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カテゴリー: 社会

秋山善吉工務店

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中山 七里 、 出版 光文社文庫
 作者には大変申し訳のないことですが、本棚の奥に眠っていたのを引っぱり出してきて、スキ間の時間つぶしにはなるだろうと思って読みはじめたのでした。すると、意外や意外、面白い展開で、母と子ども2人の3人家族の行く末が気になって目を離せません。それに、昔気質の頑固親父といった祖父が登場して、話はどんどん展開し、いやいったい、これはどうなるのか、頁をめくるのがもどかしくなっていきました。
 父親は2階の居室にいて火災で焼け死んだため、妻子は父の実家にしばらく居候生活を始める。すると、小学生の二男は学校で火災を口実としてイジメにあい、長男のほうは悪に誘われ金もうけに走っていく。母親は職探しに奔走し、ようやく定職に就いたと思ったら、そこでも大変な目にあって…。そこに火災の原因究明に必死の警察官(刑事)まで登場してきます。父親の死が不審死だと思われているのです。
 「この爺っちゃん、只者(ただもの)じゃない!」
 これが文庫本のオビのキャッチコピーです。まさしく、そのとおりの役割。
 「家族愛と人情味あふれるミステリー」というのは間違いありません。著者がこの本を書く前に担当編集者の3人から受けたリクエストは…。
 ・アットホームな家族もので
 ・スリリングで
 ・キャラでスピンオフが作れるような
 ・社会問題を提起し
 ・もちろんミステリーで
 ・読後感が爽やかで
 ・どんでん返しは必須
 この本は、これらのリクエスト全部に見事にこたえています。さすがはプロの小説家です。モノカキを自称する私ですが、とてもとても、こんなリクエストにはこたえられません。やっぱり弁護士しか、やれそうもありません。
トホホ、「でもしか」弁護士なんですかね…。
(2019年8月刊。700円+税)

渋谷の街を自転車に乗って

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 苫 孝二 、 出版 光陽出版社
 北海道に生まれ育ち、東京に出てきて、渋谷で区議会議員(共産党)として35年間つとめた体験が素晴らしい短編小説としてまとめられています。
台風襲来で事務所が半休になったので、仕事を早々に切り上げて読みはじめ、途中から焼酎のお湯割り片手にして、一気に読み終えました。心地よい読後感です。でも、書かれている情景・状況は、どれもこれもなかなか大変かつ深刻なものがほとんどです。
 孤独死。死後、3日たって発見した遺体はゴミの山に埋まるように倒れていた。遺体の周辺には、紙パックの水と無数の使い捨てカイロがあった。部屋には暖房器具がなく、これで暖をとっていたのだろう。電気代を惜しんだのだ。室内は、どこもかしこもゴミの山。敷き詰められ、地層のようになっているゴミの山を軍手をはめて取り崩していく。デパートの紙袋は要注意だ。領収書と一緒に1万円札や千円札、そして百円玉や五十円玉などの小銭が出てくる。高齢者祝金の袋が1万円札の入ったまま見つかる。ずいぶん前から、一人暮らしになり、掃除、洗濯、炊事という人間楽し生活する気力を喪ってゴミとともに生きてきたのだ。
 人間嫌いで、近所づきあいなんてしたくないと高言し、ひっそりと生きてきた女性だった。
 アルコール依存症の人は多い。30代で依存症になり、朝から酒を飲み、一日を無為に過ごす、そして、そのことで自分を追いつめ、ますます酒に溺(おぼ)れてしまう40代後半の男がいる。若いころは大工として働いてきたが、失職したのを機に酒浸りになって、そこから脱け出そうとするが、酒を断つと食欲がなくなり、拒食症になって瘦(や)せ細り、それでまた酒に出してしまい、そんな自分が情けないと嘆いている60代の男性がいる。
アルコール依存症の人がアパートの家賃を滞納。当然、大家から追い出されそうになる。そんな人に生活保護の受給をすすめる。知り合いの不動産業者にアパートを紹介してもらう。そして、仕事も世話をする。区議会議員って、本当に大変な仕事だ。だけど、依存症は簡単には治らない。仕事をサボって、迷惑をかけてしまう。
職を転々としたあげく、なんとかスナックを開店し、意気揚々としている男性が突然、自死(自殺)したという。なんで…。
弟が、小さな声で「真相」を教えてくれる。
「兄貴は、二面性のある男なんだ。真面目で一本気なところがあって、ズルイことをする奴は許さないという面がある一方、お金のためなら密漁したり、農作物を盗むのも平気な男なんだ。だから、アワビの密漁をやっていた主犯だとバレそうになったからかも…」
ところが、弟は、次のように言い足した。
「兄貴が遺書も残さず自殺するなんて、考えられない。何か遊び半分で、いま死んだら少し楽になるんじゃないかと、首に太い縄をかけてみた、鴨居の前に立って首を吊るしてみた、そしたら急に首が締まってきて、息ができなくなってしまった。こんなはずじゃない、これは間違いだ、そう思ってもがいているうちに絶命してしまった…」
いやあ、「自殺した人」の心理って、そうかもしれないと私も思いました。お芝居の主人公になった気分で、もう一回、生き返ることができるつもり、自分が死んだら周囲の人間はどんな反応をするのか、「上」から高みの見物で眺めてみようと思って、本気で死ぬ気はないのに首に縄をかけてみた、そんな人が、実は少なくないのではないでしょうか…。自死する人の心理は、本当にさまざまだと思いました。
この14の短編小説には、著者が区議として関わった人々それぞれの人生がぎゅぎゅっと濃縮されている、そう受けとめました。まさしく、人間の尊さと愛しさ、かけがえのない人生が描かれています。東京のど真ん中の渋谷区で、こうして生きている区議会議員であり、作家がいることを知り、うれしくなりました。私も、18歳から20歳のころ、渋谷駅周辺の街をうろついていましたので、その意味でも懐かしい本でした。
著者は、私より少し年齢(とし)下の団塊世代です。ひき続きの健筆を期待します。
(2022年7月刊。1500円+税)

