法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 社会

黙殺

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  畠山 理仁 、 出版   集英社
選挙権を得てから私は棄権したことがありません。投票所で入れたい人がいないときは、わざわざ「余事記載」をして無効票を投じます。私にとって、投票するのは権利であって、義務でもあります。最高裁の裁判官の国民審査にしても、ムダなことだと分かっていても、ご丁寧に全員に×印をつけています。
みんなが投票なんてムダなことだと思っていたら、この社会には民主主義はないし、専制君主による独裁を甘んじて受けいれるしかなくなります。権利に甘えてはいけません。
ところで、誰が候補者になっているのか、その人は何を訴えようとしているのか、きちんと考えずに投票している人が少なくないのも現実です(少なくとも、私はそう考えています)。
初めから当選しそうもない候補者をマスコミは「泡末候補」と呼び、その政策をまともに紹介することはありません。著者は、その「泡末候補」にながく密着取材してきた。フリーの記者です。「泡末候補」と呼んではいけない、あえて呼ぶなら「無頼系独立候補」と呼ぶことを提案しています。
いまの選挙制度はおかしいことだらけです。その最大は死票続出の「小選挙区制」です。「政治改革」の美名のもとに、あれよあれよというまに実現してしまいました。「アベ一強」という、おかしな政治がまがり通っているのも、この小選挙区制の結果です。
もう一つは戸別訪問の禁止です。欧米の選挙運動では、テレビのCMとあわせて戸別訪問を活発に展開していますが、当然のことです。ところが、日本では戸別訪問は買収供応の温存になるとか、まるで客観的根拠のない不合理な理由で全面禁止のままです。これは現職有利にもつながります。
この本では、さらに供託金制度も問題視しています。フランス、ドイツ、イタリア、アメリカには供託金制度そのものがありません。供託金制度のあるイギリスでも7万5千円、カナダとオーストラリアは9万円。韓国は高くて150万円。ところが日本では、衆・参議員は300万円、政令指定都市については240万円。
かつてはフランスにも供託金制度があった。ただし、4千円から2万円ほど。それでもフランスでは高すぎる、必要ないという声があがり、1995年に供託金制度は廃止された。日本で供託金制度が出来たのは1925年のこと。普通選挙の施行とあわせて、供託金制度がスタートした。
「無頼系独立候補」の素顔を知ることができる本でした。
(2017年11月刊。1600円+税)

職場を変える秘密のレシピ47

カテゴリー:社会

著者 アレクサンドラ・ブラックベリーほか  、 出版  日本労働弁護団  
今や労働組合の存在感があまりに薄くて、連合と聞いても、有力な団体というイメージがありません。かつて、総評というと、医師会以上の力をもって社会を動かしていたと思うのですが、医師会も自民党の支持母体というだけで社会的に力がある団体とは思えません。
この本は、アメリカで労働運動に運動を取り戻すということで1979年に発足した「レイバー・ノーツ」が発行したものです。日本労働弁護団は、この本(英語版)をテキストとして2017年2月から月1回の読書会を開いてきたとのこと。なるほど、アメリカノ労働運動の実践をまとめた本ですが、日本でも大いに参考になるものだと読んで思いました。
「誰も会議に来てくれない」と嘆く前に、Eメールや掲示板での知らせでは不十分なので、個人的に会って一対一で勧誘する。そして、会議に来てくれたら、気持ちよく有意義な会議にする。事前にちゃんと準備しておき、参加してくれたことに敬意を示す。議題設定は参加したいと思うようなものにする。
組織化するためには、聴くのが8割、話すのが2割(多くとも3割にとどめる)とする。話すときに携帯電話はしまい、相手の目を見て話す。時間をかけて話を全部聴く。誘導せず共感する。
「私がリーダーです」と言ったり、リーダーに自ら名乗り出る人は、たいてい本当のリーダーではない。情報通になりたがったりするだけであったり、最後までやり通せないことが多い。仲間からあまり好かれていなかったりもする。本当のリーダーは、みんなが自分で行動するようにすることができる人。
仲間を増やすには、まず一つは勝利をあげる必要がある。それによって、懐疑的な人たちをその気にさせる。奥の手はいきなり出さず、小さく産んで育てていく。最初に大失敗してしまうと、キャンペーンは行き場を失い、打ち切るしかなくなる。
キャンペーンの勝利は、それまで築いてきたコミュニケーションのネットワークを通じた一対一の対話によって得られる。SNSもビラも新聞もいいけれど、一対一の面と向かった対話を何より優先させること。
アメリカのレイバー・ノーツの全国大会には2300人もの参加があり、日本からも多くの人が参加しているとのこと。なるほど、この本に書かれているような経験交流が全国規模でなされるのであれば、大きな意義があると思います。
憲法に定められた労働基本権がまったくないがしろにされているような日本の現状です。ストライキが死語になっている社会なんて絶対おかしいと私は思います。なんでも自己責任ですませてしまい、弱者をたたいて喜ぶ風情、流れは一刻も早く変えたいものです。とても実践的な、いい本です。大いに活用されることを心から願います。
(2018年1月刊。1389円+税)

