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カテゴリー: 朝鮮・韓国

夜は歌う

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 キム・ヨンス 、 出版 新泉社
民生団事件、すなわち1930年代の中国・満州を舞台として、そこにいた朝鮮人の民族主義者(独立派)、共産主義者と中国共産党のあつれきをテーマとする小説です。民生団事件は中国共産党の恥部、暗黒の歴史の一つと言えるものですが、それが小説とし再現されています。これは大変重たいテーマですが、単なる歴史解説書とか弾劾本ではなく、じっくり読ませる小説となっています。
当時の満州は、もちろん日本が支配していました。そして、日本軍は現地の討伐軍を配下としながら、抵抗勢力を野蛮に武力でもって鎮圧していくのです。
日本軍の指揮する討伐隊は住民50人あまりを集団虐殺し、村に火を放った。
満鉄調査部には東京帝大卒で、共産主義者として活動していたところを逮捕・起訴され、転向して日本を逃れてきたという人間もいた。これは歴史的事実です。
1933年1月26日、コミンテルン駐在の中国共産党代表団は、満州の共産党員へ「1.26指示書簡」を送った。すなわち、日本軍の討伐によって深刻な危機に瀕していた抗日闘争の情勢からみて、各民族間の葛藤こそが根底的な問題であるとみなし、日本に対抗しうる統一戦線の結成を要求した。
 抗日民族統一戦線の樹立は、抗日という目標のもと、各派、各党、各民族を結合するものであると同時に、いったん抗日民族統一戦線に加わった者は、右傾、派閥主義、民族主義といった名目で、いつでも粛清されうることを意味していた。そして、派閥主義とならんで民生団が指導部に入りこんでいるとして粛清の対象となった。
満州の北間島は朝鮮人を主体とする抗日武装勢力が活動していたのに、中国人幹部が乗り込んでくることになったのです。民生団は日帝のスパイ組織であり、朝鮮人共産主義各派は、この民生団の片腕だと決めつけられ、粛清の対象となっていきました。民生団とみなされた元朝鮮共産党のメンバーに対して自白が強要されたのです。
党組織、革命政府、遊撃隊、群衆団体の70%が民生団員と認定され、6ヶ月もしないうちに、60余名のなかで生き残ったのは、わずか1人だけという大惨事が起きた。
なかには、一族を連れて逃げる党員もいた。遊撃区の人民はほとんどが朝鮮人だったので、逃げるのは100%が朝鮮人だった。当然、彼らは民生団とみなされ、捕まると拷問され自白を強要されて処刑された。
著者は、まだ50歳の若さですが、現代韓国文学の第一人者とみられています。詩人としてデビューし、たくさんの話題作を出しているとのこと。
日本語に訳されたものもあるそうですが、私は初めて読みました。しっかり考えさせられる小説です。
(2020年2月刊。2300円+税)

