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カテゴリー: 社会

月神

カテゴリー:社会

著者  葉室 麟 、 出版  角川春樹事務所
8月初めに網走刑務所(旧)を見学してきました。2度目の訪問ですが、20年ぶりに行ってみると、すっかり見学者向けの近代的施設ができていました。
 それでも、放射線状に並ぶ、天井の高い監獄の部屋は当然のことながら昔のままです。こんな高い天井から脱獄した囚人がいたなんて信じられません。今も、まさしく脱獄しようという男が天井のはりから外へ出ようとしています。その人形が不気味です。そして五寸釘寅吉という脱獄を繰り返し、最後は模範囚となった人物の人形が門のそばで待ち構えてくれます。
 夏でも20度あまり、寒になると、零下20度の世界。そんな厳しい寒さのなかで働かされていた囚人たちは哀れです。
 この本の主人公は、福岡藩の藩士だった月形潔が、幕末の嵐を生きのびて北海道に新設された集治監(監獄)の初代典道(所長)になったのでした。網走ではなく、樺戸のほうです。
 ですから、まずは幕末期の福岡藩で何が起きていたのかが語られます。福岡藩主の黒田長溥(ながひろ)は尊王攘夷(そんのうじょうい)派に対して厳しい態度でのぞんだ。彼らが藩主の威光を恐れず、それどころかたてつく存在であるのを嫌い、警戒した。
 江戸で桜田門外の変、そして坂下門外の変が起きた。
 長洲藩は禁門の変をおこして、敗北した。福岡藩内の情勢は複雑だった。尊王攘夷派も幕の中枢にのぼっていった。そして、彼らは薩摩と長洲が連合するよう働きかけていた。
 そして、藩主は筑前尊攘派を弾圧した。リーダーである月形洗蔵は斬首された。
 明治となり、石狩地方に樺戸(かばと)集治監が設置されることになり、その初代典獄に月形潔が就任した。
 囚人たちは道路建設工事に施設された。囚人1150人のうち、900人が発病し、死者は211人にのぼった。
 月形潔は初代典獄を3年つとめて福岡に戻り、明治27年に48歳のとき病死した。
 囚人のなかには政治犯もいたと思うのですが、ひたすら典獄として秩序維持にいそしむ潔の心情が哀れです。
 幕末から明治の雰囲気を知ることのできる本です。
(2013年7月刊。1600円+税)

TPP、アメリカ発、第3の構造改革

カテゴリー:社会

著者  萩原 伸次郎 、 出版  かもがわ出版
あれだけ大騒ぎした(している)TPPなのに、そして政府はすでに交渉をはじめているというのに、その交渉状況はまったく報道されません。もちろん、「秘密」にされているからなわけですから、それにしても、その「秘密」をかいくぐってでも状況と問題点を国民に知らせるのがマスコミの責務ではないでしょうか。ここは、マスコミの奮起を大いに期待したいところです。
 TPPでは、協定案ができるまで、交渉は秘密裡におこなわれるというのが、その特徴である。日本がTPP交渉参加国として協議にのぞんだとしても、日本が重要品目を守るのは難しい。安倍首相のいう「聖域」を設けるのは、不可能に近い。
 日本農業への壊滅的打撃が予想される。農水省の試算によると、農業生産の減少は
4.1兆円という規模になり、日本の食糧自給率は40%から14%に激減してしまう。
 とりわけ農業生産量の盛んな北海道のTPPによる影響はすさまじい。関税を撤廃したとき、12品目(米、小麦、乳製品、牛肉など)の影響は、産出高で4931億円の減少。地域経済の尊出額は7383億円、全農家戸数4万戸のうち2万3000戸が減少する。そして11万2000人の雇用が失われる。これでは、たまりませんね。
 アメリカは「ゆうちょ」「かんぽ」の完全民営化を主張してきた。今度、全国の郵便局がアフラックと提携するとのことですが、まさしくアメリカ資本が日本の郵便局を支配しようとしています。
 アメリカは、ことあるごとに医療分野での市場開放を要求している。
 TPPへの参加は、医薬品の関税撤廃だけでなく、医薬品市場の規制を取り払うことによる市場の自由化をもたらす。
 アメリカは、日本の薬価が諸外国に比較して安すぎると主張し、その要因が公的薬価制度にあると言い続けている。薬の自由市場が実現したら、日本の薬価は確実に値上がりする。そして、薬価制度の自由化は、公的保険制度を崩壊に導くことになる。
 薬価制度の自由化を通じて混合診療の全面解禁がおこなわれているのではないか。
 もし混合診療が解禁されたら、自由診療が保険診療を押しのけて大きく幅を利かせていくことになる。
 効能のある新しい薬は、高額所得者だけに使われるという医療格差が生み出される。医療法人に株式会社が導入され、薬価も自由市場によって決定され、製薬資本の思いのままに価格設定がなされる仕組みが幅を利かせていくようになる。そうなれば、日本の公的医療システムは崩壊してしまう。
 マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』はアメリカの医療のすさまじさ(ひどさ)を思い知らせてくれました。アメリカは、金持ちは保険でもなんでも使えるけれど、中産階級以下は保険会社から切り捨てられてしまう冷酷な社会なのです。
 TPP推進は、多くの日本人にとって不幸を招くことがよく分かる本です。でも、残る大金持ちの日本人にだって、次はあなたに不幸がまわってくることを忘れてはいけません。いつまでも他人事(ひとごと)ではすまされるはずはありませんよ。TPP賛成の人は、この本を読んでぜひ考え直してほしいと思います。
(2013年5月刊。900円+税)

