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カテゴリー: 社会

日本インテリジェンス史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小谷 賢 、 出版 中公新書
 公安調査庁という役所があります。かつて、私のいる町にも検察庁の支部庁舎に公安調査官が部屋を構えていました。なぜ知っているかというと、そのころは年2回、三庁対抗ソフトボール大会をしていて、その公安調査官も出場しようとしたからです(出場はしていません)。名簿に載った気がします(うろ覚えです)。聞いて驚いたことを覚えています。
 共産党対策を専門とする役所ですが、共産党が暴力革命を目ざしていないことがはっきりして、盲腸のような存在だとされて、無駄な公金支出はやめろと、廃止論が有力になったとき、それを救ったのがオウム真理教でした。でも、オウム真理教事件の解明に公安調査庁が役に立ったとはとても思えません。
 今、ときどき問題になっているのは自衛隊幹部の情報漏洩事件です。いったい、誰に情報が漏らされているかというと、必ずしもロシア、中国、北朝鮮ということでもないようです。どうやら、軍事ビジネスの企業への情報漏洩らしいです。もちろん、そんなことは公表されていませんから、憶測でしかありません。
 最近では、北村滋という警察庁出身の内閣情報官が突出して有名です。それにしても、アメリカを始めとして多くの国の情報機関がこの北村滋を頼りにして、オーストラリア政府は北村滋の退官後にインテリジェンス功労賞を授与したとのこと。これって、日本の情報をオーストラリアに売り渡していたということではないんでしょうか…。
上が上なら、下も見習いますよね。つい、先日も幹部自衛官が複数名、逮捕されたと報道されました。でも、その背景も本質的問題も何ら続報がなく、明らかにされませんでした。
日弁連も反対した特定秘密保護法が規定されていますが、その運用状況は、まったく秘密のままです。日本政府は何でも秘密、秘密のまま、国民をあらぬ方向(政府の都合のいい方向)にもっていこうとする傾向が昔からとても強く、そのことについてマスコミが牽制的な働きかけをほとんどせずに、権力仰合あるいは追随して、そのうち国民が忘れ去るのを待つ、そして、次の話題に移っていくということが、あまりにも多い気がしてなりません。
安保三文書の意義と問題点を国会で議論することなく岸田首相はアメリカに飛んでいって逐一報告する。統一協会と自民党議員との結びつきを解明することもなく、不十分な立法をしてこの問題が終わったことにしてしまう。許せません。日本学術会議の6名の任命拒否の理由を明らかにすることもなく、この会議自体の抜本的改組を急ぐ。本当に今の自民・公明政権のやっていることは、ひどすぎます。国民に対する説明責任を果たそうとする気持ちがまったく欠如しています。にもかかわらず、NHKを初めとして、マスコミのほとんどはそれを問題としないままです。
日本のインテリジェンスにもっとも欠けているのは、コモンセンス(常識というか良識)ではないでしょうか…。
(2022年8月刊。税込990円)

