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カテゴリー: 社会

日本人は、いつから働きすぎになったのか

カテゴリー:社会

著者  礫川 全次 、 出版  平凡社新書
 日本人は勤勉すぎるように思います。といっても、私もその一人であることには間違いありません。だって、この毎日一冊の書評を、誰もお金をくれるわけでもないのに、なんと10年以上も続けているのですから。いったい、どれだけ読まれているのでしょうか?
 まあ、好きでやっていることなので、読まれなくても文句を言うつもりではありません。
 それにしても、二宮尊徳の実際を知って驚きました。薪(たきぎ)を背負う二宮尊徳の像は、全国各地の学校にありました。しかし、それは、二宮尊徳が死んで35年もたって、あらたに創り出されたものだった。ええーっ、なんということでしょう。すっかり、だまされていました。
 二宮尊徳は、人々を思想的、宗教的に教化するカリスマ的な思想家、宗教家ではなかった。むしろ、「勤勉にして謙虚な農民」を「権力」によって育成しようとする官僚的な実践家、教育者だった。
 二宮尊徳の試みた改革に対して、村内の各層から根強い抵抗・非協力が起きた。
 それは、江戸後期の日本には、断固として「勤勉」になることを拒む農民たちが存在していたという厳然たる事実を証明している。
 江戸時代の農民は、必ずしも勤勉とは言えなかった。多くの農民が「勤勉」になるのは、明治30年代に入ってからのこと。
 福沢諭吉は、たしかに勤勉家だった。しかし、福沢諭吉は、「武士」というよりは、「商工」に近いメンタリティをもっていた人物だった。
 第二次大戦に敗れて、日本人は多くのものを失った。しかし、決して意気消沈することなく、ただちに復興に向かって動きはじめた。そのとき、日本人にとって最大の武器となったのが、その勤勉性だった。敗戦という衝撃によっても勤勉性という価値を日本人は疑うことがなかった。
 しかしながら、日本人の勤勉性は、わずか「数百年間の特徴」でしかない。前述したとおり、二宮尊徳の指導に対して、断固として「勤勉」になることを拒否した村民がいた。明治30年代までは、江戸時代以来から伝わる「多めの休日」を楽しんでいた農民たちがいた。
 報酬の多いことより、労働の少ない方を選ぼう。怠ける勇気をもとう。怠けの哲学をもとう。
 日本人とは何かを考えさせてくれる本でもありました。
(2014年8月刊。820円+税)

失職女子

カテゴリー:社会

著者  大和 彩 、 出版  WAVE出版
 親から突き放され、一人で生きていかなければならない若い女性が、やっと就職した会社でリストラにあい、ついには病気もかかえるなかで生活保護を受給して、生計を立てていくという大変な状況をユーモアを忘れずに描き出しています。ブログから本になったようですが、独身女性の娘をもつ親として身につまされます。
家賃が支払えない。どうすればいいの? と絶望している、そのこあなた!すべての失職女子、貧困女子にこの本を捧げる。
 著者にとって実家とは、心の安まる場所ではなかった。母の金切り声と父のタバコの煙にまぎれて、どうにか自分の存在を消し、日々をやり過ごす場所でしかなかった。
 家庭とは、ずっと批判や嘲笑、怒鳴り声、そして暴力にさらされる場所だった。両親は幼児並みに感情が不安定な人たち。母は衝動的で、娘の嫌がることを、わざと執拗にくり返す。
実の子どもなのに、家庭で両親からいじめに遭っていただなんて、たまりませんね・・・。
 著者が生まれ育った家庭は、常に息詰まる雰囲気の場所だった。記憶に残っている父親は、「おとうさん」と呼びかけても、返事どころか、娘を見ようともしない。その反面、突然に「キレた」状態になり、意味不明な理由で怒鳴り、子どもたちにも暴力を振るった。
 こんな両親のもとで育っても、こんなにまともに冷静に文章が書けるのですから、人間には復元力が本当にあるのですよね。きっと親が反面教師の役割を果たしていたのでしょう。
 著者は採用面接にこぎつけても、ことごとく落ちています。そのあげくに、激しいストレスから、なんと体重が100キロ近くにまで太ってしまいます。これはヤバいです。そして生活に疲れているな~っていう感じを与えてしまうのです。
 面接で、ことごとく不採用になるのは、心のなかで面接官に毒づいたり、戦災孤児に変身して面接官に不穏な視線を送っていたから。今では、それが分かる。
 かの湯浅誠は、こう言った。たとえお金がなくて「貧乏」でも、周りに励ましてくれる人たちがいて、自分でも「がんばろう」と思えるのなら、それは貧困ではない。それが「貧乏」と「貧困」の違いだ。なーるほど、という感じですね・・・。
 やっと見つかったパートに出るときの著者の格好は、次のようなものです。
 眼鏡とマスクを常に装着して、ライトな変装で自分を守る。マスクのいいところは、アイメイクさえすれば、ちゃんと化粧しているかのようにごまかしが効くこと。辛いときには、それに眼鏡をプラスする。
 いよいよ経済的に行きづまったときには、福祉事務所に行って生活保護の相談をすることをおすすめしたい。消費者金融(サラ金)から借金するより、そっちがよほど健全。
 今では、弁護士会も生活保護の相談やら、生活保護申請のときに同行するということもしているのです。ぜひとも、早目にご相談ください。
憲法25条はすべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、と定めている。生きて、最低限度の生活を営んでいいんだ・・・!
 そのことを生々しく実感させる体験記です。ひき続き、元気に生きていってくださいね。そして、体重は早く半減してくださいな。そのとき、きっと新しい人生がスタートしますよ・・・。
(2014年12月刊。1400円+税)

