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カテゴリー: 社会

デザインの力

カテゴリー:社会

著者:喜多俊之、出版社:日本経済新聞出版社
 な、なーるほど、デザインの力って、すごーく大きいんだな。そのことを文章と写真で実感させてくれる本です。写真だけ眺めていても楽しくなります。
 デザインは、いま世界でもっとも注目されているキーワードのひとつ。
 中国は、デザインを新資源としてとらえ、首相自ら、工業デザインを重視するというスローガンを掲げて動き始めている。韓国では、大手メーカーを中心として、デザイン開発をテクノロジー開発かそれ以上に重要なこととしてとらえ、ケータイやデジタル家電の分野で大成功をおさめている。
 著者は薄型の液晶テレビ、シャープのAQUOS(アクオス)のデザインをうみ出した人物です。
 それ以降、アクオスにはすべて著者のサインが入っている。イタリアでは、それがあたり前のこと。
 アクオスのデザインを外注化したメリットは、社内では得られないオリジナリティへの期待だ。
 日本企業においては、一般にデザインの価値は相対的に低い。テクノロジーとデザインとは、両輪が補いあって相乗効果をもたらし、ハイテクノロジーとハイセンスとして、一体化して昇華させることこそ、ブランドを目ざすこれからの日本製品にとって大切なのだ。品格ある一流をつくらないと、世界のマーケットにメイド・イン・ジャパンの席はない。
 腕時計なのですが、2つの文字盤がある時計があります。大は今の現地時間。小は故国時間なのでしょうか(もちろん、逆ということもありえます)。飛行機に乗って世界を飛びまわるビジネスマンにとっては大変便利な時計でしょう。私にはまったく必要ありませんが・・・。
 日本は50年ものあいだ、グッド・デザイン賞を授与してきた。これは、世界ではまれなこと。ところが、中国の産業界では、デザインの韓国、技術の日本と言われている。しかし、デザインも大切なのです・・・。
 面白い色と形をした大型イスとか、シンプルで存在感のあるナイフやフォークそしてスプーンまでデザインしています。さすがに、なーるほどと思う作品ばかりです。
(2007年12月刊。1700円+税)

評伝・菊田一夫

カテゴリー:社会

著者:小幡欣治、出版社:岩波書店
 私は「君の名は」の時代の人間ではありませんし、「放浪記」も「がしんたれ」も「がめつい奴」も劇場で見たことはありません。でも、菊田一夫という劇作家がいたということは鮮明な記憶として残っています。なぜなのか、自分でもよく分かりませんが・・・。
 この本は、その菊田一夫の生い立ちから成功して、亡くなるまでをたどっています。菊田一夫という人物の複雑な表も裏も見る思いがしました。
 菊田一夫にすれば、戯曲などというものは、師事して会得するものではなく、自分ひとりで苦労して切り拓いていくものだとする体験的劇作論が根底にあった。しょせん、この世はおのれひとりであって、他人をあてにすべからずという人生哲学に根ざしていた。
 幼時から少年期にかけて辛酸をなめ尽くした菊田一夫は、晩年まで、依怙地なほど、おのれ独りにこだわった。徒党を組むことを嫌った。
 菊田一夫は少年のころ、素直でかしこい子だった。6年生のときの通信簿は、修身、国語、歴史、読み方、唱歌、算術は、全部、甲だった。とくに算術は、どんなときでも  100点だった。ただし、体操と手工と図画はダメで、丙だった。運動神経が鈍くて、手先は不器用だった。
 丁稚奉公をしていた少年時代、仕事がのろくて要領が悪いことから、「この、がしんたれ」と言われて、よく殴られた。「がしんたれ」というのは大阪弁で、能なしの、役に立たない人間だという蔑称だ。
 菊田少年は、ふだんは色が黒くておとなしいので、インドのお地蔵様と言われ、たいがいのことはニコニコ笑って我慢しているが、その限界をこえると狂ったように怒り出す。
 菊田一夫青年は、徳永直の名作『太陽のない街』(これは東京・文京区を舞台としています。私の学生時代には氷川下セツルメントが活動していた町でもあります)に描かれた博文館印刷(のちの共同印刷)の大争議に巻きこまれました。大正15年1月、組合はストライキに突入し、2ヶ月の争議でしたが、官憲の介入によって、組合側の敗北で終わりました。菊田青年は、このとき、間違えられて一晩ブタ箱に入れられました。
 笑いの脚本を書くためには、全力投球で必死になって書かなければ、客を笑わすことはできない。しかし、その背後で、常に笑いを書いている自分を冷徹に見つめている、もう一人の自分がいなければ面白いものはできない。喜劇も悲劇も、作者がおぼれてはならない。ふむふむ、なるほど、ですね。
 菊田一夫は、戦争中に、戦意高揚劇をたくさん書いた。滅私奉公を主軸とした巧みな菊田ドラマに、戦時下の観客が感銘した。だから、終戦後、菊田一夫は戦犯作家と呼ばれ、占領軍の影に脅えながらの日々を過ごした。
 戦後、菊田一夫は、ラジオ放送で、GHQの求めにより『鐘の鳴る丘』で注目を集め、さらに『君の名は』で一大ブームをまき起こした。
 興行師と作家とは、立場が常に相反した存在であって、相反しているが故に緊張感が生み出され、良質な演劇がつくられる可能性がある。かりに、興行師におもねって迎合芝居をかいたとしたら、そのときには下にも置かない扱いを受けたとしても、いつかは捨てられる。魂まで売った作家に対しては、魂を売らずに融通のきかない不器用な作家に対するより、興行師は冷酷である。その意味で菊田一夫の晩年は残念でならない。
 モノカキのはしくれを自称している私としても、大いに示唆に富む評伝でした。
(2008年1月刊。2000円+税)

