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カテゴリー: 生物

有明海のウナギは語る

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 中尾 勘悟 ・ 久保 正敏 、 出版 河出書房新社
 私は小学生のころ、毎年のように夏休みになると大川市の叔父さん宅に行って1週間ほども過ごしていました。大川市にはたくさんのクリークがありますが、そこで掘干しと言って、クリークをせき止めて底にたまったヘドロを両岸に田んぼに上げて「溝さらえ」をするのです。そのとき、たくさんの魚がとれました。そのなかにウナギも入っていて、叔父さんが台所でウナギを包丁で上手にさばくのを身近に見ていました。柳川のウナギのせいろ蒸しはとても美味しくて評判ですが、子どものときは食べたことがありません。
 この本によると、二ホンウナギが絶滅に向かっているというのです。心配になります…。この本は、有明海とウナギについて、さまざまな角度から捉えていて、いわばウナギに関する百科全書です。
 日本産のほとんどは河口部で採ったシラスウナギを養殖池に入れて大きくした養殖ウナギ。九州では鹿児島が産地として有名です。
 日本で出回るウナギの3分の2は輸入したウナギで4万2千超トン。ヨーロッパウナギの生産量も減っている。
 日本のウナギ消費動向が世界のウナギ種の資源量を左右している。
 シラスウナギはもともと自然界でとれるものなので、人間は養殖ウナギの生産量を自由に制御することはできない。
 二ホンウナギの生態や生活史は、いまも謎だらけだ。西マリアナ海嶺近くでウナギが産卵していることが2005年に判明したくらいだ。
 ウナギの祖先は、白亜紀、つまり1億年前ころに現在のインドネシア・ボルネオ島付近に出現した海水魚。ウナギは2回、変態する。ウナギの北限は青森県。
私はウナギ釣りをしたことはありません。フナ釣りをしていてナマズを釣り上げたことは何度もありますが、ナマズは食べることもなく、すぐにリリースしていました。
 ウナギはミミズでも釣れるようですね。そして夜釣りもするようです。
 この本で驚いたのは、ウナギの生態を研究するため、ウナギの体内に金属製ワイヤータグを埋め込むというのです。また、麻酔をかけ、極小の発信機をウナギの体内に埋め込んで縫合するのです。すごい技術があるのですね…。
 ヨーロッパウナギを絶滅寸前に追いやったのは、資源量を考慮しない、日本国内の旺盛なウナギ食需要だ。これは消費者だけでなく、生産業、流通業など、関係者全員のあくなき欲望がつくり出した結果だ。いやはや、罪つくりなことです。でも、でも…。ウナギの蒲焼きとか「せいろ蒸し」なんて、本当に美味しいですよね。
(2023年3月刊。2970円)

歌うカタツムリ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 千葉 聡 、 出版 岩波現代文庫
 ええっ、カタツムリが歌うの…、それって本当なの…。
 ハワイに古くから住む住民は森の中から聞こえてくる音をカタツムリたちのささやき声だと考えていた。そして、19世紀の宣教師もたしかにハワイマイマイのさざめき音を聞いたと証言した。でも、今、ハワイのカタツムリは姿を消してしまった。
ナメクジはカタツムリとともに陸貝のメンバー。殻のないカタツムリがナメクジの仲間だ。
 先日、久しぶりに台所の床にナメクジが出てきました。いったいどこから這い出してくるのか不思議でなりません。その後、床どころか、朝、ミキサーを使おうとしたら、フチにナメクジがいました。危く、ナメクジ入りのジュースを飲むところでした。くわばら、くわばら…。
 カタツムリは、海に棲んでいた祖先が得た性質に、ずっと生き方をしばられてきた。カタツムリの生き方は殻を背負うことに制約される。ところが、その制約のため、環境への適応や捕食者との戦いの中で、多彩な殻の使い方、形、そして生き方の戦略が生み出される。制約のためにトレードオフがあらわれ、それが偶然を介して創造と多様性を生む。
小笠原諸島で見つけたニュウドウカタマイマイは直径8センチをこえ、日本の在来のカタツムリのなかでは最大。この巨大種は2万5千年前に突然出現し、1万年前に忽然(こつぜん)と姿を消した。
 現生のカタマイマイは、直径3センチほどで、その特徴は非常に殻が硬いこと。カタマイマイ属は飼育が難しい。そしてマイマイ属は、別の種に対して攻撃的に干渉する。
 カタマイマイ属の由来は、日本本土にあった。日本南部だ。まず父島で4つの生態系に分かれ、そのうちの一つの系統が聟(むこ)島に渡って、そこで2つの生態系に分かれた。もう一つの系統が母島に渡って、そこで再び4つの生態系に分かれた。母島では47の生態系の分化が、少なくとも3回、違う系統で独立に起こった。
 一つの系統が生活様式など、生態の異なる多くの種に分化することを適応放散という。カタマイマイ属の適応放散は、まったく同じ分化のパターンを何度も繰り返す点で、非常にユニーク。このような多様化を「反復適応放散」と呼ぶ。
 カタツムリは適応放散するばかりではない。非適応放散もある。では、いったいどのような条件で、それらが起きるのか、それが現在も研究課題となっている。
 琉球列島と小笠原諸島は、同じような気候条件にもかかわらず、生態系がまったく対照的な世界である。
 ニッポンマイマイ属の左巻きと右巻きの集団の分布は、カタツムリを食べるイワサキセダカヘビに対する適応によって生じた。このヘビは右巻きの貝を食べることに特化して、頭部が非対称になっているため、左巻きの貝をうまく捕食することができない。そこで、このヘビの生息地では、左巻きのタイプは捕食されないので、有利になる。すると、左巻き個体が増え、集団が確立して交尾できない右巻きの集団との間に種分化が成立する。いやはや、こんなところまで学者は注目して、研究するのですね…。
カタツムリを食べるカタツムリがいる。ヤマトタチオビだ。これは農業害虫のアフリカマイマイを駆除するため、アメリカはフロリダ州から持ち込まれた。ところが、現実には、アメリカマイマイの減少より早く、固有のポリネシアマイマイ類が全滅してしまった。
 著者も小笠原諸島で、カタツムリの歌を聞いたとのこと。足の踏み場もないほど地上にあふれ出した、おびただしいカタツムリたちの群れが、互いに貝殻をぶつけあい、求愛し、硬い葉をむさぼる音だった。つまり、よくよく耳を澄ますと、これこそカタツムリの歌だって聞こえてくるというのです。
 生物学の奥底は闇に近いほど深く深いもののようです。秋の夜長に、いい本を読むことができました。
(2023年7月刊。1130円+税)

