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カテゴリー: 社会

閉ざされた扉をこじ開ける

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 稲葉 剛 、 出版 朝日新書
小田原市は、「生活保護受給者」ではなく、「生活保護利用者」と呼びかたを変えた。権利として生活保護制度を利用しているという意識の変化を促すためだ。
いやあ、これはいいことですね。
実は、小田原市には「SHAT」つまり「生活保護悪撲滅チーム」などと書いたそろいのジャンパーを生活保護担当職員が10年前から着ていたことが発覚して問題となったのでした。そのあとの対策の一つが、呼称の変更なのです。
先日(10月9日)の西日本新聞に星野圭弁護士(福岡第一法律事務所)が生活保護について解説した記事がのっていました。生活が苦しくなったら、権利として生活保護を利用するのをためらうことはありません。自己所有の自宅があっても、車をもっていても、家賃が高くても生活保護を受けられることは多いのです。あきらめずに誰かに相談しながら申請することです。このように星野弁護士は呼びかけています。なにも遠慮することなんかありません。
単身高齢者が新しく借家(部屋)を探すとき、大変な苦労させられる。というのは、貸主(大家さん)が借主の孤独死を恐れるから。緊急連絡先を告げ、定期的な安否確認するといっても、80代の単身者のアパート探しは難しい。そこに貧困ビジネスがつけ入る余地が生まれている。
アメリカでは若年ホームレスの4割がLGBTだという調査結果があるとのこと。日本では、そんな調査はやられていないので、不明だそうです。著者が過去25年間で3000人以上のホームレスにあたって、LGBTの人は数十人はいたとのことです。日本でも、当然いるはずですよね。
私は、この本を読むまで知りませんでしたが、日弁連は生活保護法の「保護」という名称は恩恵だと誤解されやすいので、権利性を明確にした「生活保障法」に名称変更を提言している(2019年2月)とのこと。うむむ、これはいいことですね。
あの安倍首相(当時)だって、国会で、「生活保護は国民の権利」だと明言したわけです。国民が権利行使を遠慮してはいけません。
軍事予算が5兆円を超えて、歯止めなく増大している一方で、福祉予算だけは「お金がない」という口実で削減されているのが今の日本の現実です。黙っていたら健康も生活も守れません。ぜひ、声かけあって、みんなで叫んでいきたいものです。
(2020年3月刊。790円+税)

官僚の本分

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 前川 喜平、柳澤 協二 、 出版 かもがわ出版
かたや文科省の事務次官、かたや防衛省から官邸官僚の中枢へ。そんな官僚の世界の頂点にいた二人がいまの官僚の実態を暴き、後輩たちを叱咤激励しています。
安倍政権が特異だったのは、官邸による官僚に対する締めつけがものすごく強いこと。
身内か使用人か、それとも敵か。味方と敵をはっきり分けてしまい、官僚が全部、官邸の使用人になってしまっている。
ちょっとでも官邸と距離を保とう、距離を置こうとする人間は外されていって、幹部ポストは、官邸の言うことを何でも聞く人間しかいなくなっている。
文科省でも官邸にきわめて近い人物を官房長で定年延長させて事務次官に昇任させ、事務次官のときもう一回定年延長した。こうやって官邸は完全に文科省を制圧した。定年延長制度は、すでに官邸による官僚支配として使われている。
ええっ、そ、そんな…、ちっとも知りませんでした。
なので、いまや各官庁は、その独立性を失い、官邸の下部機関と化している。官邸官僚が考案し、安倍首相が承認した方針が各省に降りる仕組みになっている。
検察庁法改正問題での人事院答弁は、ひどかったですね。松尾給与局長は「言い間違えた」と恥ずかしげもなく安倍政権をかばい、一宮なほみ人事院総裁も同じだった。いやはや、恥ずかしい限りです。プライドも何もあったものではありません。残念です。
これまでの官僚にはプライドというものがあったわけですが、今や、ガタガタですね。安倍政治を継承するという菅政権ですが、人事による官僚統制はますます強化されそうです。嫌なニッポンですね…。ちっとも美しくなんか、ありません。
前川さんが官僚だったころ、後輩の官僚に言っていたのは、自分の魂は売り渡すな、貸すのは仕方ないけれど、それは後で取り返せ、ということ。
いやあ、辛いいけれど、仕方ないのでしょうね…。
お二人とも東大法学部を卒業してキャリア官僚の頂点にのぼりつめている身なわけですが、現在の官僚システムを嘆き、なんとか変えていきたいと声を上げておられるわけです。この声にこたえてくれる官僚が続出することを心から願っています。
恥ずかしながら、私もチラッと官僚を目ざしていました。国を良い方向に動かせるかなと甘く考えていた、大学1年生のころです。官僚にならなくて、弁護士になれて本当に良かったと思います。
(2020年8月刊。1300円+税)

