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カテゴリー: 社会

黒の狩人

カテゴリー:社会

著者:大沢 在昌、 発行:幻冬舎
新宿警察署の刑事が特命で事件を担当することになります。そうです。舞台は、いつもの新宿。新宿の闇にうごめく黒社会の連中と、それにまつわる警察官たちが登場します。ヤクザの用心棒のような存在の刑事も登場してきて、大沢ワールドは、いつものように底知れぬ闇の深さを感じさせます。救いようのないほど深い闇が、この東京の一部に厳として存在するわけなのです。知らぬが仏とは、よく言ったものです。
私の事務所の若い女性事務員は、大学生の頃、上京したついでにみんなで歌舞伎町ツアーを敢行したと話していました。夜の歌舞伎町には昔、私も何回か行ったことがありますが、なんだかとても落ち着かない気分になりました。はっきり言って、怖い町です。
この本は、中国から出稼ぎでやってきた中国人たちの活動状況を底流としています。そこに中国政府の意向を代弁する中国の国家安全部の役人が関わってくるのです。もちろん、小説ですから、現実をどの程度反映しているのか、私には分かりません。
日本に来る中国人が一番ほしいのはお金だ。ところが、うまく金儲けできる人と、そうでない人がいる。うまく金儲けできる人の最初の条件は、日本語がうまいこと。お金儲けのうまくない人は、たいてい日本語が下手だ。それは、つまり、それだけ努力をしていないということを意味している。
台湾マフィアと中国マフィアは違いがある。台湾マフィアは、日本に来る前から本職だったところが、中国マフィアは、カタギが日本に来てマフィア化する連中が少なくとも当初は大半だった。もとが学生だから、頭もいい。パチンコの裏ロムや偽のクレジットカードも簡単に作れる。そのうえ、中国本土での犯歴がないので、指紋などのデータがない。
中国にいるときはカタギ、日本に来たらマフィア。これでは、捕らえようがない。ふーん、なるほど、そういうことなんですか。
かつて、簡単に稼いだお金を「あぶく銭」と呼んで、人は軽蔑した。しかし、今は「あぶく銭」をつかむ者が尊敬される。手段ではなく、目的優先の時代である。「成金」という、一代で財を成した者へつかわれる侮蔑的な呼び方もなくなった。かわりに広く使われている言葉は「セレブ」だ。このわけの分からない呼び方が広がっているのは恐ろしい。お金さえ持っていれば「セレブ」。それを見せびらかすことで憧れられる存在になるのが人生の目的と自負する人が増えた。そんな日本に対して、出稼ぎにやってくる中国人が好意を持つはずはない。いやあ、まったくその通りです。
ヤクザによる警官の買収には、実は限界がある。それは、ヤクザの側に、買収される警察官への侮蔑があるからだ。それを感じてもなお、たかり続けられるほど誇りのない警察官は、そういない。
中国は、日本と比べものにならないほど公務員の腐敗が深刻だ。買収に関しては、する側もされる側も、それに慣れていて、侮蔑や後悔の感情がなく、行為が成立する。
腐った警察官は、泥棒、強盗、詐欺師、あらゆる犯罪者よりもたちの悪い、職業犯罪者と化す。刑事殺しまで発生します。さあ、この続きはどうなるのだろうかと、ワクワクする思いで読み進めていきました。
夜の新宿をめぐる大沢在昌ワールドの真骨頂が描かれ、そのなかで主人公が活躍します。
(2008年9月刊。1700円+税)

さらば!同和中毒都市

カテゴリー:社会

著者:中村和雄・寺園敦史、 発行:かもがわ出版
 京都の弁護士が京都市のひどい実態を鋭く告発した本です。いやあ、これはひどい。こんなにひどいのか、と改めて怒りがわいてきます。この本を読んでいてただひとつの救いは、このひどい現状を改革しようとする中村弁護士がいることです。といっても、残念なことに、中村弁護士は京都市長選に立候補したものの、惜しくも当選できませんでした。
 桝本・京都市長が1996年に誕生してから12年間に、逮捕された京都市職員は94人。2006年には1年間に15人も逮捕された。逮捕された京都市職員の犯罪で多いのは覚せい剤の使用と譲渡容疑である。
 その原因について、桝本市長は次のように述べた。
「採用に当たり、社会正義の実現のために同和地区の出身者の優先雇用をするという現業の問題が構造的な問題と言える」
「採用時に、部落解放同盟や当時の全解連に優先雇用枠を与えた。その結果、任命権まで京都市から運動体の一部の人物に行ってしまった。そこにもっとも大きな問題があると考えている」
 そうですよね。市職員の採用が「一部の人間」の恣意によってしまったら、何が起きるか分かりません。犯罪者多発と公金横領の温床です。
 京都市で明るみになった同和補助金搾取事件は総額8000万円。大勢の市職員が関わって日常的に実行されていた。ところが、2003年7月に発表された処分は、対象となった57人のうち誰一人として免職にならず、せいぜい減給・戒告どまりだった。それどころか、当時の市教委総務部長は教育長に、人権文化推進部長は副市長に、もっとも多額の公金搾取を繰り返していた2支部に協力していた担当課長は局長へ昇進した。
 京都市政に巨額の損害を与えても、運動団体とのあつれきを避け、同和行政を「円滑」に進めたことが評価されたわけである。
 いやあ、これでは真面目に同和問題に取り組み、部落解放を目ざしてがんばってきた人は浮かばれませんよね。
(2008年9月刊。933円+税)

