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カテゴリー: 社会

任天堂

カテゴリー:社会

著者 井上 理、 出版 日本経済新聞出版社
 2009年3月、任天堂のケータイ型ゲーム機(ニンテンドーDS)は世界累計販売台数が1億の大台に乗り、据え置き型ゲーム機(wii)も5000万台を突破した。
 今やニンテンドーは、トヨタと肩を並べる世界的なブランドとなった。2008年度の売上高は、5年前に比べて3.3倍の1兆6724億円。営業利益は4.9倍の4872億円になった。3800人いる従業員1人あたりの売上高は4.4億円。2009年3月、売上高、そして営業利益は過去最高の5300億円となり、トヨタを抜いて国内首位となった。
 私はテレビを見ませんし、ゲームもまったくしません。興味ないからです。30年前にインベーダーゲームが流行したとき、2回か3回したことがありましたが、私には時間の無駄、つまらないものでしかありませんでした。任天堂は、私のような人間を初めからターゲットにしていません。それでも、大人がゲームをする余裕をなくしたことに目をつけ、そこで挽回しようと考えたというのです。すごい発想です。
 海外で売れているというニンテンドッグスは、画面のなかの愛犬の世話をするものだそうです。ひところ流行したタマゴっちのようなものですね。愛犬の名前を呼ぶと、音声認識機能で反応する。世界累計で2167万本も売れているそうです。すごいことです。
 電源をオフにした状態でも、ネットからの情報収集を続ける機能を残す。そのため、恐るべき低消費電力の眠らないマシンを開発し、完成させた。
 任天堂の研究開発費は、年々、増加傾向にある。2007年度は370億円。1人あたり3500万円もつかえる計算になる。キャノンは1200万円。任天堂の3分の1だ。
 任天堂のオーナー山内溥は日本一の大富豪。自分がビデオゲームで遊ぶことはなく、クリエイターでもない。しかし、その直感がズバリあたってきた。
 任天堂は、努力したあとは運を天に任せるという独特の世界観でやってきた。重圧に押しつぶされたり、悲壮感に打ちひしがれたりすることなく、ニコニコしながら種(タネ)を仕込み続ける。
 まさに世はソフトの時代である。今は、モノがあふれかえる飽和の時代。基本性能や耐久性がモノを言う時代は終わり、デザインや使い心地、利便性が消費者の心をつかむ分かれ目となっている。
 ゲームの世界の奥深さを感じさせる本でした。
 
(2009年5月刊。1700円+税)

路面電車を守った労働組合

カテゴリー:社会

著者 河西 宏祐、出版 平原社
 久しぶりです。労働組合って何をするところなのか。労働運動のすすめ方。職場で労働者の権利を守って闘うための工夫。少数派に転落した労働組合が再び多数派に回復する闘いで求められるものは何か。この本には労働組合活動の原点とも言うべき大事なことがぎっしり詰まっています。
 この労働組合は、市内を走る路面電車を存続させ、契約社員を正社員化させたのでした。私鉄広島電鉄支部の物語です。
 私は大学1年生のときに学生セツルメントに入り、若者サークルで活動しました。ですから、青年労働者の実情を知ると同時に、労働組合運動の状況も知りたいと思ってたくさんの本を読みました。司法試験に合格して司法修習生になったときにも労働現場を知りたくて修習生仲間で職場訪問したところ、誰がどう間違ったのか第二組合を訪問してしまい、お互いに気まずい思いをした覚えがあります(全金東京計器支部を訪問するつもりだったのです)。
 そんなわけで、久しぶりに労働組合運動の大切な原点が一人の指導者のすさまじい生き方を通して生き生きと語られている本を読んで、感動とともについつい学生時代のことを思い出したのでした。
 この本の主人公は小原保行という人ですが、惜しくも10年も前に早逝されています。1930年生まれですから、生きていたら、もう80歳近い人です。戦後まもなくのバス運行の現場ではチャージ(料金横領)が横行しており、労働組合幹部が不正を働くベテラン運転士と結託していた。うへーっ、ひどいものです。
 会社側が第二組合をつくって分裂策動をすると、昨日まで左翼的な言辞を吐いていた左派と目されていた連中が一夜にして主張を変えて脱退の旗を振った。
 残念なことに、どこにでも起きる構図ですよね、これって・・・。
 小原保行は、1954年、24歳にして書記長に選出され、以来、定年までの36年間、ずっと組合役員をつとめた。
 1960年代に入って路面電車が赤字になると会社は、電車撤去のための布石をうちはじめた。人を入れない。電車撤去のときに身軽にしておきたい。たくさんの人を抱えていると、人員整理に困るから。終電時刻を切り上げ、運転間隔をあける。こうやって利便性を落としていって、利用者を減らす。そこで、組合は、電車の機能を高める、その社会性を高めるたたかいに取り組んだ。
 マイカーの軌道敷内通行が禁止され、スピードが回復されると、利用者が徐々に戻ってきて、ついには大赤字だった路面電車が黒字になった。
 損益分岐点は、組合も無視してはいけない原則的な問題なのだ。うーん、そうですか……。
 このおかげで、広電支部は路面電車部門で一気に多数派になった。労働組合の団結力は、第一に、学習・集会・行動。第二に闘争資金。第三に、青年・女性部の活動。第四に、共済活動。第五に、政治力。それから、家族組合、退職者同盟、地域共闘、産別統一闘争。
 契約社員を正社員として、賃金体系と労働条件を統一する。そして契約社員を廃止したというのです。すごいですね。やはり、労働組合は、自分たちだけに目を向けてはいけません。こうやって自分たちの足下を固めて、広げていくべきなんですよね。
 すごくいい本でした。著者に拍手を送ります。
(2009年5月刊。2000円+税)

