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カテゴリー: 司法

ライブ講義・集団的自衛権

カテゴリー:司法

                              (霧山昴)
著者  水島 朝穂 、 出版  岩波書店
 この6月4日に開かれた衆議院の憲法審査会で、憲法学者が三人そろって安保法制法案は憲法違反だと断言したので、自民・公明の安倍政権は言い訳に終始するようになりました。
 合憲だという憲法学者もたくさんいる、そう言って安倍政権が名前をあげたのは、わずかに3人のみ。しようもない、おじさんたちが登場しただけです。すると、今度は学者が決めるのではない、最高裁が判断するのだと逃げます。では、最高裁が議員定数の不均衡を是正しろと言ったとき、政府は従ったでしょうか・・・。多くの学者が憲法違反と断言し、最高裁の言うことには従わないという権力者は、あまりにも立憲主義を無視しすぎです。
著者の語りは、いつものことながら明快です。
市民には、素朴な「疑」の心を大切にして問い続けること、「偽装」を見抜く知恵と「技」を磨くことが求められている。「疑の技」でもっとも大切なことは、「忘れない」ということ。
 著者は、佐藤優や木村草太の主張は誤りだとしています。
この二人は、昨年7月1日の閣議決定は、個別的自衛権の範囲をこえるものではないとしているが、間違いだ。過小評価ないし、過度の楽観論である。
 ある武力行使が、個別的自衛権にあたるか集団的自衛権にあたるかは、二者択一の関係にあり、双方にあたるということはありえない。
 徴兵制について、安倍首相は、「憲法上ありえない」と断言している。しかし、この言葉は、どこまで信用できるものなのか?集団的自衛権の行使は憲法解釈上許されないとして来た自民党政府の見解を一変させてしまった安倍首相の言葉を信用することは出来ません。あのときとは社会環境が変わったから・・・、と言って変更するのは簡単なことです。
 いま、むしろ日本は北朝鮮を脅している。「平和ボケ」より「軍事中毒」のほうがはるかに有害なのだ。私も本当に、そのとおりだと思います。
 いま、韓国や中国に観光旅行に行く日本人が激減しているそうです。なんとなく「怖い」という気分があるからです。でも、韓国や中国からは大量の観光客が来ています。日本は平和な国だと思って信頼しきっているのです。このギャップを、私たち日本人は一刻も早く解消する必要があると思います。
 自民・公明の安倍政権が、つくり出した「なんとなく、韓国も、中国も怖い」という皮膚感覚を一掃すれば、今の安保法制法案は、すぐにも吹っとんでしまうと思います。そして、平和憲法の意義を高らかに全世界へ発信すべきなのです。
(2015年4月刊。1800円+税)

