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カテゴリー: 社会

貧困クライシス

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 藤田 孝典 、 出版  毎日新聞出版
日本で貧困が広がり続けている。それも驚くほど速いスピードで。あなたも、気がついたら、身近に迫っていて、身動きできなくなっているかもしれない・・・。恐ろしいことです。
子どもの貧困は見た目では分からない。自分は誰にも大事にされていない。存在があってないようなものだと感じる。そんな子どもたちが日本各地にひっそりと生活している。
健康で文化的、そして人間らしい生活ができない。相対的貧困が拡大している。
私が大学生だったころ、つまり50年も前に、絶対的貧困と相対的貧困の違い、そして、今、どちらも進行しているのではないかという議論をしていました。この議論が50年後の現代日本にも依然として生きているというわけです・・・。
民間企業で働く人の平均年間給与は、1997年に467万円だったのが、2015年度には420万円と、50万円近くも下がっている。
公務員バッシングをして、自分たちの公共サービスを削減している。市民が自身の生活に深い関係のある公務員労働者を減らし、自分自身を、より厳しい状態に追い込んでいる。日本では、現在の公務員労働者の数は、すでに異常なほど少ない。
非正規雇用は、正規に比べて糖尿病合併症のリスクが1.5倍も高い。そして、教育年数が短い低所得の高齢者ほど、要介護リスクも大きい。経済力によって、病気のリスクや寿命に格差が生じる。
所得が低いほど食生活や健康に費用や時間を割けず、栄養状態も不良で、その結果、健康を損なう確率が高い。これでは自己責任だとは言えない。
まだ下流に落ち込んではいないと、少なくとも自分では思っている層が、下流を警戒し、憎むという構図になっている。
介護保険も生活保護も、申請主義である。なので、人様(ひとさま)には迷惑をかけられない、かけたくないという人は、手を伸ばしにくい。
日本とイギリスではホームレスの定義が異なっていて、イギリスの定義によれば、今の日本には膨大な人々がホームレスになっている。ネットカフェ難民は、立派なホームレスなのだ。
65歳以上の高齢者が刑務所に入るのが、この20年間ほぼ一貫して増加している。2014年は、1995年と比べて総数で4.6倍に、女子では実に16倍に激増した。女子の場合、罪名の9割が窃盗、うち8割が万引。
著者は、プライドを捨て、「受援力」をもというと呼びかけています。大切な呼びかけです。
そして生活保護は「相談に来ました」ではなく、はっきり「申請します」と言うことだとアドバイスしています。必要なことです。
社会のみんなで困っている人を温かく支えあう。それが社会の正しいあり方ですし、正しい税金のつかい方なのです。遠慮することなんかありません。
歯切れのいい新書です。一読をおすすめします。
(2017年3月刊。900円+税)
パキスタン映画『娘よ』を東京の岩波ホールでみてきました。先輩の藤本斉弁護士と、ばったり顔をあわせて驚きました。
パキスタンの山奥には多くの部族が割拠し、対立、抗争、復讐の連鎖による殺人が絶えない。女の子たちは15歳で親の言いなりに政略結婚させられる。しかし、王子様との結婚を夢見るばかりの可愛い我が娘を、敵対する老部族長の嫁に差し出すなんて耐えられない。母親は娘を連れて村を飛び出す。
この映画の主役の母親と娘の美しさと気高さには思わず圧倒されてしまいます。そして、行きかかりで母と娘の逃避行を助けるトラック運転手役の男優も格好いい限りでした。パキスタンの困難な状況の下でも、女性が活躍を切り拓いているからこそ、こんな素晴らしい映画が出来たのでしょう。

