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カテゴリー: 社会

教育改革のゆくえ

カテゴリー:社会

著者   藤田 英典 、 出版   岩波ブックレット
 著者は教育改革国民会議の委員でした。国民会議による提案56のうち、7つに反対したところ、「反対ばかりしている委員」というレッテルを貼られてしまったそうです。今日の日本では、いかにもありそうなレッテル貼りです。
「改革すれば教育は良くなる」、「改革しなければ教育は良くならない」
 こういった改革幻想が支配的だ。しかし、改革したからといって必ず良くなるというものでもない。著者が反対したものの一つが、成果主義的・統制主義的・査察主義的な改革政策。すなわち、公立学校とその教師を理不尽に非難し、その自信と誇り、夢と情熱を低下させる可能性、その誠実な実践と学校改善・自己研鑽の努力を妨げる可能性の大きい改革に反対した。現実には改革は成功していない。それどころか、事態はますます歪み悪くなっている。
 日本の高校中退者は10万人前後、2%で推移しているが、これは世界でも異例の低い水準だ。アメリカの中退率は20%をこえている。そして、日本の少年犯罪の発生率は諸外国に比べてきわめて低い水準にある。
これまでの「ゆとり教育」は成功していない。不適切だった。問題解決能力も創造力も、定型的な知識・能力を基礎にしてこそより良く形成され、発揮される。
就学援助を受ける小・中学生数が急増している。 1995年に77万人、6%だったのが、2000年には98万人、2004年には134万人、13%となっている。10年間で倍増した。
地域間の格差も拡大している。経済的に比較的豊かな家庭、教育熱心な家庭の子どもが、地元の公立学校を敬遠し、私立学校や選択制のエリート校、入気校に入学する傾向が強まっている。
 東京都では、26%が私立中学に通う一方で、25%が就学援助を受けている。
最近の「学力重視」政策は、テストで測られる学力を重視し、学校間や地域間の競いあいを奨励している。
 テストの学力重視の圧力と自信の揺らぎは重大である。相次ぐ理不尽な改革・施策と公立学校批判・教師批判が続くなかで、教育への情熱・希望・気力が萎えていき、定年前に退職してしまう「優秀」と評判の教師が増えている。
 格差的・分断的な構造が定着すれば、その底辺を歩むことになった子どもは、青年期以降のどこかの時点で、自分たちは「差別され、ずっと底辺を歩かされてきた人だ」と思うようになっても不思議ではない。そして、地域社会の分断と教育力の低下が進んでいく。習熟度別学習は、学力差の固定化とその後の進路の差別化を招く可能性が大きい。
 学校教育は、教職員の連携、協力、協働によって支えられ、それが適切に機能してこそ、成功の可能性が高まるという点に重要な特徴がある。
教員免許更新制は、教師の身分を不安定にするから、優秀な学生にとっては教職がますます魅力のないものになる危険性が高い。
 かつて、日本の教育は、欧米諸国から一つの成功モデルとして注目されていた。それは、基礎学力の形成と、学校のケア機能の充実と、それを支える教職員の資質・力量の高さと協働制だった。そして、この四半世紀にわたる改革は、その優れた側面を否定し、その卓越性を支えてきた基盤を突き崩した。
 教育を政治の道具や政治化のおもちゃにしてはならない。教育現場はすでに疲れ切っている。教育は、現在と未来への投資である。お金も人手も時間もかけずに教育が良くなることはない。
わずか70頁の薄っぺらなブックレットですが、大切な、耳を傾けるべき提言が盛りだくさんでした。教育改革って、政治家に安易に言ってほしくないですよね。
(2008年3月刊。480円+税)