裁判に尊厳を懸ける

カテゴリー:司法

                                (霧山昴)
著者  大川 真郎 、 出版  日本評論社
 心が激しく揺さぶられる思いがしました。とてもいい本です。司法関係者には一人でも多く読んでもらいたいと思いました。
 冒頭で紹介される、和歌山大学生「公務執行妨害」事件は圧巻です。何より、書き出しがうまい。読ませます。判決宣告人言い渡そうとした裁判長が途中で言葉に詰まり、涙があふれ出したというのです。1976年11月25日午後6時すぎの和歌山地裁法廷での出来事です。
 この日、弁護人が午前1時から詳細に無罪弁論をし、被告人となった元大学生二人が最終意見陳述をした後のことです。よほど、裁判長は二人の言葉に心打たれたのでしょう。
 事件が発生したのは1966年(昭和41年)10月です。私がまだ高校3年生、受験勉強のラスト・スパートをかけていたころ、つまり、私が大学に入る前のことです。
 いったい二人は何をしたというのか。要するに何もしていないのです。
 夜中、3人の巡査が勤務時間外に上司の自宅で飲食し、酒に酔って帰宅しようとしていると、電柱に3人の学生が「ベトナム戦争反対」の張り紙をしているのを発見した。3人の巡査は、いきなり追いかけ、そのうちの学生1人をつかまえ、近くの派出所に連行した。すると、つかまった学生の釈放を求めて大勢の学生が集まってきた。その学生たちに向かって、一人の巡査が「アホンダラ」と叫んだため、学生たちは激しく抗議した。警察官もパトカーで応援に駆けつけ、巡査を救出して本署(和歌山西署)に逃げ帰ろうとしたあたりで、その場にいた学生二人が警察官に捕まった。この二人の学生は、日ごろからリーダーとして警察に目をつけられていたのだった。
学生二人は警察官たちから暴行を加えられた被害者なのに、逆に暴力を振るったとして、「公務執行妨害」罪で起訴された。
 それから裁判は10年かかった。なんということでしょう。わずか1時間ほどの出来事のために、警察官たちが口裏をあわせて嘘の証言をくり返したことから、無罪の立証に10年もの歳月を要したのです。証人は21人。
 著者は司法修習生として裁判を傍聴し、のちに弁護人となったのでした。
 二人の「被告人」の最終陳述は、胸をうつものがあります。自然に涙があふれ出てきます。
 「この10年間は、苦しみの10年間であったと同時に、友情と連帯というかけがえのない貴重なものを得た期間でもありました」
 このとき、年老いた母親、そして就学前の子どもたちを法廷に来てもらっていたそうです。これって、なかなか出来ることではありませんよね・・・。
 裁判長は、無罪を言い渡したあと、こう言った。
 「裁判所としても、裁判がこのように長くかかったことについては、被告人の諸君に対して、申し訳なく思っています。・・・これからの人生に向かって、どうか幸せな御家庭を築いてください」
 検察官は控訴せず、無罪は一審で確定した。捜査当局は、一言の謝罪もなしに、一つの事件を終了させた。
この二人は、今もお元気なのでしょうか。著者によって、久しく忘れられていた事件に光が当てられました。この二人が、必ずや今もお元気に活動しておられることと祈念します。
 7話からなる本の一話の紹介にスペースを割きすぎました。続く2話の杉山彬(あきら)弁護士の接見妨害事件のとりくみも驚嘆すべきものです。弁護人が面会切符をもらわないと被告人に自由に面会できないという、今では考えられない制限を受けていた当時の不屈のたたかいの記録です。ぜひ、今の若手弁護士にも知ってほしいと思います。
 著者の本は、単行本としては4冊目のようです。ますます文章も洗練され、読みやすくなっています。いろんな点で、私の見習うべき先輩として敬愛しています。今後、ますますの健筆を期待します。
(2015年6月刊。1700円+税)