国際リユースと発展途上国

カテゴリー:社会

著者  小島 道一 、 出版  IDE・JETRO、アジア経済研究所
 私にとってアフガニスタンというと中村哲医師を思い出しますし、パシュトン人とかハザラ人が次に来ます。でも、遠い国というイメージです。
 ところが、そのパシュトン人とかハザラ人が日本で中古自動車の輸出入に関わっているというのです。驚きました。
 日本製中古車貿易においては、パキスタン人移民企業家が市場を牽引してきた。
 2004年6月時点で、日本の中古車輸出業者は全国に800業者いて、そのうちパキスタン業者が350業者、バングラデシュ人が100業者、スリランカ人が100業者だった。2006年12月時点では、パキスタン人業者は500~600業者へ増加した。
 パキスタン人というのはパシュトン人のことであり、千葉県ではアフガニスタン人のほとんどはハザラ人である。ハザラ人は、アフガニスタン内戦が激しくなった1994年ころ日本に来て、中古部品業に従事した。
 2000年以降、アフガニスタン内戦が一時収束すると、多くのパシュトン人が中古部品業界に参入してきた。
日本の中古車のうち登録抹消された自動車の28%が輸出されている。ロシア、ニュージーランド、アラブ首長国連邦が主たる輸出先である。アラブ首長国連邦のドバイは、アフリカ、中東向けの中古自動車貿易の中枢地になっている。
日本の中古テレビの主要な輸出先はフィリピンである。2008年から2012年にかけて、合計258万台に達している。
 ロシアへの日本車の輸出は、経済成長と日本車への根強い需要を背景として、長期的な増加傾向を示し、2008年には年間50万台もの輸出があった。そして、高額な関税を免れるため、自動車部品として輸入するようになった。
 ロシアへは軽自動車が増えている。セカンドカーとしての需要である。道路の路面状況が悪いため、車高の高いジムニー(スズキ)、パジェロミニ(三菱)、テリオスキッド(ダイハツ)が好まれている。
 在日韓国・朝鮮人は金属リサイクル業、在日ベトナム人は中古家電の貿易、在日パキスタン人は中古車貿易業と、すみ分けている。
日本の中古製品が海外へどのように輸出されているのかを実証的に研究した本として、知らなかったことだらけで、大いに勉強になりました。
(2014年12月刊。3600円+税)

成長国家から成熟社会へ

カテゴリー:社会

著者  碓井 敏正・大西 広 、 出版  花伝社
 政党の固定的支配層は減少し、政治的課題によって離合する傾向が強まっている。各政党の党員は半減している。政党と選挙民の関係は一枚岩ではなく、屈折し、重層化している。
アベノミクスのインフレ政策、円安政策は即刻やめさせなければならない。同時に、ムダな公共投資の復活や大企業減税の停止もなされなければならない。
大企業は、円高による国民利益を通じた消費、つまり内需拡大こそ利益とする体質に自らを転換しなければならない。
 日本は、今や、アメリカに次ぐ貧困大国になりつつある。格差問題で特に重視されるべきは、教育格差である。なぜなら、教育格差は、各種格差の始点となっているから、また世代にわたって継承されるから。
 今の日本は、世界に例をみない高学費によって、高等教育への進学率は、先進国のなかでも中位以下にまで後退している。
 小中学生の全国学力テストでは、秋田や福井、石川のような社会的絆(社会関係資本の強い)日本海側の地域が上位を占めている。
 日本は、安心して離婚を選べる社会とはほど遠い。家族ケアの受けられない一人暮らしの高齢者が増加している。
日本の公務員は大幅に減少している。19494年に比べて国家公務員は3分の1へ激減した。地方公務員のほうは53万人も減った。
 国家公務員の労働組合は連合と全労連で勢力を二分している。労働組合については、組合員数の減少だけでなく、労働組合の単位組織自体が減っている。この30年間に2万の組織が消滅してしまった。
 ゼロ成長経済下で求められるのは、国家に依存しない「社会」内部の諸力の成熟だという主張でつらぬかれた本です。私にとって、やや難しすぎる論調ではありました。
(2014年10月刊。1700円+税)

