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カテゴリー: 司法

典獄と934人のメロス

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  坂本 敏夫 、 出版  講談社
 関東大震災のとき、横浜刑務所は文字どおり全壊しました。収容されていた1000人ほどの囚人はどうしたか・・・。
刑務所から凶悪な囚徒が脱走した。そして、混乱に乗じて各所で悪事をはたらいている。そんなうわさが飛びかったようです。
 朝鮮人が移動を起こしているという噂は官製の部分もありました。それに乗せられた自警団が各地で朝鮮人を虐殺するという悲しい出来事が相次ぎました。その極致が甘粕憲兵大尉たちの大杉栄一家虐殺事件です。本当に許せない蛮行でした。
 実際には、横浜刑務所の典獄(刑務所長)が、法律にもとづき、独自の判断で24時間の開放措置をとったのでした。そして、大半の囚人は指定されたとおり戻ってきたのです。都市機能が壊滅状態になっていたため、制限時間内に戻れなかった囚人もいましたが、それでも問題を起こしていたのはありません。それどころか、船で横浜港に届いた救援物資を港で荷揚げし、被災者に分配する作業に従事するなど、解放された囚人たちは救援復興活動に役立っていたのです。
 著者は、事実を丹念に掘り起こして、感動的な物語として語ります。ここには、まさしく『走れ、メロス』の世界があります。読んでいると自然に目頭が熱くなってきます。やはり、人間って、信用されると、その期待にこたえようと頑張るんですよね・・・。根っからの悪人なんてこの世にはいないと、つくづく思わせる本です。
 実際には、逃走した囚人はゼロだった。ところが、司法省は未帰還人員は240人と発表し、その数字は訂正されることがなかった。そして、受刑者を開放して帝都一帯を大混乱に陥れたとして、椎名通蔵・典獄はすっかり悪者にされて今日に至っている。
 この本の登場人物は、ほとんど実名。それだけ史実に忠実だという自信があるわけです。
 典獄とは監獄の長。今日の刑務所長のこと。横浜刑務所の典獄になった椎名は36歳。東京帝大出身。着任して、毎日2~3回、構内をくまなく巡回し、囚人たちの名前を覚えていった。囚人も典獄の巡回を楽しみにしていた。
 当時の給料は、看守は月30~70円、看守部長が月50~80円。看守長は月85~160円。典獄は年俸制で3100円。
 椎名典獄は、囚人に鎮と縄は必要なし。刑は応報・報復ではなく、教育であるべきで、その根底には信頼がなければならないと考え、実践してきた。
 関東大震災のときに日本人が何をしたのか、その一端を知ることが出来る本としても貴重な記録だと思いました。
(2015年12月刊。1600円+税)

矩(のり)を踰(こ)えて

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  霞 信彦 、 出版  慶應義塾大学出版会
明治時代につくられた司法制度について認識を深めました。
明治初年、新律綱領は、不倫は杖で70回たたくと決めた。しかも、夫ある妻の不倫は「徒3年」。これって懲役3年っていうことですね。重すぎるし、不公平な差別ですよ・・・。
そして、明治6年の改定律例には、男性同士の性的関係を刑事罰の対象とした。懲役90日。
賄賂については、収賄者だけを処罰の対象とし、贈賄者を罰しないと定められていた時期がある。収賄罪の立証を容易にするためというのが理由。
大審院は、明治15年から41年に至るまで、刑法の規定どおり、贈賄者を処罰しなかった。
江藤新平は初代の司法卿になって、各府県がもっている司法権を中央国家に引き上げようとした。府県に専属していた司法権を中央政府、それも司法省の一手専売にしようとしたのである。府県に専属ということは、江戸時代までの藩自治がなお尾を引いて生きていたということですね。
各県バラバラの司法判断というのでは、たしかに困りますね。もっともアメリカでは、州ごとに法律が異なるのはあたりまえのようです。
日本でいうと、条例の違いということなのでしょうか・・・?
解部(ときべ)という職名が裁判所にあったそうです。人的また物的取り調べにより得られた情報をまとめ、判決書作成資料を供することを主たる役割とする、法曹の一員。この解部は、今の判事補にあたるようです。
知らなかったことが、いくつもありました。
(2007年11月刊。2000円+税)

