法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 社会

波浮の港

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 秋廣 道郎 、 出版 花伝社
著者は東京の弁護士ですが、伊豆大島の出身。波浮(はぶ)の港に生まれ、中学校を卒業するまで波浮の村で生活しています。その子ども時代の生活がゆったりと描かれていて、読む人の心をなごませてくれます。
高校からは都内の名門校である日比谷高校に入り、東大法学部を卒業して衆議院法制局に入ったあと弁護士に転じたのでした。私とは同期で、横浜で一緒に実務を修習しました。器械体操をしていたというので、運動能力は抜群で、修習生同志でボーリング場に行くと、いつも目ざましい高得点をあげていたのが印象的です。
生家は牛乳屋で、著者も牛乳配達の仕事をしていました。もっとも父親は著者が5歳のときに病死していて、長兄が父親代わりでした。
父親は早稲田大学法学部を卒業し、戦前は中国に渡って満鉄に入社し、戦前のうちに帰国して、戦時中は波浮の村長もしていたようです。
この本が面白いのは、著者がガキ大将として、2人の子分ともども遊びまわり、ときに悪さをしていたことが、手にとるように分かるところにあります。著者の温かい人柄がにじみ出た文章なので、読んでいると、子分の六ちゃんと史郎ちゃんとあわせて三人とも、いかにも愛すべきガキどもだったことがよくよくイメージできます。
伊豆大島の夏、そして春。子どもたちが嬉々として遊び呆けます。貝や魚をとって、磯の岩場で焼いて食べるのです。そして、春になると出てくる「ほんちゃん」というクモをケンカさせて遊びます。マッチの空箱に入れて飼い、そのお尻をなでると黒くなるのが面白いのでした。
小学校も中学校も1学年1クラス。9年間も一緒だと、みんなまる見え。
教師の紹介もなつかしさを感じさせます。昔の教師はゆとりがあったのでした。
著者の家族は波浮の港の開港者である秋廣平六(へいろく)の家柄であり、父親が村長もつとめていたので、ダンナゲー(旦那の家)として地域から尊敬されていました。それでも、お米は島外からの輸入品で貴重品なので、サツマイモを常食としていた(そのためおならが教室でオンパレードになっていたという愉快なエピソードが紹介されています)。そんな著者の家に傘がなく雨合羽もなかったというのです。
著者は小学2年生のとき、肋膜炎にかかって長く学校を休んで、孤独との戦いで想像力を豊かにした。それが結果的に幸いしたようです。また、九死に一生を得る経験を何度もしています。
この本で圧巻なのは、著者の両親が結婚する前にやりとりしていた100通をこえる恋文(ラブレター)の一部が紹介されているところです。そのころの両親の写真は、いずれも、まさしく美男・美女です。著者は父親似だと私は思いました。
秋廣平六は、上総国(かずさのくに。今の君津市)出身で、江戸時代末期に幕府の許可を得て、1千両近くの経費(今の10億円か…)で波浮港を掘削して、開港した。いま巨人軍で活躍している秋広優人選手も「秋廣平六」の末裔(まつえい)とのこと。
2010年の初版を改定増補した新版です。贈呈、ありがとうございました。著者の引き続きのご健勝を心より祈念します。
(2021年5月刊。税込1870円)

ストップ!! 国政の私物化

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 阪口 徳雄 ほか 、 出版 あけび書房
アベ前首相の国政私物化はひどいものでした。森友学園、加計学園、桜を見る会、アベノマスク…。どれもこれも刑事事件とすべきレベルのひどさですが、われらが東京地検特捜部は期待を裏切り続けてしまい、どれもこれも犯罪として立件することはありませんでした。情けない限りです。国家の不正を弾劾するという検察魂(たましい)をどこかに忘れてしまったようです。悲しいです。トホホ…。
そして、スガ首相。スガの息子が登場する総務省幹部の接待、これも見過ごせないレベルなのに、「私人」なので息子の国会証言はなし。あのカゴイケ氏も私人だったんですけどね…。
文部科学省のトップ・事務次官をつとめた前川喜平氏の告発の内容を知ると、うひゃあ、ひどい、ひどすぎると思わず怒りというより溜め息がもれてきました。
スガ首相が訪米したとき並んでいたのは和泉洋人、北村滋、もう一人でしたよね。和泉洋人というのはコネクティングルームで不倫報道されたりした話題の人間ですが、かなり悪知恵が働くようです。
文部科学省の事務次官の藤原誠は、本命でもダークホースでもなく、次官レースから脱落したはずなのに、スガに気に入られて、もう事務次官を2年もつとめている。問題は、その手法。定年延長をわざわざ2回もしていたというのです。検察庁法のときの黒川弘務については失敗したやり方が文科省では、先にこっそりやられていたというのです。ひどい話です。
「なんでも官邸団」というコトバが出てきます。霞が関は、いまや何でも首相官邸の言うことを聞く官僚ばかりになっているというのです。「ご無理、ごもっとも。無理が通れば、道理が引っ込む」。これでは官僚の世界はガタガタです。ホコリも何も、あったものではないでしょう…。
人事院総裁の一宮なほみもひどかったですね。私と同期の元裁判官ですが、恥ずかしげもなく、黒川氏の定年延長問題でアベ首相におスミつきを与えてしまいました。「恥」というものを忘れてしまった、つまらない人間になり下がったとしか言いようがありません。残念です…。
いま、スガ首相の下に、加藤官房長官がいますが、前川氏は、首相もスガ、官房長官もスガ、「スガスガ政権」になっている。ちっともすがすがしくないけれど…と、最大級の皮肉を投げつけています。まったくもって同感です。忘れてはいけないことが盛りだくさんの本でした。
(2021年4月刊。税込1760円)
 日曜日、孫たちと一緒に庭でジャガイモ堀りをしました。大小さまざまのジャガイモが土の中から次々に出てきて、孫たちは大喜びでした。そばで見ていて、私までうれしくなりました。ジャガイモは失敗がありません(サツマイモは失敗します)。
 タマネギのほうも、すぐ脇に5本ほど収穫できました。新ジャガ、新タマネギをしばらく味わうことができます。