ビッグデータの衝撃

カテゴリー:社会

著者  城田 真琴 、 出版  東洋経済新報社
インターネットの世界は、いつのまにか、こんなことも出来るようになったのですね。要するに、すべてはビジネス・チャンスに変えられるというわけです。
 実はもう一つ、すべての個人を監視できる体制がつくられたというわけでもあります。
 グーグルは、月に900億回というウェブ検索のために、毎月、600ペタバイトのデータ量を処理している。この分析対象は、グーグルの多種サービスを利用するユーザーのありとあらゆるデータだ。
 データ分析を軸にしたサービス分析を軸にしたサービス設計が功を奏し、アマゾンは年間売上480億ドル(3兆8000億円)を稼ぎ出す(2011年度)までの巨大企業に成長した。
 テラは10の12乗、ベタは10の15乗、エクサは10の18乗。エクサバイトのレベルがビッグデータと呼ぶにふさわしいデータ量だ。
 監視カメラを利用して、買い物客の店内での行動をモニタリングして分析する試みがある。モンブランは、これまで経験を直感で商品の陳列場所を決めてきたが、監視カメラのデータを分析し、顧客の目にもっともとまりやすい場所に一番の売れ筋商品を稼働させたところ、売上が20%も増加した。
ハドゥープとは、オープンソースとして公開されている大規模データの分散処理技術である。
 ハドゥープの大きなメリットは、これまでコスト面、処理時間の面で、あきらめざるをえなかった膨大な量の非構造化データの処理を可能にした点にある。これまではサンプルデータに頼っていたデータ分析から、関連する全データを対象として分析ができるようになった。
 インターネット・オークション会社のイーベイは、世界最大のネットオークション会社である。全世界で2奥7000万人もの登録会員がいる。1日に売買されるMP3プレイヤーは3600台以上、ダイヤモンドリングは2分に1個、自動車も1分に1台が売買されている。
 フェイスブック上で展開されるソーシャルゲームで人気ランキングの上位を独占するゲーム開発会社がジンガ。ゲームで遊ぶ95%のプレイヤーは、たった5セントのお金も使わない。しかし、残る5%の熱心なファンがジンガの年間11億ドルという売上を支える。
 ユーザー2億人の5%、1000万人が5ドルのバーチャルグッズを購入すれば、5000万ドル(40億円)の売上になる。ジンガの副会長は、「我々は、ゲーム会社の皮をかぶった分析会社だ」という。
 スーパーでは、顧客の購買履歴データがあると、一定期間の累計買い物金額に応じて顧客のランク分析をして、ランクに応じた得点を付与する。たとえば、ある週の累計買い物額が1万円以上の顧客には、2日間限定の5%割引クーポン、2万円以上の顧客には5日間限定の5%割引クーポンといった具合だ。これによって、顧客の購買意欲を刺激し、購買金額のアップを狙うことができる。
 日本のマクドナルドは、会員制モバイルサイト「トクするケータイサイト」などで、顧客一人ひとりの購買履歴を詳細に分析し、購買パターンに応じて、一人ひとり内容の異なる割引クーポンをケータイ電話に配信している。
 日本マクドナルドは、300億円を投じて、2600万人の顧客情報を蓄積し分析するシステムを構築した。
 たとえば、一定期間、来店していない顧客に対しては、従来よく購入していたハンバーガーなどを割り引くクーポン。来店頻度は高いが、新発売のハンバーガーを購入していない顧客に対しては、新発売のハンバーガーを大幅に割り引くクーポンなど・・・。
 ビッグデータを分析すると、スキー場やゴルフ場の従業員なのか、客なのか判明する。
 ケータイ電話会社にとって、優良顧客が離反しそうなことが事前に予測できたら、「割引キャンペーン」「ポイント2倍付与」など、解約を防止する手を打てる。
 とっても便利なスマホ(ケータイ)の利用は、このようにして管理されていくのですね。だから私は、今でもなんでも手書き派なのです。
(2013年6月刊。1800円+税)