消費税によらない豊かな国ニッポンへの道

カテゴリー:社会

著者 富山 泰一、 出版 あけび書房
 日本の常識は世界の非常識。この本を読むと、そのことがよく分かります。
税・社会保険負担の高い国は、社会的保障の充実しているところが多い。基本的に生活を保障されている国ほど、国民負担率は高く、企業も活性化している。税金が高くても、その見返りとしての生活保障が実行されていると、国民は高い税金を払うことに納得する。しかし、残念なことに、日本では負担が高いだけで、生活の安定が保証されていないため、政府を信頼できない。
 ヨーロッパの多くの国では、医療・教育そして介護は無料であり、失業給付も充実している。デンマークでは、失業給付は5年間、無年金者はいない。スウェーデンでは、子ども3人がいると、児童手当だけで家族5人全員の食費が賄える。
 そうなんです。日本でも、医療・介護そして教育をみんな無料(タダ)にすべきなのです。そのための税負担が高いのなら、私も文句は言いません。
 ムダな軍事費(実効性のないミサイル防衛に5000億円つかう。アメリカもムダだとしてやめたF22を50機、2兆円も出して買う…)、そして、九州新幹線やら道路、橋などの大型公共工事をやめたら、これは日本でも十分に可能なんです。
 ゼロ金利が続いている。1991年の利子収入がもし続いていたとしたら、2004年までに国民が失った利子収入は304兆円。一方、企業のほうは利子負担を260兆円も減らし、金融機関は95兆円も利子所得を増やしている。
 消費税を導入して20年経つ。なぜ消費税を提言したのか。高齢化社会を迎えるためと説明したが、本当は、そう言ったら一般の人が分かりやすいと思ったからだと、今さらになって政府関係者が正直に告白しています。とんでもないセリフです。
 イギリスの消費税は、標準税率こそ17.5%と、日本より3倍も高い。しかし、税率は3段階に分かれていて、家庭用燃料と電力は5%。そして、ゼロ税率は食料品、水道水、新聞、雑誌、医薬品、建築など、生活にかかわるものが含まれている。
 消費税が導入されてから企業が増やした内部留保額は、176兆円(1989年度)から411兆円(2006年度)と、236兆円も増えている。
 10億円以上の大企業は、増収増益であり、人件費などのカットにより、利益蓄積を増やしつづけている。そして、株主への配当が急増しているうえ、役員報酬が急激に増えている。役員報酬の一人当たり平均額は、日産自動車で3億円近く、ソニーは2億円あまり、住友商事は1億4000万円、コマツは1億3000万円、マツダも同じく1億3000万円、トヨタは1億2000万円。資本金10億円以上の大企業の役員報酬は、2004年から急増し、1995年と比べて2倍になっている。なんとなんと、これほどの超高給とりが、公務員の給料は高すぎるだなんて公言しているのですからね…。
 日本でも、所得が100億円を超えるのが9人、50~100億円が27人、20~50億円が92人もいる。しかし、逆に年収200万円以下の給与所得者は1220万人(2007年)。小泉内閣当時の234万人(2001年)の5倍以上に急増している。そして、正規雇用が454万人も減り、非正規雇用が490万人増えている。
 日本のあり方を大いに考えさせられる薄いパンフレット(140頁)でした。もっと知りたい、知らせたい、実に重たい内容がいっぱい詰まっています。
 
(2009年5月刊。1500円+税)

