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カテゴリー: 社会

森の記憶

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 柴垣 文子 、 出版 新日本出版社
定年すぎた夫婦。子どもたちは結婚して家を出て、孫たちが遊びに来る。しかし、その両親はどうやら不仲らしい。思春期にかかった孫娘は表情に暗さがあり、屈託なかった小学生の男の子(孫)も口数が少なくなった。親は子どもの夫婦関係に口を出してはいけない。そう思っていても、ついつい口を出してしまう。
教員夫婦だったが、妻のほうは病気がちで早く退職して専業主婦になって、モノカキを始めた。文章を書いて、その状況描写に読者をひきずり込むためには、草花の名前や鳥の名前を知ったうえで、その違いにうんちくを傾ける必要があります。この本にも、たくさんの花、植物そして鳥の名前が登場します。
タラ、コミアブラ、コゴミ、ユキノシタ、ソヨゴそして野甘草。いずれも、タラを除いて、私には分かりません。タラの芽だけは見れば分かります。
ハッチョウトンボ、コゲラ、イカル、カワセミ、ヒヨドリ、ルリビタキ、オオタカ、コガモ、小サギ、カイツブリ、ノスリ、ヒドリガチ。イカルの声は優しい、なんて書かれても具体的なイメージはつかめませんが、ほんわかとした気分にはなります…。
そして、夫がお腹の調子がよくないと言っていたのが、病院に行くと、大腸ガンの末期だと判明する。すると、病院での光景、そして会話が展開していく。
小説というのは、こうやって情景を描写しながら書いていくものなんだね、そう思いながら、モノカキ志向の私は、頁をくっていきました。
自然との関わりあい、そして、社会といかに関わっていくか、病気になっても積極的に生きていこうとする夫のけなげな姿に心が打たれます。
同年輩、そして少し年下の知人にも病気とたたかいつつ亡くなった人が、もう何人もいます。70歳すぎたら、いつ、何が起きても不思議ではありません。いまも突然ギックリ腰のようになってしまいました。昨年は、椎間板ヘルニアで急に歩行困難になりました。
無理なく、でも、自分の思うように生きていきたい。そして孫たちとも一緒に遊んでいたい。そんな思いで毎日を大切にして生きています。しみじみと、そんな気にさせる本でした。
(2020年12月刊。税込2530円)

学問の自由が危ない

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐藤 学、上野 千鶴子、内田 樹 、 出版 晶文社
菅(スガ)内閣はコロナ禍対策は、いつまでたっても無為・無策、もうどうしようもない無能政権としか言いようがありません。中途半端な経済対策優先で、PCR検査もワクチン確保も不十分なまま。経済的補償もせず、国民に自粛を強制し、首相官邸では酒盛りするだなんて、まるで狂っています。そして、アベのマスクに引き続いて「別人格」の息子を使った接待攻勢で国の政策を歪めても、「民間人」なので、国会への証人喚問なし(ええっ、籠池氏も民間人でしたが…?)。
そして、日本学術会議の任命拒否問題は、そのまま逃げ切ろうとしています。年間10億円も(!)出しているので、政府に任免権があるのは当然…。アベノマスクは400億円ものムダづかいしたのに…、内閣官房機密費は年間12億円が領収書不要で使い放題なのに…。おかしなことが、まるでそのまままかりとおるという変な日本社会です。
日本学術会議会員として推薦された6人の学者の任命を菅首相は拒否した(2020年10月1日)。これは「クーデタ」だ。現代のクーデタでは、軍隊は出動しないし、戒厳令がしかれるわけでもない。奇襲ではあるが、変化は緩やかに進行する。しかし、本質は同じ。秘密のうちに計画して奇襲の対象を1ヶ所に定め、人々は傍観者にされ、事件の真相が分かったときには国家と社会が覆されている。クーデタの成功の可否は、奇襲の対象をどこに設定するかにある。菅首相が対象としたのは日本学術会議だった。
この任命拒否に対しては、800をこえる学会200をこえる団体が抗議声明を公表した。科学者がこれほど大規模に連帯したのは、歴史上初めてのこと。
日本学術会議は、2008年以降、答申を一つも出していない。なぜか…。政府が諮問(しもん)しないから。日本学術会議は、政府からの諮問がなくても自発的に321もの提言・勧告を発出している。つまり、年間10億円の予算以上の働きはしているのです。そして、会員のほとんどは、手弁当で、学問の将来のために献身している。
日本国民の少なからぬ人々が学術会議の任命拒否問題の深刻さを感じていない。
この状況をどうしたら克服できるか…。ただ、警鐘を鳴らすだけではダメ。理由と根拠をあげて納得してもらう。そのとき、譲らない。妥協しないことが肝要。言葉をかみくだいて、広く一般の人に「納得して」もらえるのか…、にかかっている。
この大切な問題を風化させてはいけません。タイムリーな本です。
(2021年1月刊。税込1870円)