現代日本の官僚制

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 曽我 謙悟 、 出版  東京大学出版会
現代日本の官僚制において、政治任用や権限委譲の制限といった統制の程度は低い。これは、官僚制の側が戦略的に政治介入を防御している結果である。
現代日本の官僚制は、統治の質は高いが、その代表性はきわめて低い。世界的にみて、これは特異な状態である。この特異な姿は、政治介入の可能性に対して、あくまで政策形成者としての能力に特化することで介入の実現を防ごうとしてきたことの帰結である。
しかし、代表性が弱いことは、官僚制に対する人々の信頼の低さの一つの要因と考えられる。ここでいう代表性とは何なのか・・・。女性比率が高いほど、代表性は高いと考えておく、という文章があるように、女性や民族・宗教的代表性のことを指しているようです。
今日でも、女性の公務員はあまりに少ないように思われます。
「私人」のはずの昭恵夫人の付き人として国家公務員が5人(全員が女性)も存在していたとは驚き以外の何者でもありません。そして、彼女らは、なんと昭恵夫人と同じようにハチマキ姿で自民党の候補者の応援運動を街頭で公然としていたのです。私もネットで流れている写真を見ましたので間違いありません。明らかに国家公務員法違反です。これが革新候補の応援だったら警察が有無を言わさず逮捕して、自宅のガサ入れ、そして長期拘留になったはずです・・・。政権与党なら、何をやっても許されるというのであれば、日本は法治国家とは言えなくなります。
この本を読んでいて違和感があるのは、私にはまるで理解不能の数式が何回も登場してくることです。その解説が「自然言語」で説明されていますが、これまた私にはさっぱり理解できません。一般向けの本(と、私は思って買って読みました)に、なぜ数式が頻出するのか、これこそ学者の自己満足ではないのか・・・、そんな不満を覚えてしまいました。
日本男官僚制の実態の分析、そして問題点を指摘し、その改善に向けた処方箋を期待して私は読みすすめたのですが・・・。
内閣府の職員数は1200人から1300人。併任者が増えていて、この15年間で3倍、500人となっている。内閣府がより恒常的な政策の運営を所管している。
内閣官房には、職員、常駐の併任者、非常駐の併任者が、ほぼ同数の1000人ほど存在する(ということは3000人いる・・・)。
内閣官房は、今や新規立法活動の中心にある。この15年間で合計80の新規立法に関わり、第2位の国交省の60強、第3位の総務省の60弱とは大きな差をつけている。
内閣官房の比重の増大は、財務省や経財省の機能と併存している可能性が強い。
官僚になってもいいかなと一時的に漠然と考えたこともある私ですので、日本の官僚制と長所と短所について自然言語で諸外国と比較してほしいと思いました。労作ですが、難解すぎて、いささか不満を覚えてしまいました。
(2016年12月刊。3800円+税)