追跡・金正男暗殺

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 乗京 真知・朝日新聞取材班 、 出版 岩波書店
2017年3月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で金正男は毒物VXを若い女性から顔に塗られてたちまち失神し、まもなく死亡。その様子が空港内の監視カメラに逐一とらえられています。監視カメラは犯罪を予防する効果はありませんが、このように犯人の追跡と真相究明にはかなり役に立ちます。
金正男は、襲われた直後はまだ空港職員に話すことができた。
「女たちに襲われた」「見知らぬ女だった」「一人の女は後ろから飛びついてきた」「もう一人は目を触ってきた」
やがて、金正男はカウンター横にへたり込み、口から血や泡を吸出しはじめた。ストレッチャーに乗せられたときには白目をむいて、額には汗が吹き出していた。涙や唾液も止まらない。歯を食いしばり、激しくケイレンする。ついに、2時間後、死亡が確認された。
金正男は、殺される4日前、ランカウィ島のホテルでアメリカCIAの男性と2時間にわたって話し込んでいた。この本によると、金正男が、アメリカやフランスの情報機関と接触していたのは事実のようです。
司法解剖所見によると、金正男は46歳で、体重は96キロあった。
金正男はフランス語が堪能で、最近、北朝鮮で復活した金敬姫(金正日の実妹で粛清された張成沢の妻)がフランスのパリで病気療養しているところに見舞いのため顔を出していたようです。
では、実行犯の女性2人はどんな人間だったのか…。
一人は、ベトナム人の若い女性(28歳)。アイドルを夢見ていて、ハノイ市内のナイトクラブで働いていた。そこへ、いたずら番組の撮影に誘う韓国人の男が登場した。ハノイの空港で旅行客にいたずらする場面をしたりして訓練され、本番に向かった。つまり、この女性は金正男を暗殺するとはまったく思わず、あくまでタレントとして「いたずら番組」に出演していたつもりだった。1回1万円ほどの謝礼が支払われていた。だから、金正男に向かって「いたずら」をしたあと、トイレでVXのついた手を洗って、タクシーに乗り込み、ホテルに戻った。それから、いつものようにスマホで友だちに報告している。
このような「犯行」後のノーテンキな行動は人殺しの実行犯とはとても思えない。
猛毒VXも15分以内に手を洗えば、VXによる中毒症状が出なかったとしても不思議ではないというのです。
もう一人はインドネシア人の女性(25歳)。マレーシアで性風俗マッサージ店員として働いていた。そこに「日本人」男性が「いたずら番組」への出演を誘った。昼間に数時間の撮影につきあうだけで、1万円もらえるという、うまい話だ。
このインドネシア人女性も「犯行」のあとホテルにいて、警察が踏み込んだとき、何の容疑をかけられているのか驚いた。
教育役となった北朝鮮外務省に所属する32歳の男性はインドネシアの北朝鮮大使館につとめていた。もう一人の教育役は、北朝鮮外務省に所属していて、こちらも32歳で、ベトナムの北朝鮮大使館にいた。
指示役は、国家保衛省に所属する56歳の男性と、54歳の男性の二人いた。
支援役としては、北朝鮮大使館の2等書記官(44歳)と、北朝鮮国営航空会社「高麗航空」職員(37歳)もいる。
指示役などが北朝鮮に逃げ切るまでの時間稼ぎのため、素性の分かりにくい外国人を実行犯に選び、殺さずに生かしておいたのではないかというマレーシアの警察官のコメントが紹介されています。なるほど、と思いました。
金正男暗殺はスタンディング・オーダー(継続命令)だったといいます。つまり、必ずやり遂げなければならない命令だったのです。
北朝鮮(金正恩)は、金正男を暗殺することによって、正男だけでなく、正男に連なる脅威も排除した。「第二の正男」となりうる正男の息子(ハンソル)や、ハンソルを利用しかねない国々、反体制派の動きを牽制した。
金正男に人前で毒を塗り、監視カメラに一部始終を撮らせ、もがき苦しむ臨終の様子まで見せつけた暗殺劇は、正恩体制に刃向かう者を威嚇する、見せしめの「公開処刑」だった。
この総括を読んで、私は、はあ、そういうことだったのか…と、深くうなずいたのでした。
(2020年1月刊。1900円+税)

知りたくなる韓国

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 春木 育美、金 香男ほか 、 出版  有斐閣
隣国について、私たちは意外なほどよく知っていません。知らずに「嫌韓」に乗せられてしまうなんて、愚かなことです。
日本と韓国の違いと言えば、なんといっても徴兵制です。男子は19歳になると、兵隊にとられます。兵隊の訓練というのは、要するに効率よく人殺しできるマシーンになるように人間を改造することです。私には、とても耐えられません。良心の呵責なく大量殺人を遂行することが兵隊(軍人)の資質として求められます。大量の「敵」を殺したらナポレオンのような英雄なのです。ところが、「敵」といっても、実は家族もいる人間なのです。
韓国の人口は5100万人。人口の20%の1000万人がソウルに住んでいる。そして、韓国人口の90%が都市部に住んでいる。
韓国の持家率は50%台。賃借するとき、月々の家賃は免除させるかわりに「チョンセ」という保証金を預ける。ソウル郊外でも1000万円が相場。2年契約で、契約満了すると、保証金は全額戻ってくる。家主は、預かった1000万円を金融機関に預けて利子を得る仕組み。
財閥は韓国の誇りであると同時に、社会的批判の対象もある。サムスンなどの財閥は、羨望の対象であっても愛されてはいない。社会への利益の還元が十分でないとみられているからだ。
韓国のインターネット普及率は90%台。全国民の3分の2をこえる人々が「ネチズン」と自称している。
家族の小規模化がすすんでいる。3世代家族は1969年に27%だったのが2015年には5%へと大幅減少。1人暮らしの単独世帯や夫婦2人だけの家族の増加が著しい。
韓国では結婚後の新居を用意するのは男性側が、家財道具は女性側がそろえるのが慣例。このほか、男性側の親と親族に物品(婚需)を贈る習慣もある。
韓国では、結婚しても夫婦別姓。日本では近親婚の禁止のため3親等以内は結婚できないが、韓国はそれより広い8親等まで結婚できない。また、「同姓同本不婚」の原則がある。姓と本貫を同じくする血族内での結婚を禁止する制度。
韓国の高齢者10人のうち8人は年金をもらっていないか、月の受給額が2万円ほど。貧困は深刻で、自殺者も多い。
韓国の学校は2学期制で、小学校から高校まで学校給食がある。中学・高校では部活動はなく、勉強が優先される。大学に入るための「修能」は一発勝負。大学進学率は70%をこえる。
こうやってみてくると、日本との違いはかなり大きい気がします。似たような顔をしていても、お互い生活習慣は大きく異なります。これは、いいとか悪いとかの問題ではありません。みんな違って、みんないい。この金子みすずの精神をもっと大切にしたいものです。
(2019年8月刊。1800円+税)