ルポ入管

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 平野 雄吾 、 出版 ちくま新書
埼玉県川口市は、かつて鋳物(いもの)産業で栄え、吉永小百合主演の映画『キューポラのある街』(1962年)の舞台となった。現在は、東京のベッドタウンとして、人口60万人の街。ここに3万9000人の外国人が住む。これは東京都新宿区、江戸川区に続く全国3位の多さだ。そして、2000人ほどのクルド人が住んでいる。
在留資格のない「仮放免」の外国人は、通常、1ヶ月に1回、入管当局に出頭する。そのとき仮放免の許可が延長されたら、そのまま社会生活を送ることができるが、不許可になったら入管施設に収容される。多くの場合、判断の理由は示されない。
入管施設の全収容者数の半分超にあたる680人が半年をこえる長期収容者だ。3年とか4年という収容者もいて、8年も収容されているイラン人がいる。
出口の見えない収容のため精神を病む外国人も多く、2018年4月、インド人男性が自殺した。自傷行為や自殺未遂も相次いでいる。入管当局によると、2017年には、合計44件の自殺未遂が発生した。
東日本センターは茨城県牛久市にある。収容定員は700人。入管庁は、強制退去を命じられた外国人を、東京や大阪の地方入国管理局のほか、東日本センターや大村センターなど、計17ヶ所に一時的に収容する。
入管施設では、通常、集団の居室に入れられ、1日5~6時間の自由時間を除いて、居室内での生活を強いられる。外部との連絡はテレホンカードを利用した電話とアクリル板で分断された部屋での1回30分間の面会のみ。刑務所と違って、作業をさせられることはない。
仮放免許可が取り消され、再収容された外国人は、2017年に537人、その前、2012年に121人。4.4倍に増えている。
収容期間が長期化し、半年以上も収容されている外国人の割合が30%(335人)から50%(713人)に急増した。
入管当局によると、2008年に160人だった強制送還者は、2020年3月には、チャーター機をつかって、たとえばスリランカに44人も強制送還した。入管当局は航空会社と協議(?)したうえで、チャーター機による強制送還をすすめている。数千万円の予算をかける。
入管施設には常勤の医師はいない(2019年12月の時点)、非常勤医師が対応するだけ。
2018年6月、大阪の入管で、最大6人用の居室に収容者17人が入ったまま、職員が24時間以上も施錠を続けた。
大村センターでは、2019年6月ハンストが原因で40代のナイジェリア人男性が一人亡くなった。入管施設内で、タバコを忍び込ませたり、タバコ1本5000円で売買されている。
非正規滞在者の大部分を占める不法残留者は29万800人ほど(1993年)にピークを迎えたあとは減少傾向。2004年には、21万9000人となった。
入管当局は、2009年以降、在特許可の厳格化に方針転換する。2004年に1万3239人だった在特許可人数は、2018年にはわずか137人になった。
コロナ禍の前、2019年の訪日外国人は3188万人だった。在留外国人は283万人。過去最高を記録した。入管当局は、「広範な裁量権」にこだわってきた。強大な権限を手放したくないのだ。
日本の難民認定は1%未満。これは、実際には受け入れたくないというホンネを反映したもの。難民申請者は、2010年の1202人が2015年に7586人となり、2017年には2万人近くへ16倍となった。日本の難民認定率はG7諸国に比べて格段に低い。日本の認定者は42人、人口10万人あたりわずか0.03人。ドイツ68人、カナダ46人、フランス45人、イギリス18人、アメリカとイタリアは11人。
裁判で、裁判所は国の主張を一貫して追認している。全国で926件の提訴があるなかで(1977~2018年)、地裁で勝訴したのが69件、高裁の勝訴は31件。
日本で入管職員は名札をつけていない。番号札をつけている。日本では、名前をなくすことで、組織の一部になって、責任を負う立場だと自覚しなくなる。大変勉強になる本でした。
(2020年10月刊。税込1034円)

キネマの神様

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 原田 マハ 、 出版 文春文庫
いやあ、うまいですね、しびれます。著者のストーリー展開の見事さにはまいってしまいます。映画好きの私には、たまらない本でした。
この冬に山田洋次監督によって映画化されるというので、あわてて読みました。なんと、2011年に初版が出ていて、すでに32刷なのですね(2020年2月)。申し訳ないことに、この本の存在自体を知りませんでした。
解説を片桐はいりが書いています。大変失礼ながら、私はその名前を聞いたこともありません。「キネマ旬報」に映画(館)にまつわる話のあれこれを書いている人のようですね。
それはともかく、「三度の飯の次くらいに映画が好きな映画ファン」というほどではありませんが、私も月に一度は映画館で映画を見たいと思って、それを励行しようとがんばっています。なので、映画案内を見逃すことはしません。
この本に出てくる銀座和光ウラの「シネスイッチ銀座」というのは、私も上京したときによく行く、小さな映画館です。「ニュー・シネマ・パラダイス」を単館で公開した映画館だったというのですが、私はこの素晴らしい映画をどこでみたのか、残念なことに覚えていません。
著者の父親が映画をずっとみていて、その短評を自分のノートに書きつづっていた。それをブログにあげ、好評だったので、英語にしたところ、意外な反応があった。しかも、アメリカのプロ級の映画評論家からの反応があり、父親との丁々発止が世界の映画ファンから注視されるまでになった…。
ここでは紹介しませんが、そこに展開される映画評の奥深さは、ひょっとして、これって小説ではなくて、実話なんじゃないの…、そう思わせるほど真に迫っています。著者の作家としての力量のすごさは完全に脱帽です。
それにしても、映画って、いいですよね。私は読書しても本の世界に没入できるのですが、映画は本とは違って、視覚的に、また暗い映画館のなかで明るいスクリーンと一対一で対峙していて、体験として心の中に残っていく深さがあります。
いやあ、いい本でした。ぜひぜひ映画をみてみたいです。山田監督、よろしくお願いします。今から楽しみ、ワクワクしています。
(2020年2月刊。税込748円)