原発と権力

カテゴリー:社会

著者   山岡 淳一郎 、 出版   ちくま新書
 日本の原子力発電の第一「功労者」は今も生きている中曽根康弘である。そして、これを事業化したのは、CIAのエージェント(暗号名はポダム)だった正力松太郎である。正力松太郎は、犬猿の仲だった朝日新聞出身の緒方竹虎を妬んでいた。
 緒方もCIAの情報源だったが、急死してしまった。
 ただ、当時のCIAは秘密組織ではなく、緒方も自覚的なスパイではなかった。正力松太郎は総理になるべく、先行投資として2000万円という大金を三木武吉に渡した。今日のお金では3億から4億円になる。
 1955年11~12月、日比谷公園2000坪をつかって原子力平和利用博覧会が催された。42日間に総入場者は36万人をこえ、大盛況だった。CIAと正力松太郎の共同作戦の成果である。正力は、このとき展示されていた小型の原子炉を持ち帰って家庭用の発電につかうとアメリカ側に申し出た。もちろんそんなことは不可能。それほど正力は原子力について技術的にまったく無知だった。
 CIAは、やがて強引で唯我独尊の正力松太郎に手を焼き、アメリカの国益の観点から正力を危険視するようになった。
「原子力エネルギーについての日本の申出を受け入れると、必然的に日本に原子爆弾を所有させることになる。これは、トラブルメーカーとしての潜在能力においてだけだとしても日本を世界列強のなかでも第一級の国家にする道具となりうる」
 田中角栄は中曽根康弘と同い年。大臣になったのは中曽根より2年早い。
 「今太閣」ともてはやされた田中角栄が政権の座を追われた裏には、石油やウランを牛耳る欧米の資源帝国との激闘があった。田中角栄は、「世界の核燃料体制は、やはりアメリカが支配している。そこをフランスと一緒になってやろうとしたら、うしろからいきなりドーンとやられたようなものだ」と語った。
 与謝野馨は、いわゆる原子力村の出身者である。1963年に東大を出て日本原子力発電に入社した。原発推進の信念を変えていない。前原誠司もタカ派で、原子力推進派である。
メディアの原発・電力批判を抑えこんだのは、莫大な広告費だ。電力会社の広告宣伝費は900億円に近い。このほか販売促進費が
600億円を上回る。東京電力のみで、広告宣伝費が250億円ほど、普及費が200億円。
 これではメディアが電力会社の言いなりになって、原発を美化し、推進するはずです。メシのためには、黙って・・・、ということですね。
 民主党内の原発推進の中心が仙谷由人。つい先日、仙石由人は、「脱原発は日本にとって自殺行為」だなんて、とんでもないことを公言しました。反対に原発依存こそ日本人の自殺行為ではありませんか。いったい、使用ずみ核燃料はどう処理するというのですか。また、福島第一原発でメルトダウン、メルトスルーした核燃料の始末は、いつ、どこで、どうやって、誰がするというのでしょうか。仙谷大先生におたずねしたいと思います。
(2011年9月刊。760円+税)
 今年もホタルが飛びかう季節になりました。わが家から歩いて5分あまりの小川にそってたくさんのホタルが飛んでいます。あのふうわりふうわりとした飛びかたに心が魅かれます。飛んでいるホタルを両手でぞっと包んで、手のひらに乗せます。重さは感じません。ホタルはあわてず、あせらずじっとしています。軽く息を吹きかけると、再びふうわりふうわり、ゆっくり空中に飛びまわります。この眺めはいいものですよ。

どうなる!大阪の教育

カテゴリー:社会

著者   池田 知隆 、 出版   フォーラム・A
 橋下・教育基本条例案を考える、というサブタイトルのついた薄いブックレットです。マンガ入りで、とても分かりやすい小冊子なので、多くの人にぜひ読んでほしいと思いました。
大阪の教師の疾病増加率は知事部局に比べて3倍も高い。学校の教師を生きづらくしているのは、同僚同士で話しあいながら学校を運営していくことができなくなっているから。
 校長は教職員の意見を聞くこともできず、通達だけが流れてくる。それをパソコンで見ている。職員会議には会話がない。こんなことで教師が育つはずがない。
 校長や副校長に体育系出身の教師が増えている。リベラルの人は教師になろうとしない。体育科の教師なので、他の教科のことが分からない。学力を伸ばすといってもどうしたらいいのか分からない。
 教育というのは人格のつきあい。学校の教師がやってくれることの最大のものは、子どもと付きあっていること。付きあいのなかで、その教師が自分の生き方とか、勉強の面白さを伝えながら、子どもは教師を批判したり、尊敬したりして人格がつくられていく。
 知事が替わるたびに好き勝手なことを言い、教育に介入されたら、学校教育は解体する。
 橋下の本には、友だちがほしいなんて思うな、大事なのは強いやつを見つけ、その下で生きることだと書かれている。うひゃあ、なんと悲しい言葉でしょうか・・・・。
 橋下は、「大阪を教育日本一に」と訴えながら、実際には3年間で教育予算を583億円も削った。できるだけ安あがりにしようというので、正規の教員を雇わず、非正規の教員を増やしている。
 橋下は、「教育は2万パーセント強制」という。しかし、アスリートが自覚的に負担をかける訓練をしているのと、望んでもいないことを強制されることには大きな違いがある。
 学力テスト成績結果を公開し、公立小中学校の選択制が実施されると、公立小中学校は激しい競争に追い込まれる。テストの成績で生徒を序列化し、落伍者は無価値な者と見下され、子どもの人格を歪めかねない。
 橋下・教育改革では、相対評価によって必ず「下位5%」の教師を指名し、それが2年続くと免職となる。
 すると、生徒指導の課題や悩みをかかえていても、他の教師に相談ができなくなる。他の教師も自分への評価が下がることを怖れて必死だから。教師が連帯して教育実践にあたるのではなく、互いに競争相手として追い落としあう職場環境になってしまう。生徒に媚びる教師を増やしかねない。悩みや課題をかかえた教師を横目に見ながら、それを放置していることが自己保身につながるという悪しき風潮が生じる恐れがある。学校のなかでみんなが協力しあい、学校全体で子どもを育てることがなくなってしまう。
校長は、自分が決めた目標の達成状況を基準に自分で教師を評価するから、主観的、恣意的な、つまり好き嫌いで人事評価することが可能となる。
校長にはマネジメント能力も必要だが、それだけで学校現場を統括するのは難しい。校長は教育サービスを支える店長ではないし、一人ひとりの子どもや教師と向きあうことが必要な教育職である。ただ管理統制能力があるだけで、教育の現場での対応はできない。
大阪の橋下市長を天まで高くもてはやすばかりの大手新聞、テレビには呆れかえります。 ジャーナリズムはもっと、橋下流インチキ政治の本質を暴いてほしいものです。
(2011年11月刊。571円+税)

