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カテゴリー: 社会

千年、働いてきました

カテゴリー:社会

著者:野村 進、出版社:角川ワンテーマ21・新書
 世界最古の会社は日本にある。創立578年。えっ、いつのこと。西暦578年です。これはなんと、飛鳥時代なのです。うむむ、そんな・・・。
 大阪の金剛組という建築会社で、飛鳥時代から、寺や神社を建てつづけてきたのです。ですから、創業1400年をこえています。すごーい。
 ところが、この日本最古、いえ世界最古の会社が最近、破産申立したというのです。しかし、周囲が助けました。なんとか金剛組は存続することができました。
 金剛組の創業者はコリアンです。といっても、聖徳太子(実在の人物なのか疑問もあるようですが・・・)に招かれて朝鮮半島の百済からやってきた3人の工匠のうちの一人でした。
 日本には、ほかに創業1300年の北陸の旅館、1200年の京都の和菓子屋、
1100年の京都の仏具店、1000年の薬局という店がある。創業100年以上だと 10万社以上あると推定されている。
 ヨーロッパの最古の企業は1369年設立のイタリアの金細工メーカー。創業640年。これより古い日本の企業は100社ほどある。
 韓国には三代続く店はない。中国の最古の店は337年前に設立された漢方薬の北京同仁堂。
 日本の10万軒をこえる創業100年以上の老舗のうち、およそ4万5000軒が製造部門。ここに日本の老舗の特質がある。職が尊ばれるのは、アジアでは日本くらい。
 1グラムの純金を太さ0.05ミリの線にすると、3000メートルになる。コンピューターの集積回路の接合部に金の極細線がつかわれている。太さは10マイクロメートル。人の髪の毛は80マイクロメートルなので、その8分の1の太さだ。これを日本の田中貴金属がつくっている。
 ケータイの折り曲げ部分に使われている銅箔(どうはく)は、日本企業であるメーカー2社で世界のシェアの9割を占めている。
 捨てられた不用のケータイを集めたゴミの山には1トンあたり280グラムの金がふくまれている。日本で採掘されるもっとも品質の高い金鉱でも1トンから60グラムの金しかとれないから、その4〜5倍も金がとれることになる。つまり、ケータイのゴミの山は、まさに金鉱そのものなのだ。
 また、ケータイには、1キロあたり200〜300グラムの銅もふくまれている。これと同じ量を天然の銅鉱石から得るためには10キロが必要となる。
 農林業関係者からひどく嫌われているカイガラムシは、真っ白なロウを分泌する。これは光沢があり、化学的にも安定している。これが、防湿剤や潤滑剤そしてカラーインクの原料として有望なのだ。老舗の会社が、研究・開発をすすめているのです。
 同族経営・非上場には強みがある。社長が替わらない。株主の顔色をうかがわずにすむ。だから、長期的な視野で研究開発にのぞめるし、ハイリスク・ハイリターンのテーマに長期間、資金を投入することができる。むしろ、同族経営・非上場でないと、画期的な独自の研究開発はとても不可能だ。
 長生き、元気で若く、女性の支持がある。この三つにマッチする商品は絶対売れる。女性がダメというものは絶対に売れない。
 うまくいっている老舗は、不思議なことに三世代同居という経験をつんでいる。
 日本人が昔からものづくりを大切にしてきたこと、そのためには必ずしも血縁ばかりを重視せずに伝統を絶やさないよう工夫してきたことなどの分かる、とても面白い本です。

