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カテゴリー: 社会

これからの日本、これからの教育

カテゴリー:社会

著者 前川 喜平・寺脇 研  出版  ちくま新書
文部省の河野学校の門下生の二人が教育行政のあり方と日本の行方を議論している、味わい深い対話からなっています。
河野学校とは、惜しくも20年前に文部省の課長だった当時、47歳の若さで亡くなった河野愛さんの主宰していたサロンを名づけたものです。前川氏は6年先輩になる愛さんについて、筋の曲がったことが大嫌いで、誠意や理想を捨てない人だった、そのような河野さんの生き方が加計学園問題のときの発言にどこかで影響していたように思うと語っています。もう一人の寺脇氏も河野門下として、深い影響を受けているとし、前川氏とは兄弟子と弟弟子みたいな関係になるとのことです。
加計学園問題については、江戸時代に、将軍の威を借りた近臣が跋扈(ばっこ)したような側用人(そばようにん)政治に堕(だ)しているのが問題。それが、本当に国民のためになっているのか根本から考え直す必要があると激しく批判しています。
前川氏の考える、教育行政官として必要な心構えを三つの標語にしたら、こうなる。
一つ、教育行政とは、人間の、人間による、人間のための行政である。
二つ、教育行政は、助け、励まし、支える行政である。
三つ、教育行政とは、現場から出発して、現場に帰着する行政である。
いやあ実に素晴らしい標語ですね。さすがは、教育基本法(改正前)の前文を全部暗誦できるというだけあります。
変化が激しく、将来を見通すのが難しい現代社会では、生涯を通じて学びつづけることが必要だし、そのなかで学校教育は、知識を単に詰め込むのではなく、生涯にわたって学び続ける力をつけられるよう、その役割を大きく転換したはずだった・・・。
ところが、「教育の自由化」が叫ばれ、市場原理をそこに導入するという。株式会社が小中学校を営利事業として運営して何が悪い、こんな考え方が強くなってきた。
前川氏は、農業高校は残すべき、高校の必修科目から数学を外すべきだという考えです。数学が必修になっているせいで、ドロップアウトする子が少なくないからです。
寺脇氏は、四大反対勢力とたたかった。業者テスト廃止に反対。農業高校なんて、どうでもいい。家庭科の男女必修に反対。総合学科設置にも反対。
寺脇氏がすすめていた「ゆとり教育」については、私も誤解していました。本当の「ゆとり教育」は、個人の尊厳と個性の尊重、自由、自律という個性重視の原則にある。そうであるなら、賛成します。
学校っていうのは、勉強のできない人間のためにあるんだよ。
これは文部省のトップ事務次官をつとめた人の言葉だそうです。まさに卓見ですね。こんな人が上に立つと、下に働く人たちも仕事にやり甲斐を感じられますよね。
官僚のなかに、佐川国税庁長官のようにアベ政治をひたすら支える人ばかりではなく、気骨ある人たちがいることを知って、勇気が湧いてくる新書でした。ぜひあなたもご一読ください。
(2017年11月刊。860円+税)

