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カテゴリー: 司法

白鳥事件・偽りの冤罪

カテゴリー:司法

著者  渡部 富哉 、 出版  同時代社
かの有名な白鳥事件の真相に迫った本です。冤罪ではなかったという主張ですが、読んで、なるほど説得力があると思いました。なにしろ、当時の関係者である北大生立ちが何人も中国へ密航し、亡くなるまで中国で生活していたのです。教養を生かして中国では、日本人教師として活躍していたようです。
 故村上国治氏と話したことはありませんでしたが、遠くから見かけたことはあります。出獄後、村上氏が日本国民救援会の副会長をしていたときのことです。再審事件の審理でも、疑わしきは被告人の有利に扱えという最高裁の判断を引き出しましたが、白鳥事件そのものでは有罪のままでした(と思います)。
 著者は、村上氏は白鳥射殺を指示する立場にいたと断言しています。
 白鳥事件とは、1952年1月21日夜、白鳥一雄警部(警備課長・36歳)が路上で射殺された事件。政府と警察は事件直後から、共産党の軍事方針によって射殺されたと宣伝し、村上国治をはじめ多くの共産党員が逮捕された。1949年7月の下山国鉄総裁怪死事件、三鷹事件、松川事件と同じように警察の謀略・冤罪事件と見る人も多かった。
 1950年6月には朝鮮戦争が勃発していて、レッド・パージも始まっていた。
 村上国治は1922年に北海道に生まれ、軍隊に入り、フィリピンに上陸したがマラリアにかかって国内に生還した。戦後、日本共産党に入って北海道オルグになり、ついには札幌委員会委員長になった。そして、軍事委員長を兼任した。
 日本共産党は朝鮮戦争が進行中の1951年10月、五全協を開いて軍事方針を打ち出した。
著者は白鳥警部を射殺した実行犯は佐藤博だと断言します。
 佐藤博は、戦中は海軍特攻隊員であり、ボルネオ島まで行ったが生還した。そして戦後は井戸堀職人(ポンプ職人)として働いていた。
白鳥警備課長が射殺された翌々日の1月23日早朝から札幌市内のあちこちで、「見よ、点誅堂に下る」という日本共産党札幌委員会の署名の入ったビラがまかれた。これでは、いわば犯行を自白したようなものである。ところが、この点誅ビラに対する市民の反応が厳しいことから、村上国治たちは動揺し、自己批判するに至った。
 なぜ、2種類のビラがあり、警察が増刷したと言えるかというと、増刷したほうに明らかな校正ミスがあったからだ。たとえば、「下る」を「降る」と書いている。よほど印刷を急がせたのだろう。白鳥事件は、スパイ山本らを通じて情報をつかんでいた国警が、あえてこれをなすがままに「泳がせる」ことで、思惑どおりにことを進めさせたものでもある。
うひゃあ、警察って、「大義」のためには身内の幹部の生命だって容赦なく犠牲にするということですね。
 実行犯の佐藤博は、事件のあと北海道内を点々と逃げまわった。石炭の積込人夫になったり、オホーツクのニシン漁場に住み込んだり、千蔵の建設現場に入ったり、そして開拓農家から、ついに九州に来て、それから中国へ渡った。
 1952年10月、日本共産党は衆議院総選挙で前回35議席から、一挙ゼロになってしまいました。得票数は300万票が65万票に激減したのです。極左胃険主義は国民に支持されませんでした。当然です。歴史の闇を明るみに出した労作です
(2012年12月刊。2800円+税)

紫陽花、愛の事件簿

カテゴリー:司法

著者  渡部 照子 、 出版  花伝社
じっくり読ませる本です。実際にあったケースを小説風に描き出していて、なるほどそういうことあるよな、そうなんだよなと思わせるストーリーになっています。
著者は私もよく知っている東京の弁護士です。熊本生まれとははじめて知りました(いえ、前に聞いたことがあるのかもしれませんが・・・)。
一度だけの不倫で生まれた子。それを疑いつつも我が子として育ててきた父親。子どもが大きくなって、いよいよ耐えかねて家出したのは父親だった。
果たして、家庭は崩壊してしまうのか・・・。血のつながりが大切なのか、家族の団らんの体験を大切にするのか、選択が迫られます。
 エリート医者が結婚相手に選ぶ女性はやはりエリート家系なのか、それとも「馬鹿な女」を選ぶのか。人は何のために結婚するのか・・・。
 私の近所にも高齢の女性が一人で暮らしています。いつも元気に出かけていますが、認知症になったとき、身内が財産目当てで近づいてきたら、どうなるのか・・・。
身内の成年後見人が解任されて弁護士が成年後見人に就任し、前任者の不正を暴きはじめます。しかし、結局、その身内も相続人の一人。本人が死んだとき、「不正」額を精算することになります。
誰にだって老後は来ます。そのとき、誰が本当に頼りになるのか心配ですよね。成年後見制度も悪用されたら大変なことになります。
 7つの短篇が、それぞれの人生の断片を、優しく、鋭く、えぐりとっていて考えさせられる内容の本になっています。ご一読をおすすめします。
(2012年7月刊。1200円+税)

