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カテゴリー: 社会

金を追う者、追われる者

カテゴリー:社会

著者:室井 忠道、 発行:オン・ブック
 サラ金は回収に絶対の自信(?)を持っている。嫌がらせと、しつこさという武器をなりふりかまわず使う。これには、大手も中小もない。取立てに関しては、ヤミ金業者と五十歩百歩だろう。
 多重債務者からの回収合戦は、ババ抜きのようだ。といっても、ゲームのトランプのように、ババが一枚入っているのではない。スペードのエースが一枚だけで、あとはすべてババという、ババ抜きゲームだ。だから、きつい取立てに一斉に入るのは当たり前のこと。
多重債務者をATMに群がる「振込み蜂」と呼ぶ。それは、人生そのものを削り取られていくことだ。それでも、その毎日を続ける。それが破産予備軍だ。
 月に2度、特別集中回収を行った。男性スタッフ6人が2人ずつのチーム3つに分かれ、回収に走り回る。一回の集中回収は2泊に及ぶため、ビジネスホテルに部屋をとる。
 深夜、管理(回収)が終了すると、回収してきた現金を持って3チームが社長の部屋に集合する。ベッドの上で、社長が現金を数え終わると、自動販売機で買ったビールを飲みながら1時間ほど反省会とも自慢会とも言えるときを過ごす。これが全員の楽しみだった。
 サラ金の取立てから逃れてきて社員になって取り立て側にまわっていた男性の話も出てきます。取り立てをしながら、わが身に思いを至していたようです。
サラ金悲劇というのは、特別な人に起きるのではない。
本書は、油断をしたり、つまらない見栄を張ったりすることで、自分を含めて誰にでも起きる出来事として13話がつづられています。サラ金の回収する側からみた人間社会の実相です。
ふだん回収される側の人々から相談を受けている私にとっても、大変勉強になる本でした。前に、この著者の『借金中毒列島』(岩波書店)を紹介したことがあり、著者より贈呈されましたので、ここに紹介いたしました。ありがとうございました。 
 秋分の日には彼岸花がたくさん咲いていました。黄金の稲穂には朱色の花が良く似合います。我が家の庭には、淡いクリーム色のリコリスがあちこちに咲いています。とても気品のある花です。見てるだけでさわやかな気分になってきます。縁取りがピンクの白いエンゼルストランペットの花、そして芙蓉の花も咲いています。秋の抜けるような青空の下で、花たちが美を競っているようです。
(2008年8月刊。1800円+税)

ハンドシェイク回路

カテゴリー:社会

著者:田島 一、 発行:新日本出版社
 いやあ、すごいすごい。ぐいぐい読ませる小説でした。現代の最先端企業の中で、何が起きているのか。エリート社員たちが過労死・過労自殺するのはなぜなのか。派遣社員ではない正社員がボロボロになるまで企業にこき使われている実態が克明に紹介されています。まさしく息詰まる展開です。ですから、ここには『蟹工船』のような悪臭のするドロドロした職場と暴力支配はありませんが、清潔で超近代的な職場の中でも企業の暴力的かつ非人間的な専制支配が貫いていることには変わりないことが分かります。
 問題は、そのような状況に労働者たちが唯々諾々と従うだけなのか、反抗し起ち上がる可能性がまったくないのか、ということです。この本には、長年、大企業の中で思想差別を受けてきた団塊世代の労働者も登場します。いえ、実は、その人が主人公なのです。
 大企業は、思想差別したことを裁判で認めて、差別撤廃を実行しました。だから主人公はプロジェクトチームに組み込まれ、過酷な労働現場に投げ込まれてしまったのです。定年間際なのに、納期に間に合わせるためには徹夜作業もこなさなくてはいけません。主人公の体調がおかしくなり、ついに休職・配置転換の申し出を決意します。
 ところが、エリート社員の方も異変が起きていました。取締役間近の責任者は過労のために入院するし、現場の中心となっている東大卒の技術社員も心身に変調をきたし、一時は自殺願望まで持っていたというのです…。
 電機メーカーの職場を克明に取材した小説です。迫真の描写にただただ圧倒されました。なにしろ、すごいんです。ぜひ、あなたも読んでみてください。職場の大変な状況がひしひしと伝わってきます。
 差別是正のあとに、このような形で仕事の負担となって現れるとは、思ってもみなかった。というより、それは見えなかったというのが正しいのかもしれない。
 タイムスケジュールで管理される開発の最先端の部隊に組み込まれると、個人としては時間がままならなくなってしまう。プロジェクトチームに入るというのはそういうことなのだ。
 このような業務に無縁の扱いを受けてきた者にとって、年齢を経てから就いた第一線の場はかなり厳しいものがあった。
 周囲の労働者が、ここまで働いているとは知らなかった。これまで、過酷な労働が牙をむいて襲い掛かってくることは決してなかったし、ある意味で差別という環境下で、自分は安全地帯にいたと言えるのかもしれない。だから、若者たちがこれほどまでに働かされ、仕事に絡めとられているという実態が十分に把握できていなかった。それが現実のものとして実感できたのは、プロジェクトチームの一員となって、責任を共有してからだった。
 長い間、職場から排除されて、若者との接触が絶たれていた。それは、支配層には都合がよかった。だけど今、やっと若者たちと力をあわせてやれるときが来たんだ。がんばらなくっちゃ。
 うん、うん、そうなんです。まったく同感です。団塊世代の私たちは、今こそ20代、30代の若者たちに声をかけ、一緒に行動していくべきなんだと思います。
 現場の若者たちの心の闇は深い。だいたい何かを一緒にやって、それを実現させたという経験がないんだから、何をやっても燃えないんだよね。
 この状況を変革しないことには、日本はいつまでたっても変わりません。アメリカにならってルールなき資本主義化に狂奔している日本ですが、せめてEU諸国のように節度ある人間尊重の資本主義国でありたいものです。今の大企業(メーカー)の最先端の職場の状況を知りたいみなさんに一読をおすすめします。 
 フランスで切手を買うのに苦労した話です。私は外国旅行に出かけたとき、ほとんど買い物はしません。なによりスーツケースが重くなるのが厭なのです。その例外は絵葉書です。これも貯まると重たくなりますので、切手を買って日本へ送るようにします。すると、日本に帰ってから、絵葉書を眺めながら、ああ、こういうことがあったな、これを見たねと思い出せる楽しみがあります。パリで切手を買おうとしたときのことです。自動販売機がありました。窓口には行列ができています。この自動販売機は送るものの重量を測らないといくらの切手なのか分からない仕組みです。それでマゴついてしまいました。そして一度に何枚も買えません。同じ操作を繰り返さないといけないのです。ところで、郵便局の出入り口には変なおじさんが待ち構えています。この人、誰なの。不思議に思いました。あとで、要するに物乞いの男性だったことが分かりました。誰か来ると、さっとドアを開けてくれるのです。来た人が、チップを素早く手渡す光景を見て、やっと思い当たったのです。
(2008年7月刊。2000円+税)