弁護士・経営ノート

カテゴリー:司法

                               (霧山昴)
著者  弁護士業務研究所 、 出版  レクシスネクシス・ジャパン
 原和良弁護士(佐賀出身です)が監修している、弁護士実務にとても役立つ本です。
 法律事務所のための報酬獲得力の強化書というのがサブタイトルですから、経営危機から依然として脱出できていない私は、すぐに飛びつきました。
 とても役立つノウ・ハウが満載の本です。そして、それは小手先のハウツーものではありません。弁護士業務の奥深い理念の意義を強調していて、大いに反省もさせられました。
 ベンラボ(一般社団法人弁護士業務研究所)は、時代の逆境に立ち向かい弁護士に課せられた本来のミッションを担う弁護士を世に輩出することを目的につくられた共同研究組織。
 弁護士は、一般的に経済的な苦境にある。しかし、この現状が長く続くわけではない。困難な中でも、初心を忘れず、弱者に寄り添い、かつ楽天的に活躍する活動家がたくさん生まれることを大いに期待したい。
 私も、まったく同感です。
国税庁の統計によると、弁護士の26%が赤字だ(2013年4月)。
 弁護士の7割か赤字が所得が500万円以下だという統計もある。
 2006年と2010年を比較すると、売上げベースで3620万円が3340万円に、所得ベースで1748万円が1470万円に減少している。
私の事務所も同じです。そこで、どうしたらよいか。それが問題です。
 弁護士は、食っていければいいという経営方針では、食っていけない。
 多くの法律事務所では、事務所理念に経営という視点が欠落している。自分の強みは何か、というところに意識をフォーカスし(焦点をあて)、その強みで勝負しなければ、生きていけるはずがない。
 私の事務所は「愛ある事務所」をモットーとし、草の根からの民主主義を支え実践することを理念としています。
 経営戦略は、自分の強みと機会を見すえて、どこに力を集中するのかを考えること。自分に不得意なもの、非効率的なものは思いきって捨てる。
 たとえば、今の私は会社法をめぐる相談が来たら、ほかの弁護士をすぐに紹介してまわします。会社法は、私の頭のなかにははいってこないからです。
交流と業務の拡大の基本は、相手の関心、ニーズをよく聞くこと、自分の商品を売りつけるのではなく、相手の困っていることに自分の専門性や人脈で何か手助けをできないか考えて、提供すること。聞き上手に徹すること、ギブに徹することが大切だ。
 労務マネジメントにおいては、自分と違うもの、異論と多様性とを心から受け入れて感謝する気持ちを持ち続け、なおも粘り強く経営理念を貫き続けるという不断の挑戦が必要だ。
皮肉なことに、お金を追い求めれば追い求めるほど、お金は逃げていく。
 これまでの常識だった、「弁護士は、社会正義の実現に向け、志高く仕事をしていれば、待っていても相談が来る」という時代は終わった。
 ホームページをみて相談に来る人が増えている。ホームページをつくるのなら、専門に特化した情報にしぼったホームページをつくるしかない。
 たしかに、そう言えます。ですから、私のブログは毎日更新を目ざしています。
 弁護士の役割は、依頼者を幸せにするためのお手伝いであり、その手段として法的紛争の解決を目ざすということ。
 労働事件であろうと何であろうと、無料であること、安いことが必ずしも依頼者のニーズではない。適正な報酬を、きちんともらうことは、とても大切なこと。弁護士をしていく上で、次の三つを重視している。
 その一は、クライアントに安心感を与え、苦しみから解放する。
 その二は、関係者の感情を重視する。
 その三は、仕事を楽しみ、弁護士自身の精神的不調を防ぐ。
 弁護士として、依頼者に対して次のように言って説得する。
 「楽観的に考えても、悲観的に考えても、たいして結果は変わらない。悲観的に考える必要がないのだったら、どうせだったら楽観的に考えてほしい」
 本当に、私もそう思います。くよくよしたって始まらないのです。昨日のことは身体自身が忘れないけれど、せめて頭のなかだけは抜きたいものですよね。
 依頼者の前では、カラ元気でもいいから、陽気で元気よく行動することが大切だ。
 弁護士にとって、とても実践的であり、かつ示唆に富んだ本です。強く一読をおすすめします。
(2015年5月刊。3000円+税)

