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カテゴリー: 社会

京都・花街はこの世の地獄

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 桐貴 清羽 ・ 宮本ぐみ 、 出版 竹書房
 元舞妓が語る、古都の闇というサブタイトルのついたマンガ本です。私も昔に一度だけ舞妓(まいこ)さんの踊りを見学したことがあります。よく覚えていませんが、弁護士グループによる見学コースの1コマでした。私は、どうも「一見(いちげん)さん、お断わり」というのが好きになれません。
 舞妓と芸妓(げいこ)の違いを今回はじめて認識しました。
舞妓は、芸妓になるまでの修業期間にある女性。芸妓がプロで、舞妓はその手前のセミプロ。だいたい15歳から20歳までの女性。芸妓になるためには、舞踊などの芸事をしっかり身につけることが必要。
 もちろん、舞妓にもすぐになれるわけではない。仕込み期間が1年、そして1ヶ月間の見習いを要する。
 舞妓は未成年だけど、客が勧めるお酒を断れるわけにはいかない。舞妓が酔いつぶれても救急車を呼んではいけない。
 お座敷に出ると、そこは客からのセクハラの温床。舞妓は、性的な行動については分からないはずなので、客の下ネタに反応してはいけない。「キョトン」とした態度でやり過ごす。そして、胸や尻を触られても、ひたすら堪えるしかない。
 舞妓は置屋で居場所をなくしたら生きていけない。だから、おかあさんとお姉さんには逆らえない。舞妓が客からもらった御祝儀は、そのままおかあさんに回収される。
舞妓は、コンビニやファーストフードの店に入るのは禁止。ケータイを持つのもダメ。カフェには客と一緒なら入っていい。舞妓は、あくまで「お人形さん」だから。非番のときに出かける私服にも制約がある。
お風呂は昼間に入る。だけど、「5分間厳守」。なので、湯舟には入らず、シャワーが基本。
 髪は2週間に1度、髪結いさんに結ってもらう。髪の毛の油はシャンプーだけでは落ちないから、食器用洗剤を使う。ええっ、そ、そうなんですか…。におい隠しのため、お香をたいておく。芸妓のほうはかつらなので、頭髪の悪臭とは無縁。
 舞妓が客と距離を置くのは、においをさとられないようにするための配慮。いやはや、なんということでしょう…。
花街の実際がこんな世界だとは知りませんでした。知っていたら舞妓になる若い女性なんかいないでしょうね。
(2025年2月刊。1430円)

軍拡国家

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 望月 衣塑子 、 出版 角川新書
 トランプ大統領の言動を見ていると、アメリカの「国益」が何より最優先ですから、日本を本気になってアメリカが守ってくれるなんて、誰も思わないでしょう。なんとなく、アメリカはいざというとき日本を守ってくれると信じこんでいる人が少なくありませんが、ようやく目が覚めた(つつある)というのが今日の日本の状況ではないでしょうか…。
 今では、日本は殺傷能力のある武器(完成品を含む)を輸出することが出来ます。まさしく「武器輸出」三原則に違反するものです。ところが、日本政府は少しでも国民をどうにかごまかそうとして、「武器輸出」と言わないで、まず「防衛装備」といい、しかも「輸出」ではなく「移転」だとするのです。下手な詐欺師です。騙されてはいけませんし、慣れさせられてもいけません。
自衛隊幹部の汚職が相次いで暴露されています。「死の商人」のトップである川崎重工業は、6年間で17億円もの架空取引をしていたというのです。まったくデタラメな軍需産業です。
 この本には、宮沢吉一元首相が、こんなことを言ったことが紹介されています。
 「たとえ何かしらの外貨の黒字をかせげるとしても、わが国は兵器の輸出をして金をかせぐほど落ちぶれてはいない」(1976年5月の国会答弁)
 安保三文書は抑止力になったと言えるのか、中国との緊張関係を高めただけなのではないか…。日本が持とうとしている長距離ミサイルは飛距離が千キロ以上なので、「専守防衛」のルールから大きく逸脱してしまう。本当にそのとおりです。
 日本の軍需予算は、5年間で43兆円、実に1.6倍も増えている。そして、その財源確保のため、3.11福島第一原発の震災復興のための予算の一部を軍事費増につなげようとしている。こんなの許されますか…。
 これまで、日本の防衛産業は、企業にとって大崩れもなければ大きく儲(もう)かることもない。ある意味で力を入れにくい分野だった。それが今、大きく変わったわけです。
 慎重ムードが一転(一変)し、今や岸田・石破特需に沸いているのが防衛産業。そりゃあ、そうでしょう。何のためかというのは置いておいて、ともかく見たこともない巨額の大金が軍需産業にころがり込んでくることになったのですから…。まさしく、日本も「死の商人」を肥え太らせる道を驀進中なのです。
 共産党の山添拓議員の国会質問が本書でたびたび紹介されています。弁護士として鍛えられた質問力もあって、鋭い切れ味の質問が展開されていますので、私も何度か視聴しましたが、胸がすっとするものがありました。
 防衛(軍事)予算は国債でまかなわないという不文律まで完全に崩されています。本当にとんでもないことです。まったく、戦前の失敗を繰り返そうとしています。
日本が今、大軍拡につき進んでいるのに、その危険性をマスコミがなぜ大々的に取りあげて問題にしないのか、同じ記者として著者は厳しく弾劾しています。その原因の一つに、マスコミ大幹部が政権中枢とべったりになっていることを指摘しています。本当に呆れるほどのひどさです。
 でも、私たちはあきらめるわけにはいきません。流れに掉さして声を上げましょう。
(2025年2月刊。900円+税)

