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カテゴリー: 社会

あたりまえという奇跡

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山下 欽也 、 出版 センジュ出版
 「岩手・岩泉ヨーグルト物語」というサブタイトルのついた本です。
 51歳の著者が2億8千万円の累積赤字をかかえる会社の社長に就任し、3年目で黒字を達成して、今や年間20億円を売り上げているというのです。主力はアルミパウチに入った「岩泉ヨーグルト」。社員20人の社員をかかえているというのもすごいことです。
 舞台となる岩泉町は、岩手県の中央~東部の小さな町。人口は8千人ですが、本州の町の中では、もっとも広い面積を誇っています。といっても、町の総面積の9割以上は山林。
社長としての決断は、ヨーグルトに特化すること。牛乳ではもうからない(ヨーグルトのほうが利益率が高い)。
 岩泉ヨーグルトが他のヨーグルトと違うのは、必ず生乳、それも岩泉町とその近辺のホルスタイン牛の生乳を使うこと。
 他のメーカーのヨーグルトは粉乳を水で溶き、そこに乳酸菌を入れているので、水っぽいヨーグルトになる。
 生乳でこそ生まれる濃厚なコクと風味豊かな味わいがある。そして、後発酵と低温・長時間発酵。後発酵とは、生乳に乳酸菌を入れて、パック詰めにしたあとに発酵させるもの。発酵温度は33~35度。かなりの低温状態で20時間、通常の3~4倍の時間をかけて、じっくりと発酵させる。大量にはつくれないが、これによって酸味のないまろやかな味とコク、決して水っぽくない、しっかりとした食感をもつヨーグルトになる。
 凝固剤や酸化防止剤、香料などの添加物は一切使わず、ひたすら自分の力でヨーグルトが固まるまで、じっくりと待つ。
アルミパウチを使うと、酸素を通しにくいし、遮光性があるので風味が劣化しにくい。湿気も通しにくいし、香りを逃しにくくて、匂い移りも防げる。バリア性が高く、断熱性もあるので、熱がじっくり伝わる。アルミパウチの熱の伝導性が低温長時間発酵に最適。
生乳を生み出す牛は町有牛。町が所有して、酪農家に貸し出す。仔牛が生まれたら、町に返す仕組み。
 美味しい生乳を出してくれる牛を育てるためには、美味しい草が必須。そのためには、良質な土壌をつくる必要がある。1年を通して安定した品質の草を生産し、栄養状態のもっとも良いタイミングで収穫する。それを乳酸発酵させて飼料にする。なので牛乳が甘い。
 かつて60軒あった酪農家が、今では20軒にまで減少した。
大企業と同じ土俵には乗らない。大手と同じことをやっても絶対に勝てない。戦おうとしたら価格や量の競争になり、コストダウンに重きを置いて品質をあとまわしにしてしまう。それでは負けてしまう。
あの大谷翔平選手が何かのインタビューのとき、岩手県の名物として「岩泉ヨーグルト」をあげたそうです。すばらしいことです。
 「辞めたくない会社」を心がけている社長は、直感を大事にしています。そのためには、自分の目できちんと見て、触れ、食べて、しっかり観察して、自分なりに情報収集して、そのうえで直感に頼ったらいいと断言しています。傾聴に値するコトバですね。
ぜひ、「岩泉ヨーグルト」を味わってみたいと思います。
(2023年12月刊。1600円+税)

あっぱれ!日本の新発明

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ブルーバックス探検隊 、 出版 講談社新書
 日本のものづくりの力が最近いちだんと低下しています。企業がアメリカ流の労務管理で目先の利益ばかり追い、非正規社員を増やして若い人を使い捨てる企業風土から斬新なイデアが生まれるはずもありません。
大学もそうです。営利本位の大学運営は日本の発展を妨げるものです。一見すると役に立ちそうもない研究だって、やりたい人がいる限り自由にやらせたらいいのです。それくらいの包容力のない社会からは新奇(珍奇)な発明・工夫が生まれることがないでしょう。
でも、この本を読むと、そんな日本の現状ではありますが、まだまだ捨てたものではないと思わせてくれます。少しばかり安心もしました。
 いろいろすごい新発明が紹介されていますが、身近なところでは「地中熱」の利用というアイデアには驚かされました。竪穴(たてあな)式住居は私も復元家屋を見たことがありますが、その床は地面より低くなっています。
季節を問わず、深さ1メートル以下の地中の温度は15度ほどで一定(安定)している。これを利用した冷暖房にすると、CO2の排出量を大きく減らすことができる。東京スカイツリーの冷暖房ですでに利用されているそうです。
 地中熱を利用した冷暖房によってハウス内の温度を15度以上にキープし、福島県広野町では、皮ごと食べられる甘い高級バナナを育成中といいます。
 次は、ブラックホールならぬ「暗黒シート」。暗黒シートは光を反射しないので、黒々としている。ビロードのような不思議な感触。ザラザラではなく、ツルツルでもない。表面は、円錐状の穴で埋め尽くされた状態。光がこの穴に入ると、吸収されて出れなくなるので、暗黒になる。
 暗黒シートの現在の光吸収率は99.5%。つまり、0.5%はまだ光を反射している。水深200メートルの深海だと0.1%の反射率なので、そのレベルまで、あと少しのところ。
 暗黒シートはゴム製で、カーボン(炭素)を混ぜた黒いシリコンゴムを鋳型(いがた)に流し込んでつくっている。
 日本の学者の自由闊達な研究、そしてそれを支える企業の伸び伸びと働くだけの資金力の保証、ぜひとも応援したいです。
(2024年1月刊。1100円+税)