議論に絶対負けない法

カテゴリー:司法

著者  ゲーリー・スペンス 、 出版  三笠書房
アメリカのナンバーワン弁護士が議論に絶対負けない方法を教えてくれるというので、買って読んでみました。
 なーんだ、と思いました。決して突飛なことは書いてありません。むしろ、なるほどそうだよね、と同感するようなことばかりが書いてありました。
 これなら、明日から私だって実践できそうです。さあ、やってみましょう。
ありのままの自分こそ、最高の自己主張である。大げさに騒ぎ立てる人が議論の勝つことはまずない。
 まずは相手の言うことをよく聴くという技術が必要である。相手を一度は自分のなかに受け入れること、相手と一体になる技術が必要である。
自分を自由に解放するためのカギは、自分自身に扉を開ける許可を与えること。
 勝利とは、相手に降伏の白旗をあげさせることだと思っているとしたら、それは大間違いだ。最高の議論は、沈黙がもつ絶対的な力と忍耐とを持ち合わせることだ。
 妨げになっているのは、拒否されるかもしれないという恐怖だ。
 怒って復讐に燃える相手には、議論をふっかけても意味はない。
勝利をおさめるひとは、他人の話をよく聴いている人である。
 書くことが大切なのは、自分の心を探索するためだ。
 議論を人間味のある言葉で思い描くことによって、無味乾燥な抽象的概念を避けることができる。動作を大切にし、抽象的概念は避けること、これが鉄則だ。
ストーリーに力があるのは、ストーリーは動作をつくり出し、抽象的概念を避けることができるからだ。言葉が跡形もなく耳を通りすぎてしまう、そんな話し方をしてはいけない。
笑顔を、感情を隠すために使ってはいけない。ほほ笑みたいと感じるときに、ほほ笑むべきだ。相手に対して喜びや親しみを感じたときにほほ笑むべきだ。愉快に感じたときにほほ笑むべきだ。相手の心を開かせるためにほほ笑むのはやめよう。
まずは自分自身の感情を完全に意識し、理解することができなくては、相手の感情を感じることはできない。すべては自分自身から、自分の感情から始まる。
 内容を伝えるのは、言葉だけではない。言葉は、それほど重要ではない。音、リズム、身体、ジェスチャー、目、つまりはその人全体なのだ。
 力は心の底から生まれる。書いた議論をいかに上手に読んだとしても、絶対に聞き手の心を動かすことはできないし、陪審員を心変わりさせることもできない。魔術的な議論は常に心の底から生まれ、心の底の言語をつかって、相手の心の底に語りかける。常に相手の感情に語りかけることが大切だ。
 迷ったときには、主導権を握り、攻撃を開始する。それが最良の戦略だ。
 相手を侮辱する言語は慎むこと。相手に敬意を払うことによって、私たちは高い次元に上がることができる。相手を軽蔑する人は低い次元にとどまるだけ。敬意とは、相互に働くもの。
子どもらしい見方を絶対に失わない。喜怒哀楽を感じる子どもの部分を絶対に捨てない。子どもの素晴らしい自発性、魔法のような創造性、純真な心を投げ捨てないこと。
いい言葉が山盛りの本です。ぜひ、あなたも一読してください。
(2012年3月刊。1400円+税)

