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カテゴリー: 社会

フロントランナー、いのちを支える

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 朝日新聞be編集部 、 出版 岩崎書店
 フロントランナーとは、自ら道を切り拓く人。10人のフロントランナーが本書に登場します。
 若者を孤独の淵(ふち)から救い出すサービスを提供するNPO法人。24時間365日体制で、チャットで相談に乗る。大学生のときに始めた大空幸星さん。
 カルト宗教の被害者を救済にいち早く取り組んできた紀藤正樹弁護士。
 野宿者支援、賃貸物件に入るとき保証人を300人分も引き受けた「反貧困ネットワーク」事務局長の湯浅誠さん。
 大牟田市の不知火病院の徳永雄一郎医師も登場します。全国に先駆けて1989年、うつ病専門病棟「海の病棟」を開設したのです。川に面して、陽光が降り注ぐ開放的な病棟です。私も見学したことがありますが、なるほど、こういう施設だと気が安まると思いました。
 天井は雨の音が聞こえる設計、天井には川のゆらぎが映り、潮の満ち引きが感じられる。部屋に入る光の角度や風向きも綿密に計算。徹底的に五感を刺激するため。
 4人部屋だが、座ると本棚の陰になって互いに見られない。プライバシーを保ちつつ、寂しくはない、安心できる空間。38床の病棟を建てるのに4億円かけた。
 海の病棟に入院すると、同じようにうつ病に悩んでいる人に出会って、良くなっていくケースを見ることで、自分も回復するというイメージができ、治療効果が上がることが多い。
うつ病にかかる職種は変化している。開設して初めの数年間は、公務員や教師といった「きまじめタイプ」、バブル末期の90年代初めは接待漬けの商社員、働き過ぎのIT系社員、そして最近は、超高齢社会となっている関係で看護師や介護職員が多い。
 実は徳永医師は私と中学校で一緒だったのです。二代目の医師ですが、時代の要請にこたえて意欲的に取り組んでいることにいつも刺激を受けています。
 徳永医師から贈呈を受けました。ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。
(2024年10月刊。1900円+税)

異端

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 河原 仁志 、 出版 旬報社
 本のタイトルからは、何をテーマとする本なのか、見当もつきません。
 新聞記者たちが有力者や社上層部の意向に従わず、思ったことを、事実にもとづいてニュースにして報道する。これが異端。でも、読まれるし、ついには社会を動かしていく。
 昨今のSNSで、オールドメディアと決めつけられ、軽く馬鹿にされている風潮があるのは、活字大好き人間の私にはとても残念です。ただ、NHKが典型的ですが、権力の言い分をそのまま垂れ流しているとしか思えない記事があまりに多いというのも情けない現実ではあります。
 西日本新聞の傍示(かたみ)文昭記者の名前を久しぶりに見ました。弁護士会が大変お世話になった記者です。当番弁護士や被疑者の言い分を知らせる報道に大いに力を入れてくれました。
 1992年2月、2人の小学女児が殺された事件の報道では、久間(くま)三千年(みちとし)被告を犯人と決めつける報道ばかりでした。ところが、本人は一貫して否認していて、当時、始まったばかりのDNA鑑定もきわめて杜撰なものだったのです。
 久間被告は、それでも死刑判決となり、刑が確定すると2年後には執行されてしまいました。異例のスピードです。傍示記者は、自らがスクープを放った身でありながら、事件を再検討する企画を立て、社内の異論を抑えて連載記事を始めました。たいしたものです。
 次は、沖縄防衛局長が記者たちとの懇談の場で、オフレコとされているなかで、「犯す前に犯すと言いますか」などと、いかにも下品なたとえで、辺野古埋立の環境アセスメントについて語ったことを報道した琉球新報の内間健友記者の話です。
オフレコと断った場での発言であっても報道することが許されることがあることを私は改めて認識しました。政治家などの公人が「オフレコ発言」をしたとき、市民の知る権利が損なわれると判断させる場合には、報道してもかまわないのです。
 オフレコ発言であっても、公共・公益性があると判断した場合、メディアは報道する原則に戻るべきなのです。なるほど、そうですよね…。
 オフレコ発言だとあらかじめ宣言されていたとしても、無条件で何を言っても書かないとメディアが約束しているのではないということです。
 中国新聞は週刊文春の記事と張りあいました。自民党の河井克行・元法務大臣と妻の河井案里の選挙違反報道です。このとき、広島の議員、首長に対して、広く現金がバラまかれました。自民党の県議に対して1人50万円の現金が「当選祝い」として手渡されました。やがて、その出所は首相官邸つまり安倍晋三首相のもとであることが疑われはじめました。例の内閣官房機密費から1億5千万円が出たとみられています。
 前に、このコーナーで河井克行元法相が出獄後に刊行した本を紹介しましたが、河井元法相は、今なお事件の全貌を明らかにせず、深く反省している様子もありません。そして、中国新聞を左翼の新聞とばかりに非難しています。呆れたものです。
 この本を読みながら、やはりジャーナリズムに求められるのは権力の腐敗を暴き、それによって庶民の目を大きく見開かすことにある、そう確信しました。
(2024年11月刊。1870円)