草すべり

カテゴリー:社会

著者:南木 佳士、 発行:文芸春秋
 この著者の文章は、ちょっと働きすぎて疲れちゃったな、そんな気分のときにすーっと胸にしみいる気がします。
 浅間山、千曲川、佐久平・・・。中年になると、山登りもきつくなります。それでも山に登りたくなるのです。そのときの心の微妙な揺れ動きが、哀愁の響きとともに語られます。
 著者とおぼしき医師が登場します。死にゆく患者を看取ると、医師のほうにも疲れが募り、医業のむなしさにぶつかってしまいます。
 山歩きは、どこかしら書く作業に似ており、書かれた言葉が次の言葉を呼んで、物語の世界が少しずつ様相を変えながら構築されていくのと同じで、汗にまみれて到達した頂からの眺望が次の目標を無意識の中に植え込み、新たな山域の清浄な大気は、さらに先へと向かう意気の燃料となる。
 芥川龍之介の『河童』が紹介されています。はてさて、高校生の頃読んだはずだが、いったいどんな内容だったのだろうか、と思いました。さっぱり思い出しません。『河童』は、芥川が36歳で自殺する5ヶ月前に発表された作品だそうです。今一度読んでみようかな、と思いました。
 著者の本をもとにした映画「阿弥陀堂だより」を思い出しました。素晴らしい四季折々の大自然とともに、しみじみと人生を考えさせてくれる傑作でした。
 パリやトールーズの街角のあちこちに自転車置き場を見かけました。いかにも貸し自転車という感じで、パーキングメーターにつながれています。若者が近寄って、ひょいと乗って立ち去る姿を何回も見ました。最近のNHKフランス語講座で、これはヴェリブというシステムだと教わりました。先日の新聞記事でも紹介されていました。市民が保証金を支払って登録すると、30分以内ならタダで自転車に乗れ、どこででも返すことができるというのです。しかも、協賛企業に費用を負担してもらっているので、市の負担はないとのことです。パリ市内だけで2万台の自転車が用意されているそうです。自動車を市街地から減らすためのいいアイディアだと思いました。
(2008年7月刊。1500円+税)