更生に資する弁護

カテゴリー:司法

著者  奈良弁護士会 、 出版  現代人文社
私は面識ありませんが、刑事弁護で有名な故高野嘉雄弁護士の追悼集です。読んで大変勉強になりました。情状弁護に力を注いだ弁護士です。
無実の人を無罪にするのは当たり前で、情状弁護に刑事弁護の真髄がある。
 被告人が刑務所から出所するとき、高野弁護士は作業服と小遣いもって迎えに行った。すぐ働けるところ、社員寮もあるところを探して用意して。ところが、その人は一日で逃げてしまった。そのとき高野弁護士は、こう言った。
 「これでもええねん。おれに済まんことをしたなと思うだけでも、こいつええねん」
 これは、なかなか言えないセリフですよね。刑務所に13年間入って出所してきた人を迎えに行ったこともあるもあるそうです。私にはとても考えられません。
 100人に1人でもうまく更生してくれたらいいんだ。期待はし過ぎない。自分はやりたくてやっているんだから、それでがっかりもしない。
 結局、弁護士は自分の感性しか拠るべきものはない。建前の議論ではなくて、人間としてのコアに忠実に従わないと、弁護士として納得できる事件処理というのはできない。
 人間は多面的な存在だから、自分でも気づいていない多面性の一角を照らしてあげることによってかわっていくことができるという信念をもっている。
 弁護人は最後の情状証人だというのが持論である。
捜査弁護においては、被告人が自分の嫌疑を晴らそうと焦ってしまって、不利益な証拠についてウソだと分かるような供述をする、あるいは結果的に誤った供述をするのをいかに防止するかが大切だ。
 摂食障害を基礎疾患としているクレプトマニア(窃盗癖患者)は、20代、30代の女性が圧倒的に多く、摂食障害患者の44%が万引している。
 高野弁護士は万引をして捕まった女性を1年間も入院させて治療し、その結果、3度目の執行猶予を得たというのです。信じられない話でした。
 そして、高野弁護士とその被告人との間に往復した手紙が、弁号証として、裁判に有利な情状証拠として提出されました。そのとき、高野弁護士も手紙のなかで自分のことを赤裸々に語っていて、読ませます。心をうつ内容になっています。
 人間が反社会的行動に走るのは、その人が自分にとってかけがえのない存在というものを有していないからだ。自分にとってかけがえのない人々を有しているとき、その人を苦しませ、泣かせ、また絶望のどん底に陥らせ、あるいは経済的、社会的な苦境に陥らせるようなことは絶対にしない。
 これは、1970年代の厳しい社会状況の下で学生運動や党派活動のはざまの中で体験させられたり、あるいは20年間の弁護士生活の中で、いわゆる過激派の事件や一般の刑事事件を多数経験するなかで実感した結論である。
 弱い社会的立場にいるということが犯罪を犯した人々の劣等感、あるいは心情的歪み(社会に対する敵意等)をもたらしているというのが現実である。被告人らが有しているその劣等感、歪みを克服しなければ更生への意欲を形成できない。そういった立場の中で苦しみ、人間らしく生きてきた人々の生の声を聞くなかで、初めてこのような劣等感は消え、人間としての誇りを取り戻し、あるいは父母たちに対する否定的感情を克服できる。
 したがって、在日朝鮮人や被差別部落の出身者に対しては、そのようななかで苦しんできた父母の生きざま、苦しみ、嘆き、そして、そのなかで誕生した我が子に対する思いというものを法廷のなかでさらけ出せ、あるいは手紙等という形でさらけ出す必要がある。
 とても鋭い指摘だと感嘆しました。奈良弁護士会の皆さん、ありがとうございました。
(2012年10月刊。2700円+税)

おかげさま老人ホーム選びの掟

カテゴリー:司法

著者  外岡 潤 、 出版  ぱる出版
介護弁護士を自称する著者は介護マンガ『ヘルプマン』を読んで発奮したということです。私も『ヘルプマン』は、ついに21巻全部を読み通しました。とても教えられました。
 私の依頼者、相談者に介護施設で働く人はたくさんいますので、共通の話題づくりにも役立ちました。
 それにしても、東大を出て一流の法律事務所に勤めていたのに、いきなり独立開業し、しかも専門分野が介護というのですから勇気があります。
 そのうえ、奇術が出来て、日本舞踊まで演じるというのですから、多芸・異能の若手弁護士ですね。
 介護マンガ『ヘルプマン』こそ、著者の人生を大きく変えた。よし、それなら、介護現場で起きるトラブル解決に特化した弁護士になろうと決意した。
 今の日本の介護現場はトラブルの温床であり、当初の想像以上に事態は深刻である。
 介護業界は現場のスタッフの待遇が賃金面で絶望的に悪すぎる。仕事内容もいわゆる3Kで、あたりまえかもしれないが、職場には若々しい活気などなく、新卒にも人気がない。だから、健全な競争が起きず、優秀な人材がなかなか来ない。来ても定着して育つのはまれで、慢性的に人手が足りない。その悪循環のなかで、カバーしきれない事故が続出している。
老人ホームを選ぶときには、その施設の現場全体の雰囲気、ありように着目すべきだ。
 施設が、すみずみまで清潔にしていること。それは職場の雰囲気、職員の意識の高さの反映でもある。
有料老人ホームとの契約では契約を結んでから90日以内なら一時金の返還を求められることが多い。
 3年前に出張型介護、福祉系専門法律事務所「おかげさま」を開業してがんばっているとのこと。うれしいですよね、こんな若手弁護士がいるなんて。
 引き続き、ぜひがんばってください。
(2011年10月刊。1400円+税)
 明けましておめでとうございます。本年もどうぞご愛読ください。
 おせちもほどほどに食べ、ガーデニングに励んだり、静かに正月休みを過ごしました。嵐の前の静けさ、といった気分でした。

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