編集者の読書論

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 駒井 稔 、 出版 光文社新書
 私もそれなりに幅広く本を読んでいるつもりなのですが、こんな本を読むと、さすがに世の中には上には上がいるもので、とてもかなわないと思ってしまいます。
私も近く出版社からノンフィクションみたいな本を刊行しようとしているのですが、担当してもらっている編集者とのやり取りは、とても知的刺激を受けます。本はタイトルが決め手になりますので、そのタイトルの決め方、そして、オビにつけるキャッチコピーとして、何を、どこまで書くかについて、その着想のすごさには頭が下がります。そこが純然たる自費出版との決定的な違いです。
 編集者からすると、出版を成功させる条件は二つだけ。一つは、とても面白いこと、もう一つはとても安いこと。私の近刊は、自分では「とても面白い」と思っているのですが、客観的には、どうでしょうか…。そして、安い点について言えば、定価1500円なので学生でも買おうと思えば買える値段に設定しました。果たして、売れますやら…。
 編集者には、作家の書いた文章に手を入れる人と、そうでない人とがいるようです。私は弁護士会の発行する冊子の編集を何度も担当していますが、遠慮なく手を入れるようにしています。だって、漢字ばっかり、見出しもなく、文章のメリハリがない文章をみたら、赤ペンで修正(書き込み)したくなります。抑えることができません。
本を読むとは、自分の頭ではなく、他人の頭で考えること。たえず本を読んでいると、他人の考えが、どんどん流れ込んでくる。なので、本はたくさん読めばいいということではありません。
まあ、そうはいっても、たくさん本を読むと、それはそれで、結構いいこともあるんですよ。心の琴線にビンビン響いてくる本に出会ったときのうれしさはたとえようもありません。
神保町は世界でも有数の古書街。私も、弁護士会館での会議の後に古書街をぶらつくことがあります。上京の楽しみの一つです。
世界の読むべき本の紹介のところでは、ロシアのトルストイは読んだことがある、フランスのプルーストには歯が立たなかった(『失われた時を求めて』)。
ドイツでは、やはりナチスとの戦いの本ですよね。ドイツ人が知らず識らずにヒトラー・ナチスが降参するまで戦っていたことを全否定するわけでもないということには、いささかショックを受けました。
そして、図書館の大切な役割が語られています。最近は、コーヒーチェーン店のカウンターで原稿を書くことの方が多く、図書館には滅多に入りません。残念でなりません。
自伝文学もあります。私も父母の生い立ちから死に至るまでを新書版で、まとめてみました。そのとき、意外な発見がいくつもありました。
それにしても、著者のおススメの本で私が読んでいないのが、こんなにも多いのかと、ちょっと恥ずかしいくらいでした。でも、まだまだ死ねないということですよね。楽しみながらこれからもたくさんの本を読んでいくつもりです。ちなみに、1年の半分が終わろうとしている今、240冊の単行本を読みました。これは例年並みです。
(2023年3月刊。940円+税)