安倍三代

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 青木 理 、 出版  朝日新聞出版
安倍首相の国会答弁のひどさは、一言でまとめると、えげつないということになります。国民に対して、論争点を誠実に説明しようという気がまるでありません。そのくせ口先では説明責任を丁寧に尽くしたいとは言うのですから、救いようがありません。
どうして、こんなに不誠実を絵に描いたような首相の支持率が5割をこえているのか、世の中の七不思議のトップに来ます。
この本は、安倍首相がどういう育ちなのか、いつからそうなのかに迫って、解明しようとしています。
安倍首相には受験戦争の経験がまったくない。成蹊学園の小学校に入り、中学、高校、大学までの16年間を過ごした。そして、同じ学年やクラスを一緒にした人、そして教える側の教員にまったく印象を残していない。
可もなく不可もなく、どこまでも凡庸で、なんの変哲もない、おぼっちゃま。
ごくごく普通の「いい子」だった。成績が悪かったわけではないが、決して優秀でもなかった。東大は無理だったし、早稲田や慶応も恐らく無理だったろう・・・。
アーチェリー部に入っていたか、とくにいい成績もあげていない。アメリカに行ったけれど、その実態は語学留学に毛のはえた程度にすぎない。
若き日の晋三は、16年も籍を置いていた学び舎で何かを深く学んだという形跡がまったくない。少なくとも、何かを深く学んだと教員や周囲の人間から認識されていない。何かを学んだという印象すら残していない。特筆すべきエピソードがない。悲しいまでに凡庸で、なんの変哲もない。善でもなければ、強烈な悪でもない。
母方の祖父である岸信介には溺愛された。では父の晋太郎はどういう政治家だったか。
晋太郎は、タカ派の系譜を継ぎつつも、実際には、平和憲法擁護論者だった。
晋太郎には戦争体験があった。特攻を志願し、もう少し戦争が長引いていたら、生命がなかったかもしれなかった。
晋太郎には、必死で地盤を耕したことに由来する目線の低さ、なによりも絶妙のバランス感覚があった。特攻に散る寸前だった戦争体験は、晋太郎の基底に強固な反戦意識を形づくっていた。晋太郎は東京帝国大学法学部に入学したものの、学徒出陣で海軍の滋賀航空隊に徴兵された。
さらに晋三の祖父・安倍寛はどうか。
安倍寛は戦前、東京帝大法学部を卒業し、村長を経て衆議院議員に当選している。
それも、大政翼賛会の推薦ではなくて無所属として・・・。安倍寛は、貧富の格差を憤り、失業者対策の必要性を訴えた。ええっ、これって無産政党の主張と同じではありませんか・・・。
安倍寛は、村長をつとめていた日置村では98%もの票を独占した。特高警察の干渉にもめげず、1942年にも2度目の当選を勝ちとった。
安倍寛は、大政翼賛会に反対し、裸一貫で東条英機に反対した。ところが、安倍寛は惜しいことに戦後、1946年に51歳で病死してしまった。
安倍家三代で、今の晋三は、祖父にも父にも似ていないことがよく分かる本です。
恐らく晋三には強烈な学歴コンプレックスがあるのでしょう。それを見せないためにも強がりを言い通すしかないのです。でも、それで迷惑を蒙る国民は、たまったものではありません。安倍家の三代をよくぞ調べあげたものだと思います。
決してキワモノ、決めつけ本ではありません。ご一読をおすすめします。
(2017年4月刊。1600円+税)

住友銀行 暗黒史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 有森 隆 、 出版  さくら舎
こういう本を読むと、つくづく銀行なんかに就職しないで良かったなと思います。
ノルマ競争とか出世競争というのはどんな企業にもあることでしょうが、暴力団やアングラマネーの世界との深いつきあいまでいったら、類似しているのはゼネコンくらいでしょうか。
前に『住友銀行秘史』(國重惇史)を読みましたが、この本によると、住銀、イトマン事件の真相を巧妙に避けているというのです。そして、國重の本は「住友銀行は被害者だ」というトーンで貫かれているが、著者は住友銀行は被害者ではなく、事件の共同正犯だと断言しています。
住友銀行かイトマンに融資したお金のうち6000億円もの巨額の資金の行方は、今もって謎に包まれたまま。いや、6000億円プラス3000億円という、1兆円に近い巨費が闇に沈んだ。
住友銀行は不動産投資を名目にイトマンに多額の資金を投入した。イトマンを迂回して、このカネは伊藤寿永光、許永中、さらには暴力団関係者など闇の世界に消えた。暴力団に斬り込むのは、身の安全を考えると銀行員にとってもタブーだろうが・・・。
バブルの時代、東西に二人の経済ヤクザの巨頭がいた。東に石井進・稲川会二代目会長。西が宅見勝・山口組若頭。この二人の経済ヤクザと住友銀行をつなぐフィクサーは、東が佐藤茂・川崎定徳社長、西がイトマン事件の主役・伊藤寿永光だった。
磯田一郎は、1977年に住友銀行の頭取になり、1983年に会長就任。実に13年の長きにわたってトップとして君臨し、「磯田天皇」と呼ばれた。
土地は必ず値上がりするという「土地神話」のメカニズムが作動していた。住友銀行は、担保掛け目を80%にした。そして、どうしても融資したい案件には、100%にした。
1990年3月期の住友銀行の貸し出し金利息は1兆9300億円。第一勧銀の1兆9100億円、三菱の1兆7800億円、富士の1兆8100億を上回り、トップだった。
磯田流人事は、ナンバー2を切るということ。そして、「表のカード」と「裏のカード」とを使い分けた。自ら手を汚さず、ダーティーな役回りを担わせる「汚れ役」をいかにうまく使うか。
まさしく、すまじきものは宮仕えの世界ですね。
そして実力をもつに至った「裏カード」は、いずれ疎ましくなって放り出されてしまう。
仕手集団が狙うのは、創業者以外に頼れる人材のいない会社だ。
磯田一郎会長が辞意を表明したのは、1990年10月7日。その2日前に、住友銀行の青葉台支店長・山下彰則が出資法違反で東京地検特捜部に逮捕された。株の仕手集団・光進の小谷光浩代表への融資を不正な方法で斡旋したという容疑だった。
住友銀行、イトマンの経営者のほとんど全員が地上げや株上げで巨利をむさぼっていた。いわば、バブルの共犯者である。
1994年9月、住友銀行の取締役であり名古屋支店長だった畑中和文氏が自宅マンションの廊下で射殺された。真犯人は今に至るも捕まっていない。
この本は、最後に、日経新聞やNHK記者が当事者のように行動していたことを厳しく批判しています。安倍首相と高級飲食店で食事をともにしているジャーナリストがあまりに多くて、幻滅しています。権力や財界にかかえこまれることなく、距離を置いて、あくまで国民目線で報道してほしいものです。
たしかに、國重本よりも読みごたえがありました。
(2017年2月刊。1600円+税)

