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カテゴリー: 社会

消えた四島返還

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 北海道新聞社 、 出版 北海道新聞社
北方領土4島の返還要求が、いつのまにか2島だけとなり、それも失敗してしまったという、安倍前首相のあまりにもみっともない失敗を明らかにした本です。
北方四島は、1855年の日露通好条約で日本領と定められ、その20年後の1875年の樺太・千島交換条約、さらに30年後の1905年の日露戦争終結時のポーツマス条約でも、日本の領土とされた。なので、日本政府は、北方四島は、「我が国固有の領土」と主張してきたのには歴史的根拠がある。
北方四島とは、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島、国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島。「2島返還」は、このうちの歯舞群島と色丹島の2島にしぼるということ。つまり、国後と択捉はあきらめるというのだ。こんな国政上大事なことをアベ首相は国会の承認をとることなくロシア(プーチン大統領)とのあいだですすめていたというのです。そのうえ、この2島返還要求もロシアからはすげなく(問答無用式に)拒絶され、失敗に終わりました。あの安倍前首相は「外交上手」を金看板にしていて、世界中をアッキーや財界中を引き連れて飛びまわっていましたが、結局のところ、外交上の成果は何ひとつあげることができませんでした。
ところが、自分の失敗は完全に棚にあげて、「野党は反対するばかり」、「対案を出すこともない」などと開き直り、マスコミの大部分もその尻馬に乗るばかりで、安倍外交の失敗を失敗として報道することがありませんでした。こんなみじめな自民党を、「なんとなくがんばっているようだから…」と支援する人には、ぜひ本書を読んでほしいものです。
安倍前首相は「北方四島の返還」と言わず、「北方領土問題」と言い替えた。それは、「四島返還」を求めないことを意味していた。「四島返還」をやめて「2島」に転換することを進言したのは新党大地代表の鈴木宗男議員。安倍前首相は、外務省幹部をはずして、最側近の今井尚哉秘書官、北村滋内閣情報官とだけ相談して、ことをすすめた。菅(すが)官房長官もカヤの外においた。
そして、河野太郎外務大臣は、記者からの質問に答えなかった。この河野太郎の質問回答拒否は政治家としてひどすぎます。政治家の資格はありません。
日本敗戦時(1945年)に北方四島には1万7千人の日本人が暮らしていた。その人々のうち存命の人は6千人もいない。
1945年からすでに76年が過ぎようとしている。1855年の日露通好条約で北方四島が日本領と定められてからソ連侵攻の1941年までの90年と比べて、このままではロシア支配下のほうが長くなりそうな状況にある。
北方四島への墓参が実現しているが、これはビザなしなので、勝手な自由行動はまったく許されていない。
いま、北方四島には色丹島だけでも3千人のロシア人が居住し、新式の水産加工場が建設されていて、ロシアはまったく返還する意思がない。
プーチン大統領は、安倍前首相との会談のたびに大幅に遅刻し、一切の言質(げんち)を与えないどころか、ロシアの憲法に領土返還を許さないことを描き込もうとしている。
あれだけ全世界をかけ巡って、莫大な税金をつかったのに、どれひとつとして成果をあげることのできなかった自民党政権を許す一方で、対案のない野党はダメだとか、野党に政権担当能力はないとばかり言いたてるマスコミには、本当に呆れてしまいます。もういいかげん、こんな自民党政治ではダメだと意思表示すべきではありませんか…。この本を読んで、私は、つくづくそう思いました。
(2021年9月刊。税込1980円)

富岳、世界4冠、スパコンが日本を救う

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日経クロステック 、 出版 日経BP
日本の誇るスーパーコンピューター富岳が2020年に世界一になった。しかも、4つのランキングすべてで世界一。しかも、圧倒的な一位。
スパコンの核となるプロセッサを開発する技術をもっている国は、アメリカと日本そして中国の3ヶ国のみ。ところが、このスパコン富岳で数億年かかる計算をわずか数分で解いてしまうのが量子コンピューター。
ここまでくると、何のこっちゃら、とんと理解不能な、雲の彼方の話になってしまいます。
コンピューターには、まるで縁のない生活をしている私ですが、なんか分かるところはないかと思って読みすすめました。
富岳というのは富士山の異名。高性能であって省電力。そして高い信頼性と使いやすさ。スパコン開発では常にトップグループにいなければダメ。2番手グループは、トップグループの誰かの背中を見てまねる。比較的簡単なこと。だけど、まねなので、技術はすべてトップグループのもの。それでは、波及効果は期待できない。自分たちの技術ではないから。これには、なるほど、なーるほど、と思いました。
以前のスパコン京は、売れなかった。これは失敗だった。うむうむ、そうですよね…。
世界最速(2019年)のスパコンの米IBMのスミットを使って1万年かかる計算をわずか200秒で解いたのが量子コンピューター。
量子は波のような存在で、0か1か、単純には決められない。それどころか、同時に両方でありうる。これを「量子重ね合わせ」という。量子コンピューターで計算が劇的に速くなるのは、この「量子重ね合わせ」の原理による。
まったくの門外漢である私がスパコン紹介の本を紹介してみました。
(2021年3月刊。税込1980円)

