法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 司法

イノセント・デイズ

カテゴリー:司法

著者  早見 和真 、 出版  新潮社
 「整形シンデレラ」と呼ばれた鬼女。彼女が犯した「罪」を、あなたは許せますか?
 オビに書かれている問いかけは、この本を読むにつれ、次第に答えるのが難しくなっていきます。果たして彼女は、「鬼女」だったのか。
 こんな少女(あるいは女)なんか、さっさと死刑にしちまえ、裁判なんか手間ひまかけるだけ、税金のムダづかいだ。
 本当にそうなのか・・・?
 次第に、彼女の犯した「犯罪」の深層が暴かれていきます。不仕合わせな家庭は、さまざまな状況から、そうなっている。それが、ひとつひとつ丁寧に描かれていくのです。
 子どもが本当に親あるいは誰か大人から愛され、大切に見守られていたのなら、きっときっと大きくなっても自分を信じて、生きていくことが出来る。しかし、その愛情が薄く、かえってひどく虐待されていて、すがるところ、頼るものがいなかったときに、人間はいったいどうしたらよいのか・・・。少しずつ、家庭の闇に迫っていくのです。
 鹿児島から博多までの新幹線の中で夢中になって読みふけるうちに、終点の博多に着いてしまったのでした。
 「犯罪」は、なぜ起きるのか・・・?早く死にたいという死刑囚が、なぜ存在するのか・・・?
 死刑囚に対して刑の執行をする拘置所の職員はどんな気持ちで任務を果たしているのか・・?
 いろんなことを考えさせられる小説でもありました。重たいテーマですけど、この現実から目をそらすわけにはいかないのです。
(2014年8月刊。1800円+税)

ルポ・罪と更生

カテゴリー:司法

著者  西日本新聞 社会部 、 出版  法律文化社
 高齢者がスーパーで1000円ほどの万引きをしたという国選弁護事件をよく担当します。
 初犯なら、もちろん執行猶予ですが、何回もやっている人が多くて、かなりの確率で実刑となり、刑務行きとなります。
 犯行額1000円で、国選弁護料が6~8万円、刑務所に1年間入ったら一人につき300万円ほどかかります。むなしさを実感させられることの多いケースです。生活が苦しければ生活保護、心のケアが必要なら、それ相応の施設に入ってもらうようにしないと、この社会のシステムとしてはうまくないように思います。
 刑務所が「姥捨山(うばすてやま)」のようになっている。
 2012年に収監された受刑者2万5千人のうち、60歳以上が4千人をこす。全体の16%。
 2003年の3千人に比べて、4割増。高齢者の受刑者が増え続けている。
 2012年に検挙された再犯者は全国で13万人、再犯率45%。刑務所に入ったことのある再入所率も58.8%と増え続けている。
 知的障害者も6千人をこえ、全体の4分の1に近い。
 女性の収容者は、2012年に5千人をこえた。10年間で、1.5倍となっている。
 刑務所には収容されている60歳以上の高齢者の比率が日本で16%なのに、似たような状況にあるイタリアではわずか4%にすぎない。
 ノルウェーも福祉国家と言われ、高齢受刑者・犯罪者が少ない。それは高齢者が年金で経済的に困らないうえ、医療から図書館まで、受刑者も一市民として同じサービスを受けられるから。イタリアでは刑罰の目的は更正だと憲法に明記している。
 このほか、死刑問題を扱うなど、新聞記事としては、かなり深く問題点を掘り下げる内容になっていて、大変勉強になりました。
 犯罪に走った人の更生問題に関心のある方には必読文献だと思います。
(2014年8月刊。2300円+税)

