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カテゴリー: 社会

東京大学駒場スタイル

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 東京大学教養学部 、 出版  東京大学出版会
私の大学生のころにも、金もうけが一番と考えている学生は少なくなかったと思います。でも、それを公然と言うのは恥ずかしいこと、はばかれる雰囲気がありました。
「貧乏人」の寄せ集まる駒場寮で私たちは読書会をやり、卒業後どう生きるかを真剣に議論していました。いえ、これは政治的に色のついたサークル(部室)のことではありません。いわば、ノンポリの寮生が岩波新書を素材として社会との関わり方を議論していたのです。そしてサークルノートを6人部屋で記帳し回覧していました。今も私はそのノートを持っています。
この本を読むと、教養学部長(太田邦史教授)が、「自分のことだけ考えてお金が入ればいいという感じの学生が増えてきているように思う。今の学生は優しい、いい子たちなんだけど、もうちょっと社会や世界のために生きるということも考えてほしいという気持ちがある」と嘆いています。
この発言にノーベル賞を受賞した大隅良典・名誉教授が共鳴して、「われわれの時代だったら、授業がなくなるくらいストライキがいっぱいあっていいはずのことに対して、今の学生はまったく敏感でない」と指摘しています。また、石田淳・前教養学部長も「学生は、もっと社会に対して関心をもってほしい」と注文をつけています。
幸いなことに、私のころには戦前からあったセツルメントサークルが戦後再建されて、地域に出かけて社会の現実に触れ、大いに議論する仲間がいました。社会との関わりも考えさせられました。そして、大学当局が無茶したり、政府が学費値上げを企むと、学生投票で過半数の賛成を得てストライキに突入して、授業がなくなりました。
まあ、無茶といえば無茶なのですが、学生のころには、そんな無駄も許されるし、必要なのだと今では思います。
大隅名誉教授の次の言葉は味わい深いものがあります。
「年齢(とし)をとるということは、切り捨てることなんだよ」
「失敗してはいけないという感覚は、科学とは相容れないもの。科学というのは、ほとんどが失敗の連続」
「いまの社会には、1回だって失敗してはいけないという感覚が若者にある。とくに受験に勝ち残った東大生には、失敗したらマイナスのスパイラルに落ち込んでしまうという恐怖感がすごく強い」
「『できました、先生』、『次は、何をやりましょうか』・・・。こんな感じの学生が東大生にも増えている。自分で課題を発見するより、提起された課題をいかに早く手際よく解く力が大事なことだと思い込まされている。それが問題だ・・・」
これって、本当に大切な指摘だと私も思います。弁護士だって同じことで、自分で物事を考え組み立てる能力が求められます。
この本のなかに、中世フランス語辞典を1人で、5年かけて完成させ、アカデミー・フランセーズから大賞を授与されたという松村剛教授の話があります。これは、すごいことです。学者って、すごいですね。9世紀から15世紀までの北フランス語を中世フランス語と呼ぶのですが、著者は十字軍時代のエルサレム周辺の文献まであたったようです。
毎日毎朝、NHKラジオのフランス語応用編を聞いて書きとりしながら、なんでこんなに進歩しないのかと自らを嘆いている身として、驚嘆するほかありません。学問の道は深く険しいことを少しばかり実感することができました。
駒場寮はなくなりましたが、1号館や九〇〇番教室そして話題の8号館は健在のようです。毎朝、学生気分に戻って浸るつもりでNHKフランス語講座を飽きもせず、聴いています。
(2019年6月刊。2500円+税)