世界一孤独な日本のオジサン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岡本 純子 、 出版 角川新書
日本は高齢者が世界一不幸な国だ。多くの国で、人の幸福度は50代で底を打ち、また上がっていく傾向を示している。ところが、先進国の中で、日本だけ右肩下がりに落ち続け、年をとればとるほど不幸に感じる人が増えていく。物質的に恵まれているはずの日本では、絶望的なほどの「不幸感」で覆いつくされている。
福岡の若者が大勢の人を殺して死刑になろうと思って上京し、電車の中で火をつけ、刃物を振りまわす事件を起こしたと思ったら、69歳の男性がそれを真似て九州新幹線の中で火をつけた事件が起きました。この日本社会に満たされない思いをかかえている中高年が多いことを象徴している事件です。
企業の相談窓口に不当なクレームをつける人(クレーマー)は、自らが品質管理・保証を専門にして、クレーム処理をやってきた中高年が多いとのこと。いやはや、なんということでしょう。
生活保護を受ける人を馬鹿にして切り捨てる発言を繰り返した維新の会の議員がいましたが、維新のコアな支持者は、タワマンに住むような、自らの努力だけで成功したと思っている「高収入・男性・管理職」に多いという分析があります。弱者切り捨てをあおりたてて面白がっている人は、いずれ年齢(とし)をとって身体が動かなくなって自分も弱者になるということを想像することができません。いつまでも、他人(ひと)に頼らず生きていけるという幻想に浸って日々を過ごしているのです。そんな人だって、退職して会社を離れたら、客観的には、たちまちみじめな境遇に陥ってしまうでしょう。仕事を失うと同時に生きがいを失い、そして、頼るべき友人がほとんどいない状況に置かれるのです。それで、クレーマー化し、またネットで炎上に参入して騒ぎたてるしか能がないことになります。哀れです。
日本を代表する証券会社でバリバリやっていた社員が退職して仕事をしなくなると、65%は70歳に届かないうちに亡くなっている。
都会の孤独は実に残酷。閉め切ってしまうと、何の音もしない。今や、高級マンションでの孤独死も少なくないというのが日本の現実。
孤独は、ありとあらゆる病気を引き起こす可能性のあるもっとも危険なリスクファクター。この孤独の犠牲者になりやすいのが、中高年の男性。
孤独のリスクは、①1日にたばこ15本を吸うことに匹敵する、②アルコール依存症であることに匹敵する、③運動をしないことよりも高い、④肥満より2倍も高い。
社会的なつながりを持つ人は、持たない人に比べて、早期死亡リスクが50%低下する。
多くの日本人男性にとって、職場を失うということは、人の根源的要求である、人として認められたい、必要とされたいという承認欲求を満たす場がなくなるとを意味する。
定年を迎えたら、プライドと驕(おご)り、そして肩書きを徹底的に捨てる必要がある。しかし、これはきわめて難しい。
競争心が強く、バリバリと仕事をして、出世していく「オレ様系」オジサンは、他人の話をあまり聞かない。話が長く、対話のない一方的な話をする。
女性は1日平均2万語を話すのに、男性は7000語しか話さない。女性は男性の3倍しゃべっている。
弁護士は定年がありませんので、いつまでも仕事ができるのは大変な長所です。しかし、仕事だけでない趣味をもって、人とのつながりをもつ必要があるわけですが、それには意識的、自覚的な努力が強く求められているということです。これって、言うのは簡単ですが、実行するのはなかなか難しいことですよね…。
(2021年4月刊。税込902円)