弁護士業務の勘所

カテゴリー:司法

著者  官澤 里美 、 出版  第一法規
 驚きました。毎日、午前9時から朝礼、夕方5時に終礼をしている法律事務所が仙台にあるというのです。実は久留米にも、毎朝、朝礼をしている法律事務所があります。しかし、仙台では、朝礼だけでなく終礼までやっています。
 朝礼では、スケジュール確認と発声練習・笑顔をつくっての挨拶練習をします。
 終礼では、5分以上お客さんを待たせた件数と時間の報告もします。
職員の残業はかなり少ないようです。所長である著者は朝7時前には出勤し、ラジオ体操をし、一人朝礼をして、出勤してくる職員を笑顔で機嫌よく迎えるといいます。
 これって、なかなか出来ないことですよね・・・。
ここの法律事務所は、弁護士10人、職員14人(正職員8人、パート6人)という体制。相談に対しては、その日のうちに助言できる体制。休日も顧問先には、当日中の助言を可能としている。
 約束は守る。汚いことはしない。激しい言葉は使わない。
 書面は作品であり、法廷は舞台、裁判官は辛口の観客。
十分な準備を怠らない。十分な準備をした結果であれば、自分も悔いが残らないし、依頼者も納得してくれる。
 書面作成の締め切りを設定し、しっかりスケジュール確認を行う。
 次回期日までに、依頼者に対して通常4回の報告を行う。
 ええーっ、なんという多さでしょうか・・・。すべての事件について原則として当日、遅くとも翌日には報告する。
 依頼者との会話は、やさしく、ゆっくり、わかりやすく。
 電話や面談での第一声は、明るく、高く、爽やかに。
 言葉は人間の音色である。
 激しい言葉は、一時の感情的満足のみで有害無益なので、書面には書かない。
 弁護士が神経を使うのは、相手方との関係より依頼者との関係。
 相手を理解する。相手に理解してもらう。相手に喜んでもらう。そのため気配りをすることが大切。
 弁護士に対する三大クレーム。応対が横柄。処理が遅い。報告がない。
注意しなければいけないのは、実はものわかりの良さそうな優しい依頼者。優しい依頼者に油断して後回しにしていると、だんだん不満がたまって、最後に大爆発する恐れがある。
良い第一印象が大切。意識的に明るく、トーンを高く、爽やかにはじめる。相談内容が可哀想な内容のときには、その後、少し暗い顔に切り替えていけば、その落差で相談に来た人に弁護士の共感度が伝わり、弁護士に対する好感度がアップする。
 ロースクールの教授その他の公益活動もしっかりやって、趣味も多様な著者のようです。大いに参考になりました。
(2014年1月刊。2500円+税)

あの男の正体(ハラワタ)

カテゴリー:司法

著者  牛島 信 、 出版  日経BP社
 著者は私と同じく団塊世代です。検察官から弁護士になり、今では企業法務の第一人者として活躍中です。
 これまでにも、たくさんの小説を書いています。「株主総会」「株主代表訴訟」「社外取締役」などです。私も、そのいくつかを読み、このブログでも紹介していますが、いつもストーリー展開の見事さと相まって大変勉強になっています。さすがはM&Aやコーポレート・ガバナンスで定評のあるベテラン弁護士だと感嘆してきました。
 この本は、これまでの本とは、いささか趣向を変えています。
 主人公は、私なのか。あの男なのか。よく分からないようにして、話が始まります。
 従業員2000人、売上高2000億円、40億円の利益を上げている会社の社長の椅子が問題となります。
 弁護士をしていると、いろんなことに出くわすものだ。なんといっても、腹の立つことが圧倒的に多い。ありていに言えば、他人が困るから、弁護士が飯(メシ)のタネにありつくということでもあるのだ。
 弁護士という職業への人々の信頼を思い、弁護士という制度が社会で果たしている役割の重さを思った。もう30年以上、弁護士をやってはいても、人の、ビジネスの、重大な秘密を打ち明けられるときに、いつも感じないではいられない感慨だ。
 海外から、知り合いを通じて紹介があっただけのVIPが、初めて会ったばかりなのに、会議室に座るや、「実は」と、驚天動地のような秘密を切り出す。それを微笑みながら聞き、淡々と助言を繰り出して議論する。
 身の破綻を招くほどの秘密を打ち明けての依頼であれば、いつものことながら、なんとか依頼者の信頼にこたえたいという情熱が、ふつふつと我が胸のうちに湧きあがってくる。
 30年もすれば、人生と仕事とは切り離すことは出来ない。それどころか、職業生活が人生そのものである人も多い。そうなんですよね。私も弁護士生活が40年となり、私の人生そのものです。
 「あなたが自分からやめないなら、取締役会をすぐに招集する。あなたを副社長から外して非常勤にすることを決議する。必要があれば、社長はいつでも取締役会を開ける。開催する必要があるかどうかは、社長が決める。取締役会では、過半数でものごとが決まる」
 「副社長でなくなるだけではない。非常勤になった取締役の報酬も、社長に一任される。退職金も社長一任となる。次の株主総会では、取締役候補のリストにも載らないだろう」
 「もちろん、あなたには裁判を起こす自由がある。憲法に書いてある。だけど、裁判はすぐに結論が出るわけではない。それまで、カスミでも食べるのかな・・・。あなたの社会的な立場は、あなたの家族はどうなる・・・」
 このように、行き詰まった展開もあり、途中もダレることなくストーリーは展開していきます。
社長が現役のまま死んだ場合には、香典の金額も多い。社葬であっても、香典はすべて喪主にわたる。全部で、何千万円、いや億をこえることもある。会社の費用で葬儀しても、香典をもらった遺族には税金はかからない。
知りませんでした。といっても、私には無縁のビッグ・ビジネスの世界の話ではあります。
 ビジネスの世界を小説にするにも、男と女の話は欠かすことが出来ないことを想起させる企業でもありました。私も、目下、久しぶりに本格的な小説に挑戦中です。テーマは、40年前の司法修習所における苦闘の日々です。
(2014年9月刊。1700円+税)