被爆80年にあたっての提言

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 日本評論社
 私たちは今、大分分岐点に立っている。原爆を開発したオッペンハイマーは、「我は死神なり。世界の破壊者なり」と言っていた。
 いま、日本の政府は、核兵器に依存して「希望の世界」に進もうという。いったい、政府のいう「希望の世界」って、何なのでしょうか。どんな世界を指しているのでしょうか。フツー「希望の世界」っていったら、戦争のない、その心配も不安もない満ち足りた世界をイメージしますよね。でも、核兵器に依存して迎えるというのですから、お隣には核兵器が厳然として存在するわけです。すると、そこは「敵」に狙われるかもしれません。危険地帯に隣りあわせに生活していることになります。そんなのが「希望の世界」と言えるものでしょうか…。
 著者は、政府のいう「希望の世界」は、「壊滅的な人道上の結末の世界」だと考えています。まったくそのとおりです。「希望」どころではありません。
 今年(2025年)2月、日本の外務大臣(岩屋毅)は3月からニューヨークで開かれた核兵器禁止条約締結国会議への参加をふくめて、しないと表明した。
 これまた信じられませんよね。核兵器なんて、あんな危険なものを、この地球上から一掃しよう。こんな呼びかけがあったら真っ先に駆けつけなければいけないはずの戦争被爆国ニッポンは、この会議に代表団もオブザーバーも送らなかったのです。情けない話です。
 石破首相は、「すべての人が安心と安全を感じ」ることができるようになる(美しい日本)になるために、全力を尽くすと表明しました。しかし、実際は真逆の動きを、石破首相は首相になる前とうって変わって、加速化させています。「美しい日本」にするためには、日米同盟を更なる高みに引き上げる必要があるというのです。
 石破首相はワシントンに飛んでいって、トランプ大統領と固い握手をして日本に帰ってきました。いったい何を約束させられたのでしょうか…。中国敵視をあらわにし共同声明では中国を名指しで批判しています。
 最近の中国の行動は以前に比べて、いかにも乱暴です。でもでも、中国を名指しで非難したというのは、日本とアメリカは、中国を挑発したも同然です。
日米両国は、着々と日米同盟の軍事力を強化している。
 2015年の「平和安全法制」とは、日本が攻撃されていなくても、場合によっては自衛隊を派遣できるという制度。
 核兵器にしがみつきながら、「楽しい国」や「希望の世界」を語るというのは、デマをまき散らすのと同じことだ。まったく、そのとおりです。
現在、地球上に1万2千発もの核弾頭が存在し、そのうち4千発は即座に発射可能な状態で配備されている。
 ロシアは核超大国であり、ウクライナ戦争で核攻撃の可能性に言及すると威嚇している。そして、イスラエルがガザ地区に執拗な攻撃を続けるなかで、核兵器の使用を口にするイスラエル政府の閣僚がいる。
 核を使ってはいけないという「核のタブー」が壊されようとしていることに、田中熙巳さんは限りない悔しさと憤りを覚えています。
 日本被団協がノーベル平和賞を受賞したときの記念スピーチにおいて、代表委員の田中熙巳氏は、原爆の犠牲者に対する日本政府による保証が不十分なことを二度くり返しました。これは予定原稿にはなかったことなので、大いに注目されました。田中氏は、「国家補償の問題が他の国にも共通の課題になっているから」と説明しました。本当に、そのとおりです。
 今や、人類滅亡の終末時計は残り89秒とされています。安穏(あんのん)と浮かれてメタンガスをかかえ、カジノの露払いのための関西万博を見物に行く余裕はないのです。
3.11で「フクイチ」(福島第一原発)が大爆発したとき、東日本一帯は放射線で汚染される危機一発でした。原発は「パーフェクトな危険」なのです。
ウクライナにあるザボリージャ原発はロシア軍によって制圧された。原発への攻撃は禁止されていない。いやはや、これって本当に恐ろしいことですよね。原発にミサイルが打ち込まれたら、3.11と違って、補修班が原子炉に近づけるはずもありません。
 今、私たちは、原発と核兵器という、二つの核エネルギーを利用する道具によって、生存を脅かされている。核兵器は、人類が自滅する手段である。
 日本の投票率の低さは、思わず恥ずかしさで顔を覆いたくなるほどひどい。有権者は政治への関心を弱めている。そして、政治なんか、どうしたって変わらないと絶望している。あきらめてしまったら、それこそ支配層の思うがままなのですけどね…。
 私はあきらめません。なんといったって、国も地方も変革できるし、変革しなければいけません。嘆いているヒマなんて、ないのです。
1980年代のピーク時には、7万発の核弾頭があったのが、今では1万2千発にまで減っている。やれば出来るのです。あきらめて死を待つわけにはいきません。
 なにより、この80年間近く、核兵器が実戦で使用されたことはない。これを単に運が良かったと考えることなく、意識的な核廃絶の取り組みにしなければいけません。
 「日本は正しいことを、ほかの国より先に行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません」(文部省「憲法のはなし」)
 あきらめることなく、核廃絶に向かって声をあげましょう。
 核兵器と原発をめぐる問題点を考えるときに、頭を整理し、資料として活用できる本です。著者の一層のご活躍を祈念します。いつも本を贈っていただき、ありがとうございます。
(2025年5月刊。1870円)