まんがでわかる日米地位協定

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 平良 隆久、藤澤 勇希 、 出版 小学館
この本を読みすすめるほどに腹が立ち、怒りに燃え、今風にいうと、チョームカついてきます。いえ、作者もマンガも決して悪いのではありません。書かれていることが、あまりにひどくて、涙が出てくるのです。それも怒りの涙です。日本って、ホント、アメリカの従属国でしかなくて、本当に自立していない、まだ独立していないんだな、つくづくそう思わせます。
ドイツやイタリアで出来ていることが、お隣の韓国でやられていることが、日本では出来ていませんし、いつだってペコペコと卑屈にアメリカのご機嫌うかがいばかりしているのですから、ホント嫌になってしまいます。
しかも、マンガ仕立てで、高校生だって分かるレベルで書いてあります。おっと、これは今どきの高校生に対して失礼な言辞でしたね。スミマセン。よほど日本人の大人のほうが分かっていない、分かろうとしていない、盲目のままでいいなんて馬鹿な思考にしがみついているんですよね。
日本の政治家やマスコミは、北朝鮮と中国との緊張感を煽って、勝手にアメリカ軍の力を信じ頼りにしているが、アメリカ軍のほうは、そんなつもりはまったくない。
アメリカ兵は日本国内の高速道路の通行料をほとんど支払っていない。レンタカーを利用して日本国内の観光旅行に出かけているのに、アメリカ軍の通行証が発行されているかぎり、それは軍用車両として免除されることになっている。そして、その車で交通事故を起こしても、「公務中」となって日本の警察は手が出せない。それが日米地位協定だ。
首都東京の上には巨大なアメリカ管制下の空域あるため、JALもANAも、日本の航空会社の飛ばす民間飛行機は富士山の上空は飛行できないので、ぐるっと大まわりをさせられる。無駄なことだし、使用するジェット燃料を浪費するし、危険性も増す。これがアメリカ軍のラプコンだ。
アメリカ兵が刑事事件を起こしたとき、日本の警察はすぐには逮捕できない。そして、たとえ逮捕できたとしても、実際に刑事裁判で有罪になるとは限らない。というか、その多くが無罪・放免になっている。
アメリカ軍の飛行機が墜落したとき、沖縄県警は動けなかったし、動かなかった。というか、アメリカ軍によって構外にはじき出されて、その様子をみるだけにした。人体にきわめて有害な泡消火剤が基地の外に出たとき、日本政府はアメリカ軍の基地に立入調査することすら出来なかった。
ドイツでもイタリアでも、そんなことはない。イタリアではアメリカ軍の基地にイタリア人将校が常駐している。
韓国は1994年に、ついに平時の作戦統制権を取り戻すことに成功した。そして、平時のデフコン4からデフコン3への引き上げるには、現場の士官が建議したあと、陸海軍の三軍のトップが承認し、さらにアメリカと韓国の大統領の承認も必要となる。
要するにデフコンが3から4に代わることにはとてつもないエネルギーを要し、ほとんどありえない状況になっていて、平常時であるかぎり、韓国軍の指揮権は韓国軍が有する。
今どき、なんで日本全国にアメリカが我がもの顔でたくさんの基地をもち、首都の上空を占有しているのが、不思議でなりません。沖縄の辺野古新基地づくりだって、アメリカの押しつけであり、日本のゼネコンを喜ばせるだけなのに、菅新首相をマスコミがもてはやし、コロナ禍のなかでも基地建設を強引にすすめるなんて、許せません。
この本はひらがなにすべきところを旧来の漢字を多用するという読みにくさはありますが、著者の熱意と分かりやすい政治マンガによって、日米地位協定の問題点が浮きぼりにされています。この改定は日本政府の当面する主要課題の一つだと、つくづく思ったことでした。
(2020年8月刊。1700円+税)