JRのドン葛西の野望を警戒せよ

カテゴリー:社会

著者:樋口 篤三、 発行:同時代社
 葛西敬之(かさいよしゆき)は、JR東海の社長そして会長になり、国家公安委員をつとめる大物財界人です。
 葛西は1980年代の国鉄分割民営化にあたって「改革三人組」の一人と言われた。国鉄職員局次長として「労組とのつばぜりあいの前線指揮官だった」と本人が自らを振り返っている。
 そして、この20年間、松崎明打倒、JR総連解体を執拗に追求してきた。葛西は、その直系のJR連合に、国労をふくめてJRの全労働者を吸収することを目標としている。
 私には、この本に書かれていることが真実なのかよく判断できません。しかし、国鉄を分割して民営化して本当に良かったのかについて、私は根本的な疑問を抱いています。サービスが良くなったとも思いませんし、何より、日本の労働組合全体が決定的に弱体化させられてしまいました。ストライキが死語になって、日本の民主主義を支える基盤の一つがなくなったも同然です。企業・財界が異常に強くなりすぎました。いま、問題になっている非正規雇用の問題についても、労働組合の弱体化と裏腹の関係にあります。なんでも資本の思う通りというのでは、日本の若者から職を奪い、それでは健全な日本の将来がないことは、今の事態が見事に証明しています。
 JR総連を指導してきた松崎明については、本人も革マル派だったことを認めています。しかし、今は革マル派とは関係ないとしています。著者もそれを認めています。
私は何年か前、憲法改正手続法が成立する前の福岡での公聴会のとき、久しぶりに革マル派という大きな旗とヘルメット集団を見て、あれっ、まだいたの、と思ってしまいました。学生時代はよく見かけましたが、その後、内ゲバで他党派との殺し合いをして、ほとんど捕まらないうちに姿を消したとばかり思っていました。
 革マル派には三大拠点があった。早大、沖縄、そして動労。JR内の革マル派は、1992年から93年にかけて全員が脱退した。沖縄の革マル派は、2000年ころに脱退した。そのころ、人間関係を含めてJR内の人間は革マル派と完全に切れた。今あるのは、動労を率いてきた松崎明の周囲に集まった松崎組のようなもの。
 ところが、警察はその実体をよく知りながら依然として、JR総連内に松崎の率いる革マル派が相当数いると国会などで公式答弁を繰り返している。
「週刊現代」は2006年7月から24回にわたって、松崎・JR総連たたきの記事を連載した。テロリスト、労組の革マル派による暴力支配、公金横領など……。
 しかし、公金横領について、2007年12月27日、検察は不起訴とした。
 これは一体、どうなっているのでしょうか。国鉄(いまのJR)には、なんだかドロドロしたものが昔も今もたくさんあるようで不気味です。これでは安心してJRを利用できません。
 私の身近な人に国労争議団のメンバーがいます。とても気のいい方です。資本が労働者をモノとして使い捨てしていいという風潮だけは絶対に改めるべきだと思います。国鉄時代の労使紛争が今も解決していないなんて、日本社会の恥ではないでしょうか。
(2008年12月刊。510円+税)

在日米軍最前線

カテゴリー:社会

著者:斉藤 光政、 発行:新人物往来社
 ミサイル防衛とは何か。それは敵国から飛んでくる弾道ミサイルをいち早く高性能のレーダーでキャッチし、着弾前に撃ち落とす防空システムのこと。日本が仮想敵国としているのは、もちろん北朝鮮と、その背後に控える中国だ。
 日本版ミサイル防衛網は、とりあえず、PAC3を4個高射群、SM3搭載のイージス艦4隻、FPS-5を4基調達することにした。その費用総額は1兆円に達する。
 しかし、その信頼性や命中精度などに多くの問題点を抱えている。実際、弾丸を弾丸で撃ち落とすようなものだ。本当に当たるのか?
 ミサイル防衛は、高価な割に実用性がほとんどない(アメリカ物理学会)。PAC3のカバー範囲は、現用型(PAC2)の4分の1程度(航空自衛隊幹部)と厳しい指摘がなされている。システム全体の命中率は、50%かもしれないし20%以下かもしれない。
 ええーっ、1兆円もかける事業なのに、はじめから2割以下の命中率だろうというのですから、呆れてモノが言えません。
 日米安保条約にある「極東条項」は、在日米軍の基地使用を「フィリピン以北の韓国と台湾地域」に限定したもので、アメリカ軍の暴走を防ぐためにもうけられた。しかし、アメリカ軍は、第5空軍と第13空軍の担当エリアをアラビア海にまで広げた。統合司令部をこれまで通り横田に置いておくと、この「極東条項」に抵触してしまう。
もともと、アメリカのミサイル防衛はアメリカ本土と日本にあるアメリカ軍基地を守るためにある。日本の防衛は二次的なものにすぎない。
 北朝鮮の軍事力は、資金不足から、この10年間、まったく近代化していない。頼りは、世界最大規模の特殊部隊と化学兵器などの大量破壊兵器だ。
 ノドンの精度は低い。国会議事堂を目標にして、2発中1発が山手線内に落下するレベルでしかない。ミサイルに搭載できるほど核弾頭の小型化には成功していないと見られる。北朝鮮を軍事力で追い詰めてしまうと、かえって危険なように思います。
 三沢基地から飛び立ったF16はすでに11基が墜落した。2年に1機の割合で墜落している。事故の要因は、安全性を犠牲にしても性能を第一とする戦闘機の特性にある。
 イラク戦で対地上部隊用に使われた高性能爆撃クラスター900発のうち、1割を投下したのは三沢発の機体だった。
 私たちは、いま日本にいるアメリカ軍、そして自衛隊の装備やその実体について、あまりにも知らない、知らされていないということがよく分かる本です。
(2008年9月刊。1600円+税)