潤日(ルンリィー)

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 舛友 雄大 、 出版 東洋経済新報社
 「潤」(ルン)は最近、中国で流行っている言葉。より良い暮らしを求めて中国を脱出する人々のこと。2018年に初めてあらわれ、2022年から本格的に流行っている。もとは、激化する競争や就職戦線などで不安に駆られた若者が局面打開を目指して海外を志向する動きだった。
 15億人いる中国人のうち、年収12万人民元超の人が1億人いて、その中でも1000万人が情報封鎖を突破して外部ネットワークにアクセスする条件を備えている。さらに、そこから特権階級200万人を除いた800万人が潜在的な「潤」。ともかく、中国の話はスケールが大きくて、圧倒されてしまいます。
中国の資産家階級の中国脱出は加速している。最近の5年間だけで6万人近くの中国人富裕層が海外に流出したとみられる。
潤日は、1980年代から日本にやってきた新華僑とは少し異なる。新華僑はサバイバルだった。潤日は、自由で豊かな生活を享受しにきた人々。新華僑は政治に無関心だけど、潤日は、今の中国政府に対して多少ないとも不満をもっている。
 日本(東京)の千代田区、江東区あたりのタワマン(タワーマンション)は3億円で買えるけれど、北京ではそれではマンションは買えない。タワマンによっては、中国人の比率が2割から3割になっている。タワマンは投資目的でも買われている。そのときは、10~20戸のマンションを3~5億円で買う。
 大阪のタワマンのほうが1億5千万円で買えたり、東京より安いので人気がある。
 潤日の人々の目的の一つは、子どもに対する良質な教育環境。日本のインタースクールに中国人の子どもがどんどん増えている。中国の学費は高くて(500万円ほど)、日本はそれよりも安い(230万円ほど)。半額以下。北京大学のような中国の難関大学よりも日本の東大に入るほうがずっと簡単。
中国から日本に現金をもち込むのは規制があるので、地下銀行が活躍している。年間数百億円規模と見られている。
 経営・管理ビザを持って来日する中国人が増加している。3千人だったのが今や1万人をこす。永住者として日本に滞在する中国人は24万人(2017年)から32万人(2023年)に増えた。ビザの更新が不要で、就労上の制限がなく、住宅ローンの仮入が容易になる。
 ニセコの物件も番港人名義で買っているけれど、その裏に大陸の中国人がいるケースが多い。世の中がどんどん動いていっているようです。ついていくのも大変ですね…。
(2025年4月刊。1800円+税)