ホームレス消滅

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 村田 らむ 、 出版 幻冬舎新書
定住型のホームレスが激減したことは実感します。駅の近くでダンボールを上下にうまく組み立てて寝ている人々を博多駅の内外に前はよく見かけましたが、今では皆無です。地下街のシャッターあたりにも見かけていましたが、今はいません。
この本によると、国の管理する河川の橋の下とか草むらの中に、ひっそりと定住型ホームレスは今もいるけれど、もうそこだけのようです。
移動型ホームレスは、公園や高架下に小屋やテントを建てられないため、毎日毎晩、まちをさまよい、寝られそうなところで眠っている。また、車上(中)生活、ネットカフェやサウナ、24時間ファーストフード店を主な寝床としている。
大都会にはあまりないのかもしれませんが、地方の中小都市ではまちの至るところに存在する空き家、空き倉庫に人知れず潜入し、夜だけそこで過ごすホームレスもいます(実際、その経験者から話を聞きました)。
日本以外、世界のホームレスは路上で物乞いをしている。しかし、日本では物乞いするホームレスは圧倒的に少ない。日本のホームレスはアルミ缶を収集したり(1日で3000円がやっと)して、働ける人は働いていることが多い。日本では物乞いすると、軽犯罪法違反となる。
ホームレスの人は靴を見たら分かる。靴はジャストサイズでないと履くことが難しいし、洋服ほど配られることがない。
ホームレスは歯を悪くしている人が多い。青木ヶ原の樹海の自殺した人の頭蓋骨をみると、歯がダメになっている人が大半。ホームレスには、精神疾患、精神障害をかかえている人が多い。
ホームレスが亡くなり、身元が判明しないときには、法律により「行旅死亡人」として扱われる。
奈良の山本病院は、ホームレスや生活保護受給者を受け入れていたが、看護士の大量退職で問題点が明るみになって外に出た。このようにホームレスを食い物にする貧困ビジネスが今の日本にはしぶとくはびこっている。
山谷(さんや)も釜ヶ埼も横浜の寿町からもドヤ街がなくなっている。横浜の寿地区には、5716人が住んでいるが、そのうち8割以上が生活保護を受給している。
今や高齢化もすすんだので、投石するほどの腕力、体力そして気力がない。そこで、かつてのような暴動を起こせるような状況にはない。
目に見えるホームレスが消えてなくなったのなら喜ばしいことです。しかし、本書を読むと、ホームレスは寝るところを変えつつも、いろんなところにしぶとく生きのびているそうです。
河川敷だと地方自治体の見まわりの対象外だということ。そこに中・高生がときどき乱入してきて生命の危険にさらされます。そして、今度の台風やら大洪水のときには、家ごと流されてしまう危険があるのです。
ホームレスを徹底的に排除しようとする国・社会は、あまり幸せでない気がする、とのこと。同感です。ホームレスの今を知ることのできる貴重な突撃取材がなされています。
(2020年5月刊。900円+税)

ロレンスになれなかった男

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小倉 孝保 、 出版 角川書店
1970年にアラブに渡り、シリア、レバノン、エジプトで日本空手協会から派遣された指導員として空手の普及・指導につとめた岡本秀樹の生涯をたどった本です。
著者は毎日新聞社のカイロ特派員として岡本に出会い、2009年4月の岡本が67歳で病死するまで交流がありました。なので、その体験もふまえて岡本という表裏ある空手道の指導者の実像を描き出しています。
いま、中東・アフリカの空手人口は200万人を超えているそうですが、それは日本式というよりヨーロッパ式のスポーツ競技として普及しているとのこと。なるほど、と思いました。というのも、日本の空手は、いくつもの流派に分かれていて、柔道のような統一体がないとのことです。
岡本は、シリアやエジプトで秘密警察や治安部隊のメンバー相手に空手を指導し、その教え子たちを通じて治安機関に特殊なコネを築いていた。エジプトのサダトの護衛も教え子の一人だった。岡本は各地で政権幹部に近づき、貴重な一次情報を入手していた。
また、イラクではフセイン大統領の長男に取り入ろうとしたり、特別な立場を利用して密輸入して大もうけしたり、スーパーやカジノまで経営していた。しかし、結局、「恋敵」に足をひっぱられて事業に失敗し、「国外追放」寸前まで行った。そして、日本に戻ってきてからは別れた元妻に頼りつつ、生活保護を受けながらの闘病生活に入った。
岡本は日本の外交官や外務省からは徹底して嫌われていた。それでも、岡本はアラブ人からは慕われ、教え子からは信頼されていた。
最後に、岡本が生活保護を受ける生活をしていたのに、毎月3万円をカイロにある女子孤児院に寄付し続けていた事実を著者が知って驚いたことが紹介されています。
ロレンスに憧れた岡本は最後までアラブに失望することはなかった。騙され、陥れられても岡本はアラブを愛し、信じ、子どもたちを励まし続けた。
岡本はすべてを失いながらも、この地に200万人をこえる空手家を育てた。ロレンスになれなかった男は、ナイルの水となった。
小池百合子のカイロ大学卒業の怪(『女帝』)にも登場しますが、エジプトにとって日本の援助はきわめて大きかったことが、この本でも紹介されています。小池百合子と同じように岡本もその線で助かったことがあるようです。小池百合子も岡本も、アブドル・カーデル・ハーテム(2015年に97歳で死亡)というサダト大統領の右腕と言われた人物に面倒をみてもらっていたのでした。
こんな破天荒な生き方もあるんですね、思わず刮目(かつもく)してしまいました。
(2020年6月刊。2200円+税)

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