企業舎弟・闇の抗争

カテゴリー:社会

著者:有森 隆、出版社:講談社α文庫
 この本を読むと、日本社会の隅々にまで暴力団がいかにはびこっているのかを知らされ、ホント、嫌になってしまいます。そのうえ、暴力団の繁栄を支えているのが、実は、大銀行などれっきとした金融機関だというのですから、この世の中どうなっているのか、腹立たしい限りです。どうりで暴力団ひとり景気がいいわけです。税金だって払っていないのでしょうからね。
 企業舎弟とは、企業経営者の仮面をかぶった暴力団の弟分のこと。そんな経営者が率いている企業をフロント企業と総称する。表向きは一般の会社であり、役員はヤクザではない。働いている人も普通のサラリーマンである。だから、暴力団が関係しているとは、一見しては分からない。だけど、もうかったお金を裏で暴力団に上納し、その有力な資金源となっている。
 会社が厄介なトラブルに巻きこまれたとき、暴力団が登場して会社を守る。これをケツ持ちという。ケツ持ちとは、カネで雇われた用心棒ではない。上納金を受け取る権利のこと。ケツ持ちが出てきたとき、初めて会社の正体が分かる。
 日本における経済ヤクザの代表選手が東の石井、西の宅見。稲川会二代目会長の石井進(故人)と、山口組のナンバーツーだった宅見勝(内部抗争で殺された)。
 関西裏社会のドン、許永中が狙い定めた相手を籠絡する手口は、二段階に分かれる。最初に大金をつかませ、相手を金縛りにしてしまう。そして、引き出した資金の一部をキックバックして、相手(個人)にもうまい汁を吸わせる。その手法は単純明快だ。
 住友銀行からイトマン・グループへの融資は5549億円にのぼった。このうち少なくとも、3000億円が仕手資金や不動産の購入資金の名目で闇の勢力に流れた。大銀行が5500億円もの巨額のお金を焦げつかせても倒産しなかった秘訣は、政府が税金を投入したことにあります。そして今、大銀行は空前の利益をあげているにもかかわらず、一円の法人税もおさめていないというのです。ホントに間違った政治ですよね。そして、大銀行は税金を国におさめないかわりに、自民党などへ多額の政治献金をしているのです。
 エースとは、裏世界が表世界へ送り込んだ切り札のこと。企業に喰らいついたエースは、手形の乱発、無担保融資、会社資産の売却など、あらゆる手段をつかって企業の資産を外に持ち出す。持ち出した資金の受け手は、もちろん裏世界の人間だ。喰いものにされた企業は借金漬けになって破綻する。
 料亭の女将への巨額融資が焦げ付いて問題になったことがありました。1991年のことです。このとき、国内信販の副社長が興銀に女将(尾上 縫)に紹介した。
 尾上の架空預金証書は、合計40通、7425億円分が偽造された。大きすぎて、とても考えられない金額です。
 1993年8月、和歌山市で阪和銀行副頭取が射殺された。
 1994年2月、富士写真フィルムの専務が刺殺された。
 1994年9月、住友銀行の名古屋支店長が自宅マンション前で射殺された。
 企業に対するテロ事件は、ほとんどが未解決。捜査当局は、もう2人か3人、死者が出ないと銀行は本当のことをしゃべらないと語った。
 これらの死によって、関西の金融機関は闇社会への2000億円の融資の回収を断念した。なんと、なんと、許せませんよね。銀行は、それほど裏社会とダーティな結びつきがあるというわけです。
 殺害犯人は今も捕まっていません。外国からきたプロのヒットマンではないか。日本の闇の勢力が金で雇ったのではないかと推測されています。
 国内信販は、バブル期に不動産融資にのめり込み、そのため、不良債権の山を築いた。
 暴力団のからむ瑕疵物件に、楽天の名前がたびたび登場する。
 楽天KCは、私の法律事務所も日頃ちょくちょく相手方となるクレジット会社です。こんな暗い過去があるということを初めて知りました。
 それにしても、日本の大銀行がこんなにまで暴力団と密接に結びついているのを知るのは不愉快きわまりありません。

腐蝕生保

カテゴリー:社会

著者:高杉 良、出版社:新潮社
 生命保険会社のドロドロした内実が、これでもか、これでもかと暴き出され、本当にいやになるほどです。でも、この先いったい主人公はどうなるんだろう、どうするのかという思いに負けて、ついつい読みすすめてしまいます。さすがは企業小説の大家だけあります。たいした筆力です。上下2巻あり、1巻が400頁という大部の本をあっという間に読み終えてしまいました。
 生保の社長がアメリカ視察に行く。ゴマスリ幹部が、社長の愛人も現地で同行するように手配します。まるで、会社の私物化です。それでも、そんなゴマスリ幹部は社長の覚えが目出たくて、どんどん出世していくのです。
 そんなー・・・と思いつつ、これが企業の現実のようです。苦言を呈する輩は、どんどん閑職へ飛ばされていき、ワンマン社長の周囲にはイエスマン重役しか残りません。やる気のある若手はそんな上部の腐敗ぶりに嫌や気がさし、さっさと他の会社へ転職していきます。そんな勇気も自信もない人は、うつ病になったりします。ノルマに追われるのです。 生保レディは、契約とってなんぼの苛酷な世界に生きています。そこでは、やる気のあるレディーを確保し、成績をあげることのみが数字で追求されています。生保レディーは、また入れ替わりが極端に激しい世界でもあります。
 苛酷な競争が強いられるなか、架空契約、色仕掛け、なんでもありの世界が生まれます。
 自爆とは、業績をあげるため、あるいはノルマを達成するために、架空契約をつくって保険料を自腹を切って支払うこと。
 イラクではありませんが、自爆は日本の生保業界では昔から横行しているのです。
 ノルマを達成しきれない営業所の責任者はついに夜逃げし、自殺に走ってしまいます。まさしく悲劇です。でも、その悲劇を踏み台にしてのし上がっていく幹部もいます。企業犯罪とまではいきませんが、こんな企業の実態をそのまま是認していいとはとても思えません。鳥肌が立ってしまうほどの迫真の経済小説です。