白熱講義!集団的自衛権

カテゴリー:司法

著者  小林 節 、 出版  ベスト新書
 自称・改憲派の小林教授の主張は明快です。一言でいうと、自民・公明党は「憲法ドロボウ」! なぜ、そう言えるのか、新書版で分かりやすく解説しています。
集団的自衛権とは、他国(同盟国)の戦争に加担することである。
 集団的自衛権って、分かりにくいと思ってしまったら、安倍晋三政権の術中にはまってしまうことになる。彼らは、この問題の本質を隠し、些末(さまつ)な各論で国民をごまかそうとしている。
 そう難しく考える必要はない。ケンカしたとき、ひとりで抵抗するか、仲間と対応するか、この本質を理解しさえすれば、集団的自衛権は簡単な話だ。安倍政権の側は、意図的に分かりにくくしている。
安倍首相がテレビなどであげた15事例のほとんどは、集団的自衛権とは関係がない。
 安倍政権は、コロコロと論点を変えている。これは、明らかに目くらまし作戦だ。
 そもそも憲法とは、主権者たる国民が為政者(いせいしゃ)を管理するためのマニュアル(手引書)だ。安倍首相のような為政者が憲法を自由にしていいわけがない。主客が転倒している。国民の持物を政府が取り上げるのだから、「憲法泥棒」「憲法ハイジャック」と言っていいくらいの暴挙だ。
国民のものであるはずの憲法について、一時的に預かっているだけの政府与党が原意から逸脱した解釈をすることは言語道断である。それは、憲法を破壊する行為に他ならない。
 アメリカが日本に軍事基地を置いているのは、日本のためではなく、アメリカのためである。アメリカの世界戦略に必要だからである。
 集団的自衛権を行使すると、抑止力になるどころか、果てしない軍拡競争になり、一触即発の事態になる。そして、日本がテロの標的になる危険性が高まる。
 日本国憲法の下で、海外へ出兵することを本質とする集団的自衛権を認めるのは無理である。
 日本は70年間にわたって「戦争をしない大国」として、世界史に先例のない地位を確立している。この立場を捨て去るのは、惜しい。
7月1日に閣議決定をされてしまったら、もうダメだと早々にあきらめてしまった人がいる。しかし、まだ間に合う。法律化への国会審議はこれから、なのだから。
 違憲な閣議決定なのだから、それを実行できるような法律や予算が決議される前に世論を結集し、政治家たちにプレッシャーを加えよう。そうすれば、十分につぶせるのだ。
 小林教授の訴えは「白熱講義」にふさわしく熱がこもっています。
 福岡県弁護士会でも、11月22日(土)午後、天神の都久志会館大ホールで小林教授そして青井未帆教授を招いて、市民集会とパレードを企画しています。ぜひ、ご参加ください。
(2014年9月刊。787円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.