法廷通訳人

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  丁 海玉 、 出版  港の人
 表紙の装丁がいいですね。思わず手にとって読んでみたくなる色あいです。
 私は通訳付きの法廷というのを体験した記憶がありません。被告人が外国籍ではあっても、皆、日本語が出来る人たちでした。日本に長くいたら日本語を話せるようになるのも当然ですからね・・・。
著者は韓国(朝鮮)語の通訳を親の代からしています。在日韓国人二世です。
法廷通訳人とは、その言葉どおり、裁判所の法廷で通訳する人のこと。裁判所で定めた認定試験や資格のようなものはなく、もちろん裁判所の職員や専属でもない。
法廷通訳人の報酬は、「裁判所が相当と認めるところ」と定められているが、具体的な額は公表されていない。
ソマリア人の「海賊」を紅海で自衛隊が捕まえて日本に連れ帰り、東京地裁で刑事裁判が開かれたことがありました。ソマリア語を通訳できる人が日本には数人しかいなくて、裁判所、検察庁、弁護人で奪いあうという事態が起きました。自衛隊の海外派兵が本格化すると、もっと困難なケースがどんどん出来ることになるのでしょうね・・・。
法廷通訳人は、最初に宣誓書を朗読して、目に見えない「良心」と「誠実」を担保にしなければならない。
通訳人候補者として登録するときには、履歴書と作文を提出したうえ、面接と導入説明がなされる。
 法廷という非日常の空間のなかで、普段の生活ではなかなか見えない人間の姿があぶり出される光景を目の当たりにすることがある。そこにあるのは、言葉だ。言葉には、それを使う人の人となりや個人史、生き様が反映される。放たれる言葉によって、その人の「生」が鮮やかに浮かび上がることがある。
法廷通訳は、生きた言葉を直訳して、正確に通訳する。裁判官、検察官、弁護人そして被告人から出た言葉の全部を要約せず、すべて訳さなければならない。
 韓国から来た男性のオーバーステイは、かつては建築現場で働く人がほとんどだった。その動機も圧倒的に子どもの学費のためだった。大の男が祖国にいる子を思い出して裁判官の前で大粒の涙をこぼすことも少なくなかった。
そして、しばらくすると、ホストが登場してきた。韓流ブームに乗ったのか、韓国好きな日本の女性、日本に滞在する韓国の女性など、客層は意外に広かった。
韓国語通訳を通してみた法廷の実情がよく描かれている本だと思いました。
(2015年12月刊。1800円+税)

