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カテゴリー: 社会

山谷ヤマの男

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 多田 裕美子 、 出版  筑摩書房
かつてドヤ街として有名だった山谷(さんや)と釜ケ崎。私は、そのいずれにも行ったことがありません。名前を聞いていただけです。
今、その山谷は若くて勇ましかった「労働者の街」から老いと病で苦しむ「福祉の街」に変わってしまった。かつては高給とりだった鳶(トビ)でさえ、今では仕事がなくなってしまった。ドヤにも住めず、路上生活が長くなれば、心身ともに疲弊していく。やっと生活保護を受給できたとしても、若いときの勢いはなく、高齢で慢性疾患者とのつきあい。ドヤの利用者の9割が生活保護の受給者。
ドヤとは簡易宿泊所のこと。ドヤ暮らしは、住民票や保証人がなくても、その日のドヤ代さえ払えば、過去を問われることもなかった。
ドヤに泊まれなければ、アオカン(外で寝ること。青空簡易宿泊)するしかない。
著者は、山谷にある丸善食堂の娘として育ち、山谷にある玉姫公園で、1999年から2年間、山谷の男たちの肖像写真を撮った。
この本には、その男たちの肖像写真の一部が紹介されています。皆さん、なかなか魅力的な、味わい深い顔つき、表情です。
丸善食堂の客は、だいたい一人で吞みにきていて、愚痴をこぼすことはなかった。
ここでは、誰もが過去を語らないし、聞きたがらない。いや訊いてはいけないのが、ここの暗黙のルールだ。
カウンターはコの字型。ひとりで吞んでいても淋しくなく、向かいあっていても、ほどよい距離感があって、実によくできているカウンターだ。
許せないことがあれば、ささいなことでも暴力手になり、暴動がおこる。何も守るものがなく、身一つの人生なので、火がついたら激しい。いまの山谷に必要とされているのは、食事や健康面のケア、寝る場所などのきめ細かい支援。
山谷の絶頂期は昭和40年代。私が大学生のころです。この当時、日雇い仕事は、いくらでもあった。立ちん坊という呼び名がありました。早朝から手配師が人を求め、トラックに乗せて日雇いの人々を工事現場に連れていくのです。
現代に生きる日本人をうつし撮った貴重な写真集だと思いました。
(2016年8月刊。1900円+税)

プライベートバンカー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 清武 英利 、 出版  講談社
日本人の大金持ちが税金逃れ(脱税ではありません)でシンガポールに大挙して渡っているそうです。でも、何もやることがなくて、ヒマを持て余して嘆いているというのを聞くと、なんと心の貧しい人たちかと、気の毒さを通りこしてしまいます。
やはり、自分と家族のためだけではなくて、少しは世のため、人のために何かをし続けたいものです。
プライベートバンカーは1億円以上の金融資産をもつ金持ちしか相手にしない。富裕層とは、1億円から5億円未満を保有する人、超富裕層は5億円以上の資産をもつ人。これは不動産を含まない、金融資産のみの金額。
それ以下の5千万円から1億円未満は準富裕層、3千万円から5千万円未満はアッパーマス層。持たざるマス層、つまり庶民はプライベートバンクに口座を開設することもできない。
シンガポールには日本人が2万4500人も住んでいる。治安が良くて、時差は1時間、日本人会があり、日本語だけでも生活できる。
シンガポールには相続税がない。だから、日本の大金持ちがシンガポールに資産を持ち込めば、相続税を払わなくてよくなる。そのために「5年ルール」がある。親と子が、ともに5年をこえて日本の非居住者であるときには、日本国内の財産にしか課税されない。
「日本の非居住者」とは、1年の半分以上を海外で暮らしているということ。それを5年続ければいいのだ。
プライベートバンクは、もともとヨーロッパの階級社会の中で生まれた。王侯貴族などの超富裕層の資産を管理し、運用する個人営業の銀行である。資産家のために働くバンカーだから、カネの傭兵とか、マネーの執事とも呼ばれる。
プライベートバンカーの仕事は三つ。一つはビリオネアの口座を銀行に開設させること、二つ目はその口座に彼らのお金を入金させること。三つ目が、そのお金を運用して守ること。
シンガポールを舞台とするヤクザの資産洗浄(マネーローンダリング)や脱税事件がしばしば発覚している。問題なのは、その多くが真相不明のまま、タブー視されていること。その一つが、超高額を集めたヤミ金である五菱会事件。このとき、スイスの銀行の51億円については、犯罪収益として凍結され、没収して、相当額が日本に戻ってきた。ところが、シンガポールの銀行への43億円は、うやむやにされて終わっている。なんということでしょうか・・・。今でも下手に話すと、生命にかかわるということで、金融業界でタブー視されているのです。
シンガポールに移住してきて「5年ルール」を達成しようという「あがり」の富裕層には、家庭円満というケースがほとんどないと言われている。
そりゃあ、そうでしょうね。何もやることなく無為徒食で5年間をすごせと言われたら、少しでもまともな人には耐えられるはずがありません。人間、カネだけで生きてはいけませんからね。
「お金を残すのは、おまえたち家族のためなんだぞ」
そんなセリフを父親から聞かされて、「はいそうですか」と従う子どもがいたら、哀れですね・・・。
「いくらお金を持っていても、人間やることがないのは非常に辛いです」
まったく、そのとおりだと私も思います。
ところが、3.11東日本大震災のあと、日本からシンガポールへの移住者や資産移動が急増している。
シンガポールで100万米ドル以上の投資可能な資産を保有している富裕層は、2011年に9万1千人だったのが、2012年に10万人をこえ、2013年には10万5千人、2014年には10万7千人となった。この増加したなかに日本人資産家も相当ふくまれているはず。
そして、大金持ちの日本人が犯罪のターゲットとして狙われることになる。自分の身は自分で守らなければいけない。ところが、真の友人を見知らぬ海外に見つけるのは、たやすいことではない。プライベートバンカーが隠していた牙(キバ)をむき出しにしたら、いちころです。スッテンテンになる危険だってあるでしょう・・・。
シンガポールの日本人社会の一端から現代日本の病相を知った思いがしました。
(2016年8月刊。1600円+税)