ヘイトスピーチに抗する人びと

カテゴリー:社会

著者  神原 元 、 出版  新日本出版社
 横浜の弁護士による、ヘイト・スピーチとたたかう勇気ある人びとを紹介する本です。
 本屋の店頭で、また本の広告で、親しくつきあうべき隣国である韓国や中国をバカにした本が山積みにされ、大々的に宣伝されるのを見るにつけ、日本人の劣化、心の狭さに小さい胸を痛めてきました。
 この本を読むと、気狂いじみたヘイト・スピーチに対して、勇気をもって声を出し、声を上げている日本人が少なくないことを知り、大いに励まされました。
 この本は、ヘイト・スピーチに関する理論的研究書というより、ヘイト・スピーチの現場で、それとたたかう人びとの元気な生き方を紹介するものです。日本人も、まだまだ捨てたものじゃないと思わせてくれる本として、一読をおすすめします。
 毎日のように安倍首相の馬鹿ばかしい、ご高説をたれ流すだけのマスコミ(とりわけNHK)に腹を立てているなかで、かなり日本人に対するガッカリ感があったのですが、この本を読んで少しばかり元気をとり戻すことができました。
 「在特会」というのは、ヘイト・スピーチを唱道する団体の一つであり、首都圏屈指のコリアンタウン、新大久保に狙いを定めて活動を開始した。
 「朝鮮人を皆殺しにしろ」
 「日本人なら、朝鮮人の店で買い物なんかするな」
 と叫びながら、韓流料理店の外で店の営業を妨害してまわる。
 信じられませんね、こんなバカバカしいことをやる狂気の日本人集団がいるなんて・・・。みっともないこと、このうえありません。
 誰が、そんなことをやっているのか・・・。30代くらいが多いけれど、若者もいて、年寄りもいる。
 決して、失業者集団ではありません。それなりに学歴のある人びと、そして地方公務員や国家公務員もいるのです・・・。そして、警察は、ヘイト・スピーチのデモを取り締まるどころか保護するばかり。
 ヘイト・スピーチのデモ隊を圧倒するカウンターの隊列が包囲し、「帰れ」を唱和して圧倒した。本当に、この情景はすごいですね。
 日本人も、まだまだ捨てたものではありませんよね。野蛮なヘイト・スピーチを身体をはって阻止しようとする人々が少なからずいるのです。
 2013年9月、ヘイト・スピーチに反対する東京大行進は大成功をおさめた。
 たいしたものです。すごいです。まさしく良心の勝利です。
 そして、この本は、そのカウンターの内実を少しだけ紹介しています。
 「しばき隊」は、差別に反対し、日本社会の公正さを守ることを、その任務とした。そのメンバーの大部分は日本人であり、在日の人々を守るという立場をとらなかった。うんうん、それでいいのです・・・。
 ヘイト・スピーチに抗してたちあがったカウンターは、最後まで厳密な意味での組織やリーダーをもたなかった。
 カウンターは、差別デモの広がりを防ぎ、萎縮させ、縮小させる効果を生んだ。
 「帰れ」の罵声を浴びながら、デモに参加するのは、勇気のいることだ。
 ヘイト・スピーチは、マイノリティー集団を、その属性ゆえに社会から排除する意図または効果をもっているところが大きい。
 ヘイト・スピーチは、ターゲットされた人々を「平手打ち」にし、徹底的に打ちのめし、反論の気力を失わせる。これは、「沈黙効果」と言われる。
 対象となった在日コリアンを打ちのめし、排除し、人としての尊厳や存在そのものを根底から否定するとともに、すべての人が平等に共存する公正な社会を根本的に破壊し、隣人に対する憎悪、さらに暴力やジェノサイドをも煽動する。
 ネット右翼の勢力は、あなどれない。1週に2回以上アクセスし、合計15分以上「楽しんでいる」ユーザーが50万人ほどいる。月に1回だと、2倍の110万人になる。
 ヘイト・スピーチに対する法的規制は必要であり、憲法21条に照らしても、それを法的に規制することは許される。しかし、法規制の効果には限界がある。法規制より教育や啓蒙が大切である。
 そして、なによりヘイト・スピーチを誘発する政治家の発言や、政治の差別政策を是正することが重要だ。この指摘に、私も全面的に賛同します.差別を推進するばかりの安倍政権の下ではヘイト・スピーチの混絶は残念ながらありえません。一刻も早く、政権の交代が必要です。もっともっと、民族、宗教その他で平和共存を目ざしたいものです。
 とても分かりやすい、実践的な本ですので、ご一読をおすすめします。
(2014年12月刊。1600円+税)

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