会社とは何か

カテゴリー:社会

著者:日本経済新聞社、出版社:日本経済新聞社
 私は学生時代のちょっとしたアルバイト以外、会社で働いたことがありません。この本を読むと、つくづく会社に入らなくて良かったと思ってしまいました。人員削減、派閥抗争など、営利本位の企業という制約以上の悪弊が多くの会社にはあり過ぎるような気がします。もっと社会のための会社というのがあって良いように思うのですが、そんなことを言うと、現実の厳しさを知らな過ぎると叱られそうです。
 アメリカを中心に、世界のファンドが企業買収に回せる資金の総額は100兆円を上まわる。時価総額トップクラスのゼネラル・エレクトリック(アメリカ)やエクソン・モービル(同)が40兆円ほどだから、買えない会社はないということ。
 マイクロソフトは時価総額30兆円。2004年暮れには、3兆円もの配当を実施した。おかげで、アメリカの国民所得の伸び率がはね上がった。うーん、そうなんですかー。
 2005年(1〜7月)に日本企業が決めたM&Aは1500件をこえた。M&Aは、今や、めったにない非日常の出来事ではなく、あらゆる企業が成長のテコとして使いこなす時代となった。
 ボーダフォンはソフトバンクに買収されたが、このとき、負債の山と引きかえに顧客 1500万人をそっくり手に入れた。
 会社法が改正され、一定の条件をみたす非上場企業なら、取締役は1人でいいことになった。そこで、新日鉄化学は、グループ会社にいた69人の取締役を7人に減らした。ええーっ、そんなことができるのですか。ちっとも知りませんでした。
 法改正で委員会等設置会社というシステムが導入された。しかし、この委員会制を導入した電機大手会社は、みな経営不振となり、導入していない自動車会社は快走している。日本には、経験豊かな社外取締役の層が薄いところに問題がある。そうはいっても、日本の主要企業2000社の半分以上に社外取締役がいる。
 ソニーのトップは外国人(ハワード・ストリンガー)。彼は、自宅がロンドン近郊、そしてニューヨークに常駐する。東京の本社には、月に1〜2回通う程度。ソニーグループの社員の6割は外国人。利益も海外で稼いでいる。
 今や、インターネットによる取引が個人の株式売買の8割を占める。
 世界には創業200年以上という長寿企業がある。しかし、それはアメリカには1社もない。長寿の秘訣は、環境に敏感、強い結束力、寛大さ、保守的な資金調達にある。
 日本全国のコンビニ4万2000店の7割が脱サラなどによる「持たざるオーナー」である。
 日本では、過去30年で、新入社員の入社動機が変わった。1971年では、将来性があるというのが3割でトップ。現在は、個性を生かせる、仕事が面白い、自分らしく仕事ができて手早く結果を出せる職場に人気が集まる。
 三井物産は13年ぶりに独身寮を新設した。今なぜ同じ釜の飯が重視されるのか。寮生活を通じて若いうちに人間関係を存分に培ってもらい、人を育てたいというのだ。今こそ人材だ。
 大卒者の2割が職に就かず、入社して3年間のうちに3割が離職する。
 うむむ、なかなか大変な状況ですよね。

S−1誕生

カテゴリー:社会

著者:白坂哲彦、出版社:エビデンス社
 国産初の世界レベル抗癌剤の開発秘話というサブ・タイトルがついています。実に20年以上かけて有効な抗ガン剤を開発したという話です。いやあ、たいしたものです。その地道な苦労に頭が下がります。
 抗ガン剤開発に携わる人間にもっとも必要とされる要素は、好奇心と執念。この仕事はケタ違いにスパンが長く、根気のいる仕事を毎日続けなくてはいけない。
 抗ガン剤の開発が感染症などの治療薬の開発に比べてはるかに難しいのは、標的となるガン細胞が体外から侵入してきた外敵ではなく、自分自身の体の一部だから。
 ガンの場合、ガン細胞は自分の体の正常細胞が異常増殖を始めたものなので、ガン細胞と正常細胞との間には、ヒトと病原部生物の細胞間にみられるようなはっきりした違いはない。
 抗ガン剤であるマイトマシンやプレオマイシンのルーツは、関東地方や九州で採取された土中の微生物にある。同じくアドリアマイシンもアドリア海の砂からみつかった微生物にルーツがある。
 いやあ、どこに貴重品がころがっているのか、世の中って本当に分からないものですね。
 会社というものは、誰もが成功に一役買いたいと考えるような、きれいごとの世界ではない。なかにはアラ捜しをして点数稼ぎをする者もいるし、やっかんで足を引っ張ろうとする者も出てくる。
 著者が開発したS−1は、基礎研究に15年、臨床試験に6年4ヶ月、承認の申請から承認まで1年3ヶ月、合計22年6ヶ月かかりました。すごい歳月です。
 著者たちは、ご飯が食べられるガン治療を目ざしたのです。ガン患者から生きる力を奪うのは、悪心、嘔吐、食欲不振、下痢、口内炎、全身倦怠感という副作用。たしかに、これらがあったら生きてる気がしませんよね。
 S−1は、外来通院でQOLを保ちながら、長期間投与することが可能。抗ガン剤の特徴は、はっきり効果が認められたものは、世代を超えてつかわれ続けることにある。
 20年後、日本も世界も、ガン治療は外来主体になっている。著者はこのように予測しています。果たして、そうなるのでしょうか。
 S−1は、進行・再発胃ガンの治療薬として承認され、その後、応用範囲が広がっているということです。このような地道な研究・開発をすすめておられる研究者に対して心より敬意を表します。
 まさに平和産業の最たるものです。もっと世の中の光をあてていいように思います。

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