追悼ー大石進さんー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大石進さん追悼文集 編集委員会 、 出版 左同
 日本評論社の社長・会長を歴任した、布施辰治の孫である大石進が亡くなったのは2024年2月のこと(享年89歳)。
大石進は若いころ、日本共産党員として、山村工作隊員の一人だった。オルグ活動の一環でリヤカーに映画ファイルを積んで、関東近郊の農村に出かけて無声映画の弁士をしたこともあった。つまり、暴力革命を信奉して活動していたこともあったということなんでしょう。中国共産党の毛沢東の影響が日本に強かったころのことです。「農村から都市を包囲する」というのは、広大な中国大陸ではありえても、狭い国土の日本でうまくいくはずもありませんでした。この体験が『私記・白鳥事件』にも生かされていると私は思います。
つまり、戦後まもなくの混沌とした社会情勢のなか、戦争(兵隊)体験者がうじゃうじゃいた世相とともに白鳥事件の真相に迫ったのです。同時に、白鳥事件を担当した上田誠吉弁護士(私も親しくさせていただきました。偉大な先輩として、今も敬愛しています)の苦悩にも言及しています。
 大石進は布施辰治の孫であることを長らく周囲に口外していなかった。祖父のことを話したのは1983年、石巻市での布施辰治30回忌追悼会が初めてではないかとされています。大石進が48歳のときですから、ずい分と長く、祖父のことを語っていないわけです。
 大塚一男弁護士の息子さん(茂樹氏)の紹介文には驚きとともに、なるほど、そうかも…と思いました。
 「父思いではない息子」とあり、「大塚(一男)も、息子には無理筋の追及および罵倒を惜しまないのが日常的だった。60年代はパワハラなど当たり前の時代であった」
 まあ、私なんかも胸に手を当てて、息子に対してどうだったのかと、いささか反省もさせられました。申し訳ないことです。真剣ではあったのですが…。
 私は、亡父の昭和初めの東京での7年間の生活を本にして刊行しました(『まだ見たきものあり』。花伝社)が、そのなかで布施辰治が弁護士資格を奪われ、治安維持法違反で逮捕されたとき、両国警察署の留置場内で盛大な歓迎会が開かれたことを紹介しています。信じられない実話です。どうぞ私の本もお読みください。
 石川元也弁護士、そして森正先生より贈呈していただきました。ありがとうございます。
(2025年2月刊。非売品)

地下鉄サリン事件はなぜ防げなかったのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 垣見 隆 、 出版 朝日新聞出版
 1995年3月20日、地下鉄サリン事件が発生。その前年(1994年)6月27日に起きた松本サリン事件では被害者なのに犯人と間違えられた事件が発生。そして地下鉄サリン事件の直後の3月22日、山梨県の上九一色村にあったオウム教団拠点への大捜索、3月30日に國松孝次警察庁長官の狙撃事件があり、オウムの麻原彰晃が逮捕されたのは5月16日。ちなみに、阪神淡路大震災が起きたのは、この年の1月17日です。これらの大事件の当時、警察庁刑事局長だった垣見隆弁護士から、6年に及ぶ準備期間を経て15時間もの聞き取りが一冊の本にまとまっています。日本の警察の中枢にいた人の話は傾聴に値すると思いました。
垣見氏はオウムの一連の事件を考えるにあたって、坂本弁護士一家殺害事件の解明が遅れたことを大きな問題とみています。オウム教団から大金を持ち逃げした岡崎容疑者が坂本弁護士一家の遺体を埋めた場所を警察にタレ込んできたとき、きちんと捜査しておけば、地下鉄サリン事件は起きなかったとしています。このタレ込みの書面に描かれた埋設場所は基本的には正確だったのです。
 そして、警察庁長官狙撃事件は結局のところ、犯人は中村泰(病死)である疑いは強いとされています。ところが、時効が成立した時点で警視庁公安部は犯人はオウムだと宣言したのでした(民事裁判で警察は敗訴)。
 この当時は村山首相(社会党)だったのですね。刑事局長として首相官邸に直接報告に行っていたことを警察の政治的中立性から問題にして批判した人たちがいたそうです。私には政治的中立性がなぜ問題とされるのか、さっぱり分かりません。
垣見氏は警察庁刑事局長から警察大学校長への異動を命じられた。明らかに更迭(こうてつ)人事。本人も「閉門蟄居(ちっきょ)を命じられた心境」、移動先では「配所の月を眺める」といった心持になった。これって菅原道真の心境でしたが…。まだ53歳の若さです。しかも、警察大学校長もわずか1年弱で退職勧奨を受けた。このときは、「言われるまま素直に、という気持ちではなかった」と語っています。
 当時の國松長官に対する怒りがあったのではないかという問いに対しては、「コメントするつもりはありません」と返して、否定していません。警察官僚トップ(長官)へあと一歩のところに来ていたのに、オウム対策で目立った失敗をしたわけでもないのに、なぜ自分だけ更迭されるのか…という怒りがあったようです。キャリア組同士の抗争というか、葛藤が感じられる状況です。
 垣見氏は司法試験にも合格していましたので、司法修習生となって弁護士活動を始めました。以来、弁護士になって25年たちました。
1989年11月に発生した坂本一家殺害事件こそ、オウム教団の一連の犯罪行為の原点。これについて警察は、当初は行方不明事件として扱うなど、初動段階の対応が的確でなかったと批判し、反省点にあげています。
神奈川県警は坂本弁護士について過激派だったとか、当初はデマを飛ばしたりして、まともに対応せず、オウムをきちんと捜査対象にしていませんでした。
 垣見氏は。マスコミ対応について、適切に出来ていなかったと自己批判しています。マスコミ陣から嫌われたというのも、更迭の一因になったのかもしれません。
 大変貴重なオーラルヒストリーだと思って、東京からの帰りの飛行機のなかで、一心に読みふけりました。
(2025年2月刊。1900円+税)