ナマコは元気!

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 一橋 和義 、 出版 さくら舎
 タイトルは、「目・耳・脳がなくてもね!」と続きます。ええっ、そ、そうなの…、驚きます。
 もうひとつ、心臓もないけれど、海底で、ひっそり、立派に生きている。
ナマコは漢字で、海鼠(海のねずみ)と書く。中国語では「海参」(ハイシエン)つまり、「海の人参」。というのも、朝鮮人参の薬効成分であるサポニン類をナマコは持っているから。英語では「海のキュウリ」。
 ナマコの内臓は再生する。ストレスを感じたら、お尻から内臓を全部出してしまう。ところが、2週間もすると内臓が出来はじめ、2ヶ月もしたら新しい内臓が完成する。新しい内臓ができるまでは、身体を少しずつ溶かして、それを栄養にする。こうやって、小さくなっても生きのびる。いやはや、とんだ生き物ですね…。
 ナマコは、1日に体重の4分の1から3分の1の海底の砂や泥を食べる。砂や泥には小さな藻(も)などの有機物が少し含まれているから、それを栄養化している。海底に砂や泥は一面にあるので、動いて遠出する必要はなく、ひたすら触手を動かして食べている。
 ナマコは、目はなくても、皮膚で光を感じる。光の変化を感じると、皮膚が尖ったり、硬さを変える。
 ナマコの起源は5億4千万年前のカンブリア紀。ナマコの最古の化石は4億5千万年前のオルドビス紀のもの。
 ナマコの多くは、サポニンという起泡性(泡立つ)。物質が含まれている。このサポニンは、魚にとっては猛毒。
ナマコを切断すると、2分後には傷口の周辺の皮膚が動いて傷口を閉じはじめ、体が収縮して移動する。そして24分後には、傷口はほぼ閉じられる。
 ナマコは、海底をはうものだけでなく、泳げるものもいる。世界中にナマコは1500種いて、日本には250種いる。水温が24度をこえると夏眠(かみん)する。冬眠の逆ですね。
 ナマコとお掃除ロボットルンバはとてもよく似たシステムで動いている。ナマコに脳がないというのは、中枢制御では動いていないということ。体の末梢にある個々の感覚が反射的に運動に結びつく単純なシステムが集合し、それをローカルで協調させるシステムを組み合わせることで、合体としての歩行運動を可能にしている。
たくさんのナマコの写真とともに面白い生態を知ることができました。世の中の幅の広さを実感できる本として、一読をおすすめします。
(2023年8月刊。1650円)