伊藤真が問う日本国憲法の真意

カテゴリー:司法

                                (霧山昴)
著者  伊藤真、浦部法穂、水島朝穂ほか 、 出版  日本評論社
 大変分かりやすく、知的刺激にみちた憲法論が展開されている本です。
 はじめに伊藤真弁護士が問題提起をして、それに3人の憲法学者がこたえて自説を述べていくという形式です。それぞれ議論が発展していくのが面白い趣向です。
 かつての日本(戦前の日本)は、立憲政友会とか立憲民政党など、立憲主義を標榜する政党があった。ところが、いま、「立憲主義」の思想、視点が日本社会に欠けている。
 立憲主義は多数派に歯止めをかけること。戦前の日本やヒトラー・ドイツを見たら、多数派が正しいとは限らないことは明らか。人間は、ムード、情報操作、目先の利益に騙されるという不完全性がある。韓国・台湾の憲法にも、日本と同じく、国民の憲法遵守・尊重を求める規定はない。
 8月15日を「終戦」記念日とするのは問題があると指摘されています。目が開かれる思いでした。8月15日は、天皇ヒロヒトが臣民に向かって放送で敗戦を伝えただけのこと。日本政府が連合国側と戦艦ミズーリの甲板上で降伏文書に調印したのは9月2日。したがって、米・英などの国々は9月2日を「対日戦勝記念日」としている。
 昨年7月1日の閣議決定は、現行憲法の下で集団的自衛権の行使は認められないとしてきた歴代政権の憲法解釈を変更した。これに対して、最近の歴代内閣法制局長官は反対している。
この閣議決定のもとで、日本の軍需産業は色めき立っている。日本の「死の商人」が動き出したのです。怖いです。恐ろしいことです。いよいよ日本もテロのターゲットになります。防衛省は、防衛装備庁という1800人からなる外局を設置した。国を挙げて「死の商人」を応援しようというのです。
 安倍内閣は、金もうけのために武器の生産・輸出、原発の再稼働・輸出、そしてカジノを国内でやろうとしています。本当に許せません。国民生活の安定・平和なんて、まるで考えていません。金もうけが全ての世の中をつくり出したいようです。品性があまりに下劣です。
 安倍首相がアメリカの連邦議会で演説した何日か後に、アメリカから17機ものオスプレイを日本が買うことになったと報道されました。3600億円も支払われます。社会保障をほぼ同額(3900億円)削減したうえでのことです。本当に許せません。そのうえ、この欠陥機オスプレイを東京の横田基地に10機も配備するそうです。日本人を馬鹿にしています。
 日本は戦前、ずっとずっと戦争してきました。「大東亜共栄圏」と称して侵略戦争を展開し、多くの罪なき人々を殺傷し、逆に日本人も多くが殺傷されてしまいました。ところで、戦前というのは明治元年から71年間です。戦後も既に70年となりました。今では、ジャパン・ブランドは戦争しない国・ニッポンなのです。ところが、安倍政権は、この貴重な、実績ある平和ブランドを戦争する国・ニッポンに塗り変えようとしています。許せません。
 安倍首相の言う「積極的平和主義」というのは、「武力行使に積極的」というものです。戦前の日本も、「平和を守る」ために戦争を仕掛けていったのです。安倍首相の嘘にだまされてはいけません。
 ホルムズ海洋の機雷掃海に自衛隊を出すというのは、イランに攻めこむということと同義である。親日国・イランが当惑してしまうようなことを安倍首相は国会で高言している。
 安倍首相の言動こそアジアの安全を脅かしている最大の脅威である。
まことにそのとおりだと思います。法学館憲法研究所の積極果敢な憲法シシリーズに対して、心より敬意を表します。
(2015年4月刊。1500円+税)

10代の憲法な毎日

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                               (霧山昴)
著者  伊藤 真 、 出版  岩波ジュニア新書
 憲法改正のための国民投票は18歳からできるようになります。
 これは当然のことでもあります。なぜなら、徴兵制になるかどうかはともかくとして、日本人が戦場へ駆り出されるとき、その主力の兵士は20歳以上ではなく、18歳以上であることは間違いありません。
 アフリカの戦場では10代の兵士が珍しくなく、14歳にして部隊の司令官だ人間がいるというのです。恐ろしい現実です。
ということは、10代に憲法とは何なのかを知ってもらう必要があります。この本は、そんな思いで書かれていますので、とても分かりやすい内容になっています。さすが、だと感嘆しました。10代ですから、はじまりは学校生活の不満を問題とします。
集団や社会のために個人が犠牲になる社会であってはならない。
 高校生の疑問に対して著者が答えていくのですが、実に明快な答えです。
 人権というのは、元々は、人間として正しいということ、だから、権利を主張するときには、なぜその権利は正しいのかについて、みんなに分かってもらうことが大切になる。
 住民投票とか、直接民主主義には、変な誘導がなされたり、世論操作の危険性がある。
ドイツでは、ヒトラーが演説の巧みさなどから国民の圧倒的な支持を集め、圧倒的な支持を集め、ナチ党の独裁を許し、ユダヤ人の大量虐殺などの暴走につながった。だから、何でも住民投票で決められたらいいということにはならない。
 今こそ、大いに憲法について語りましょうと伊藤弁護士は若い人に呼びかけています。私も、まったく同感です。憲法は古い、死んだものではありません。きわめて新しい内容をもっているのです。ぜひ10代のあなたに読んでほしい新書です。
(2014年11月刊。840円+税)

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