宮本常一の旅学、観文研の旅人たち

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 福田 晴子 、 出版 八坂書房
 大変面白く、こんな旅をしている(いた)人がいるんだなと、ワクワクしながら一気に読み終えてしまいました。そして、こんな旅行をした人って、勇気があるし、身体も頑丈な人たちなんだろうなと思い、ついついとてもうらやましくなりました。
 旅は貧乏旅行。ホテルでも民宿でもなく、どこかの民家に泊めてもらうのです。それは外国に行っても同じなのです。その土地の人々に受け入れてもらうのです。いやあ、たいしたものです。今は、内戦状態のところも多いし、物騒すぎて、とてもやれないように思えます。残念なことです。
 日本の若者が、世界中にバックパックひとつで旅に出かけていきましたね。今は、どうなのでしょうか…。アメリカに留学しようとする日本人学生も激減したと聞いていますので、バックパッカーも恐らく減ってしまっているのでしょうね、本当に残念です。
 この本の陰の主人公は宮本常一です。日本中の農山漁村を旅して歩いた、あまりに高名な民族学者です。民衆の生活の実際が文章化され、また、写真を撮って視覚化した偉大な学者です。この本の監修者である宮本千晴は、その子どもです。
 宮本常一の父は貴重な心得を息子に申し渡しました。そのいくつかを紹介します。
 時間にゆとりがあったら、できるだけ歩いてみること。お金をもうけるのはそんなに難しくはない。しかし、使うのが難しい。自分で良いと思ったらやってみよ。それで失敗したからといって親は責めはしない。人の見残したものを見るようにせよ。そのなかにいつも大事なものがある。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。
 なかなかいい忠告ですよね、これって…。
 宮本常一は、1000軒にのぼる民家にほぼ無料で泊めてもらった。いやあ、今でも、こんなことできるでしょうか…。ちょっと無理な気がします。
 今もある超大手の旅行会社である近畿日本ツーリストは1966(昭和41)年に宮本常一を所長とする日本観光文化研究所(観文研)を設立した。そして、その機関誌として「あるくみるきく」が発刊された。
 観文研は旅費と宿泊費を負担して、レポートを書かせて載せたのです。そのレポートは2度も3度も添削されました。
 また、探検学校も1971年から1976年まで、全10回開催されました。行先がすごいんです。ボルネオ、ネパール、インドネシアの小スワンダ列島、アフガニスタン、カメルーン、パプワニューギニア、ケニア、台湾、インドです。この参加者は6対4で女性のほうが多かったというのにも驚きます。
 福島県南会津にある「大内宿」は、江戸時代の宿場の姿が今に残るとして有名です。まだ私は行っていませんが、妻籠(つまご)と並んでぜひ行ってみたいところです。その保存に奔走した人(相澤韶男)の話も興味深いです。
 モルディブ島に住み込んだ人(岡村隆)は、仏教遺跡を発見しています。
 20代で405日間世界一周、456日間で六大陸周遊を成し遂げた人(賀曽根隆)がいます。南アフリカではアパルトヘイトに直面しました。
 山に熊を追うマタギの旅にどっぷり浸ったあと、38歳で明治大学の社会人入試を受け、ついに東大の大学院に入って、47歳で卒業して学者になった人(田口洋美)もいます。
 そして、中央アジアにアレキサンダー大王の末裔の人々が住むカラーシャの集落に入りこんだ人(丸山純)の話も衝撃的です。
 宮本常一は、1981(昭和56)年1月末に73歳で亡くなり、1989年に観文研は閉所した。
 1冊の本を読むこと、1人の人間に出会うこと、一度の旅をすること、これらは等しく、まだ知らない世界を見せてくれる。
 旅では、一寸先に何が待ち受けているか分からない。その未知を自分の足先で探りながら、一歩一歩、踏みしめて行く。旅学は、自分で考えて歩む力を育(はぐく)む方法だ。
 それは寄り道だらけかもしれないが、ムダに見える部分は、人間性回復の余地だ。なので、現代社会には旅が効く。
 ガーンと心を打たれた気のする本でした。
(2022年7月刊。税込2970円)