ニッポン異国紀行

カテゴリー:社会

著者    石井 光太、 出版   NHK出版新書
 日本という国を通常とは違った視点でとらえることのできる本です。
 現在、日本に210万人ほどの外国人が暮らしている。そして年間に6000人の外国人が亡くなっている。その遺体を海外へ搬送するときには、感染症予防のため、遺体に対して腐敗防止処置をしっかりと施し、その証明書をつける必要がある。これをエンバーミングと呼ぶ。
 1日に20体ほどの遺体が日本から海外に搬送されている。あなたの乗る飛行機には、実は、一緒に遺体が積まれていても何ら不思議ではない。
 その費用は韓国だと2~30万円、中国へは60~80万円、欧米へは70~120万円、東南アジアへ70~90万円、中東は100~140万円、アフリカ100~200万円。こんなにかかる。
このほか、日本の風俗産業への韓国人女性や東南アジアの女性の進出状況、さらには、日本の中古車の海外への輸出状況なども紹介されています。
 日本と海外との結びつきは本当に多面的だと思い知らされる本です。著者の体当たり取材はすごいものです。海外だけでなく、日本もターゲットにしたところがすごいと思いました。
(2012年1月刊。860円+税)

教育改革

カテゴリー:社会

著者   藤田 英典 、 出版   岩波新書
 1997年に初版が出ていますので、少し古くなっていますが、読んでみると内容的には古さをまったく感じさせません。
 教育の適切性を高度で先端的な知識技術に対応することに矮小化するのは誤りである。早い段階から専門分化したり、先端的な知識技能の教育を重視すると、それは「能力の浪費」を招きかねない。
 公立中高一貫校は、少数の公立エリート校をつくるだけになるか、学校序列・学校間格差を中学段階にまで拡大し、受験競争の低年齢化を招き、教育機会の階層差を拡大し、さらには、生徒にも学校にも、今以上に難しい課題を押しつけることになりかねない。弊害の方がメリットよりはるかに大きいと考えられる。
 たとえば、一度形成されたネガティブな評価や関係がずっと続く可能性がある。それは「十二歳・選抜」の問題を引き起こし、小学校の教育にまで受験競争の圧力をもち込み、もう一方で、現在、高校で見られるような序列や格差を中学校段階にまで拡大することになりかねない。
 日本の学校は、教師が一体となって生徒指導・生活指導にあたることを基本としてきた。もちろん、それがどの学校でもうまく機能してきたということではないが、教師集団の連携・協力と、個々の教師が生徒の生活全般にかかわることが、学校経営の基本、教師の仕事の基本とされてきた。
 こうした伝統に批判があるのも事実だが、それが日本の学校の主要な特質の一つであることも事実である。そして、その基盤には、すべての教師が同じ資格で同じ機能を担って教育にたずさわっているという事実があった。
 ところが、今日の学校では教員は見事にタテに系列化させられ、フラットな教師集団はなくなってしまいました。まったく残念としか言いようがありません。
週5日制、そして公立中高一貫校の導入前に発刊された本です。いずれも非常に問題があると著者は指摘しています。多くの国民がそれを安易に受け入れてしまったのが残念でなりません。
(2007年4月刊。780円+税)

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