チア・ダン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 円山 夢久 、 出版  KADOKAWA
映画は見ていませんが、感動のノンフィクションというオビのフレーズは本当です。
なにしろ、わずか3年で福井県の女子高校生たちがアメリカのチアダンス大会で優勝した実話を紹介しています。その苦労話が実に生き生きと紹介されていて、著者の筆力もたいしたものだと感嘆しました。
前に、このコーナーで長崎の女子高校のブラスバンド部の活躍ぶりを紹介しました。そのときは監督も自ら音楽を演奏していましたが、今回の教師は自分ではチアダンスの経験はないのです。有名コーチをひっぱってきて指導してもらい、チームを育てていきました。その苦労がすさまじいのです。生徒たちと大変な格闘をしていたことがよく分かる描写です。
なぜアメリカで日本の女子高生が優勝できたのか、それはチアダンスの特性による。
日本チームの強みは、なんといっても、チームワーク。振付の難易度は下げてでも、おたがいを尊重・強調して演技する。しっかいりそろった演技を一番の見どころにする。
先日、ネットで日本体育大学の学の集団行進を見せてもらいましたが、大集団が一糸乱れず、さまざまな形になって行進するのには、息もつけないほど感動しました。まさしくそれと同じなんですね・・・。
バレエやダンスなら、個人としての表現力が第一。しかし、チアは、ラインダンスで脚の高さをそろえるとか、全員で同じ動きをするために、必要なら自分を抑えるという協調性が第一の競技。
となると、そのチームワークをいかに築き上げるのか、ということになります。
もちろん技術力の高いコーチが必要ですが、それだけでは十分ではない。そこに監督の指導が求められるわけです。
監督の仕事は孤独である。生徒たちと同じ目標をもってはいても、決して仲間や友だちにはなれない。なーるほど、そうですよね・・・。
この福井商業高校のすごいところは、2009年に全米チアダンス選手権大会で優勝してから、2016年まで実に6回も優勝していること、そして2013年から2016年まで四連覇だというのです。これはすごいことですよね。全米の大会で一回だけ、奇跡が起こったというのではなく、毎年、新しい高校生を迎え入れながらレベルを落とさなかったというわけですから、たとえようもないくらいの賞賛に価します。
夢はかなう。大きな夢をもち、あきらめずに前進し続けば、夢がかなう。この信念を現実のものにした教師、それにこたえた生徒集団に心から声援の拍手を送ります。
ちなみに、このチアダンスのチームJETSを卒業した109人のほとんどがアメリカのステージで輝き、優勝を体験したとのこと。この109人の周囲にはそれを支えてくれる大勢の高校生、そして家族がいるわけです。これまたすごいことです。
こんな地道な努力が日本を支えているのだと思うと、胸が熱くなります。
(2017年1月刊。1400円+税)

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