日本人の心を旅する

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ジュヌヴィエーヴ 、 出版 エルヌフ書肆侃侃房
 あるフランス女性の眺めた日本と日本人、というのがサブタイトルです。「日本と日本人は、すばらしい芸術品である」
 こんなふうに言われると、日本って、そんな評価もできるのかなあ、と半信半疑になってしまいます。
信長は、明智光秀に裏切られたあげく戦に敗れ、切腹を余儀なくされたと書かれているのを読むと、なんだか違うみたいなんだけれど…と、つい思ってしまいました。
でも、フランス人女性からみると、日本人もいいところがあるようなんです。そこは、素直に受けとめようと思いました。
 日本語には自然をあらわす擬声語が数多くある。シンシンと夜が更ける。シトシトと雨が降る。メラメラと火が燃える。ビュービューと風が吹く。ポカポカと陽が暖かい。スクスクと本が育つ。ショボショボと降る雨にビチャビチャに濡れ、ボチャボチャの道をトボトボと歩く。
アインシュタインは2人の息子に宛てて、日本滞在の終わりに手紙を書いた。
 「日本人がとても気に入った。静かで、慎み深く、頭が良く、芸術に眼があり、そして思いやりがあり、何事をやるにも体裁のためでなく、むしろあらゆることを本質のためにやる」
 これが日本人へのお世辞ではないというのは、なるほど画期的です。
 日本茶も高く評価されています。日本独特の抹茶をつくるには、新芽をつみとる20日ほど前に、ワラやアシや布でつくった覆りの下に入れて太陽光から保護し、苦さの基になるカテキンの割合を減らし、テアニンの割合を増やす。
 私の法律事務所では、エアコンのきいた室内で、熱々のお茶を出しています。いかにも美味しそうな深緑ですし、一口飲むと、お客さんの顔が変わります。皆さん、笑顔になって、このお茶は美味しいですねと言ってくれます。お茶を手にとらない人、飲んでも黙っている人は、それほど抱えている心の闇、悩みが深いということなんです…。
 長くフランスに住んでいる内田謙二氏による翻案という本です。私のフランス語勉強仲間の井本元義氏より贈与していただきました。ありがとうございます。
(2023年7月刊。1600円+税)

日本の自然をいただきます

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ウィンフレッド・バード 、 出版 亜紀書房
 アメリカ人の新聞記者、翻訳者そしてライターである著者が日本の地方都市で暮らしながら日本全国の食を求めて歩いた見聞記です。
阿蘇では野菜の天ぷら、タンポポの花、カキドオシ、クレソン、ヨモギ、オオバコ、ユキノシタ。揚げたての天ぷらに、淡い緑色の塩を振りかける。この塩は、ハコベのエキスと塩を煮詰めてつくったもの。飲み物は、松葉サイダー。タンポポ、松葉、ドクダミを自家発酵させてつくったもの。
長野でも野菜の天ぷら。氷温の水と花ころもの天ぷら粉を軽く混ぜ合わせる。野菜は水洗いしなくてもよいが、必要なら、さっと洗う。水気は完全に切らなくてよい。揚げ油は、天かすがゆっくり浮いてくるくらい十分に熱する。まずはギョウジャニンニクの葉を入れ、油に香りづけをする。野菜の天ぷらは衣が薄く、十分に揚がったら、つまみ上げて、よく油を切る。そして、何より大切なのは、熱々の状態で食べること。
 滋賀県高島市朽木(くつき)では、トチ餅(もち)を食べる。トチノミは日本の「原初の食物」だ。飢饉に備える大切な保存食だった。村では、女子が嫁ぐとき、家のトチノキを譲られた。村にある一本のトチノキの実を摘みとる権利を譲される。栃餅ぜんざいは、トチノミの苦みがあるため、小豆が甘すぎず、まろやかに味わえる。
 日本では、4000年も前から、到るところでトチノミが食べられていた。ところが、飢饉がなくなってしまうと、戦後の近代化が急ピッチで進むなかで、ついに不要な食材になってしまった。トチノミを食べられるようにするには2週間かかる。苦みを生み出すサポニンとタンニンを抜くのには、それくらいかかるのだ。
 岩手では、わらび餅。ワラビの祖先のシダ類は、草食恐竜の主要な餌(エサ)の一つ。恐竜は絶滅したけれど、ワラビはしぶとく生き残った。ワラビの根茎からとれる繊維は、江戸城の生け垣を結ぶ。
 飢饉の多かった江戸では、「かてもの」は代用食品となった。
 日本の食文化の源流を探る楽しい旅でもありました。
(2023年3月刊。2200円)

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