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カテゴリー: 社会

対馬の海に沈む

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 窪田 新之助 、 出版 集英社
 私も昔からJAを利用していて、共済にも加入しています。
 JA共済連の総資産は57兆6870億円。これは日本の国家予算の半分ほどの額。保有契約高は224兆3355億円で、世界でも指折の規模。新契約高は13兆2383億円で、日本でトップクラス。JA共済の商品は、日本生命に次いで二番手。
 JAの共済事業を扱うライフアドバイザーをLAという。全国のJAの職員は19万人。そのうちLAは2万人。LAには毎年1回、「LAの甲子園」がある。
 この本の主人公(西山)は、LAとしてずっと「優績表彰」を受けてきた。対馬は人口3万人超で、1万5千世帯。ところが、西山1人で、2千超の世帯、4千人の共済契約を結んだという。人口の1割ほどになる。
 それで、西山は、500万円超の基本給のほか、歩合給は3285万円となり、合計すると4千万円近い。これはJA対馬の組合長の年収572万円の8倍近い。
 どうして、そんなことが可能なのか…。西山は、2019年に、44歳の若さで自死。その死後、西山の不正が調査され、22億円超の不正が判明した。どうして小さな島で、そんな巨額の不正が可能だったのか…。
対馬の漁業の産出額は1981年に356億円だったのが、2020年には105億円、3分の1以下になった。同じく林業も1990年の32億円が2021年は14億円と、大幅に減少。対馬を観光する人は増えていて、2011年に4万7千人だったのが、2018年には41万人になった。
 西山の不正の手段の一つが、台風による被害補償。西山のパソコンには罹災した個所を撮影した写真が3万9千枚も保存されていた。実際には、台風で被災していないのに被災したように申請するための証拠写真として使われた。これだけの枚数の写真があれば、被災箇所の証明は簡単だ。建物更生共済(建更)は台風による被災であれば間違いなく保険金が出る。
 実際には被害はないのに、あるようにして申請する。10万円しか出ないはずのものが50万円も出るようにする。これらの内部的な申請書類の作成は、すべて西山がひとりでやる。
 客は西山に通帳もハンコも預けている。西山が共済事業でめざましい実績をあげたのは顧客と一種の共犯環境にあったから。
 西山はJA対馬の支店の中に西山軍団をつくり、日頃から地盤の養成・維持に心を砕いた。福岡まで一緒に飲みにくり出す。1人10万円を「ポケットマネー」で配る。
 漁業、林業が低迷しているなか、経営が安定していると人々がみているのは、市役所と九電そして農協(JA対馬)しかいない。
 西山は台風被災を捏造(ねつぞう)して、多額の共済金を詐取し、それを財源として宝飾品やスーツなどを次々に買い求めていった。高価な時計もかなり買っていた。
 JA対馬のなかでも西山を疑惑の眼で見ていた職員はいた。しかし、そんな人は、取りあってもらえなかった。
西山は新しく造成された土地を5区画も購入した。そこに賃貸住宅を建てるという。賃料だけで160万円の収入が見込まれる。そのほか、コンビニやスポーツジムを開設するつもりでもいた。
 西山はLAとして、人あたりが良く、対応が迅速、悩みごとは何でも聞いてくれるといって評判が高かった。
 JA対馬のなかに西山軍団をつくって、周囲と「共犯関係」のなかで不正な活動をすすめていた。しかし、その結果として西山が全国有数の成果をあげると、組合長も、その恩恵を蒙った。
 ところが、西山の不正に加担したくない人、それを恥じる人が出てきて、今度は西山が追い落とされる番になった。
 JA共済の不正の手口を具体的に明らかにした本です。死んだ西山ひとりでは出来るものではないことも、よくよく理解できました。大変な労作だと思います。
(2025年4月刊。2100円+税)