徴用工裁判と日韓請求権協定

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 山本 晴太、川上 詩朗、 殷 勇基ほか 、 出版  現代人文社
いま日韓関係は最悪の状況になっています。安倍政権は全部、韓国が悪いと放言し、日本のマスコミも「大本営発表」をうのみにして韓国バッシングのキャンペーンをひたすら続けています。
でも、本当にそうなんですか・・・。少し頭を冷やして、日本と韓国、戦前の朝鮮半島を日本が植民地支配した実際を考えてみませんか・・・。
先日、山本晴太弁護士(福岡県弁護士会)の講演を聞く機会があり、その折に本書を買い求めました。長いあいだ韓国の徴用工問題について原告代理人として裁判をたたかってきた弁護士ですので、その歴史的また法律的解説はきわめて明快でした。
徴用工というのは、結局、日本政府の方針のもとで日本企業が朝鮮半島から日本へ連行してきた労働力として無理やりはたらかせていた人たちのことです。大牟田市では三池炭鉱だけでなく、三池染料(今の三井化学)などでも働かせていました。私の亡父も労務係長として京城の総督府で話をつけて500人の徴用工を引率してきた一人です。悪いことをしたとは思っていませんでした。
徴用工といっても、法的には、募集と官斡旋(あっせん)、徴用の3段階がある。この3つにどれだけ実質的な違いがあるかというと、実はほとんど同じ。募集と官斡旋は、事実上拒否できない「物理的強制」が多く用いられた。徴用は物理的強制だけでなく、拒否すると刑罰を科せられる法的強制が加えられた。
1965年6月の日韓請求権協定では、日本が韓国に対し、無償3億ドル、有償2億ドルの合計5億ドルの経済支援を行うこととし、両国と国民のあいだでは請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決した」(協定2条)とされている。
日韓会談がなされていたころの1953年10月、日本側首席代表の久保田貫一郎は、「日本は36年間(の植民地支配のなかで)、鉄道を敷き、水田を増やし、ハゲ山を緑の山に変えるなど、多くの利益を韓国人に与えた。日本が進出していなかったら、韓国は中国かロシアに占領され、もっとミゼラブルな状態におかれたことだろう。日本によって植民地支配されたこと、韓国が日本に併合されたことについて、韓国は日本に感謝すべきだ」とテレビの前で放言した。
なるほど、高速道路、新鋭製鉄所の建設、ダム建設など、韓国の高度経済成長に日本の経済支援は貢献しました。とはいっても、そのとき経済支援のお金は実のところ日本企業にリターンしていたのです。そして、韓国はアメリカ軍のベトナム侵略のもとで派兵に踏み切ったので、7年間で10億ドルほどの経済援助(特需)を得ていたし、こちらのほうが金額は大きい。
また、被徴用者に対して、韓国政府は死亡者1人につき30万ウォン、総額37億円を支給した。これは、日本の「賠償金」から支払われたものではない。
外交保護権なるものは、国民が外国から不当な扱いを受け、その被害が相手国の裁判などで救済されないようなとき、最後の手段として被害者の国が相手国に賠償を要求する権利のこと。日本政府は、ながいあいだ国家として有する外交保護権は放棄したが、個人請求権は放棄していないという見解を表明してきた。ところが、2000年ころ突如として個人の権利は消滅していないが、裁判による請求はできなくなったという見解に変わった。そして、それを2007年4月27日の最高裁判決は無批判に受け入れた。いつものことながら、司法による情ない行政追随判決です。
韓国の大法院(日本でいう最高裁にあたります)判決が2018年10月30日に出ましたが、実はこれは2012年5月24日の大法院判決と基本的に同旨なのです。すなわち、植民地支配と直結した不法行為による損害賠償請求権は日韓請求権協定の対象とはなっておらず、個人の損害賠償請求権はあるとしました。まったく無理のない判決です。韓国政府が大法院の判決がおかしいなど言えるはずもありません。
中国の徴用工問題については、最高裁判決のあと、その趣旨も生かし、日本企業がお金を支払って無事に和解で解決しました。日韓の徴用工問題にしても同じような決着の仕方を考えたらよいのです。ところが、安倍首相も菅官房長官も、ひたすら「韓国が悪い」「韓国に全責任がある」かのように言い募って韓国を敵視する世論をあおるばかりで、ほとんどの日本のマスコミがそれをたれ流しています。
判例解説が中心なので、少々よみにくいところもありますが、いまこそ大いに読まれるべき本です。どうしてこうなったのか、日本人は戦前の植民地支配にまで立ち返ってきちんと反省すべきだと思います。
(2019年9月刊。2000円+税)