強い会社は社員が偉い

カテゴリー:社会

著者:永禮 弘之、 発行:日経BP社
 成果主義制度は、実は人件費削減の方便だった。日本企業は正社員を重用するどころか、正社員を減らす方向に進んでいる。派遣社員やパートに仕事を任せ、業務の多くをアウトソーシングし、コストダウンを徹底的に行うことで、短期的な利益を確保していく。そして、仕事のやりがいや雇用の安定に対する労働者の満足度は長期的にみて下がっている。
 この底流には株主資本主義という考え方がある。株主は短期的な株価上昇を求め、短期的な利益追求に走りがちである。そんな企業は、社員を資産として見ず、コストとみなして切り捨てる。その結果、会社と社員は友好関係から敵対関係になった。
キャノンは大分だけで1200人もの従業員を首切るそうです。赤字どころか、この1年間で2800億円の余剰金を出していながら、です。日本経団連の御手洗会長の会社ですから、日本の企業の将来はない。というか、日本の若者の未来を奪う経済界は、自分さえよければいいと考え、日本の将来をダメにしています。そのくせ、若者に対して愛国心の欠如を云々というのですから、まさしく噴飯ものです。プンプンプン。
 著者は、短期的利益だけを追求し、個人をないがしろにする経営は間違いだと断言します。そして、会社の中でのびのびと、しかし厳しく仕事をする正社員。彼らこそ日本企業の明日をつくるのだと強調します。まったく同感です
 社員を人件費というコストとして見るのではなく、顧客への価値、バリューを生み出す源泉としてとらえ、社員の活用を第一に考える経営が今こそ必要なのだ。本当にそうだと思います。
 差別的な扱いを受け、低賃金に甘んじる非正規社員が増える一方で、正社員は人員削減のしわ寄せによる仕事量の増大と成果主義の導入による目先ばかりの社内競争によって、心も身体も疲れている。
 顧客や社会に役立つという視点を第一にすることで、仕事への使命感が芽生え、そこにリーダーシップが生まれる。リーダーシップという土台の上に、仕事に必要な経験やスキル、知識を身に着けていく。
 気分障害(うつ病など)の患者は、1999年から2005年にかけて、20代で3万1000人から8万9000人に、30代で5万6000人から16万2000人に、それぞれ3倍も増えている。いやあ、これって大変なことですよ。次代を担う世代がこれでは、本当に日本の将来はありません。
 偽装請負までしてワーキングプアの非正社員を増やす一方で、最高益を更新し続けることが「優良企業」と言われる会社の望ましい経営の在り方なのか、考え直すべきだ。まったくそのとおりです。日本経団連は根本的に間違っています。無責任ですよ。
 日本企業の若手社員は、自分の勤める会社を見限り始めている。2000年以降、大卒新入社員全体の3分の1が、入社3年内に会社を辞める。
 短期の業績に振り回される成果主義人事制度は、高い能力を活かせる仕事があるからこそ会社に長くコミットしたいという人にとっては魅力的でない。
 顧客への高い価値を創造できるような優秀な人は、会社が短期の成果に右往左往しないで、自分の得意技を信じて、魅力的な仕事を任せてくれることを望むものだ。
 仕事をワクワクしたものにするには、中身も大事だが、自分の意思で選ぶことができるかが効く。社員の働く意欲と能力を高めるには、本人がやりたいことをやってもらうのが一番の近道である。人間の創造性を伸ばすには、自発性が大切なのだ。
 社員を評価するときのポイントは、あくまでもチームの業績への貢献度に置く。
 昔と比べて、上司と部下との濃密なコミュニケーションが少なくなっている。
 実は、この本に書かれていることは、弁護士にとっても大いに参考になる内容でした。
(2008年10月刊。1600円+税)

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