「誇示」する教科書

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐藤 広美 、 出版  新日本出版社
先日の参議院議員選挙の投票率は全国平均で48.8%、私の住む町は43%でしかありませんでした。かつては強固な労働組合運動があり、革新市長も誕生していた町ですが、労働運動の存在感は薄れ、革新陣営は市長候補も立てられない状況が長く続いています。そして、20代、30代の有権者の投票率は30%ほどでしかないと報道されています。私は、その原因の一つに学校教育があると考えています。
教師は真面目な性格の人が多いけれど、同時に上からの指示に逆らえない人が多数。考える有権者づくりより、親孝行をしましょう、整理整頓しましょうというレベルの道徳教育しかなく、日本史では近現代史をまともに教えない。
そして、大学は学費が高くて、奨学金は学費にみたない。何をやってもダメ、どうで世の中はジタバタしても変わらないという、あきらめムードが蔓延している。なので、若者をはじめ日本の有権者の6割が投票所に足を運ばず、安倍一強政治を与えている気がします。
学校の教科書が今、何を子どもたちに教えているか・・・。知れば知るほど、暗然たる気分になってしまいます。
戦前の教科書は、日本人の国民性は優秀であることを強調していた。それは欧米への敵意と、アジアの人々への蔑視と裏腹の関係にあった。そして、今日の育鵬社版の教科書は、日本人のすぐれた国民性を絶えず強調している。まさしく戦前回帰です。
「新しい歴史教科書」は、朝鮮半島にある植民地を近代化し、アジアを解放したと強調する。本当にそう言えるものでしょうか・・・。
扶桑社の『新しい歴史教科書』では、韓国併合は、「宿命的な矛盾であり、併合以外の道はありえなかった」ことを教えているというのです。韓国の王妃を日本軍が虐殺したことなどに目をつぶって、日本に都合のよいように事実をねじ曲げて子どもたちに教え込もうとしています。
帝国日本のアジア政策にあった植民地主義を消し去り、日本はアジア諸国に近代化をもたらしたという一面だけを強調する。鼻もちならぬ自慢話でしかありません。では、日本人がフィリピンやマレーシアで戦後、近代化をもたらした恩人として評価されていたとでもいうのでしょうか・・・。そんな声は残念ながら聞いたことがありません。日本軍の残虐行為しか聞こえてこないし、それ自体は否定しがたい事実でした。アジアの人々に対して日本(軍)は加害者として君臨していたし、各地で罪なき人々を虐殺していたので、謝罪するしかなかったのです。それも表面上の「お詫び」ではなく、心からの謝罪が必要でした。前の天皇はそのことをよく理解していたのだと思います。
いずれにしても、戦前の日本(軍)がアジアで良いことをしたなんて、そんなことを言っていたら、世界の笑いものになるだけです。日本の子どもに嘘を教えて、日本人としての誇りをもてと押しつけても、海外に出たら、たちまち化けの皮をはがされてしまいます。子どもたちが可哀想です。
教科書って、子どもたちにとって大切な存在なんだと、改めて認識させられました。
(2019年1月刊。1700円+税)

9条を活かす日本

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版  新日本出版社
最近、鹿児島で著者の話を聞く機会がありました。たくさんの映像をつかって、世界と日本で憲法9条にはどんな意義があるのか、視覚的にもよく分かる熱弁に接し、聞いている私も元気になりました。
著者は今ではフリーの国際ジャーナリストです。なんと9ヶ国語が話せるのだそうです。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語そしてジプシー語です。あれ、2つ足りませんね。何でしたっけ・・・、忘れました。ジプシー語は自分で手製の辞書までつくったとのこと、すごいです。
著者は大学生のときキューバに渡り、サトウキビ畑で作業をしながらスペイン語を身につけたといいます。耳から入ったコトバは身につくとのこと。うらやましい限りです。
少なくない日本人が憲法9条をありがたく思っていないなかで、世界的には日本の憲法9条こそ今もっとも世界平和のために必要だと考える人が増えているといいます。ありがたいことです。
著者の話のなかで、コスタリカの話は圧巻でした。コスタリカは日本と同じように平和憲法があり、本当に軍隊をもたない国になっています。外国の侵略には警察と国際世論に頼って我が身を守るという覚悟をもっています。
なによりすばらしいのは、軍備予算を全廃して、その分をすべて教育予算にふり向けていることです。日本だってやれないはずはありません。
ところが、「中国の脅威」とか「北朝鮮の脅威」なるものをことさらあおりたてている社会風潮の強い日本では、まるで夢物語になってしまいます。
軍隊がなく、子どもたちが学校で、子どもには愛されて育つ権利があると教えられると、どうなるか・・・。すばらしいことが現実化します。子どもたちが自分の頭で考えて、行動するのです。もちろん、大人になっても投票率は8割をこす。日本のように投票率が半分にも達しないなんて情けない状況ではありません。
そして著者は「15%の法則」なるものを提唱します。社会を変えるには、15%の人が行動に立ち上がればいいのです。「15%の人」が街頭に出たら「すべての人」が立ち上がったと見える。これが社会を動かしている現実の法則なのだと著者は繰り返し強調しました。
あきらめない、あせらない。しかし、着実に行動する。このことを励ましてくれる元気の出る本です。ぜひ、あなたも手にとってお読みください。おすすめします。
(2018年5月刊。1600円+税)