オウム真理教秘録

カテゴリー:社会

著者  NHKスペシャル取材班 、 出版  文芸春秋
オウム真理教と言えば、私にとっては坂本堤弁護士一家殺害事件と地下鉄サリン事件を忘れるわけにはいきません。
 オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺害事件が起きたのは、1989年11月のこと。私と同期で親しい岡田尚弁護士(同じ横浜法律事務所)と別れた日に一家で住んでいたアパートに踏み込まれて、妻子ともども殺害されてしまったのでした。
坂本弁護士夫妻は、全国クレジット・サラ金被害者交流集会で大牟田市に来たこともあり、面識ある関係だっただけに、その「救出」活動に私も少しばかり関わりました。殺害されたあとに「救出」というのも変ですが、どこかに「拉致・監禁」されているという話もあったのです。占い師というのは、まったくあてにならない存在だと改めて実感したのは、このときです。すべての「占い」が見事にはずれてしまいました。
 私は、事件の真相が見えていないとき、坂本弁護士一家の住んでいたアパートの見学会にも参加しました。フツーの庶民の住む、どこにでもあるアパートです。この前途有為な弁護士が殺害されたのには、マスコミの責任重大でした。テレビ局が軽率にもオウム真理教に事前に画像を見せてしまったのです。
 霞ヶ関サリン事件についても、その後まもなく日弁連の会議で上京した私にとって、他人事(ひとごと)ではありませんでした。
 そんな殺人集団の信者が今でも存在するなんて、とても信じられません。
 熊本の波野村(なみのむら)にオウム真理教の拠点がつくられようとした話も怖いですよ。ここに教団武装化の拠点をつくろうとしたというのです。上九一色村のサティアンと同じような施設がつくられようとしたわけです。本当に怖い話です。それでも、抵抗した村民は、まさしく生命がけでした。本当に偉いものです。
麻原は、不遇な生いたちや学業・事業での挫折から、強い被害妄想と誇大妄想があった。自らの不遇・挫折について、弾圧されるキリストのようなものとして、奇妙な形で正当化しようとした。そして、麻原には、不幸にも霊能的なカリスマ性があったため、誇大妄想が強まっていった。
未解決事件といえば、国松警察庁長官の襲撃犯も、結局、今のところ検挙されていません。ひところはオウム真理教の信者である、射撃のうまい警察官が犯人だとされていました。しかし、それも「無実」が確定して、まったく犯人の手がかりはありません。これでは世界一有能な日本の警察という看板が泣いてしまいますね・・・。
(2013年5月刊。1600円+税)