驚くべき日本語

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ロジャー・パルバース 、 出版  集英社
日本語って、ガイジンさんには難しいと思っていますが、実は話し言葉としては、世界でも易しいほうなのだそうです。難しいのは漢字のまじっている読み書きなのです。
日本人は、日本語があいまいな言語だと信じ込んでいる。しかし、日本語は明らかにあいまいではない。日本語には秘密もなければ、不可解さも、暗号のようなところもない。
話し言葉としての日本語は、学ぶにはもっとも平易な言語の一つである。
言語は、結局、戦いの基本的な道具である。
言語は「同じ人種でくくられた集団」という意識をつくり上げる武器である。「他者」をたしかな方法で識別して自分たちの集団から疎外することに加担する。自分がどの民族に属するかを決定するのは、言語なのである。
第一言語を話す能力と外国語のそれとは、それぞれ脳の違う部分に刷り込まれる。
第一言語の音の響きだけが、ものごとのイメージと結びつく。
言語は私たちに民族的なアイデンティティを与えるもの。国家にとって、言語はきわめて大切な道具であり、一方で目に見えない武器なのである。民族を一つにまとめるのに、まさに言葉ほど力をもつものはない。言語はまた、悪しき目的のために強制的に使われることもある。
多くの人は、自分の頭を白紙状態にできないでいる。これは、それ以上、他の言語を学ぶことができない状態でいるということ。他言語を学びたいと思うなら、その独自の秩序を学ぶためには、すでに頭のなかにセットされている第一言語の統語の体系をまず消し去る必要がある。自分の第一言語の論理を消し去れば、だれでも日本語の修得は可能である。
日本語のきわだって特徴的で重要なポイントは、日本語の表現力は異なる言葉によって生み出されるのではなく、同じコトバの語尾変化によって生まれるということにある。
動詞と連結させて縦横無尽に表現をつむぎ出せる擬態語という道具があれば、もともとの語彙の数が多くなくても、さまざまな行動や感情を表現することが可能になる。
日本の国際化は、英語で始まるのではない。日本語で始まる。
日本語の音の響きの美しさは、書き言葉とのすばらしい連携から生まれる。
1944年にアメリカで生まれ、日本には1967年以来、50年も生活していますので、もちろん日本語はぺらぺらです。いえ、ロシア語も、ポーランド語もできます。すごい人ですね。
私も、フランス語をもっと気楽に自由に話せるようになりたいです。
それにしても、世界のなかの日本語の位置づけを考え直しました。
(2014年8月刊。1000円+税)