ロッキード

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 真山 仁 、 出版 文芸春秋
1976(昭和51)年7月27日、田中角栄は迎えに来た東京地検特捜部の松田昇検事とともに車に乗り込み東京地検に出頭した。午前7時27分のこと。弁護士3年生の私は、この日、たまたま東京地裁に裁判があって行ったところ、東京地検前は黒山の人だかりでした。角栄逮捕後まもなくのタイミングで通りかかったというわけです。田中角栄を連行した松田検事は横浜修習のときの修習指導担当検事でした。
580頁もある部厚い、この本は角栄逮捕に疑問を投げかけています。ロッキード事件において、田中角栄は、本当に有罪だったのだろうか…、という疑問です。
田中角栄がアメリカの事前了解をとらずに日中国交を回復したのがアメリカ政府の逆鱗に触れたからという説が有力ですが、本当にそうなのかということです。
キッシンジャー国務長官が田中角栄を「嘘つき」だとして嫌っていたのは事実のようですが、もともとアメリカ政府の高官は、みんな、日本と日本人を属国、言いなりになる連中だと軽蔑していたわけです(残念ながら、今もです…)ので、本当にそれが理由になるものかというのは、再考の余地がありそうです。
ロッキード事件の丸紅ルートを担当した元最高裁判事(園部逸夫)は、「フワフワと現れて、フワフワと消え去った事件」だったと語った。田中角栄にまつわる被疑(告)事実は、信じられないほど、曖昧だったという。いやあ、本当にそうなんでしょうか…。
アメリカのロッキード社は自社機の売り込みのために総額30億円の賄賂(わいろ)を日本政府高官にばらまいた。そのうちの5億円を田中角栄はロッキード社の代理人である丸紅(商社)から受けとった。賄賂の金額の単位は「ピーナツ」と書かれていて、日本法にない「嘱託尋問」がアメリカで行われて有罪認定の「証拠」になるなど、異例の展開だった。
日本側の捜査に、アメリカは、司法省、SEC、そしてFBIまで、とても協力的だった。これがアメリカ側の意図をいろいろ推認させることにもなったわけです。
キッシンジャーも、田中角栄をはじめから嫌っていたのではなく、当初は、使い勝手が良い人間だとみていた。
田中角栄は日中国交回復を実現したが、熱心な中国シンパだったわけではない。
しかし、日本が独断専行したこと、これがアメリカ、キッシンジャーには許せなかった。日本は、いかなるときでも、アメリカの方針に服従(盲従)すべき存在なのだ…。キッシンジャーは怒った。
この本において、5億円というのは、角栄にとっては「はした金」でしかなかったというのが、大きな意味をもって書かれています。ええっ、5億円が「はした金」なんですか…、声も出ませんよね。
「バカッ!オレがそんなもの(5億円の賄賂)をもらうとでも思うのか。なんで一国の総理大臣が、そんな外国(アメリカ)の一私企業のために、お金をもらわなければいかんのだ」
角栄は本気で怒っていたという。5億円というのは、経団連がもってきた「総理就任祝い」でしかない。
「総理大臣の仕事は、絶対に戦争をしない、国民を飢えさせてはいけない、これに尽きる。それ以外は、些末(さまつ)なこと」
これが角栄の口癖だった。いやあ、これは立派です。アベやらスガに呑み込ませ、言わせてやりたいセリフですよね…。
5億円を角栄は4回に分けて、現金で受けとったというが、それは奇妙だ、信じられないという提起があります。でも、まあ、弁護士である私は、ちょっとおかしいけれど、完全否定の根拠としては乏しいとしか言いようがありません。世の中は不可解なことだらけなのですから…。
この本は、民間機の導入により、軍用機の売り込みのほうが本命だったのではないかと指摘しています。さもありなんですよね。P-3C、F35、ともかく、とんでもない「金喰い虫」を日本はアメリカから次々に買わされているのです。そちらで巨額のお金が動いているのは事実でしょう。そんな軍事予算偏重なので、福祉・教育予算は削られる一方なんです。この軍事予算の黒い疑惑を日本のマスコミは、ほとんどメスを入れ、報道することがありません。残念です。
ロッキード事件の陰にかくれてしまった重大なことがあるという著者の指摘は、今なお莫大な軍事予算がアメリカがらみで増大中でもあり、大いに共感できます。
(2020年2月刊。税込2475円)

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