母の家がごみ屋敷

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 工藤 哲 、 出版  毎日新聞出版
いま全国各地で問題になっているゴミ屋敷について、その現状と対策が具体的に紹介されていて大変勉強になりました。
ゴミ屋敷を生み出している当の本人やその家族には既に問題解決能力を喪っている人が多いようです。ですから、行政的に解体・撤去すれば終わりということではなく、そのケアも大切だということです。なるほど、そうだろうなと思いました。
セルフネグレクトは、自己放任。自分自身による世話の放棄・放任だ。この状態が続けば、室内(家屋内)にゴミや物がたまって不衛生になり、何かのはずみで引火して火災を起こして本人ないし周囲に迷惑をかける。また、本人の健康も悪化していく。
本人が認知症にかかっていたりして、自覚がなく、ときに開き直るので、行政もうかつに手出しができないことも多い。
たまっているゴミが歩道を占拠しているときには、道路交通法違反として逮捕した例もある。また廃棄物処理法違反で摘発した例は少なくない。自治体が行政代執行で撤去することもある。放置されたゴミの撤去費用として200~300万円かかることがある。
地方自治体では、このための条例を政令したり、専門部署を設けて対応しているところも少なくない。埼玉県所沢市では、「ゴミ出し支援制度」をもうけていて、利用者が10年間で500世帯超と、3倍に増えた。
この本を読んで驚いたのは、実は、20代、30代の若い人でもゴミ屋敷のようになってしまう人が増えているということです。何らかのきっかけで、無気力、ひきこもり状態になってしまった結果なのです。
モノはあふれているけれど、住む人はますます孤立しているというのが、現代の日本社会だということです。直視すべき日本社会の現実のひとつだと思いました。
(2018年2月刊。1400円+税)