宝の海を取り戻せ

カテゴリー:社会

著者:松橋隆司、出版社:新日本出版社
 有明海には特産物がたくさんあります。もっとも有名なのは海苔でしょうか。いえ、ムツゴロウかもしれません。魚でいうと、クツゾコと呼ばれるシタビラメ。そうです。あのフランス料理でムニエルとして出てくるものです。そして貝。タイラギの太い貝柱は、ホタテの貝柱に匹敵します。珍しいものでいうと、シャミセンガイです。細い緑色の透きとおった貝です。あっ、そうそう。珍味というと、忘れていけないのに、ワケがあります。イソギンチャクを食べるのです。ミソ漬けにします。コリコリした食感は美味しいですよ。味噌汁にも入れます。このように、まことに有明海は豊かな自然の恵みの宝庫です。
 有明海は、干満差が最大で6メートルにもなる。海面が1日2回上下することになる。これによって海がかき混ぜられ、酸素が隅々まで供給する。
 有明海の漁業生産高が日本一だったのは1980年前後のこと。アサリなどの二枚貝が多いことも理由の一つだった。タイラギ漁師は、年間2000万円も稼いでいた。
 国と長崎県が諫早湾の干拓を始めた。その事業目的は、収益性の高い優良農地を実現することにあるとされた。しかし、干拓地の営農は、秋田県の八郎潟でも岡山県の児島湾でも、どこも困難になっているのが現実である。
 私も、秋田県の八郎潟を見てきたことがあります。タクシーで半日近く見てまわったのですが、ともかく広大な農地ができていました。干拓地ですから、平坦です。大型機械を入れたら、理論上は、大変な高収益の農業ができそうです。でも、そこがうまくいっていないのです。ですから、今さら諫早で干拓地をつくっても、うまくいくはずがありません。
 「しめこき」という言葉が出てきます。初めて聞く言葉です。砂と泥の割合がうまく混じりあってアサリなどがよく育つ状態を言うそうです。
 有明海沿岸4県の覆砂事業費は、1997年から2002年までの6年間で118億円にものぼる。そして、受注した企業が自民党へ政治献金したのが1億7600万円。
 1985年から2000年の16年間で企業が自民党へ献金した総額は10億円にもなる。いやあ、これでは政治家は干拓事業なんて絶対にやめられませんよね。
 1995年からの7年間で、自民党の古賀誠、山崎拓両氏など国会議員9人と自民党熊本県連に10億2000万円が献金された。1人で1億3700万円をもらった議員すらいる。干拓って、一部の人間には金のなる木なのですね。
 国(正確には文科省の外郭団体である科学技術振興機構)がまとめた「失敗百選」に、国営諫早湾干拓事業が選ばれている。そ、そうなんですか。国も失敗を認めているのですね。それにもかかわらず、国の事業は相変わらず続いています。
 長崎県は、県が全額出資する長崎県農業振興公社に干拓農地全部を51億円で買いとらせ、入植希望者にリース配分した。2500億円もの巨費をかけて、入植できるのは、たった45軒の農家と企業のみ。そして、公社が負担する51億円の財源は、県からの貸付金で98年かけて償還するという。
 ひゃあ、100年近くもかけて返していくんですって・・・。そんなこと本当に可能なんでしょうか・・・。干拓地をつくって農地をつくり出す前に、むやみな減反押し付けを日本政府はすぐにもやめるべきです。
 これは、日本の食糧自給率が3割以下という厳しい現実を直視したら、今すぐ直ちに実施すべきことと思います。いかがでしょうか?
 福田さんも舛添さんもあてにならない政治家だと私は思います。
 ところが、全世界的な食糧危機に日本も直面しているのに、自民党の現幹事長が減反政策の見直しを提起すると、元幹事長がすぐにかみつきました。それほどアメリカが怖いんでしょうか。自民党って、骨のずいまでアメリカべったり。アメリカにたてついてまで食糧自給率を上げようなんて発想は、まったくないのですね。あまりにも情けない日本の政権党です。まったく・・・。
(2008年4月刊。1600円+税)