世界をたべよう!旅ごはん

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 杉浦 さやか 、 出版 祥伝社
眺めているだけでも楽しい、旅ごはんの本です。なにしろ世界24ヶ国、そして日本国内も21軒のレストランやら屋台を素敵なカラー・イラストで紹介していますから、ついついよだれがこぼれそうになってしまいます。
著者はいったい何を職業としているんだろうかと、やっかみ半分で頁をめくっていきます。最後の著者紹介にイラストレーターとあります。なるほど絵がうまいはずです。それにしても、旅行して美味しいものを食べて、それを絵に描いて本にして、本が売れたら収入となるなんて、なんてうらやましいことでしょう。まさしく趣味と実益が一致しています。
ベトナムでは若い女性二人だけで、100%男性客しかいないビアホイに入った。ビアホイとは、工場直送のポリ容器入りの生ビールのこと。そして、そのビアホイを飲める店のこと。ビアホイは、東南アジア特有のかなりの薄味。冷え方はあまく、ジョッキに氷を入れて飲む。薄いビールがさらに薄まるけれど、これがクセになる美味しさ。この薄々ビールと絶妙なおふくろの味、そして、ベトナムおやじたちの優しいまなざしに迎えられて、最高の旅の思い出となった。
インドネシアのバリでは、昼食にバイキング方式みたいに好きなものをたくさん食べ、ついに夕食は抜かしてしまった。これも若さからの失敗ですね。今の私は、なんでも腹六分目をモットーとして、少しずついただくようにしています。
ハンガリーではグヤーシュを食べたとのこと。昔、私の行きつけのプチ・レストランにハンガリアン・グラッシュという名前の料理があり、大好物でした。たっぷりの野菜と牛肉を粉末のパプリカで煮込んだシチューです。その店は今はもうありませんが、ぜひまた食べたいです。
フランスでは、ノルマンディのカキを食べて、なんとあたってしまったとのこと。お気の毒です。10年以上も前にパリのカルチェラタンで泊まったプチ・ホテルの近くに生カキを食べさせてくれる店があり、一家5人で美味しく食べたことを思い出しました。このプチ・ホテルで食べたフランスパン(バゲット)の塩加減の素晴らしさは、今でも家族全員のいい思い出です。
著者はラム(羊肉)がダメだとのこと。可哀想ですね。でも、ノルウェーのラム肉は臭くなくて、柔らかくて、初めて完食したそうです。おめでとうございます。
いかにも若い女性の手になる可愛いらしいイラストが満載です。ぜひ手にとって眺めて楽しんでください。
(2016年11月刊。1400円+税)

編集とは、どのような仕事なのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 鷲尾 賢也 、 出版  トランスビュー
編集者は、まずプランナーでなければならない。無から有を作り出す発案者である。
編集者は、真似も恐れてはならない。柳の下にドジョウは三匹いる。アイデアは、真似をしながら変形させていくことによって新しくなるもの。
編集者は、ある面では「人たらし」でなければならない。依頼を気持ちよく引き受けてもらい、スムーズに脱稿にまでこぎつける。
編集者は、雑用の管理者という側面も持っている。すべてのことが同時進行になることが多い。企画を考えながら、ゲラを印刷所に返す。装丁家に依頼もしなければならない。営業との打合せも入る。こんなことは日常茶飯事。どのようにしてリズミカルにいろんな局面に対応できるか。これも編集者の大事な能力。口、手足、頭をマルチに使えるのが一流の編集者だ。
編集者には、フットワークが求められる。軽く、気軽に実行できる即応力である。
編集者の仕事の源は人間。それ以外に資源も素材も何もない。つまり、優れた人間を見つけるか、育てるかしか方法はない。
編集者は、旺盛な好奇心の持ち主でないといけない。素人の代表である。
編集者ほど、人間が好きでないとやっていけない職業はない。そして、夢を描き続けられることも編集者に必要な資質である。少年の夢に似た憧れを抱き続けられる持続力は、編集者に必要な資質だ。
編集者は、著者には読者の代弁者、読者には著者の代弁者でなくてはならない。執筆は苦しい作業である。身を削るほどの労力・時間を使い、ようやく完成する。
著者は機械ではない。催促なしの脱稿という夢のようなことは一切考えないほうがいい。催促なしに原稿は完成しない。それが原稿というものである。依頼したあと、編集者は著者を励まし、叱咤し、助力し、ほめたたえ、応援し、だまし、なんとか完成にこぎつける。どんな手段をとっても原稿が出来上がるところまでもっていかなければならない。
商品にするために、表現上の化粧は編集者がほどこさなくてはならない。
導入部は大切。ともかく読者を引き込まなければいけない。
パソコンで書かれる原稿は、どうしても漢字が多くなる。しかし、ベストセラーに共通しているのは、誌面に白地が多いこと。活字がぎっしり詰まっていると、読もうという意欲を失わせる。漢字とひらがなの比率、適度な改行が整理するときの大切なポイントである。
モノカキを自称する私ですが、同時に編集も業としています。この本は、その点さすがとても実践的な内容で参考になりました。
苦労してつくった真面目な本が本当に読まれません。残念です。みんな、もっと、本を本屋で買って読んでほしいと心から願っています。
(2014年10月刊。2000円+税)
 いま、今年よんだ単行本は492冊です。読書ノートをつけています。大学生のころから読書ノートをつけているのです。それによると、20年前から年間500冊のペースで変わりません。もっと前、30年前には200~300冊でした。読むスピードを少し上げたのと、訓練して速くなりました。でも、これ以上は増やしません。本を読むのは、電車のなか飛行機のなかです。ですから車中や機中で眠りこけないように、家でしっかり睡眠をとるようにしています。
 本を読むと、世界が広がります。こんなことが世界で起きているのかと、新鮮な刺激を受けられるのが楽しくて、本を読み続けています。

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