ルポ超高級老人ホーム

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 甚野 博則 、 出版 ダイヤモンド社
 入居一時金が3億円、そして毎月の支払額が70万円という老人ホームが東京にはあるそうです。高級どころではありません、スーパーリッチ層が入居する、文字どおり超高級の老人ホームです。
 さて、そこではどんなサービスが受けられるのか、本当にそれだけの大金を支払う価値があるのか、住み心地は本当にいいのか…。いろいろ疑問が湧いてきますよね。
 もちろん、私はそんな大金なんてもっていませんので、自分が入るつもりで、この本を読んだのではありません。私の知らない別世界を少しのぞいてみたかったのです。
 5億円以上の金融資産をもつ超富裕層が日本には9万世帯いる(2021年)。
 東京・世田谷の老人ホームは入居一時金が4億7千万円。うひゃあ、す、すごーい…。月々の生活費は夫婦で80万円。ここに入居する人は入居一時金の3倍ほどもっているのが条件のようです。つまり、15億円もっている人です。いやはや、そんな大金をもっている人が日本に「ごまん」といるというわけです。田舎にいると、とても信じられない金額ですが、そんな人たちがきっといるというのだけは断言できます。
 ここは3000坪の敷地に10階建ての中規模マンション風。150室あって、定員は200人。麻雀が圧倒的に人気で、陶芸工作室のため、専用の窯(かま)まで備えている。
 ここには、財界の大物たちが入居している。入居者のうちに10人ほど亡くなっている。空室は、わずかに10部屋。入居できるのは70歳から。
この施設に介護職として勤めている人は給与は23万円から27万円ほどでしかない。やっぱり給与は安いというしかない金額ですよね。
 全国的に、老人ホームの入居者は女性のほうが多い。
 東京にはタワーマンション型の高齢者対応マンションがある。地上31階建てで、銀座三越まで歩いて30分で行ける。
 共同生活に向かない人は、自分を優先してくれと求める人。また、スタッフを指名する人も入居を断っている。
 ある超高級老人ホームの入居者のうち8割が、自宅を残したまま。安心感のためらしい。ところが、実は看板倒れの、暴力団が裏に潜んでいるような超高級老人ホームがある。
 経営者が介護職員の人員配置基準の数をごまかしている施設は珍しくない。調理場には窓がなく、一種しかない調味料はカビだらけ…。いやはや、なんとひどいことでしょう。
 介護職員も低い賃金で、そのうえ自由がないので、人員を確保するのに苦労している。そりゃあ、そうでしょう…。
 高級老人ホームで、「高級」とは何か…。それは友だちが出来る環境がととのっているかどうか。なるほど、ですよね…。
 この本の結論は、超高級老人ホームは決してユートピアではない、ということです。
 「高級」とは、客を錯覚させるための巧みな演出があるかどうかだ。なーるほど、ですよね。勘違いしている人って多いですよね。
 インタビューしてまわった著者自身は、ごく普通の暮らしを過ごし、今までどおりの人間関係を保ちながら老後を過ごせたら、それでいいと考えています。私も基本的に同じです。老後に、田舎で花や野菜を育てるのもいいですよ。それも、もちろん元気なうちだけですが、老後の楽しみを若いうちから自分にあったものを確保しておくことがとても大切です。私の場合は、それは本を読み、そして書くことです。
(2024年8月刊。1760円)

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