも知りませんでした。
一般的な外食産業の原価率が30%であるのに対して、回転寿司では40~50%があたりまえ。
 回転寿司は、仲買人を通さず、漁港や漁船から直接買い付ける。釣り人から釣った魚を直接買い受ける店まである。さらには、海外で養殖している業者もいる。
 回転寿司が誕生したのは1958年。コンベアの特許の切れる1978年までは元禄寿司の一人舞台だった。
 1991年に広辞苑に回転寿司という項目が登場した。
 1998年、高級回転寿司店が誕生。
低価格の回転寿司は、全国的にシャリは甘め。これは子ども向けを意識しているから。東日本ではシャリは酢と塩が立っていて、関西から南へ行くにつれ、シャリは甘くなっていく。
 回転寿司のマグロは、「客寄せパンダ」の役割を担っている。
 回転寿司の市場規模は4358億円。2008年までは毎年5%以上も伸長していた。2010年は前年比2%増。上位三社(「かっぱ寿司」、「あきんどスシロー」、「無添くら寿司」)で55%を占める。
 大手100円寿司チェーンでは、コンピュータシステムを導入して、そのときの来店客数や客層から、どの寿司をどれだけ流せばよいのか適宜指示が発せられる。子どもが多ければ、子どもに人気ネタを多く流すなど、効率よくレーンを埋めている。
 回転寿司、恐るべしだと思いました。
(2011年9月刊。1600円+税)
 日曜日にフランス語検定試験(準一級)を受けました。この一週間は10年間の過去問を復習し、「傾向と対策」を繰り返し勉強しました。
 終わったあと大学の構内を歩く夕暮れの寒風に吹かれて身の縮む思いでした。
 早速、答えあわせをしました。いつものように自己甘の採点で76店(120点満点)です。なんとか一次はパスできそうです。パスしていると、1月に口頭試験を受けます。これがまた緊張の一瞬です。
 最近、大学生のときの夢を久しぶりのに見ました。全然授業に出ていなくて、兄が心配して忠告してくれたのですが、もうどうにもしようがなく、中退するしかない・・・という切羽詰まった状況でした。現実には、そのような状況になったことはありません。というか、大学2年生のころには1年ほど、ストライキのために授業そのものが受けられませんでした。
 それにしても私も若いものですね。大学気分に浸っているのですからね。これも仏検のおかげです。

北朝鮮に潜入せよ

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者  青木  理     、 出版  講談社現代新書   
 韓国に潜入してきた北朝鮮の工作員については、これまでも多少の知識はありました。その典型が1968年1月に起きた青瓦台襲撃事件(1.21事態)です。私はこのとき大学1年生です。まだ、東大闘争が始まる前で、平穏な寮生活を楽しく過ごしていました。
北朝鮮の特殊部隊「124部隊」に所属する武装工作員が南側に侵入し、青瓦台までわずか1キロという至近距離に迫った。生け捕られた一人は「朴正熙の首を取りにきた」と目的を語った。
 これに対して朴大統領が報復を考えた末に起きたのが映画『実尾島』で有名となった実尾島事件である。同じく31人から成る「684部隊」は過酷な猛訓練を経て北朝鮮に潜入することになった。ところが、世界情勢の変化により朴大統領も報復を断念する。そうなると、「684部隊」の存在自体が不要となる。隊員の不満が爆発して大惨事が発生した。
 私もここまでは知っていました。しかし、韓国軍も北朝鮮へ多くの「北派工作員」を隠密裡に送り込んでいたのでした。朝鮮戦争後に北派されて失踪死亡した工作員は7726人にのぼる。50年代の北派工作員は、朝鮮戦争の延長線上にあり、北朝鮮出身者が大半を占めていた。そして50年代の工作員の9割は任務から帰還できなかった。60年代に北派工作員となったのは、貧困にあえぐ孤児や前科者・不良・無職の若者たち。軍が高額の報酬をえさとして騙すようにして誘引していた。60年代、2000人以上の北派工作員が死亡・行方不明となった。ところが72年の共同声明のあと、北派工作は劇的に減少した。「諸君たちは国家のため任務に就く。諸君は契約を破るかもしれないが、国家は破らない」 
 このようにして工作員は契約書を書かされた。しかし、国家は契約書を交付しなかった。そして、「国家は裏切らない」というのは大嘘だった。そうなんですよね。国家を構成する個々の公務員は異動してしまうと、前任職場の言動にはまったく何の責任もとらなくなるものです。また、責任の取りようもありません。なにしろ無縁なのですから。これは、今の福島第一原発事故で放射能対策に現場であたっている人にもあてはまってしまう危険があります。放射能によるがん発生が、確率が高まるというものである以上、国は素知らぬ顔をしてしまう恐れは大きいのです。
 国家の非情さも明らかにしてくれる本でした。
(2006年4月刊。740円+税)

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