ルポ台湾黒社会とトクリュウ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 花田 庚彦 、 出版 幻冬舎新書
 毎日毎日、特殊詐欺の被害にあって大金を盗られてしまったという報道に接して、嫌になります。しかも、このところ多いのは、かつての市役所に代わって、警察と弁護士です。ホンモノの警察署の電話番号が表示されるといいますから、本当に手が込んでいます。
 そして騙すほうは、先日、カンボジアで何百人も捕まったなかに日本の高校生もいたというニュースがありました。うまい話、お金になるアルバイトがあるというエサにつられてカンボジアまで行って、詐欺の電話をかけさせられていたようです。
 この本は、そんなサギ集団の黒幕に台湾黒社会がいることを明らかにしています。この本を読んで初めて国際的な大がかりな犯罪集団なんだということを自覚しました。
月40万円とか50万円の固定給で、これに成果の3~5%という歩合給が加算される。月に100万円、200万円も十分ありうる。
 ネットの求人広告に応募すると、台湾に渡り、朝9時から夜7時まで、目の前の台本(シナリオ)を見ながら電話をかける。週に2日はお休み。週に1回、2時間ほどの反省会がある。初めの3ヶ月間は見習いで、ボーナスはなし。
 部屋は2.3人の相部屋。外出禁止で、ケータイは取りあげられ、電話で週に1回だけ家族と話せるけれど、友人とは話せない。
 「宮崎県警の捜査2課の○○です…」と話しはじめる。
 この本によると、オレオレ詐欺の大体は、台湾の詐欺集団が本土の中国人を騙したことにあるとのこと。そうなんですか…。日本人だけが狙われているのかと思っていました。中国本土から騙しとったお金は1兆円をこすとのこと。
 メールを1000通ほど送って、2~3人ひっかかったら、収支は完全にプラス。黒社会のトップの収入は青天井。本当に怖い世の中です。
 日本人は一般に相手を信じやすく、詐欺に対する警戒心が薄いので、騙しやすい。なーるほど、それはそうなんですよね…。残念ながら、あたっていると思います。
騙す側の台湾黒社会は、日本の暴力団と深い、密接な交流がある。
 日本の若者がうまい金もうけのバイトと思ってとびつくと、実はパスポートを取りあげられ、家族を含めて個人情報を全部握られ、コトバも通じないところで缶詰め。そして、万一発覚したときには、必ず実刑になってしまう。これは100万円でも200万円でも同じこと。命とひきかえの怖い話だと肝に銘じなければいけない。そうなんですよね。
(2025年3月刊。920円+税)

黒風白雨

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宇都宮 健児 、 出版 花伝社
 日弁連会長をつとめ、東京都知事選挙にも3回挑戦した著者が『週刊金曜日』に連載したコラムを収録した本です。2009年1月からスタートしています。
 2010年4月から2年間は日弁連会長をつとめました。2年目になろうとする寸前、3.11の東日本大震災が起きています。早速、被災地へ視察に出かけ、弁護士会としての取り組みを率先して指導したというのは、さすがです。
 著者は理論派というより、行動する弁護士なのです。私は、クレジット・サラ金被害者救済運動を通じて親しくなりました。アメリカへの視察団として少なくとも2回は一緒したと思います。
 日弁連会長を退任したあと、要請を受けて無党派の知事候補として3回もがんばりました。100万票ほどの得票を得たのですが、今の選挙選はマスコミの知名度が圧倒的に有利なのです。猪瀬直樹、舛添要一そして小池百合子、いずれも都民のことより自分とゼネコン優先の都政をすすめましたし、すすめていますが、ともかく知名度では著者を何度も上まわります。
 立会演説会を拒否して争点を知らせない、ビラは枚数制限で全有権者に届けられない、戸別訪問は禁止する。こんな不公平な選挙制度はすぐに是正すべきだと著者は強調していますが、まったく同感です。選挙に立候補するときの供託金が300万円とあまりに高額なのもおかしなことです。世界各国は供託金ゼロも多いのです。日本だけこんなに高額なのは問題です。
 この本の出だしは、サラ金大手の「武富士」との戦いです。サラ金が超高利でボロもうけしていたときのことです。武富士は敵対する人物をひそかに盗聴までしていたのでした。まるで公安警察です。
 都知事選挙に立候補したのは、日弁連会長を無事つとめあげたことに自信をもっていたからだと書かれています。私も著者にぜひ都知事になってほしかったと思います。のちに自死してしまったソウル市長も人権派弁護士の出身でした。ソウル市を大きく変えていったと著者は高く評価しています。本当にそのとおりです。スキャンダルを起こしたのは残念です。
 都の予算は北欧のスウェーデンの国家予算並みというのです。小池百合子知事はカイロ大学を本当に卒業したのか怪しいと私は疑っていますが、関東大震災のときの朝鮮人大虐殺の慰霊祭に追悼文すら寄せないなど、ひどいものです。
 著者は「年越し派遣村」の村長もつとめました(たしか…)。これまで日本社会にないと思われてきた「貧困」を可視化した取り組みです。
 そして生活保護費の取り下げを国がすすめてきたことに対して、著者は果敢に闘ってきました。あくまで弱者目線での取り組みです。すごいものです。
 今、東大ロースクール生の圧倒的多数は年収1000万円以上が約束されている企業法務の弁護士を目ざしているという悲しむべき現実があります。本当に、あなたの人生はそれで充実したものになりますか…、という呼びかけが今の学生の多くに届いていないようで、私はとても残念です。
 選挙の投票率の低さを著者は繰り返し問題にしています。日本の国政選挙の投票率は5割をやっと超えるくらい。北欧では8割があたりまえというのに…。
 つい先日の北九州市議会選挙では、なんと40%しかありませんでした。身近な市会議員選挙であっても6割の有権者が投票所に足を運ばないのです。悲しすぎます。これでは「悪」はますます栄えるばかりです。
5年間で43兆円という大軍拡予算、安保三文書で「戦争する国」づくりをして、福祉・教育をバッサリ切り捨てる政治を許してはいけません。著者の引き続きの活躍を心から祈念します。
(2025年1月刊。2200円)