ブラックボックス

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  伊藤 詩織 、 出版  文芸春秋
 準強姦罪で逮捕される寸前までいっていたのに、警視庁の刑事部長が待ったをかけて、容疑者は今ものうのうとしている。そして容疑者もストップをかけた警察トップもアベのお友だちというのですから、日本の政治の歪みは、ここまでひどいのかと暗たんたる気持ちに襲われます。
容疑者はTBSのワシントン支局長だった山口敬之(当然、呼び捨てです。ちなみに、夏目漱石のような歴史上の著名人物も呼び捨てにしますが、もう一つは軽蔑するしかない人間です)。トップ警察官は中村格。菅官房長官の秘書官だったこともあるキャリア組の警察官で、出世頭の一人です。警察庁長官を目ざしているとのこと。
 中村格は刑事部長として、逮捕は必要ないと決裁した。捜査の中止も当然の指揮だとマスコミに開き直って答えたとのことですから、恐れいります。いつも、この調子で警察が被疑者の人権を考慮してくれているのであれば、弁護士としてありがたい限りなのですが、日々の現実は、まったく逆でしかありません。
 事件の本筋からははずれますが、著者の勇気には驚嘆するばかりです。高校生のとき、アメリカはカンザス州でホームステイしていたときにホストマザーに言われた忠告は次のようなものだった。
「銃で脅されても車に乗ったらダメ。そこで撃たれても逃げて。車に乗ったら最後、誰もあなたを探せない。そこに血を残しておいたら、それが手がかりになる」
 いやあ、怖いですね。アメリカの母親って娘たちにこんなことを言い聞かせるのですね。本当に恐ろしい国です。ぞっとします。
 デートレイプドラッグというのをこの本を読んで私は初めて知りました。アルコールを大量に飲ませて強姦したり、睡眠薬をつかってのレイプ事件というのは知っていましたが、それとは別の薬物があるのですね。
薬を飲んだあとの一定期間、記憶が断片的になったり完全になくなったりする「前向健忘」の作用がある。
本件では、北村滋という内閣情報官という重要人物が登場します。容疑者の山口が相談していた相手です。もちろん「アベ友」の一人です。日本の警察は本当に根本から腐っているとしか言いようがありません。
いま私は被疑者の国選弁護人として毎日のように警察署に面会へ出かけています。現場の警察官のほとんどは真面目に職務を遂行していると思いますし、そう期待していますが、トップがこんなに腐っていたら、佐川国税庁長官の下で働く税務署員と同じで、やり切れないことだと同情せざるをえません。
それにしても勇気ある告発書です。引き続きジャーナリストとして検討されることを心より願います。あなたも、著者を応援するつもりで、本書を買って読んでみてください。
(2017年10月刊。1400円+税)

国境なき医師団を見に行く

カテゴリー:社会

著者  いとう せいこう  、 出版  講談社
 勇気ある人々ですよね。戦場近くまで出向いて、傷ついている人々を、敵も味方もなく、両方とも無条件で治療するというのです。偉い人たちです。そして、たとえばこの組織に参加するために看護師の資格をとったという女性たちがいます。すごいことですね...。
 日本人の女性も何人も参加しています。ありがたいことです。医師団を支えているのは医師だけではありません。ロジスティクス、つまり建物をつくり、維持し、安全性を確保するといった人々も必要です。危険地帯のなかでも医師団体は丸腰で安全性を確保しているとのこと。それでもテロの巻き添えを喰って亡くなる人も出ています。残念です。
 国境なき医師団を現地で見ておこうとしたとき、出発前に「俺しか知りえない単語」を紙に書いて、封筒に入れ渡すよう求められた。なぜ...。誘拐されたとき、たしかに本人なのかを確認するための仕掛けなのだ。プルーフ・オブ・ライフと呼ばれている。うひゃあ、そういう仕組みがあるのですか、それほど危険な仕事なのですね...。
 MSF(フランス語です。国境なき医師団の略称)の施設に入るには、あらゆる武器が放棄されなければならない。
 建物をつくったり直したり、水を確保すべく工事するロジスティックがいなければ医療は施せない。
ひどい拷問を受けると、不眠やパニック、あるいは発狂する場合もあるので、心理ケア団体には精神科の医師も必要となる。
 難民施設にいると、未来が見えない。子どもたちは、まず勉強がしたい。そして、早く故郷に帰りたいと訴える。
MSFは、政治を変えようとしてここに来ているわけではない。あくまで医療不足を埋める方法を提示するにとどまる。
 ファミリープランニングを訴えるなかで、コントンムの使い方を教えることもある。避妊用インプラントというものがあるそうですね、知りませんでした。
 MSFを聖人君子の集まりみたいに見ないでほしい。なかでは、ビール飲んで、文句たらたら言って、悪態ついて、それでも働いているんだから...。なるほど、ですね。
 たくさんの写真とともにMSFの活動状況の一端が手にとるように分かります。
(2018年1月刊。1850円+税)