愛をばらまけ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上村 真也 、 出版 筑摩書房
大阪は西成(にしなり)区の釜ヶ崎にある小さなキリスト教の教会(メダデ教会)の牧師(西田好子さん、68歳)と信者たちの苦闘の日々が紹介されている本です。
西田牧師は、学校の教師を辞めて、関西学院大学(関学)で神業を勉強して牧師になり、60歳から西成で牧師として活動している。
釜ヶ崎は、かつては「労働者の街」だった。東京・山谷(さんや)、横浜・寿(ことぶき)町をしのぐ日本最大のドヤ街(簡易宿泊街)として、日本経済を下支えした。暴動もたびたび起きた。ところが、長引く不況と高齢化によって、今では「福祉の街」に変容した。住民2万人の4割超が生活保護を受給している。
メダデ協会のメダデって、聞き慣れない言葉だが、旧約聖書に出てくる人物の名前。ヘブライ語で「愛があふれる」という意味。
西田牧師は、野宿者に声をかけて信者を増やしていった。ところが、トラブル勃発。ケンカをふっかける者、暴れる者、酒やギャンブルにおぼれる者、ついには教会のお金を持ち逃げする者まで…。
西田牧師は、キリスト教の伝道とあわせて、福祉制度や酒・薬物依存症への対処法を学んだ。信徒と一緒に寝泊まりし、特売品を買い、病院に付き添い、働き口を探す。
24時間、365日、生活のすべてを教会にささげる。
釜ヶ崎での生活保護は野宿者も受給しやすくなった。
20人ほどの信徒は全員が生活保護を受けている。家賃などを差し引いて生活費に回せるのは月6万円。酒やパチンコ・外食にまわして散財したら、たちまち生活に窮する。
西田牧師は、聖人君子や聖母のイメージではない。本人も、派手な性格で誤解されやすいと言う。それでも離婚しながら、二人の息子を立派に育て上げている。失敗、失敗の人生と西田牧師本人は言うけれど、これも本人が選んだ人生なので、悔いはなさそう。
徘徊を繰り返す認知症の信徒、暴れる薬物依存症者、寝たきり患者の信徒…、20人の信徒に正面から向きあう西田牧師…。
「メダデ教会は、毎日が綱渡り。今日一日が無事に終わるのは奇跡やねん」
この本を読むと、まさしくその「奇跡」の連続のなかで、よくも心と身体の平穏がたもてるものだと驚嘆するばかりです。ナニワのおばちゃんって、すごいもんやなあ、とつい慣れない関西弁が口から出てきました。
こんな人もいるのか、ほなら、わたしも、もう少しがんばりまひょか…。
そんな気分にさせる本でした。読売新聞の大阪版で連載されて大反響を呼んだ記事が一冊の本にまとめられたものです。
(2020年11月刊。税込1540円)