国税一家

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉岡 正範 、 出版 中央公論事業出版
 47年間、税務署で働き、また労働組合(全国労働組合)で活動してきた体験を踏まえて税務署の実態を歴史の返還とともに明らかにしています。サブタイトルにはノンキャリア集団の希望と葛藤です。
ひと握りのキャリア組はまったく違ったコースを歩みます。たとえば、キャリア組は、20代で税務署長になります。普通科採用だと1級からスタートするのに、キャリアは3級から始まり、税務署長は8級以上にならないと就けません。なので、普通科だと署長になるのは同期のうち1割ほど。ところが、キャリアは経験5年3ヶ月ほどで税務署長になれる。なぜなのか…。まだ、4級か5級のはずなのに…。全国税が追及すると、署長に欠員があれば補充できるから、という驚くべき回答を当局はした。どう考えてもおかしいですよね、これって…。そんなに都合よく「欠員」が出るものでしょうか。
 私の住む町にも40年ほど前のことですが、キャリア組の20代の署長が赴任したことがあります。私の記憶では1人ではなかったと思います。そのころは、まだ、天下の「三井」が君臨していたことに関係しています。署長は上流社会との交際そして人脈づくりを学ぶのです。東京でも、有力な上流階級の住む地域の署長にキャリア組は就任していました。
まだ、ろくに仕事も出来ない「若造」が署長になるというのは、「他の仕事は大変すぎてうまくいかないので、署長ならメリットは多いけれど実害は少ないからだ」という当局側の本音が紹介されています。なるほど、と思いました。
 警察署長もそうですが、税務署長は辞めるとき、常識をはるかに超える餞別をもらうようです。狙撃されて瀕死の重傷を負った國松考二警察庁長官は、何億円もする超高級マンションに住んでいましたよね。これも、正規の給料だけではとても買えないものだと私は勘繰っています。
この本には東京で今も元気に活躍している金井清吉弁護士が登場します。私と同期で、一緒に青法協の活動もしていた仲間です。税務大学校普通科卒業のようです。金井弁護士は若いときに最高裁の刑事事件を国選弁護人として担当し、破棄差戻し・無罪判決を獲得しました。これは高く評価されています。
 1970年代ころの税務署は、昼休みにはキャッチボールしたりコーラスしたり、生け花サークルがあったり、また、みんなで楽しむレクレーション活動があったりした。飲み会もひんぱんだった。それは1980年代まであったが、そのあとはなくなった。そして世代交代して若い人がどっと入署し、また、署内の処理システムが変わった。
 署内のノルマ達成のための尻叩きは前からあり、そのため納税者の知らないうちの修正申告書の偽造も頻発した。また、税務署OB税理士による巨額の脱税事件も発生した。
 現場で苦労していても、上部への報告は「万事順調」という内容のものが横行し、上部は真相を見誤ることがあった。
現場の署員にメンタルを病み、長期の病気休職も増えている。
 晴れ晴れとした気持ちで退職の日を迎える者ばかりではない。
 実は、私は40歳になる前、アパート住まいから一戸建ての広い庭つきのマイホームを建てて生活をはじめたとたんに税務調査を受けたことがあります。弁護士生活50年になりますが、調査を受けたのはこの1回のみです。このときの顛末を刻明に記録して小説風の本に仕立てあげました(『税務署なんか怖くない』花伝社)。私の本のなかで最高8千部を完売しました。
このとき私は、つくづく税務署とはえげつないことを平気でする役所だと実感しました。まず超大企業の脱税は見逃します。ボロもうけしていたサラ金大手会社には税務署OBが顧問で入って、税務署と裏取引します。
税務署の総務課の仕事の一つが、退職者を中小企業に顧問税理士として斡旋することなのです。それも1人や2人ではないこともあります。これを2階建て、3階建てというのです。
 ついつい昔の税務署の理不尽な仕打ちへの怒りがムラムラとよみがえってきました。
(2024年11月刊。1540円)

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