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カテゴリー: 社会

歴史としての日教組(上)

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 広田 照幸 、 出版 名古屋大学出版会
戦後日本の教育をダメにしたのは日教組だと右翼が言い、アベ首相も国会でそんな野次をたびたび飛ばしました。それほど日教組は戦後日本の教育界に影響力をもっていたのでしょうか…。この本は、日教組の実態を学術的に究明しようとした本格的な研究書です。上巻だけで300頁あります。
日教組くらい実像とかけ離れたイメージや言説がおびただしくつくられ、巷間に流布している組織は珍しい。妄想に満ちた一方的で過剰な読み込みがある。
そもそも日教組は単組の連合体組織なので、日教組中央の統制力は決して強くない。個々の組合員のレベルでは、多様な考え方の組合員がいるのは当然である。
1989年に反主流派の単組の大半が離脱したあとの日教組は、総評の解体後につくられた連合に加入し、それまでの対決型の運動方針から穏健な対話路線へと、運動のあり方の見直しを模索するようになった。
1995年には、いわゆる文部省と日教組との歴史的和解が成立した。
右翼や保守派は、日教組について、上から下まで徹底管理された、思想的にも一枚岩の組織像をつくりあげた。しかし、それは、日教組の実態から著しくかけ離れていた。
1950年代に共産党系が日教組執行部の多数派になった事実はない。
1989年の日教組分裂時まで、執行部三役は、すべて非共産党系であった。そして、中央委員のなかで共産党系とそのシンパの占める比率は3割だった。
日教組は、全逓や国労とは違って、共産党の影響力は大きくなかった。
1950年の地方公務員法は日教組が法人格を得る道をふさいだ。日教組などの全国的な連合組織は、労働組合法の保障する労働組合でも、地方公務員法が規定する職員団体でもない、任意団体になった。ところが、日教組は労働組合であると同時に職能団体であることを内外から期待された。
自民党と文部省が日教組攻撃の材料として「倫理網領」を論じるときに「日教組の方針を解説したもの」としている「解説」なるものは、日教組の情宣部が独断で作成したものにすぎず、いかなる日教組の機関が承認したものでもなかった。
日教組は共産党系の勢力の支配下にあったことは一度もない。日教組の主流派にとって共産党系の勢力は、連携のパートナーであり、同時にうっかりすると過激な方向に引きずられたり、内部をかき回されたりしまいかねない油断のならない相手でもあった。そして、日教組の主流派は、共産党系の勢力を敵視していたのでもない。また、日教組の主流派は、特定の政党の指導下にあったわけでもない。
たくさんの資料を分析して導き出された結論ですので、大いなる説得力があります。
(2020年2月刊。3800円+税)

病気は社会が引き起こす

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  木村 知 、 出版  角川新書
 今や全世界がコロナ・ウイルスの恐怖に震えています。この情勢にぴったりの本です。ですから、もちろんコロナ・ウイルスのことを論じた本ではありません。その前に起きたインフルエンザ大流行をきっかけに病気の原因と対策を考えてみたという本です。
 著者はカナダ生まれの外科医です。この本には、なるほど、なるほどと思うところが多々ありました。
カゼのクスリは、カゼを治す効力はもっていない。そもそも、自己防衛反応ともいえる発熱や咳を、解熱剤や鎮咳薬で無理に抑えこもうとするのが間違い。そんな薬はカゼに効かないばかりか、むしろ各成分による副作用のほうが、よほど心配だ。
医師はカゼを治すことはできない。カゼへの対処法は服薬ではなく、休息だ。熱、ノドの痛み、鼻汁、咳、痰といった不愉快なカゼの症状は、ウイルスを排除するための免疫反応の結果、つまり自分で自分を守るための自己防衛反応とも言える。発熱で体温を上げて、ウイルスの活動をおさえる、鼻づまりで、さらなる異物の侵入を防ぐ。鼻汁とくしゃみと咳で異物を体外に排除する。このような自浄作用である症状を薬でなくそうとすること自体がナンセンスなのだ。カゼのときくらい、ゆっくり休める社会に日本も変わっていくべきときではないか…。
インフルエンザかどうかではなく、体調不良のときには、自分自身の安静のためにも、周囲への感染拡大を防ぐ意味でも、何をおいてもまず休む。これが大切だ。職場や学校は、そのように休むべき人を積極的に休ませるという体制を早急につくりあげなければならない。なるほど、これが一番大切なことですよね。発想を切り換える必要がありますね。
アメリカには日本のような国民皆保険制度はない。アメリカの保険未加入者は2810万人で、全国民の9%に近い。しかも保険に加入していても、保険会社が保険金の支払いを拒否する事例が少なくない。病気になっても十分な医療が受けられなかったり、高額な医療費のため家屋を手放さざるをえなくなるなど、医療をめぐる格差問題は深刻だ。
マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』(2007年)は、アメリカの医療制度がいかに金持ち優遇のシステムなのかを白日のもとにさらけ出している内容で、見ているとゾクゾク寒気がしてきました。日本はアメリカのようになってはいけないのです。
日本の生活保護制度の運用における最大の問題点は、微々たる不正受給問題よりも、本来なら受給して然るべき境遇の人が支給されないまま放置されていること。生活保護費が高いのではなく、年金や最低賃金が低すぎるのだ。
本書で指摘されていることは、しごくあたりまえのことだと思いますが、そのあたりまえのことが残念ながら見過ごされていると思いました。
(2019年12月刊。840円+税)