優良中古マンション、不都合な真実

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 伊藤 歩 、 出版 東洋経済新報社
 東京や福岡では、中古マンションの価格が上昇し、20年前の3倍になっているところがある。いやはや、とても信じられません。私の住む町では、値上がりどころではありません。なので、離婚のとき、住宅ローンとの差額が大きすぎて、その支払いをめぐって深刻な争いになります。要するに、借金(住宅ローンとマンションの時価との差額のマイナス部分)の押しつけあいです。
 でも、優良の中古マンションで、老朽化を原因とする漏水事故が起きたら、どうなるか…。
 マンションの給湯管は銅でできていて、曲がったところが劣化すると、ピンホールという針の穴ほどの小さな穴が開き、そこから水が漏れ出し、階下に被害を与えてしまう。
 耐圧漏水テストで圧が落ちたら、100%加害者であることが確定する。
 住戸内の配管は専有部だから、共有部とちがって所有者に管理責任がある。そして、原因が老朽化にあるときの配管修繕の費用に対応できる損害保険はない。
 実は、加害者宅の修繕費用を加害者本人に負担させず、管理組合のかけているマンション総合保険でまかなう商習慣がある。
 漏水事故の95%は上階の給湯管ピンホール事故。そして、この給湯管は100%、専有部内にある。
 給湯管の材質は、2000年までは銅が主流で、それ以降は架橋ポリエチレン製になった。ホテルや病院など、非住宅用はステンレス管になった。穴が開く主要な要因は、水道水に含まれる残留塩素。そして、被膜を破る原因に溶残酸素。
 マンションの管理会社にとって日常の管理業務は労働集約型で、利益が出にくい。しかも、カスタマーハラスメントが横行していて、大変なストレスがかかるため常駐の管理人の人材確保に苦労している。それに比べて、大規模修繕だと、「おいしい」。
 2017年9月14日に確定した最高裁判決によって、一定の条件があれば、マンション管理組合の修繕積立金を専有部分の工事に使用することは違法でないとされている。
 マンションの住人が、ある日突然、漏水事故の「加害者」になった体験にもとづいて調べあげた経過をたどった本です。大変勉強になりました。
(2022年10月刊。税込1650円)

検証・同和行政下の解放運動の光と闇

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 植山 光朗 、 出版 小倉タイムス出版部
 もう40年も前のことです。開業医の妻が相談があるとやってきました。話は、息子の結婚相手が部落出身の娘だと分かったので、やめさせたい、どうしたらやめさせられるか、というのです。私は呆れ、また怒りを覚えました。結婚は当事者の決めること、たとえ親であっても介入してはいけない。ましてや部落出身者を差別するなんてとんでもないことだと言って説教して帰ってもらったという記憶があります。それから40年たちましたが、そのあと1回も、そんな結婚差別に関わる話を聞いたことはありません。
30年前までは、あの地域は部落だと言う人がいました。でも、私の住んでいる町には、明らかに他と異なる雰囲気というところはまったくありません。実感として、部落差別は解消したと思います。いえ、一部には残っているのかもしれませんが、まったく気がつきません。
でも、差別は、いろんな場面で、現に日本社会に存在します。聞くに耐えないヘイトスピーチの対象となっている在日朝鮮(韓国)人への差別がなくなったとは、とても思えません。ゲイ(レズビアン)の人への差別、アイヌの人々への差別、そして「アカ」という思想差別も今なお強烈なものがあります。また、フィリピンやベトナム人などの東南アジアから働きに日本へやってきている人たちへの差別がないと言えるでしょうか。私は言えないと思います。
みんな違って、みんないいという金子みすずの言葉を実践するには、それだけ気持ちにゆとり(余裕)がないとできないように思います。自分が苦しいと、そのはけ口を求めて、誰かを見下して、攻撃する行動に走りがちになるのが人間の悲しい現実です。
「解同」の暴力と利権あさりは、私の町でも目に余るものがありました。私の住む町では「解同」の言いなりにならない社会党の地方議員が暴行される事件も起きました。なので、「解同」は怖いと思われ、かえって差別が温存される状況も続いていました。それも、今では過去のことです。国が、宣言したことは大変大きかったと思います。
1969年に始まり、全国4607の「同和地区」を対象に実施された同和対策特別対策事業は、33年間で16兆円を投入し、2002年3月、事業の所期の目的は達成したとして終結しました。総務省は、「国、地方公共団体の長年の取り組み等によって、劣悪な生活環境が差別を再生産するような状況は改善され」た。「特別対策をなおこれ以上続けることは、差別解消に有効ではない」としたのです。
この本で、著者は、「部落差別」は今では深刻にして重大な社会問題とはいえないとしています。たとえば、結婚について、20代、30代では8割から9割が結婚差別を体験することなく結ばれている。そして、部落差別は、人間として恥ずべき行為だとする市民的常識が確実に広がっていると強調しています。まったく同感です。
ところが、部落差別解消推進法が制定されようとしています。そこには、部落差別について、明確な定義がありません。そして、「差別意識」という個人の心の問題を法律で規制しようとしているのは問題です。抽象的で漠然とした法律は拡大解釈が容易ですから、非常に危険な法律としか言いようがありません。
私が弁護士になった年(1974年)11月に兵庫県立八鹿高校で、「解同」による教職員への集団暴行、長時間吊し上げ事件が起きました。このとき、白昼、大変な暴行、傷害事件が起きたのに、警察の対応は信じられないほど生ぬるく、しかも、一般の新聞・テレビはまったく事件を報道しませんでした。強烈な「解同」タブーがマスコミを支配していたのです。
北九州にあった「同和地区」では、10人に9人が中卒以下、新聞を購読している家庭も1割しかいなかった。ところが、生活が苦しいのに、生活保護の申請をする人は少なかった。
1964年、北九州市の生活保護率53%は全国平均の18%の3倍もの高さだった。
「解同」による暴力的な糾弾行動は善良な人々を畏怖させました。そして、幹部たちが利権あさりに狂奔しました。たとえば、「クジラ御殿」が有名になりました。
また、税制上も明らかに無法な特別待遇がまかり通っていました。北九州では解同幹部による「6億円の土地転がし」が発覚しました。そして、「解同」の糾弾の対象となった校長が自殺してしまうという悲劇が発生したのです。
八女市では、「解同」の支部役員が「差別ハガキ」を44通も自作自演していたという信じられない事件が発覚しました(2009年7月)。
小倉税務署長までつとめた「解同」顧問の税理士が脱税指南をしていたとして、実刑判決(2011年11月)が下されたことも忘れられません。
大阪に存在した旧「同和地区」では、今では9割以上の住民が地区外からの転入者になっている。もはや、「同和地区」の閉鎖的地域性は解消され、「地区」とは言えなくなっている。著者は、このように紹介していますが、私の実感にもあいます。
差別の解消は今でも大変な人権課題だと思います。でも、それは、部落差別だけではありません。人間の尊厳と個人の尊重の実現こそ目ざすべきだと著者が何度も強調しているのに、私も大いに共感します。
300頁をこす貴重な労作です。福岡自治研の宮下和裕事務局長の紹介で読みました。
(2022年11月刊。税込2000円)