死なないノウハウ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 雨宮 処凛 、 出版 光文社新書
 軍事予算ばかりが際限なく増大していっています。そのときは財源のことは誰も(マスコミも!)問題としません。政府(自民党も公明党)も財源がないとは絶対に言いません。年金やら教育そして司法予算のときは、財源がないから難しいというくせに…。
 そして、生活が苦しい人はますます増えています。そして、その多くが、残念なことに投票所に足を運びません。あきらめきっているのです。悪循環の典型です。
 みんなが今の悪政への怒りを投票所に行って投票で意思を表明したら、この日本だって劇的に変わるのですが…。
 先日の衆院補選で「自民党全敗」は、それを裏づけています。それでも、投票率は5割を切っていましたよね。長年の自民党支持者が怒りのあまり自民党に投票しなかったというのであれば、それは許せるのですが…。
 日本では年間150万人が死亡し、そのうち10万6千人が、誰も弔(とむら)う人がいない。うち「無縁遺骨」は6万柱。
1人暮らしの65歳以上の5割近く(46.1%)が貧困ライン以下の生活を強(し)いられている。
 著者は、50歳台を目前にした独り身、そしてフリーランスの文筆業。なるほど、生活は大変だろうと推察します。著者は19歳から24歳までフリーターでした(1994年から1999年まで)。よくぞ生きのびましたね…。
 著者の人生初の海外旅行先が北朝鮮というのには驚きました。また、サダム・フセインの長男ウダイ氏と会談したなんて、珍しい体験をしています。
 日本では、「何か」があれば、生活が根こそぎ破壊される層が膨大に存在する。これは弁護士生活50年、そして地方の小都市でしょぼしょぼと弁護士をしてきた私の実感でもあります。タワーマンションなんて、はるか彼方の遠い別世界の話です。
 日本は、メニューを1字1句まちがえずに正確に、しかも正しい窓口で「注文」できた人だけが利用できる制度が提供されるというシステムの国。なるほど、そうなんですよね…。
 初め「ムテイ」というコトバを聞いたとき、何のことか分かりませんでした。
 本当にお金がない人が病気にかかったとき、「無料低額診療」を受けられるシステムが日本にはあるのです。そんなことを知らない人がほとんどだと思います。もっと知られていいシステムだと私は思います。根本的には、そんなシステムなんか必要ないほうがもちろんいいとは思いますが…。
 生活保護は、持ち家があっても受給できます。これは、実際、私も何件も体験しています。東京都内だと3千万円以下の持ち家なら、そこに住みながら生活保護を受けられるのです。年金を受けとっていたら、その差額ということにはなりますが、それでも医療保護で自己負担なくというのは強い味方になります。
 この本には、入居時に6千万円を支払ったうえ、毎月35万円を支払うという高級な老人マンションに入居した人の話が紹介されています。トータルで1億円とか1億5千万円もかかるそうです。とてもとても、そんなところには住めませんよね。ところで、そんなところに入って、いい景色を毎日ずっと眺めていたら、刺激が乏しくて、認知症に早くなってしまわないか、心配します。著者が話を聞いた人は、結局、そんなマンションから早々に脱出したそうです。やはり実社会でもまれてきたほうが、生きているという実感がありますからね。
 私は、やはり、人間と人間の関わり、多少わずらわしいくらいの関わりがあることを大切にしたいです。生き抜くためのヒントがたくさんある本です。
(2024年4月刊。990円)