ドキュメント死刑図

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  篠田博之 、 出版  ちくま文庫
  2008年の末に刊行された本に大幅加筆したものです。既に処刑された死刑囚、死を待つ死刑囚と交流のなかで、その実情を明らかにしています。
  幼女連続殺害事件の宮崎勤は処刑されましたが、父親は自殺したものの、母親は毎月、拘置所へ差し入れに通っていたそうです。そして、被害者遺族への賠償もしています。
本人が早期の死刑執行を望むときは、異例の速さで死刑は執行される。小林薫、そして宅間守がそうだった。
  この世に生きる価値を見出せず、死んでしまいたいと考える人にとって、死刑は刑罰としての意味があるのか・・・?もともと社会から疎外され、現実社会に自分の居場所がないと思い、死んでしまいたいと考える人にとって、死刑はもう怖い刑罰ではない。
  宅間守は、自覚的に、自分を疎外するこの社会に復讐するために凶悪犯罪を犯した。死刑を宣告されてからも、早く執行してほしいと言い続けて、確定から1年間という異例の速さで死刑を執行された。
  宮崎勤、小林薫、宅間守の3人は、いずれも父親を激しく憎悪していた。宅間守は死刑確定後に獄中結婚した。彼と結婚を望んだ女性は2人いた。一人の女性は、自らも小学校のころからいじめに遭い、社会に訴外されてきた人物だった。自分も一歩間違えれば宅間守になっていたかもしれないと、犯罪を犯した側に自分を投影する人も、日本社会には現に存在する。こういう人が、社会に存在することに想像力を働かすことができないと、その犯罪を解明することはできないのではないか・・・。
  信じにくい話ですが、それが現実なのですから、お互い、ここは想像力を働かせるしかありませんよね・・・。
  小林薫は、こちらからの質問の意図も明確だったし、物事を何も考えていない人間ではなかった。恐らく、家庭環境が違っていたら、あのような犯罪者にならないですんだ人間ではないだろうか・・・。
  小林は、小学校のときに母親を亡くした。母親への思慕が強烈なのが、小林の特徴である。法廷で、母親の話が出たら涙ぐんだ。
  宮崎勤にとって、それは祖父だった。幼少期に自分を可愛がってくれた者の死が精神的ダメージを与えた。
  小林薫が父親に対して思い望んでいた6ヶ条。
  1.子どもと一緒に食卓に着き、団らんのひとときを過ごしてあげてください。
  2.子どもの話を聞いてあげてください。
  3.子どもを信じてあげてください。
  4.子どもと遊んであげてください。
  5.子どもを叱るとき、なんで叱るのか、何が悪いのか、言いきかせ教えてあげてください。 
  6.子どもが2人、3人といるのなら、平等に接してあげてください。
  ゆったり心の休まる家庭生活が子どもに本当に大切なんだなと思わせる本でもありました。  
 
(2016年1月刊。900円+税)

弁護士 21のルール

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 東弁、親和全期会 、 出版  第一法規
 若手弁護士が、こんなところでつまずかないようにという先輩弁護士からの具体的なアドバイスが満載の本です。
 エレベーターで依頼者と一緒になったとき、ボタンを押すなというのは、あまり私にはピンと来ませんでしたが、服装には気をつけたほうがいいというのは同感です。ジーパンにTシャツで高額の着手金はいただけません。やはり背広(スーツ)でびしっと決めてこそ、何十万円、何百万円という大金をいただけるのです。
 そして、「先生」と呼ばれて「安住」するのも良くはありません。飲みにケーションは大切ですが、私のように60歳すぎたら、それもほどほどにしたくなります(私は50歳になってから二次会に行くのは止めました)。
 事務所に和やかな雰囲気が流れるような配慮は大切です。ああ、行きたくないなと思うのは最悪です。ブルーマンデーはありませんが、そんなのはストレスの源です。私は幸いにして、この40年間、「今日は事務所に行きたくないな」と思ったことが一度もありません。
 弁護士同士では、適度な距離感を保つ必要があるというのは、まったく同感です。一緒にいて、くたびれない関係こそが長続きする秘訣のように思います。
 事務局にとって、弁護士との食事は、残業代のつかない仕事の延長と考えている可能性があることを弁護士は自覚すべきだ。これには、なるほどだと思いました。
 事務局とのコミュニケーションが円滑かどうかは、弁護士にとって死活的に重要です。弁護士が判断して仕事を事務局に依頼することが大切です。そして、迎合してはいけません。人間としては対等ですが、仕事上は事務局はあくまでも補助者なのです。
 依頼者は友達ではないので、気を許して、内緒話などなんでも話していいわけではない。
そうなんですよね。あとで裏切られることもないわけではありませんので・・・。
弁護士とはなるべく交流すること、幹事は自らすすんでなること、というのは大切なことです。弁護士からの事件紹介って、意外にも多いものなんです・・・。
 本は買って読むこと。私は、持てるだけ(買って帰るときに、重たくなりすぎないように)本は買うようにしています。本を買うだけの収入は得ているからです。本を買うのに、お金の点でケチケチはしないようにしています。
 そして、新しい人間関係を今さら開拓する気は薄くなりました。それより、これまでの人間関係を大切にしたいと思います。
 2500円ですので、安くはありませんが、決して高いことはない本として、若手弁護士には一読を強くおすすめします。
(2016年1月刊。2500円+税)

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