活憲の時代

カテゴリー:社会

著者:伊藤千尋、出版社:シネ・フロント社
 私とほとんど同世代の朝日新聞記者です。いやあ、よくがんばっていますね。『反米大陸』(集英社新書)、『太陽の汗、月の涙』(すずさわ書店)など、たくさんの著書があります。私も何冊か読みましたが、著者の鋭い感性と言葉の豊かさには、いつも感嘆し、魅きつけられます。
 この本は、著者の講演を活字にしたものですので、とても読みやすい内容となっています。著者は今なお現役の新聞記者です。記者生活30年のうち、20年間を国際報道に従事していました。ですから、世界の事情をよく知っています。なにしろ世界65ヶ国を取材したというのです。すごいですね。うらやましい限りです。
 アフリカ沖にあるカナリア諸島に日本国憲法9条の碑があるなんて、信じられない事実を知りました。1996年にあった除幕式のとき、みんなでベートーベンの第九「歓喜の歌」を合唱したというのです。9条の素晴らしさを実感できます。
 南米チリでは9.11というと、1973年のこと。当時のアジェンデ大統領に対して軍部がクーデターを起こした日のことをさす。そして、夜9時になって外出禁止時刻になると、主婦の「ナベたたき」が始まる。デモや集会に行くだけが反政府行動ではない。逮捕されるのが怖いなら、自分にできる方法でやればいい。大切なことは、心の中だけで思っているのではなく、一人一人が行動で示すこと。うむむ、なーるほど、そうなんですよね。
 著者はベネズエラで女性から「憲法を知らずに、どうやって生きていくのか」と教え、さとされたそうです。うひゃあ、そ、そうなんですか、まいりました。憲法って、私たちの生活を底辺から支えるものなんですね。
 アメリカでは、9.11のあと、反テロ愛国法なるものが制定されました。テロリスト探しの名目で、警察(FBI)が勝手気ままに電話やインターネットの盗聴を始めました。そのとき、それを拒否した警察署長もいたというのです。カリフォルニア州のパロアルトという町のことです。
 今、アメリカ社会は変わった。9.11のあと、ブッシュに団結しようというスローガンに乗った。しかし、あれはおかしかった。もう、あんなのはイヤだとアメリカ国民の多くが思っている。そうなんですね。だからこそ、オバマが有力なアメリカ大統領候補になっているのだと思います。
 中米のコスタリカでは、小学校に入って最初に習う言葉は、人はだれも愛される権利をがある、ということ。いやあ、これってすごいことですよ。うんうん、実にいい言葉です。ホント、そうなんです。誰だって、自分がされたのと同じことを他人にもしたくなるのです。ということは、自分にされたイヤなことはしたくもなるっていうことです。やっぱり、子どものときから他人(ヒト)を大切にするのが大切なんです。
 コスタリカでは、軍事費をそっくりそのまま教育費にまわした。兵士の数だけ教師をつくった。トラクターは戦車より役に立つ。兵舎はすべて博物館に変える。大賛成です。コスタリカの識字率は今や100%に近い。国民の10人に1人が教員の免状をもっている。す、すごーい。子どもたちが政治に関わるような仕組みになっているのもいいことですよ。
 コスタリカのアリアス大統領は1987年度のノーベル平和賞をもらった。日本の佐藤栄作とちがって、本当に世界平和に貢献したからだ。平和憲法をもっている国の義務は、周囲の国も平和にすること。コスタリカは平和の輸出を始めた。パチパチパチ。心から、拍手を送ります。
 南アメリカでは、1998年以来、10回の大統領選挙があった。反米左派が9勝、親米右派が1勝。反米左派が圧勝した。もうアメリカには追随したくないということ。
 1998年のベネズエラが皮切りとなった。2002年のブラジル、2003年のアルゼンチン、2005年のウルグアイ、2006年のチリ、ペルー、ボリビア、エクアドルと、反米左派政権になった。コロンビアだけがアメリカべったりの大統領だ。ただ、この国ではソ連派ゲリラがいて、アメリカ派だけで選挙したから、そうなっただけだ。
 読んでいると、なんだか思わず元気の出てくる本です。団塊世代も捨てたもんじゃありませんよ、まったく。
(2008年5月刊。999円+税)