原子力村中枢部での体験から

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 北村 俊郎 、 出版 かもがわ出版
この本のタイトルは、正しくは「原子力村中枢部での体験から10年の葛藤で掴んだ事故原因」です。著者は1949年生まれで、慶応大学経済学部を卒業して日本原子力発電に入社し、現場勤務そして、管理業務に従事した。そして、20年前に福島県の浜通りに終(つい)の棲家(すみか)をもった。3.11のあと、富岡町の自宅は今も避難解除されていないので、県内で避難生活している。
著者は安全神話に埋没していたわけではないが、やはり甘かった。組織内から、もっと切迫感のある警報を鳴らすべきだったと悔やんでいます。
国も東京電力も、3.11事故前に、海外の原発での全交流電源喪失の事例を知っていたし、大津波に襲われたときには重要設備が水没することも認識していた。
しかし、東京電力の経営陣は、現実性をもって感じられない大津波の襲来よりも、直面している経営士の問題を解決するほうが大切だと判断した。これは今考えると、まったく合理的ではなかった。
3.11事故より前10年間、日本の原発は、欧米そして韓国などトップクラス国の原発と比較して稼働率で10から20ポイントも水を開けられていた。これに追いつくことが関係者共通の悲願だった。
形式主義は、常に原子力の安全を脅かした。たとえば、日本人は、実際安全より心の平和・安心を求める傾向がある。その一例が、原発を見学する人に日本ではヘルメットを着用させる。ヨーロッパでは意味がないので、ヘルメットの着用はさせない。
原発推進派は、反対派と議論するのはムダで、相手にしないという態度をとった。
原発反対派が裁判にかけると、国と推進派は、追加の安全対策を言い出せない。「安全神話のワナ」に陥った。
東京電力の社員は、自分たちの仕事は管理業務だという意識が強い。実際の仕事は、請負先、委託先がするもの。なので、余計なことは言わないのが、自分の身のため。
電力会社が追加の安全対策をするのは、訴訟において後ろから鉄砲をうたれるようなこと。電力会社は裁判の被告に立たされ、現在の原発の安全性に不十分なところがあるとは、言えない状況に追い込まれた。
これは原発差止裁判に対する批判のような記述ですが、だからといって裁判の提起・追行が間違いだなんいうこととは言ってほしくありません。
ともかく、原発以外のエネルギーに一刻も早く日本も乗り換えるべきなのです。原子力は、人類のコントロールできないものだということが3.11によってはっきりしたのですから…。
(2021年9月刊。税込1980円)

屠畜のお仕事

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 栃木 裕 、 出版 解放出版社
世の中には採食主義者の人も少なくありませんが、私はほとんど毎日、牛肉か豚肉、あるいは鶏肉を食べています。もちろん、年齢(とし)とともに、野菜を食べる量をふやしています。昨晩だって、大好きなギョーザを山盛り食べてしまいました。
その牛肉や豚肉をつくり出しているのが食肉市場に併設されている「屠場(とじょう)」です。著者は、この屠場で長く働いていました。この本は、屠場の仕事の実際を紹介しつつ、肉食の歴史も解説していて、大変勉強になりました。
著者は、食肉動物を「殺す」という言葉から逃げてはいけないと強調しています。「命をいただく」という言葉にいいかえるのは、差別に負けているようで、大嫌いだというのです。「生命をいただく」というとき、素材への感謝もさることながら、それをつくった人たちへの感謝を忘れてはいけないはずだと主張します。その理由は、屠場で働く作業員の実情、その苦労と工夫を具体的に知ると、なるほどと思わされます。
豚も牛も屠場へ運ばれてすぐに屠畜するのではない。前日に到着して、一日は水を与えてゆっくり休ませてからでないと、肉質が落ちるのです。
豚は殺す前に炭酸ガスの充満した麻酔室で昏睡(こんすい)状態にする。ただし、日本の多くの屠場では電気ショックによる麻酔が多い。
牛の場合には、眉間に屠畜銃をあてて撃って気絶させる。
豚の放血から胸割りまでは、清掃をふくめて1頭20秒というスピードで処理する。
食べる豚足は、ほとんどが前足。うしろ足より肉づきが良いから。うしろ足はスープのダシに使う。
豚のお腹を切り開いて、内臓を取り出すまで5~8秒で終わらせる。
いやはや、あっという間の作業なんですね。そのため、心と気力を集力させる必要があります。
一頭の豚をガス麻酔のゴンドラに入れてから、枝肉を洗浄するまで30分間しかかからない。
とてつもない早技です。このとき集中力に欠けると、ケガもします。
豚も牛も、一刻も早く血抜きする必要がある。そのためには心臓のポンプ力を活かす。
「肉まん」と「豚まん」の違いを知りました。関西で「肉」といえば牛肉のことなので、豚肉をつかうときには、「豚」とわざわざ言う必要がある。
ホルモンとは、内臓肉のこと。ホルモンは「放るもん」から来ているという人がいるが、著者は、スタミナのつく料理という意味で、ホルモンと言ったと主張しています。なーるほど、と思いました。
豚は、沖縄のアグー豚や、鹿児島のバークシャー豚を除いて、ほとんど「三元豚」。これは3種の豚のかけあわせでつくられた雑種のこと。
オスの子豚は去勢する。そうしないとオス豚特有の臭いがして、豚肉としての価値が下がってしまう。
牛はメスのほうが肉質がきめ細かくやわらかいので、値段が高い。
牛のエサは、穀物と牧草。牧草だけ与えていると、日本人の好む霜降り肉はできない。そして、アメリカ産のトウモロコシをたくさん与えて脂肪分をつくり出す。
著者は、日本人は昔から肉食していたと主張しています。これまた、なるほど、そうだろうなと私も思います。
牛肉や豚肉を毎日のようにおいしくいただいている身としては、その製造現場の様子知るのは、とても興味と関心がありました。そこでプロとして従事していた著者による解説なので、よくよく理解することができました。肉食派のあなたに一読をおすすめします。
(2021年4月刊。税込1760円)

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