星をかすめる風

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 イ・ジョンミョン 、 出版  論創社
この小説の主人公と言うべき詩人の尹東柱は、1917年に中国東北部(旧満州)に生まれた。中学生のころから詩を書いていて、ソウルの延世大学(当時は延嬉専門学校)文学部に進学し、日本に留学して立教大学そして同志社大学で学んだ。同志社大学の学生のとき治安維持法違反で逮捕され、福岡刑務所に収監中、1945年に27歳の若さで獄死した。戦後、詩集は韓国でベストセラーとなり、全詩集『空と風と星と詩』が出版されている。
この小説は福岡刑務所の残忍な検閲官として活動している杉山という看守とともに働く若い看守兵の目を通した形で進行する。なかなか凝った仕掛けの多い小説になっています。
刑務所は、あらゆる人間群像の集合場所だ。囚人は思想犯だったり、暗殺者、詐欺師、逃亡者だった。
彼らの目には絶望が、そうでなければ陰謀が漂っていた。彼らは互いに騙し騙され、その二つを同時にやったりした。唯一の共通点は、みな潔白を主張することだ。もちろん、それは嘘だった。
刑務所も人が生きる場所で、人が生きる場所には、どこでも往来があるものだ。まともな商売人は、死さえも売り買いするものだ。
どうせ片方にゆだねるのなら、希望に賭けろ。絶望に賭けても、残るものは、もっと大きな絶望だ。商売は、うまくいくだろうという側に賭けるほうが、利益が多く残るものだ。
言葉と文章という手綱を両手に握り、検閲の刃物を避け、囚人たちの切々たる思いを乗せて文章にした。
ある本を読んだ人は、その本を読む前の人ではない。文章は、一人の人間を根こそぎ変化させる不治の病だ。文章は骨に刻まれ、細胞の中に染み込み、子音と母音はウィルスのように血管のなかを流れ、読む人に感染する。そして、本や文章なしに生きられない中毒者で、依存症になる。
いやはや、まったく私のことですね、これって・・・。
いちばん大事なのは、最初の文章。最初の文章がうまく書けたら、最後の文章まで書くことができる。たしかに、書き出しの文章には、いつも頭を悩まします。
星をかぞえる夜
季節の移りゆく空は
いま 秋たけなわです。
わたしは なんの憂い(うれい)もなく
秋の星々をひとつ残らずかぞえられそうです。
胸にひとつふたつと刻まれる星を
今すべてかぞえきれないのは
すぐに朝がくるからで、明日の夜が残っているからで、
まだわたしの青春が終わってないからです。
星ひとつに 追憶と
星ひとつに 愛と
星ひとつに 寂しさと
星ひとつに 憧れと
星ひとつに 詩と
星ひとつに 母さん、母さん
(2018年12月刊。2200円+税)

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