われら青春の時

カテゴリー:社会

著者 佐藤 貴美子、 出版 新日本出版社 
 1950年代、名古屋における学生セツルメント活動、そして、元セツラーが医師となって地域に定着し、民主診療所を切り拓いていく話です。
セツル、というのは住みついてという意味。困っている人たちのために、住みついて医療や教育を提供しようという運動。日本では関東大震災のあと、東京帝国大学の心ある学生たちが、診療所・託児所・法律相談などを実施したのが最初。
私が学生セツラーであったのは、それより15年あとの1960年代後半のことでした。それでも、かなり似たところはありますので、大いに共感・共鳴しながら読み進めていきました。学生セツルメント活動が全盛期を迎えたのは、私が大学を卒業したあと70年代はじめで、その後急速に衰退していったと私は考えています。
大須事件に学生セツラーが巻き込まれて刑事被告人となってしまいます。このころはまだGHQがいて、朝鮮戦争のあと、政治活動が禁止されていた時代でもありました。それにも負けず、セツラーたちは神社の境内で、納涼映画会を計画します。原爆映画を上映しようというのです。当日、トラック2台で警察の機動隊員数十人が襲いかかってきて、上映会はつぶされてしまいました。このころは、むきだしの弾圧があったのですね。
主人公の女性は、医学部生でした。医師国家試験になんとか合格し、地域に飛び込み診療所を開設します。そのとき、指導教授に会いに行って言われた言葉がすごいものでした。
「やるなら、大物になりなさい。目立つようにすることです。大物になるのです。さもないと、○○君のように、名無しにされ、行方知れずにされてしまいます。やる以上は強気で行くのです。大物になって目立つのです」
なーるほど、ですね。
このころは、『君の名は』に続く『笛吹童子』というラジオドラマ全盛の時代だった。うーん、なつかしいです。私も『笛吹童子』のメロディーは、今でもはっきり覚えています。それこそ、ラジオにしがみつくようにして聴いていました。
セツルメント診療所を案内するチラシはガリ版印刷だ。ガリッ、ガリッと音がしはじめた。ガリ切りという作業には、根気とコツがいる。鉄筆に込める指の力が強いと、紙が破れてしまう。用心して力を弱めると、蝋紙が切れないので文字が出ない。そのころ合いが微妙である。すべての文字を均等な力で書かねばならない。強調したい言葉について力を込めようものなら、そこだけ早く破れて、ビラ全体がダメになってしまう。
そうなんです。私も大学1年生の4月からセツラーとなってガリ切りを始めました。四角いマス目に字をおさめ、なるべくなるべく読みやすいように丁寧にカッティングするうち、それまでと比べて格段に読みやすい字が書けるようになったのです。
ガリ切りをした蝋紙を謄写版にセットする。これにもコツがあって、原紙をピーンと張らねばならない。しわがあると文字が歪んでしまう。ローラーにインクが平均につくようにならしたうえで、印刷していく。体重を全部ローラーにかけ、加圧するように回転させ、印刷された紙を一枚ずつめくっていく。
この作業を2人1組でするようにこの本では描かれていますが、私たちは1人でしていました。そのほうがよほど早かったように思います。右手でローラーを押しまわして、指サックを左手の親指にはめてザラ紙をめくっていくのです。
学生セツルメントでは、実は異性と知り合えることも大きな魅力だった。
いやあ、ホント、そうなのです。たくさんの出会いがありました。
セツラーたちは山道を歩くのにも歌いながら行くので、長い道のりも苦にならない。
セツルに入って歌う楽しさを始めて知った者が多かった。何かにつけて歌が出る。歌いながら、楽しく作業をすすめる。
生来音痴の私も、みんなの邪魔にならないように気をつけながら楽しく歌っていました。
 60年代の学生セツルメントを知りたい人には、『清冽の炎』1~5巻(花伝社)をおすすめします。あわせて、当時の東大駒場の状況もよく分かる本です。
 
(2009年6月刊。2000円+税)

ビジネスで失敗する人の10の法則

カテゴリー:社会

著者 ドナルド・R・キーオ、 出版 日本経済新聞出版社
 コカ・コーラの元社長によるビジネス本です。さすがに鋭い指摘がなされていました。
 会社というのは人間が考えた概念にすぎない。会社が何かに失敗するということは、実際にはない。失敗するのは個人だ。なーるほど、ですね。
 失敗したいなら、柔軟性を否定すべきだ。しかし、柔軟性それ自体に価値があるわけではない。柔軟性と適応力は、企業の指導者に不可欠な資質であり、管理能力や業務の能力、技術力といった個々の能力を超えるものである。
 いまは情報の時代だと言われている。しかし、これは正しくない。情報の時代ではない。データの時代なのだ。データは無限に入ってくる。なるほど、そう、そうなんですよね。
データ中毒になって、未処理のまま洪水のように流れ込んでくるデータに忙殺され、考える時間が取れなくなっている。受信箱ショックと呼ばれる状態になっている。つまり、入ってくるデータが多すぎて、処理しきれなくなっている。
 凡人にとっては、情報通信技術のために、ムダな時間を省いて、今やっていることに集中し、じっくりと考えるどころか、時間が圧縮されて、ストレスがたまるようになっている。
 データはいくら集めても、多すぎるということはありえない。これは間違いなのだ。
 うーん、そうなんですよね。でも、データに振り回されないようにするというのは、実のところ、かなり難しいんです。
 成功をおさめている人はみな、自分の仕事に愛情をもっていて、きわめて熱心に取り組んでいる。どんな職業であっても、みな自分の仕事に心から熱意を燃やしている。少し度が過ぎるのではないかと思えるほど、夢中になっている。
 ふむふむ、これもぴったりくる指摘ですね。なるほど、なるほど、と思います。
 リスクをとるのをやめ、柔軟性をなくし、部下を遠ざけ、自分は無謬だと考え、反則すれすれのところで戦い、考えるのに時間を使わず、外部の専門家を全面的に信頼し、官僚組織を愛し、一貫性のないメッセージを送り、将来を恐れていれば、必ず失敗する。
 そうなんですね。よーく分かりました。
(2009年5月刊。1600円+税)

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