ニセコ化するニッポン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 谷頭 和希 、 出版 KADOKAWA
 私はスキーしませんので、ニセコのパウダースノーの良さが実感できません。ところが、ニセコの近くのペンションに泊まったことがありました。かなり前のことです。
今や人口2万人のニセコ町あたりに外国人観光客が160万人も来ていて、1泊が最低でも10万円とか15万円で、なんと1泊170万円というホテルもあるそうです。ニセコの公用語は英語で、富裕層の外国人観光客によってニセコは占められている。うひゃあ、そうなんですか…。そして、ニセコのコンビニ(北海道ローカルのセイコーマート)には、1万3千円の高級シャンパンが並んでいる。いやはや、こんな町にはとても近づけませんよね…。ニセコは、富裕層以外には敷居の高い観光地になってしまった。しかし、それでいいのだ。誰でも行けるニセコではない。それを求めたら、富裕層は逃げていく。
 今の世の中は「選択と集中」が求められているというのが著者の主張です。なるほどなるほど、そうなんでしょうね…。
 ニセコが成功した秘訣は、「選択と集中」によるテーマパーク化にある。「ニセコ化」に成功するとそこはにぎわう。そして、その陰で「静かな排除」が起きている。
東京の豊洲市場にある「千客万来」では「インバウン丼」(海鮮丼)は、なんと1万5千円もする。うに丼だと1万8千円。大阪の日本橋にある商店街「黒門市場」にも、神戸牛の串焼きは1本4千円、カニの足は4本で3万円という。目の玉が飛び出るほどの高さに呆れます。 
東京・渋谷は、インバウンド観光客の7割近くが訪問するところ。大々的な再開発が進行中で、高級ホテルがなかったのに、つくられつつある。かつて渋谷は学生を含む若者の町だったのですが…。渋谷は、もう若者の街ではない。ターゲットが変わったのだ。
東京の新大久保は、「韓国テーマパーク」化している。「韓流の街」なのだ。
 スタバとは、テーマパークである。私もスタバは利用しますが、他のコーヒーチェーン店よりカフェラテが出てくるのが遅くて、いつも少しだけイラっとしています。
 マック、すき家に次いでスタバの店は日本に多いそうです。かつて鳥取県にはスナバはあってもスタバはなかったのですが、今はあるようですね。
ブレンドコーヒーは、ドトール250円、タリーズ360円、スタバ380円。いやあ、こんなに違うのですね。私は、外に出て本を読むために入りますので、1時間すわれたら、250円であろうと380円であろうと気にしません。タバコをすわないのですから、1日にそれくらいの出費を気にする必要はありません。
 「びっくりドンキー」という日本人向けハンバーグに特化された飲食店チェーンが紹介されていますが、私は入ったことがありません。九州にもあるのでしょうか…。
 そして、丸亀製麺。ここは、「粉から手づくり」をモットーとし、それを客によく見えるようにしています。そして、トッピングをいろいろ選べますので、子どもは大いに喜びます。私も孫と一緒に入ったので、分かるのです。
 失敗したテーマパークとして、日光・鬼怒川にあった「ウェスタン村」、そして夕張市の観光施設が紹介されています。私の住む町にもちゃちなテーマパークがオープンし、わずか4年で倒産・閉園しました。その結果、30億円もの負債をかかえ、10年間、毎年3億円ずつ市は返済していきました。始める前にコンサルタント会社が一致して「赤字化必至」だと警告していたのに、それを市民に隠して市長たちは始めたのです。そして、たちまち赤字になって倒産しました。住民訴訟で市長の責任を追及しましたが、勇気のない裁判官たちは、市長の責任を弾劾しませんでした。今も思い出すたびに怒りがこみ上げてきます。
たまには、こんな本を読んで、世の中の動きを知らないといけないと思ったことでした。
(2025年1月刊。1650円)