渥美清の肘突き

カテゴリー:社会

著者:福田 陽一郎、 発行:岩波書店
 本書は、渥美清やクレージーキャッツをテレビの世界に引き入れ、越路吹雪にテレビ一人芝居をさせ、三谷幸喜が演劇を志すきっかけをつくり、夏目雅子の最初で最後の舞台を演出した鬼才の貴重な自伝だ。
 これは、本書の表紙ウラの言葉です。昭和7年(1932年)生まれだそうですから、今は76歳になる著者がテレビ草創期のエピソードなどを含めて、自分の人生を振り返ったものですが、貴重な現代史の証言となっています。
 私も前はテレビを見ていましたので、それなりに状況はわかるのですが、舞台を見たことは残念ながらほとんどありません。東京近辺にいたとき、『泰山木の木の下で』という確か劇団民芸の舞台を見たな、という程度です。樫山文枝(「おはなはん」を見て憧れていました)が登場した記憶があります。
 渥美清は、昔から舞台と映画を見に行っていた。著者も誘われてよく一緒に行った。舞台の後のお茶や食事の雑談が楽しみだった。渥美清と一緒に行ったときには、隣り合わせに座る。舞台が始まって15分か20分たつと、隣席の渥美清から無言の軽い肘突きが来ることがある。こりゃあもう駄目だから、一幕で帰ろうぜ、の合図なのである。
 この合図が、この本のタイトルになっています。渥美清は次のように言ったそうです。
 最初の15分でお客を舞台に引っ張り込めなければ駄目だ。よほどのことがなければ、あとは知れてる。
 渥美清の言うことには一理ある。最初の15分、20分で観客をひきつけられない、引っ張り込めないなら、盛り返すのは難しい。難しいといわれる芝居でも、説明や解説的なことで20分も費やしていたら、いい台本とも言えないし、いい演技・演出とはとても言えない。「肘突き」で困ることはまずなかった。渥美清の直感は正しいことが多かった。肘突きがあって休憩の合間に抜けた後は、時間もあるからその雑談のほうも何倍も面白かった。身振り手振りを変えて描写するので、腹を抱えて笑った。マドンナ女優を的確につかんでいた。そして若手の俳優をよく知っていた。柄本明の名前も渥美清から聞いて知った。
 なーるほど、なるほど、と思いながら昔を懐かしみつつ読み進めました。 
 フランスの駅で切符を買うのは大変です。自動販売機もありますが、コイン専用で札を受け付けません。ですから、ちょっと遠いところは窓口で買うしかありません。ところが、窓口にはいつも長蛇の列ができていて、20分とか30分とか待たされます。というのも、一人一人が駅員相手に観光案内所のように相談をしている気配なのです。だから時間がかかります。それで、時間のない人は列の先頭に割り込みます。後ろから文句を言う人には、だって時間がないものと言い返す厚かましさが求められます。これって、大変なことですよね。
(2008年5月刊。2400円+税)

ケータイ・ネット時代の子育て論

カテゴリー:社会

著者:尾木直樹、出版社:新日本出版社
 私の法律事務所でも最近、ケータイにホームページを開設しました。今のところ、毎週140人ほどのアクセスがあります。もちろん、まだまだです。名刺や封筒にQRコードを刷りこんで大いに宣伝しているところです。今や若者のほとんどが手にケータイを持っている時代です。そこへアクセスして客を誘引しようという試みです。ちなみに、作成したのは最若手の事務職員です。したがって開設費はタダ。運営費もタダなのです。いやあ、信じられませんね。
 ケータイが鳴ると、多くの子は即座に返信する。このレスポンスが15分も遅れると、その子は「友人」のワクからはずされてしまう。メールの送信回数が1日41回以上の生徒は、5回以下の生徒に比べて、男子で1.7倍、女子では1.4倍も、いじめの加害者になっている割合が高い。
 小学校や中学校でいじめにあった被害者のうち、高校で加害者側に転換した者は、一貫した加害者に比べ、何と17倍にも達している。
 今やメールで知り合い結婚にまで進むカップルも珍しくない時代である。
 実際、私の知っている弁護士本人、そして弁護士の妹さんがメールで知りあった相手と結婚して、幸せな家庭生活を営んでいます。いかがわしい「出会い系サイト」ばかりではないのですね。
 親が子育てにどう関わるかで、最近、目立った特徴がある。それは、父親が子育てに参加するのがきわめて多くなったということ。授業参観に参加する父親は2割くらいいるし、学習塾の説明会となると6割になることもある。大学でも入学式から就職説明会まで保護者同伴が当たり前となった。
 そして、それはモンスターペアレントがダブルモンスターになることもあることにも直結している。つまり、父親が「まあまあまあ」と言う止め役、なだめ役にまわるのではなく、夫婦一緒になって興奮しながら教師や学校に抗議し続ける姿である。
 しかし、父親と母親とが同じ立場から子どもの教育に熱を入れ口出しすると、子どもが逃げ場を失いかねない。まずは、離れた目線で、子どもの表情や態度を観察してみる必要がある。そうなんですよね。でも、これって、口で言うのは易しでもあります。
 最近、連続して起きた家庭内殺人の家庭には共通の特徴がある。親が地域の名士、高学歴で社会的地位の高い職業に就いている、加害少年少女はまじめで成績優秀、という傾向。その子どもたちは受験などへの親からの圧力にさらされている。
 また、これらの少年少女には自尊感情がたくましく育っておらず、自己肯定感がきわめて脆弱である。家庭が心安らぎホッとできる居場所ではなくなり、息詰まる緊張感や抑圧感に満ちていた。
 うむむ、かえりみると、わが家は果たしてどうだったのでしょうか。胸に手をあててみて、深く反省せざるをえません。子どもに対して、かくあれかし、というのを強く押しつけ過ぎたように思って、顔から汗が噴き出してしまいました。一言、弁解すると、まあ、それだけ真剣に子育てに向かいあってはいたのですが・・・。ネット、ケータイ時代において子育ては、一段と難しいと思ったことです。
(2008年1月刊。1500円+税)

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