マトリ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 瀬戸 晴海 、 出版 新潮新書
ひところは刑事の国選弁護人になると、覚せい剤事犯が大半でした。その後、激減したのですが、近ごろ、再び覚せい剤事犯が少しずつ増えています。
マトリとは厚労省の麻薬取締官のことです。
マトリには300人の麻薬取締官がいる。その半数以上が薬剤師。
1980年ころは、毎年2万人以上が覚せい剤で検挙されていた。このころは、覚せい剤のほかは大麻やコカインなど5種類ほど。私も大麻事案は扱いましたが、コカインはありません。
ところが、今では、危険ドラッグや向精神薬など40種類をこえる。そして、最近は、検挙者数こそ年間1万人台だが、事態はより深刻化している。
覚せい剤は、2016年に押収されたのは1.5トンで最高だったが、2019年にも1トンをこえた。想像以上に海外から覚せい剤が持ち込まれていると考えられている。
麻薬産業は世界規模のビジネスとして確立している。アメリカ、カナダ、ベトナム、セルビアなど多国籍のメンバーが薬物密輸にからんでいる。
日本では薬物事件の80%は覚せい剤だが、これは世界的には珍しいことだ。
そもそも覚せい剤は、日本で初めて合成された有機化合物だ。
覚せい剤は、末端価額が1グラム6~7万円。これは東南アジアの相場の5~10倍。密輸入価格は1キロ1000万円だったのが、500~700万円に下がった。輸入価格が下がれば、暴力団のもうけは大きくなる。
検挙者は年間1万人だが、実際の使用者20万人はいるとみられている。
覚せい剤の製造には一定の技術が必要で、つくるとき特有の臭いが発生するため日本で密造するのはリスクが大きすぎる。そこで、日本の暴力団はすべて海外に依存している。そして、日本に運び込むため、事情を知らない女性が使われることも多い。
1963年ころの日本には、大小5000をこえる暴力団組織があり、構成員は18万人以上だった。それが2018年末には暴力団員は1万5600万人、準構成員1万4900人と激減している。
最近はインターネットを使った売買が多い。また、大麻を自宅で栽培している若者も目立つ。
マトリが活躍する必要なんかない社会を目ざしたいものなんですが…。
(2020年2月刊。820円+税)