肩書きだけの管理職

カテゴリー:社会

著者:安田浩一、出版社:旬報社
 企業側に立って労働事件を手がけることの多い、私の親しい弁護士が、先日、今のサラ金・過払金バブルのあとには、無償残業の不払い賃金請求事件が激増するだろうという予測を語っていました。なるほど、そうかもしれません。
 この本は「名ばかり管理職」の非情な労働実態を鋭く告発しています。ひゃあ、そんなにひどいのかと私も少なからず驚きました。本当に衝撃を受けるほどでした。これでは、まるで現代にも奴隷労働があるじゃないかと思ったほどです。一家団らんなんて、夢のまた夢。それどころか、過労死が迫っているのです。今や、カローシ、としてカラオケ並に世界的に有名になってしまった、日本を代表する嫌な言葉です。
 高野氏は1987年にマック社に入社した。マック社は、今、日本全国に3800もの店舗を展開している。マックは、基本的につくり置きせず、しかも1分以内に商品を出す。そこにあるのは、安かろう悪かろうだ。
 私は、この30年間、一度もマックを食べたことのないのを誇りに思っています。化学薬品みたいなものを食べられるものか、という気持ちです。マックにはどれだけの食品添加物が入っているのでしょうか。そして、牛肉。どこで生産されている牛なのでしょうか。アマゾンの原生林を焼き払って牧場に変え、牛を生産しているという事態は変わったのでしょうか。人工飼料による安上がりの牛肉生産方式は、今も続いているのではありませんか・・・。
 マック社は1994年から、アメリカ本社主導で経営改革をすすめた。すべての商品を値下げした。殺伐とした社内の雰囲気。そして、異常な長時間労働。
 日本マックの創業者(藤田田)が2004年に死んでも、マック社は何もしなかった。マック社にはアメリカ流のドライな経営手法が導入された。成果主義は店長の給与ダウンをもたらした。厳しい売上目標とノルマを社員に課した。高野店長は、時間外労働が月100時間をこえ、1ヶ月に3日休めるかどうか。
 管理職と管理監督者とは、まったく異なる存在である。管理職とは、
 ? 職務内容や職務遂行上、経営者と一体的な地位にあるほどの権限を有し、これにともなう責任を負担している。
 ? 本人の裁量で、勤務時間を自由に調整できる権利を有している。出退勤は自由。
 ? その地位にふさわしい処遇を受けている。
 というもの。ところが、高野店長は、このどれにもあてはまらない。まさに、「名ばかり管理職」だ。マック社は、全世界で労働組合への敵視政策をとっている。
 中島氏がすかいらーくに入社したのは1979年。すかいらーくは、「小僧寿し」「ジョナサン」「バーミヤン」「ガスト」などを経営している。
 店長の中島氏は、毎日の拘束時間が最長17時間40分、最短12時間30分。休日は1日のみ。毎月の平均残業時間が150時間。す、すごーいですね。いえ、ひどいです。非人間的な長時間労働です。
 「セブン・イレブン」は日本全国に1万5000店舗をかまえている。労組はなかった。店長の年収は平均400万円。実際、店長の裁量が及ぶ余地などない。防犯用の監視カメラで、休憩時間中に漫画雑誌を読んでいるのを「発見」されて、店長からヒラ社員に降格された。「店長としてふさわしくない」というのが表向きの理由だ。これまた、ひどいです。
 紳士服の『コナカ』では全社員1000人のうち、店長は400人もいる。店長こそ一番早く出勤しなければいけない。開店時間の1時間半前、午前8時30分、店長は店舗のカギを開ける。ノルマを達成するため、社員が自腹で購入する。それは年に30万円ほどになる。これも、ひどいですね。
 店長は税込み月収35万円。ボーナスは年2回、50〜70万円。最低でも1日に13時間は拘束される。労基署が立ち入り調査した。その結果、一般社員720人に対して、未払い残業代として9億円が支給された。店長など管理職400人に対して、特別賞与として4億7000万円が支給された。
 あまりにもひどい労働実態が描かれています。まさに搾取です。これでは現代日本で『蟹工船』が飛ぶように売れ、マルクスが見直され、日本共産党が脚光を浴びるのも当然です。
 庭にグラジオラスの花が咲いています。淡いピンクの花はほのかな色気を感じさせます。ヒマワリに囲まれて、ひっそりと黒紫色に近い濃紺のグラジオラスもあります。
 カンナの花が咲きはじめました。黄色い花に赤の斑(ふ)が入っています。私のお気に入りの色です。本格的な夏到来を示す情熱の花です。
 夏の庭は大変な勢いで雑草がはびこるので、日曜日にあちこち整理して、少しスッキリ感を出しました。
 夜、ホタルを見に歩いて出かけました。2週間前とちがって、チラホラ飛んでいるだけでした。九州北部は、まだ梅雨入りしていないようです。
(2007年12月刊。1300円+税)

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