あるフィルムの背景

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  結城 昌治 、 出版  ちくま文庫
昭和時代の傑作ミステリ短編が復刊された文庫本です。よく出来ていて、思わず唸ってしまいました。
少女のとき、知り合いの青年についていったら、まさかの強姦被害にあった女性が、そのトラウマから男性恐怖症どころか人間不信となり、社会適応すらできなくなって、職を転々として生きていった。そして、あるとき加害者の男性が婚約者らしき女性と楽しそうに旅行しているのを見かけ、忘れかけていた過去を思い出し、我を忘れて・・・。切ないストーリーです。
DV夫から長年にわたっていたぶられてきた妻。夫が右半身不随になったとき、妻は恐るべき報復に出た。
私も実際に似たようなケースで妻の刑事弁護人になったことがあります。若いころに散々妻に対して暴力をふるっていた夫が老齢になって半ばボケかかってきたとき、娘とともに抵抗できない夫を殴りつけて重傷を負わせたというケースでした。その供述調書を読みながら、もっと早く別れておくべきでしたよね、子どもたちが可哀想だと思ったものでした。子どものために辛抱したなんて、子どもは言ってほしくないのです。
「あるフィルムの背景」は、検察官の妻がブルーフィルムに登場してくる女性そっくりなところから、容疑者たちを追求し、ついに真相を突きとめたときには妻は自殺していたという、なんともやるせないストーリーです。
読んでいて元気が出てくる話ではありませんが、なるほどこんな心理状態になっていくのだろうなと共感させられるところの多い話でした。
少々ネタバレ気味で申し訳ありませんでしたが、推理小説ファンには見逃せない傑作ぞろいです。
(2017年12月刊。840円+税)

女子高生の裏社会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  仁藤 夢乃 、 出版  光文社新書
 現代日本社会にこんな現実があるって知りませんでした。女子高生が路上で客引きをして売春まがいの行為をしているという現実があるんですね、驚きました。前川喜平氏ではありませんけれど、そんな場所に出かけていって、なぜそんなことをしているのか、その実際と原因をしっかり認識したいと思いました。本書は、そんな願いを代わって実行した成果です。
家庭や学校に居場所がなく、社会的なつながりを失った高校生を難民高校生と呼ぶ。
子どもの6人に1人が貧困状態にある。高校中退者は年間5万5千人。不登校は中学校で年間9万5千人、高校で年間5万5千人。未成年の自殺者は年に500人以上、10代の人工中絶は1日55件、年間2万件以上。
JR秋葉原駅をおりると、「JKお散歩」や「JKリフレ」の店が並んでいる。そして、女子高生が路上で客引きをしている。
都内のJKリフレ店は80店。JKお散歩店は秋葉原だけで96店。1店舗につき、20~40人が働いていて、年間60人が働いている。都内だけで5000人以上が「立ちんぼ」をしている。
JKお散歩やJKリフレのスカウトは、水商売や風俗店のスカウトマンがやっていることが多い。彼らは、少女たちに声をかけ、店に紹介し、紹介料をもらう。女子高生に声をかけ、巧みな話術で連絡先を聞き出す。
高校生はまだ子供だ。声をかけられるとすぐに信用したり、抵抗なく連絡先を教える。スカウトする大人は目が肥えていて、連絡先を教えてくれそうな少女を目利きできる。
高校生を一人つかまえたら、そのあとは簡単。友だちも一緒に働けるよというと、たいてい一人は不安だから誰か誘おうと思い、友人を連れてくる。その少女がまた友人を紹介して・・・、芋づる式に集まってくる。
大人たちが本当に少女を心配していたら、不特定多数の男性とお散歩なんかさせるはずがない。彼らは、少女を「商品」として気にかけているにすぎない。しかし、少女たちは、自分は心配されていると錯覚し、安心する。
「観光案内ツアーガイド募集」「がんばり次第で1日3万円以上稼げます」「お客様を案内する仕事です」「入店祝い金として1万円を差し上げます」「モデル事務所と提携しています」「風俗店ではありません。個室や接触、女の子が嫌がることは一切ありません」
たしかに、これに惹かれる女子高生は少なくないのでしょうね。
友達紹介制度は、最初の1ヶ月間、友人が稼いだ売上げの10%が紹介者の少女に入る仕組みだ。
JK産業で働く女子高生の平均月収は6万7千円。
働いていることを親に隠していると答えたものが31人のうち27人。友人には25人が内緒にしている。JKリフレやお散歩で働く少女の多くは家庭から排除されている。彼女らにとって自宅は安らげる場所ではない。
性被害にあったとき、誰にも頼れず苦しむ女性は多い。誰にも言えない経験から少女が家族や学校、社会から孤立していってしまうことは少なくない。取材に応じた31人のうち4人がレイプ被害にあっていた。
貴重なレポートです。考えさせられる現実を知りました。
(2014年9月刊。760円+税)

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