ゴリラ裁判の日

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 須藤 古都離 、 出版 講談社
 ゴリラは人間と会話ができます。お互いに意思疎通できるのです。それは手話によります。ノドの構造上、発音のほうは人間と同じにはいかないようです。
この本は、ゴリラがコンピューターによって意思を言語で表現できるようになったという状況を前提としています。今はまだ出来ませんが、近いうちに実現できるのかもしれません。今だって、寝たきりの病人が頭のなかで考えていることをコンピューターの手助けを得て表現できるわけですので、手話が出来るのだったら、コンピューターを駆使して会話できるようになるのも、間近のことでしょう。
 私も山極寿一・元京大総長のゴリラに関する本は何冊も読んでいますので、ゴリラが一般的に争いを好まない動物だということは承知しています。著者も最後に、少しばかり、この本には事実に反する記述があると告白し、謝罪しています。
 それはともかくとして、大変面白く、一気読みしてしまいました。つまり、ゴリラに感情があるのか、人間と何が違うのか、という点が物語として読めるよう掘り下げられているからです。
 動物は人間よりも劣っていると誰もが考えているし、動物の命は軽視される、人間の命を守るために動物が殺されても、誰も疑問に思わない。しかし、人間だって、粗暴で、矛盾を抱え、利己的な存在だ。
学者証人が法廷で次のように証言した。
 「人間と動物の違いは複雑な言語体系をもつか否かにある」
 では、主人公のような手話をこえて、コンピューターを駆使して話ができるようになったゴリラは人間ではないのか…。法廷でゴリラ側の弁護士がこう指摘したとき、陪審員の一人が反応した。そうか、ゴリラも人間なのか。そして、ゴリラだって、「神の子」なんだ。そうすると、ゴリラを人間として尊重すべきではないのか、人間とは違うものとして、その主張するのは間違いではないのか…。
 その陪審員は自分の考えを根本から改める必要があると考えた。そして、行動した…。
 ゴリラについては、「何匹」とか「何頭」ではなく、「何人」と数えると聞いています。なるほど、そのとおりでしょう。
 私も、もう少し若ければアフリカに行ってジャングルのゴリラを観察するツアーに参加したいと思いますが、それはあきらめています。エジプトのピラミッドや、ペルーのマチュピチュの見学をあきらめているのと同じです。今はできるだけ日本国内をもう少し旅行したいと考えています。
 私は読む前はアメリカの裁判の話なので、てっきりアメリカの弁護士の書いた本の翻訳本だと思っていましたが、途中で、日本人の若手(30代)の作家によるものだと知り、驚きました。たいしたものです。人間とは何かを改めて考えさせる本として、一読をおすすめします。
(2023年3刊。1750円+税)

都会の鳥の生態学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 唐沢 孝一 、 出版 中公新書
 身近な小鳥たちの生態を教えてくれる新書です。ツバメ、スズメ、そしてカラスなど、ごくごくありふれた鳥たちですが、意外なほど私たちは詳しい生態を知りませんよね。
 まず一番にツバメ。九州や四国で越冬するツバメが増えているとのこと。私は冬にツバメを見たことはありません。そして、ツバメの飛来時期が23年間で1ヶ月も早まったとのこと。そうなんですか・・・。私の住む地域では、3月中旬です(と思います)。
 ツバメのオスは早く飛来して営巣場所を確保してメスを迎えたい。しかし、早い時期だと、途中で寒波襲来に出会ったり、天気が大荒れになったりする。すると、餓死したりして途中で脱落してしまう危険がある。
先に来たオスは辛抱強くメスを待つが、メスが先に帰還したときは、いつまでもオスを待つことはない。ツバメの寿命は平均1年半しかないので、いつまでも生死不明の前夫を待っていられない。
ただし、ツバメも、5年、10年、ついには16年も生きた長寿記録があるとのこと。信じられませんね。
 ツバメの子育てで最大の天敵は人とカラス、そしてネコ。人はそのフンを嫌っての巣落とし。カラスに対してはツバメが集団的に対抗しようとする。
 ツバメはスズメと、対カラスでは共闘するが、普段は営巣場所をめぐって対立関係にある。ツバメの親子の家族生活は2週間ほどで終わり、幼鳥たちは、ほかの幼鳥と合流して行動するようになる。
 ツバメは一夫一妻であり、オスとメスが共同して子育てする。ところが、牛舎などで集団繁殖することの多いヨーロッパのツバメはDNA検査すると、30%は婚外子だった。これに対して、各家に分散して繁殖する日本のツバメでは婚外子は3%しかない。
 次は、スズメ。「特徴がない」のがスズメの最大の特徴。スズメは飛翔昆虫しか食べないツバメと違って、何でも食べる雑食性。そして、体長14.5センチと小さいので、1回に食べるエサは少量。これによって、スズメは都市でも生きていける。
 スズメの寿命は平均1.8年。ところが、最長8年というのもいる。スズメは、カモやムクドリなどと「混群(こんぐん)」をつくって生活することが多い。混群によって、食物を発見しやすく、また天敵に対する安全性も高まる。
 スズメの一日は、太陽のもとで始まり、終わる。これは、まるで江戸時代の人々と同じだ。
 スズメは、ハタオリドリ科の鳥であり、そのルーツは、アフリカのサバンナにある。
 スズメは雑木林のオオタカやサシバの巣の近くで繁殖することがある。しかし、スズメを食べるツミの巣の周辺は避けている。
スズメは人の住む人家のない限界集落は姿を消していくが、キャベツ畑の集荷場で営巣している。これは、アフリカのサバンナをスズメが起源することによるようだ。
 ハシブトガラスとハシボソガラスの共通点の一つは、雑食性。何でも食べる。もう一つの共通点は、足技(あしわざ)。カラスの爪は長くて頑丈であり、「爪さばき」もまた絶妙。
 カラスは遊ぶ。そして、その多くは、人間の子どもの遊びに似ている。子どもは、遊びを通して、身体能力や仲間とのコミュニケーション能力を高める。
 さすがによく調べてあると驚嘆しながら読みすすめていきました。
(2023年6月刊。1050円+税)

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