地域から創る民主主義

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宮下 和裕 、 出版 自治体研究社
いまは「危機とも転換ともなりうる、せめぎあいの新しい時代」だと、この本にこう書かれていますが、まったく同感です。
臆面もなく嘘をつき通し、証拠はすべて「処分」して国民の目にふれないようにして、追及されたら平然と開き直るアベ政治がまかりとおっています。少なくない国民は怒っていますが、「多く」の国民は、またかと呆れ、怒りを表明することがありません。でも、いつまでもこんな状態が続くほど日本国民はバカではないと私は確信しています。今は、政治の大転換の直前にあると自分によくよく言い聞かせているのです…。
著者は、日本国憲法がなぜ70年も続いたのかを改めて考えています。
憲法制定時の主要な政治勢力、GHQも日本政府も、そして共産党も、誰も憲法がこんなに70年も存続するとは思っていなかった。憲法制定にかかわったGHQ、マッカーサーや日本政府、政権担当者によって、早くもその制定直後に見捨てられた日本国憲法なのに、なぜ70年も改正されることなく続き、成文憲法としては世界で最長命の憲法となったのか…。
それは、憲法自身が、人類の、世界の到達点を示すものであり、日本国民とアジアの民衆の願いに合致していたから…。
まったく、そのとおりです。歴代の自公政権によってキズだらけにされてはいますが、今なお9条ふくめ、しっかり生きていると言うことができます。私たちの毎日の暮らしと平和をギリギリのところで守ってくれているのが、今の日本国憲法です。
1968年6月に、アメリカ軍のファントム戦闘機が九大構内に墜落したとき、著者は九大の全学自治会副委員長(あとで学友会中央執行委員長)でした。つまり、九大ジェット機墜落事故に関する抗議行動の先頭に立っていたのです。
2019年6月には、九大でかつては反目しあっていた学生運動各派が思想の違いをこえて統一集会をもったことも紹介されています。「暴力」の問題は簡単にタナあげすることは出来ませんが、考え方の違いはわきに置いて、今のアベ政治は許さないという点で一致した集会として成功したようです。といっても、みんな70歳をこえています。今の若い人たちに、この成果をどうやって伝承するかが私たちの切迫した課題となっていると思います。
大牟田出身の著者は自治体問題を扱う団体の専従事務局長として長く活躍してきました。この3年間の論稿をまとめて本にしたものですが、これで6冊目とのこと。地方自治と日本の民主主義の発展のために今後ひき続き活躍されんことを心から願っています。
(2020年3月刊。2000円+税)

トヨトミの逆襲

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 梶山 三郎 、 出版  小学館
トヨタ自動車の経営トップについて「99%実話」という噂のある本だというので読んでみました。著者は現役の経済記者とのことで、覆面作家と称しています。
前著『トヨトミの野望』も読んで、このコーナーでも紹介したように思います。ともかく、日本を代表する超巨大企業の経営トップのドロドロとした世渡りの実態がほとほと嫌になるくらい暴露されています。そのすべては、トヨタが巨大企業でありながら、創業者一族の独占する「一私企業」であるかのように運営されていることに起因しているようです。
トヨタの社長は、トヨタに関する報道はくまなく精査させ、論調にまじったわずかなトゲ(棘)も見逃すなと指示した。
その記事の出元には広報セクションが折衝し、ときに昵懇(じっこん)の間柄である大手広告代理店を使い、広告を引き上げる(とりやめる)か、あるいは逆に出す広告を増やす。こんなアメとムチでメディアを飼いならす。
トヨタの社員が目に見えて横柄になったのは、2000年代の後半。トヨタ一族の社長が就任してからのこと。
「どこがトヨタにとってうれしいのか」と、トヨタの社員は上から目線で問いかける。トヨタにどんな利益をもたらしてくれるのかと迫る言い方に、傲慢さと驕りが言葉の裏から透けて見える。
社長の覚えがいいことを利用して無駄づかいを繰り返す「お小姓」、私情をまじえて人事権を振るう「側用人」。こういう人間が社長にまとわりついている限り、トヨタという組織は「君側の奸臣」をかかえたまま。無害な人間だが、長いついあいだからというだけでそばに置いている社長秘書も、まったくの能力不足…。
トヨタの創業者社長は、自分に従順な人間は徹底的に重用するが、意見があわなかったり、批判的な人間は許さない。その結果、社長のまわりには、「お友だち」しか残らない。役員のあらかたは粛清がすんでいる。
トヨタの人事部は自分たちに危害が及ぶから、必死になって社長の意向を忖度(そんたく)して、気に食わない人間を社外に放り出す。そんな上司に嫌気がさしたのか、トヨタの人事部では、この1年で中堅社員が10人以上も辞めていった。
ニッサンの内部抗争もひどいものでした(です)が、トヨタのほうも、同じように根本的な問題を経営トップはかかえているようです。
あくまで私企業の話ですから、だからどうだということではありません。ただ、私は弁護士になれて良かったなと胸をなでおろしてしまいました。こんなドロドロとした抗争の世界にいたら、ストレスが強すぎて病気になってしまいますよね…。
アベ首相のまわりも同じことなのでしょうね。そんなことはしてはいけないと諫言(かんげん)できる人がまったくいないのですよね、きっと。まあ、アベ内閣は一刻も早く総辞職してもらったほうが「美しい国ニッポン」のためになると思いますが…。
実在の組織や人物とは関係ないフィクションということですので、私が「99%実話」という噂をもとにトヨタをあてはめてみたのも、私は、このように読んでみましたというだけのことです。
(2020年1月刊。1700円+税)

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