日米地位協定

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 明田川 融 、 出版  みすず書房
読めば読むほど腹の立つ本です。いえ、もちろん著者に対してではありません。歴代の日本政府に対して、そのだらしなさというより、もっとはっきり言えば、ひどい売国奴(ばいこくど)根性に怒りを覚えます。
日本はアメリカの全土基地方式を受け入れている。これは、アメリカ軍がいざとなれば、日本国内のどこであっても好き勝手に基地として使えるというものです。こんな屈辱的な方式を日本政府は受け入れているのです。許しがたいことです。そして日本の外務省は、その日本政府の方針の下で唯々諾々とアメリカの言いなりに動いています。日本の官僚機構として恥ずかしい限りの集団というほかありません。
日本占領軍のトップだったマッカーサーは、一貫して強固な沖縄要塞化論者だった。日本本土は徹底した非軍事化でよいが、沖縄は徹底した軍事化でのぞむという二つの顔があった。マッカーサーは沖縄の人々は、民族的にも文化的にも日本本土の人々とは異なると考えていた。とんでもない思い違いです。
日本地位協定についてのアメリカの基本的な考え方は、アメリカ軍の駐留を日本から要請し、アメリカが同意するという論理、つまり、日本に頼まれてアメリカ軍を置いてやるのだから、アメリカ軍や軍人・軍属・家族の権益くらいは日本は受忍してもらわないといかん。そして、そこは、当然に治外法権だし、すべての駐留費用は日本が負担すべきだというものです。ひどい話です。
アメリカ軍が基地としていたところに環境汚染物質が埋められていたとき、その現状回復義務をアメリカは負わず、すべてを日本側の負担となっている。情けない話です。まるで日本はアメリカの植民地です。
沖縄国際大学にアメリカ軍ヘリコプターが墜落したとき、その一帯をアメリカ軍がたちまち立入り禁止区域とし、日本の警察・消防の立入まで拒否した。ええっ、ウソでしょ。そう叫びたくなりますが、そんなアメリカ軍の横暴を許しているのが日本地位協定なのです。
アメリカ軍の将兵が日本で犯罪を起こしても日本側は一次裁判権を放棄するという密約にしばられて手を出せません。いかにも不平等・不公平・不条理です。これは、日本政府のアメリカへの忠実さと誠実さですが、同時に日本国民への不忠・不誠実でもあります。
日本は憲法にしたがって十分な防衛力をもっていないので、自国の安全をアメリカに依存しているのだから、モノ(基地)とカネ(防衛支出金)でアメリカに「貢献」しまければならない。この論理に自民党政府と外務省はとらわれている。
アメリカ軍の駐留経費の7割を日本は負担している。ドイツは3割でしかなく、韓国・イタリアだって4割なのに、異常な比率となっている。しかも、日本は光熱水料を全額負担している。
日本は、モノ・カネ・ヒトの三分野で、アメリカに全面的に協力させれているが、そんな国はほかに存在しない。いったい日本はアメリカに対し、どこまで「協力」したらよいのか・・・。
憲法についてアメリカ押しつけ憲法だと叫ぶ人は、日本地位協定の屈辱的な内容と運用については沈黙を守っています。すべてはアメリカに日本の安全を守ってもらっているからという幻想によります。一刻もはやく目を覚ましてほしいものです。
本分282頁の堂々たる研究書です。ご一読下さい。
(2018年2月刊。3600円+税)

記者襲撃

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 樋田 毅 、 出版  岩波書店
アベ首相の朝日新聞バッシングは異常です。権力による言論弾圧としか言いようがありません。ウヨクによるアサヒ叩きも、同じように日本の言論の自由を制圧するものでしかありません。
今度の朝日の財務省の文書改ざんに関するスクープはまさしくクリーン・ヒットでした。さすがのアベ首相も朝日新聞は間違いだと言えず、3秒間だけ頭を下げて神妙な顔で申し訳ないと国民に対して謝罪せざるをえませんでした。
この本が問題にしたのは、今から31年前の1987年5月3日の朝日新聞阪神支局(兵庫県西宮市)が散弾銃を持った目出し帽の若い男に襲われ、29歳の記者が亡くなり、42歳の記者が重傷を負ったという日本の言論史上かつてないテロ事件です。残念なことに「世界一優秀」であるはずの日本の警察は犯人を検挙できないまま時効となりました。
この事件を事件の前に阪神支局に勤めていた著者が執念深く追求していったのです。その真相究明の過程が詳しく語られています。
後半のところに勝共連合・統一教会も疑われていたこと、統一協会には秘密組織があったことも紹介されています。でも、私には「赤報隊」の声明と統一協会とは全然結びつきません。やっぱり、テロ至上主義の過激な日本人右翼が犯人だったとしか思えません。
朝日新聞については、私はそれなりの新聞だと評価しています。それは、今回の財務省の改ざんスクープでも証明されました。それでも、この本が問題としている役員応接室での右翼(野村秋介)の自殺における朝日新聞社の対応には疑問を感じます。自殺した右翼男性は2丁拳銃をもっていたのでした。1丁は朝日新聞の社長に、1丁は自分に・・・。しかし、実際には2丁とも自分に向かって発射し、朝日新聞の社長は無事だったのでした。さらに、このとき、朝日新聞社は社会部に知らせていなかったというのです。これも、おかしなことです。
アベ首相が朝日新聞を叩くとき、それに手を貸すようなマスコミがいるというのもまた信じられないことです。昔から、独裁権力は各個撃破するのが常套手段です。「明日は我が身」と考えるべきなのに、対岸の火事のようにぼおっと見過ごしているなんて、信じられないほどの感度の鈍さです。
マスコミ、言論の自由の確保は、私たち国民ひとり一人の自由に密接にかかわるものとして大切なことだと痛感させられる本でもありました。
(2018年2月刊。1900円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.