東京は遠かった、改めて読む松本清張

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 川本 三郎 、 出版  毎日新聞出版
松本清張の本は、それなりに読みました。読み終えたとき、心の底に黒々としたオリのようなものがたまっているのを感じる本が多かったという印象です。
小倉にいた松本清張は東京(中央)の文壇から認められたいという思いを強くもっていました。東京と地方の格差の問題が松本清張の本に通底しています。
『Dの複合』を読むときには、かたわらに日本地図を置き、しばしばそれを開いて、地名、場所を確認しながら読むことになる。それは主人公たちと一緒に旅することでもある。旅といっても、にぎやかな観光地を訪ねる旅ではなく、旅先は、一般に広くは知られていない、地方の小さな町や村である。
松本清張にとって、東京は遠かった。東京は、いつかそこで作家として成功する約束の地。晴れ舞台であり、同時に地方在住者からみて、強者の威圧的な中央だった。
松本清張は、東京をつねに地方からの視線で描く。弱者が強者を見る目で東京をとらえる。中央の権威、権力によって低く見られている地方の悲しみ、憎しみ、怒り、そして他方での憧れといった感情が複雑に交差しあう。
東京(中央)に出たい。東京の人間に認められたい。それによって地元の人間たちを見返してやりたい。松本清張の作品には、しばしば東京への強い思いをもった人間が登場する。ときに、その思いは、歪んで異様なものになることもある。
男の趣味がカメラと旅行。写真帖を見せてもらうと、東尋坊、永平寺、下呂、蒲郡、城崎、琵琶湖、奈良、串本など・・・、名勝地ばかり。普通、孤独好きで一人旅する人間は、こんな観光地には行かない。これらの旅は、女が連れ添っていたに違いない・・・。なるほど、ですね。
松本清張は、酒をたしまなかった。それでも、文壇バーには通っていたようです。作家仲間との交際は続けていたのでした。
松本清張には、「追いつめられた作家もの」と呼びたい作品がいくつかある。原稿が書けなくなった作家が盗作する。代作を頼む。かつては人気のあった作家が零落して殺人を犯す・・・。
松本清張にしても、
「アイデアが浮かばない」
「書けない」
などの悩みは決して他人事ではなかっただろう。
松本清張は古本屋をよく利用した。歴史小説を書く人間として当然のこと・・・。
松本清張の本をもう一度読んでみたいと思ったことでした。
(2019年3月刊。1800円+税)

老人ホーム、リアルな暮らし

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小嶋 勝利 、 出版  祥伝社新書
現在、老人ホーム業界は、M&A真っ盛り。売りたい老人ホームがたくさんあり、それと同じくらい買いたい老人ホームがある。売りたい老人ホームの経営者は、今なら、まだ価値があるので、今のうちに売りたいと考えている。
買いたい老人ホームの経営者は、とにかく規模を大きくしないと利益が出ないので、お金のある限り買いまくり、規模を大きくしていくことを最優先にしている。
介護職員の不足は深刻な問題になっている。介護職員が足りない根本的な理由は、割にあわない仕事だということ。
老人ホームの朝食時間は、8時ころから9時ころまでに設定されている。それは、早番の職員の勤務シフトにもとづく。
老人ホームの食堂での席は、あらかじめ決められている。老人ホームの職員にとって、食事時間は戦争だ。
15時からはレクレーションの時間となるが、多くの職員はレクレーションが苦手。それは、盛り上がらないから。
夕食は午後6時から、入浴は週2回。お風呂が週2回というのは警察の留置所や拘置所と同じです。そして、共通しているのは、どちらも夜ではなく、昼間ということです。
老人ホームは、「動物園」と同じようなものだと著者は言い切ります。
生活への安全と安心が保証されていて、日々の食事について心配することもない。
ただし、何も考えずに老人ホームのなかで生活していると、「喜怒哀楽」から遠ざかる環境で暮らしていることになるので、認知症になりやすい・・・。
介護施設で働いている職員は、みな「負け組」。
いずれ私もお世話になるかもしれない老人ホームの寒々とした実情に心が震え、おののいてしましました。せめて、当面、介護職員の待遇改善、そして老健施設への手厚い保護が必要だと思ったことでした。
(2019年3月刊。820円+税)

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