マナーはいらない

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 三浦 しをん 、 出版 集英社
小説の書きかた講座の本です。著者の体験にもとづいていますので、なるほどなるほど、ふむふむと思いながら読みすすめました。
私は『舟を編む』くらいしか著者の本は読んでいませんが、辞書をつくりあげていく世界が実感をもって伝わってくるいい本でした。
推敲が行き届いていない原稿は、草ボーボーの庭みたいなもの。
まったくそのとおりだと私も思います。そんな原稿を読まされるほうは辛いものです。ていうか、すぐに放り投げてしまいます。
推敲は、小説を読むひとのため、そして作者である自分自身の客観性を保つためにも必要。
一人称で書くと、どうしても視野が狭くなりやすく、物語に閉鎖感が出てしまう。それに外見について書きにくい。
そうなんですよね。なので、私も、今ではなるべく三人称で書いています。
では、三人称単一視点と三人称多視点はどうか…。ただ、いずれにしても、この小説は、誰が、誰に向けて語っているのかが難点となる。
うむむ、そこが難問になるのか…。
登場人物のセリフをどう書くか、他の文との組み合わせをどうするか、いつも頭を悩まします。
著者は、電車内で他人の会話に聞き耳を立てたとのこと。それによると、男コトバ、女コトバは、現代の口語表現ではあまり使われていない。会話は決して理路整然とはしていない、ということのようです。まあ、きっとそうでしょう。
私は電車で聞き耳を立てるというより、喫茶店で隣の人たちの会話を聞くともなく聞いています。本当は本を読んだり、書きものに集中したりしたいのですが、面白い会話だと、ついそちらに耳を傾けてしまうのです。なるほど、世の中では、そんなことが起きているのか、とても勉強になります。
ただし、小説内のセリフは、現実の会話よりは大幅に整理整頓されている。というのは、読者が、あまりに「まどろっこしい会話」を嫌がるからです。それはそうですよね。冗長さは嫌われます。
描写は観察が大事。注意深く自他を観察し、目に映ったもの、感じた気持ちを、脳内でなるべく言語化するよう努める。
ううん、これが大事だということはよくよく分かります。でも、それが難しいのです、トホホ…。ここに、私がモノカキから小説家に昇華できない弱点があります。
取材するときにはメモをとらない。そうなんですよね…。
想像力を構成する大きな要素である「言語」を獲得するには、時間がかかるし、経験が必要である。そうなんですよね。私は、まだまだだと自分でも思っています。でも、まあ、あきらめずに、書いていくつもりです…。
(2020年12月刊。税込1760円)

対米従属の構造

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 古関 彰一 、 出版 みすず書房
読みすすめるほどに怒りが湧き立ってくる本です。もちろん、著者に対して、ではありません。日本の為政者と、それを無関心と棄権によって許している多くの国民に対して、です。
有名なアメリカの歴史家ジョン・ダウアーは、日本をアメリカの「属国」とみていた。ワシントンの基本的な戦略および外交政策に反対しないという意味で日本政府は従属的性格を有する。
戦後のアメリカは、植民地主義帝国ではなく、間接支配を特徴とした。親米政権とそれを担うエリート層を大切にする。
日本の領土は、日本政府を通じて、その全土がアメリカの「使用」の対象になっている。
ところが、日本人の多くは、「日本は従属国家だ」と正面切って言われると、抵抗を感じてしまう。そうなんですよね。そして、日頃ブツクサ言うくせに、投票所に足を運ぼうとはしません。
日米安保条約を日本国民の圧倒的多数が支持している。しかし、仮に日米安保がなくなったら、日本はどうなるのだろうと誰も考えない。そもそも、「仮に…」という発想がない。
非常時において、司令官は日本人ではなく、アメリカ人がなる。アメリカ人の司令官が日本軍を指揮するという本質は変わっていない。
朝鮮半島有事の際には、朝鮮戦線での米軍の指揮は米空軍が、日本防衛の指揮は在日アメリカ軍が指揮することになっている。
PKOについて、日本政府は「平和維持活動」と訳している。しかし、本当は「平和維持作戦」とすべきものだ。
平成の30年間は、日本にとって「平成は有事の時代」であった。これは、有事法が雨後の筍(たけのこ)のように誕生した1990年代以降の日本の状況である。
「平成」とは、新自由主義改革のなかで、「公社」の民営化、選挙制度改革、地方自治体の合併、司法制度改革(裁判員裁判、法科大学院)などの大改革がすすんだ時代だ。
そして、1989年に世界トップの座にあった日本の国際競争力は、新自由主義改革と有事法制下の軍事力の強化によって、30年後には30位へと転落した(2019年)。
ここでいう「国際競争力」とは、失業率、社会的結束度合い、腐敗、GDP、教育支出などの指標から算出した結果だ。したがって、平成とは、あらゆる面で「失われた30年」でもあった。
陸上自衛隊には、5方面隊があり、「分割」されていた。ところが、2018年3月に5方面隊すべてを統合する「陸上総隊」が新設され、防衛大臣の直轄となった。そして、この陸上総隊のなかに「日米共同部」が設けられた。それはアメリカ軍のキャンプ座間のなかにある。日米共同部とは対米従属を絵に描いたような組織だ。究極の「従属」形態の一つだ。
ドイツ・イタリアは施設整備費、従業員労務費、光熱水費のすべてをアメリカ軍に負担させている。韓国は光熱水費のみをアメリカ軍に負担させている。ところが、日本は、そのすべてを自らが負担し、アメリカ軍には負担させていない。
そこで、アメリカ軍の駐留経費を負担している額は、ドイツ16億ドル、韓国8億ドル、イタリア4億ドルに対して、日本は44億ドルと突出して高い。日本におけるアメリカ軍の駐留経費の75%は日本が負担している。
教育・福祉予算については、いえ司法予算についても、ひたすら削減を強いている日本政府は、アメリカ軍に対しては、どこまでもゲタの雪で、文句ひとつ言おうともしません。情けないかぎりです。
日本は、他国の追随を許さない、自発的にして傑出した対米従属国家というほかない。ホント、嫌になりますよね…。
日本人の核への無知、無頓着、無関心という指摘がありますが、日本の現実についても同じように言えますよね、残念ながら…。みなさん、ぜひ投票所に足を運んで、きちんと意思表示しましょう。私からの切なるお願いです。
(2020年12月刊。税込3960円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.