絶滅危惧個人商店

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 井上 理津子 、 出版 ちくま文庫
 私は少し前まではコンビニなんて利用しないぞ、と決意していました。しかし、今では、コンビニ愛好者の1人になってしまっています。だって、コンビニではない個人商店が全然ないからです。否応がありません。
 商店街は、全国どこに行っても、昼間からシャッターの降りているほうが多く、残念ながらシャッター街になってしまっています。
 近頃、マチにはやるもの、コンビニ、ドラックストアーそしてコインランドリーです。町の様相がまったく様変わりしてしまいました。
 それでも、まだ健在な個人商店を訪れ、その歴史をたどっている本です。
東京の野菜市場は24時間営業なので、夜も営業をしている。そして、「先取り」という方法で真っ先にいいものを買い付けて確保することが許されている。
 千代田区神田に今もある豆腐店「越後屋」は、バブルのとき、地上げ改勢にあった。わすか23坪なのに、なんとなんと、5億円に始まり、7億、10億、15億、そして、ついに20億円近くまで買値が上がったとのこと。まさしく狂気の沙汰というほか、ありません。
 私の父は小売酒屋を営んでいましたが、税務署のニラみが効いていて、距離規制がありました。この本でわずか220メートルごとに豆腐屋の距離規制があるのを知りました。小売酒屋なら、酒税法の関係で少しは理解できますけど、小さな豆腐屋にまで距離規制があるなんて、信じられない思いがします。
 個人商売を大切にしたいものです。なんて言っても、もう遅いのでしょうね。
 私の小学1年生のとき、父が小売酒店を始めました。父は小企業で「長」として働いていましたので、庶民が客としてやって来たとき、頭が下げられませんでした。子ども心に、もっと「頭(ず)を低くしたらよいのにな…」と思って見ていました。
(2024年2月刊。840円+税)

在日米軍基地

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 川名 晋史 、 出版 中公新書
 在日米軍は、日本を直接的に防衛するための存在ではない。この点について、多くの日本人が誤解している。
 日本にたくさんのアメリカ軍の基地があるおかげで日本の平和と安全が守られているというのはまったくの誤解であり、幻想にすぎません。
 このことは、当のアメリカ政府の当局者が何度も明言しています。ニクソン大統領の下にいたジョンソン国務次官はアメリカの連邦議会で次のように証言した(1970年1月)。
 「我々は、日本を直接に防衛するために日本にいるのではない。日本の周辺地域を防衛するために日本にいる」
 アメリカ軍は、アメリカの財産である在日米軍基地とそこにいるアメリカ人(軍人、軍属そして家族)を保護する。
 アメリカ軍は日本全土、とりわけ基地のない(日本の)地域を防衛する戦略は持っていない。アメリカ軍が責任を負う防衛範囲は、日本の重要な戦略地域、すなわち米軍基地その周辺である。
 「日本防衛」の問題について、アメリカが検討したことは一度もないし、日本防衛を支援するための部隊も展開していない。
 アメリカ軍基地などを身近にかかえている東京の現状は、まるでニューヨークに外国軍の空軍基地が3つ、海軍基地が1つ、ゴルフ場が4つあるようなものだ。
 本当に情けない実情です。「誇り高き日本人」が、なぜこんな事態を黙って見過ごしているのか、不思議でならないとされています。まったく、そのとおりです。自民党の政治家(岸田首相がその筆頭)や外交官が「誇り高き日本人」の名に価しないことは明らかです。
 普天間基地はアメリカ軍の基地とばかり思っていましたが、国連軍の基地でもあるのですね。
 そして、沖縄の海兵隊は1968年12月にアメリカ国防総省によって「不要」とされたのでした。
 辺野古につくろうとしている基地は海軍と海兵隊の複合基地であり、エンタープライズ級空母を収容できるもの。永久的なアメリカ軍の強大な基地がつくられようとしているのです。とんでもないことです。今の普天間飛行場にはない新たな機能が追加されるのです。つまり、普天間の「代替施設」ではなく、強大な「新基地」なのです。
 辺野古基地建設を政府(自民・公明党)が強引にすすめているのは、一面では、リニア新幹線と同じく、ゼネコンのための工事という面もあると私は考えています。そこにあるのは、莫大な税金のムダづかい、そして利権に群がる与党(自民・公明)政治家の醜悪な姿が隠れているのです。そんな辺野古基地建設はすぐにやめさせたい、やめるべきです。
 アメリカ軍と国連軍との関係も考察している本です。勉強になりました。
(2024年1月刊。1100円+税)

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