追跡・公安捜査

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 遠藤 浩二 、 出版 毎日新聞出版
 警視庁公安部のとんでもない大失態を二つ紹介した本です。一つは30年前の警察庁長官狙撃事件、もう一つは最近の大川原化工機事件。
 まずは、國松孝次(くにまつたかじ)警察庁長官が銃撃された事件です。高級マンションから出勤しようとしたところを銃撃され、瀕死の重態になったのでした。
 結局、犯人は逮捕されないまま、公訴時効が成立してしまいました。しかし、著者たちは、銃撃した犯人はオウム真理教とは関係のない、中村泰という人物(最近、病死)であることを突きとめ、さらには、犯行を手引・援助した人物まで追跡しています。
 ところが、警視庁公安部は最後まで「オウム犯人説」にしがみつき、時効成立後の記者会見でも、そのことを高言した。そのため、オウムに訴えられて敗訴したという醜態を見せた。奇怪千万としか言いようがありません。
この本で注目されるのは、公安部といつも張りあう関係にある刑事部が特命捜査班をつくって、中村泰を犯人として証拠を固めていたという事実です。
 警視庁公安部は定員1500人で、公安部なるものは東京にしかない。公安部長は多くの県警本部長よりも格上の存在。公安部は家のかたちから「ハム」という隠語がある。
犯行を自白し、その裏付もとれている中村泰は1930年に東京で生まれ、東大を中退している。現金輸送車襲撃事件を起こし、強盗殺人未遂罪で無期懲役となり、2024年5月に94歳で病死した。
 のべ48万人もの捜査員を投入し、警察の威信をかけたはずの捜査は成果をあげられず、失敗に終わった。ところが、2010年3月30日、公訴時効を迎えた日に、青木五郎公安部長は記者会見して、「やっぱりオウムの組織的テロ」と述べた。
 それなら誰かを逮捕できたはずでしょ。それが出来ないのに、こんなことを堂々と発表するなんて、信じられません。案の定、オウムから名誉棄損で訴えられて100万円の賠償を命じられました。とんだ笑い話です。これは米村敏朗という元警視総監の指示とみられています。とんでもない思い込みの警察トップです。
 二つ目の大川原化工機の事件もひどいものです。東京地検はいったん起訴しておきながら、初公判の4日前に起訴を取り消した。私の50年以上の弁護士生活で起訴の取消なるものは経験したことがありません。よほどのことです。
 これは、功をあせった警視庁公安部のとんでもない失態ですが、それをうのみにして起訴した塚部貴子検事のミスでもあります。
 そして、誤った起訴の責任を追及する国家賠償請求裁判において、警視庁公安部の警察官2人が、驚くべきことを証言したのです。
 「まあ、捏造(ねつぞう)ですね」
 「立件したのは捜査員の個人的な欲から」
 「捜査幹部がマイナス証拠をすべて取りあげなかった」
 ここまで法廷で堂々と証言したというのは、よほど、公安部では異論があり、不満が渦巻いていたのでしょう。
大企業だと必ず警察OBがいるのでやりにくい。会社が小さすぎると輸出もしていない、従業員100人ほどの中小企業をターゲットにする。これは公安警察幹部のコトバだそうです。とんでもない、罪つくりの思い込みです。自分の成績をあげ、立身出世に役立つのなら、中小企業の一つや二つなんて、つぶれても平気だというのです。
 それにしても、大川原化工機では、社長らが逮捕されても90人の社員がやめることなく、また取引も続いていて、会社が存続したというのも驚きです。よほど社内の約束が強かったのでしょう。もちろん、みんなが無実を確信していたのでしょう…。すごいことですよね。警察の取り調べのとき、ICレコーダーをひそかに持ち込んでいて、取調状況を社員が録音していたというのにも驚かされます。捜査状況の録音・録画の必要性を改めて実感しました。
(2025年3月刊。1870円+税)

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