国鉄

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 石井 幸孝 、 出版 中公新書
 JR九州の初代社長が自画自賛した本です。でも、私は内容にまったく賛同できません。公共交通機関であるという使命を放棄して、もうけの追求だけ。ローカル線を切り捨て、新幹線のホームに駅員を配置しないなんて、とんでもありません。そして、「七つ星」とか超高級列車を走らせ、ひたすら自慢する。本当に間違っています。
 JR九州は、「鉄道会社」であるより「不動産会社」の道を選んだ(328頁)と得意気に言い切っているのにはゾクゾクとした寒気すら覚えます。関東・関西の大手私鉄グループにならった手法です。もうかればいいという発想しかありません。多角経営、利益率の確保、それだけです。
 JR九州のスローガンは「お客さま第一」、「地域密着」。看板に偽りありです。
 鹿児島本線の特急をなくし、新幹線のホームは無人化してしまう。駅の無人化もすすめ、ローカル線は切り捨て。これで、なにが「地域密着」でしょうか。
 そして、JR九州ではありませんが、リニア新幹線なんて、不要不急かつ危険で赤字必至の路線に莫大な金額を投入しています。全国一本の国鉄だったからこそ、地方のローカル列車は存続できたのです。
 労働組合の存在もまったく影が薄くなってしまいました。国労つぶしをすすめた著者は労働者にも権利があり、憲法で保障されているなんて、まったく念頭にないのでしょうね。
 残念ながら、日本の社会を金、カネ、カネ本位というように、ダメにした張本人の一人としか言いようがありません。今なお、なんの反省もないので救いようがありません。
 私は、国鉄の分割民営化は郵政民営化と同じく日本をダメにする大きな賭け、間違いだったと考えています。最後まで腹立たしさ一杯で読み通しました。
(2022年10月刊。税込1210円)

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