「市場と権力」

カテゴリー:社会

著者  佐々木 実 、 出版  講談社
竹中平蔵という人物の本性を、よくよく暴いた本です。経済学者というのが、アメリカも日本も、これほどまでに世の中の経済を分析すると称して、実は自分の金もうけに熱中しているのか、その実態を知って愕然としました。
アメリカの名だたる経済学者が、結局、投資顧問とか証券会社に取り入って超高給とりになっているのは、アメリカのことだから、そんなものかと思いました。でも、竹中平蔵をはじめとする日本の高名な経済学者も結局、同じだったのですね。これには、いささか幻滅させられました。もちろん、例外もあるのでしょうが、東大教授の肩書きでTPP推進の弁を述べる人は、ほとんどこれにあてはまるのでしょうね。
竹中平蔵は、超高級マンションを東京都内にいくつも所有しているとのこと。本人は、本がたくさん売れて、その印税で購入したと弁明していますが、それでは説明がつきません。あちこちの大会社の取締報酬が超高額なのです。言わば、マッチポンプのようなものです。政府の中枢に食い込んで、それをすべて自分自身の金もうけに結びつけるのです。そのくせ、日本に本当に貧乏人なんかいるのですか・・・、と平然と問い返すのです。その厚顔無恥には、呆れるというより、怒りすら覚えます。許せません。
 日本で非正規社員が増えたのは、正社員が保護されすぎているためだからだと竹中平蔵は言う。とんでもありません。正社員を既得権益者として竹中平蔵は指弾している。「働き方の自由」を実現するため、解雇規制の緩和が必要なのだと竹中平蔵は言う。
 フツーの人々の生活の安定なんて、竹中平蔵の眼中にはないのですね・・・。
竹中平蔵は高校生のころ、民青の一員だった。もちろん、民青というのは、日本民主青年同盟、つまり日本共産党のシンパの組織です。ところが、一橋大学に入る前のころから、竹中平蔵は民青と訣別し、一路、金もうけの道にまっしぐらです。
そして、共同研究の成果を竹中平蔵一人の著者にしても平気です。共著にすると業績としての価値が低くなるからです。嫌ですね。こんな品性下劣の人とは一緒にいたくありませんよね。
竹中平蔵の所得は、2000年ころ、申告納税額が2000万円ほどなので、9000万円ほどと思われる。これは、政策コンサルタントとして稼いだものだろう。うひゃあ、すごいですね。
 しかも、竹中平蔵は、日本人として支払うべき住民税を免れるため、アメリカに居住しているとして、日本での住民登録の抹消と再登録を繰り返した。
 いやはや、あまりにも「せこい」手法に、呆れかえってしまいます。これが高名な経済学者のすすめる「節税」だなんて・・・。
 そして、竹中平蔵は、内閣・官房機密費(2000万円)を使って、アメリカに留学しようとしたのです。月1億円は内閣が自由に使えるという例の「ヤミ支出」です。竹中平蔵の腹黒さも、ここまでくると、「サイテーの男」としか言いようがありません。
 竹中平蔵は、企業人との出会いを、たちまち、自らのビジネスチャンスに変えてしまう。
 竹中平蔵は、言論の基本ルールを逸脱しているため、言論戦に敗れることがない。これって、「嘘八百」ばかりというころですよね。
竹中平蔵は、自民党政権の中枢に食い込む一方で、反対党の民主党(鳩山)にも手をのばしていた。そして、自民党のなかでも、次の政権を狙いそうな政治家にも・・・。
 これって、あまりにも見えすいていますよね。だから、小泉純一郎には気に入られても、次の麻生からは嫌われたようです。こんな低レベルの男によって日本の経済政策が動かされていたのかと思うと、寒々とした気分になります。
 竹中平蔵と同じレベルの企業家が宮内義彦(オリックス)です。自分のことしか念頭にない人たちによって、日本という国がダメにされるなんて我慢がなりません。
 企業が金もうけすること自体は、私だって悪いことだとは思いません。それでも、それは、従業員をふくめて、みんなの幸せにつながるからいいのではありませんか・・・。自分と自分のファミリーだけよければ、あとはどうなっても「自己責任」だなんて、とんでもないことですよね。読んでいて、思わず腹の立つことの多い本でした。
(2013年4月刊。1900円+税)

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