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カテゴリー: 司法

司法改革と行政裁判

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 木佐 茂男 、 出版 日本評論社 
 著者の『人間の尊厳と司法権―西ドイツ司法改革に学ぶ』(日本評論社)は大変勉強になりました。しかし、それも25年以上も前のことになってしまいました。
 その本以上にショッキングだったのは、映画『日独裁判官物語』です。この本によると、この映画はネット上で60分の全編をみることができるとのことです。まだ見ていない人は、一度みてください。
 ドイツの裁判官が組合をつくり、普通の市民感覚を忘れないようにして裁判を担当していること、それにひきかえ我が日本の裁判官が、いかにも情けないほど萎縮しきっていることに、その落差の大きさに驚かされ、というより思わずため息をつきたくなるほどです。
 ところが、日本の司法当局は、この映画の反響の大きさに恐れをなしたせいか、映画そのものだけでなく、著者に対する人格攻撃まで仕掛けたとのことです。なんと日本の司法当局は厚顔無恥なのでしょうか・・・。
 私はスマホは持たず、相変わらずガラケーのみです。しかも、ガラケーを使うのは自分のためのですから、夜に帰宅したあとガラケーをチェックすることもありません。
 そのガラケーとは、ガラパゴス化したケータイの略称ですが、著者が1998年12月に初めて使った用語であり、著者のあと本多勝一氏が使って一気に普及したのです。つまり、ガラケーのガラパゴスというのは、著者の造語なのです。そ、そうだったんですか・・・。
「しぶしぶと支部から支部へ支部めぐり、四分の虫にも五分の魂」
 青法協会員だった田中昌弘判事の作品。青法協の会員裁判官は大都市の裁判所に配置されなかったという時代がありました。私のような支部を活動舞台とする弁護士は、その恩恵も受けたのですが・・・。
 今の最高裁長官(寺田逸郎)は、初任が東京地裁で、40年の法曹経歴において、法務省勤務が26年間に対して、裁判官の仕事をしたのは14年間にすぎない。これで、「本来は裁判官」と言えるものなのか・・・。
 寺田長官と親しく話したことはありませんが、私と大学入学が同じで、司法修習も同期(26期)です。
 司法制度改革(司法改革)は失敗したと断言する人が少なくありませんが、私は失敗したとは考えていません。たしかに、裁判所の受けた打撃より弁護士の大量増員によるインパクト(被害)の大きさは予想をはるかに超えました。
裁判官の総数が増えていないことには驚かされます。
 2003年に1424人だった判事は、10年たった2014年には1876人ですから、450人ほどしか増えていません。これだけ社会が複雑化しているときには、裁判官はもっと増えていていいはずだと思うんですが・・・。
 そして、裁判官の任意団体が今ひとつもないなんて信じられません。
 裁判官も、本人たちは、主観的には「自由」に伸びのびと毎日をすごしているのかもしれません。しかし、客観的な現実はどうでしょうか・・・。やはり、型にはまった思考しか出来ない、勇気に欠ける裁判官が少なくないように思います。
事件数が減っているというわけですが、必ずしも、そうではなさそうです。家事事件は増えています。
 今春、ついに九大を定年退官した著者の本です。
 少し値がはりますので、図書館で読んでみて下さい。
(2016年6月6日。1万円)

携帯乳児

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  紺野 仲右ヱ門 、 出版  日本経済新聞出版社
 明治41年に制定された監獄法によって、刑務所内で育てられる「子」を「携帯乳児」と呼んだというのです。子どもを「ケータイ」と呼ぶのには、すごく抵抗がありますよね。それでも、女性が刑務所内で出産することはありうるでしょうし、その母子を別にするのも良くないことが多いでしょうから、やむをえない措置だとは思います。
この監獄法は、100年続いたあと、平成18年に全面改正され、翌19年に施行されています。いまでは「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」という長い名前の法律になっています。
刑務所につとめていた夫婦の合作ですので、さすがに刑務所の内外の様子が詳しく描かれていて参考になります。
刑務所内の処遇課と分類課は昔からそりが合わないと描かれています。現場重視の処遇課に対して、理論派の分類課という構図です。
心理技官の多くは分類課に籍を置いている。
刑務所は刑を執行するところなので、刑期を全うさせることが大原則。一方で、受刑者の犯罪の特性を正確につかみ、改善や更生をさせて社会復帰をはかることも、一般社会が刑務所に望む重要な役割だ。けれども、現実には刑務所に出来ることとしては、限られた職種の工場に、受刑者をなるべく適切に割り当てることぐらいだ。刑務所に入れることが罰であり、そこに犯罪抑制力があると、処遇課は声高に主張する。
刑務所内の収容者にも、いろんな人がいて、むしろ満期までいたいという人もいるようです。そして、精神遅滞の人や、親兄弟と縁を切った(切られた)人もいて、なかなか複雑です。刑務官にしても、さまざまな人生を歩んでいます。
そんな人たちの思いと行動が複雑に交錯して話が進行していくのでした。
(2016年2月刊。1600円+税)

坂の途中の家

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  角田 光代 、 出版  朝日新聞出版
 裁判員裁判が始まって、もう何年にもなりますが、まだ私の属する法律事務所は弁護士が5人いるのに、誰も経験したことがありません。もちろん、私たちが敬遠しているのではありません。私は、今でも当番弁護士も国選の被疑者弁護そして被告人弁護はしています。そして、殺人事件の弁護人にもなったこともあります。
 ところが、逮捕された被疑者を調べているうちに、弁護人の私の働きによってではなく、嘱託殺人に切り替えられてしまって、裁判員裁判の対象事件にはなりませんでした。私以外の弁護士4人も同じような状況です。体験していないので、裁判員裁判の是非を体験をふまえて論じることの出来ないのが残念です。
 この本は、子育て中の主婦が補充裁判員になって、その審理過程を描いています。被告人は、我が子を殺してしまった母親です。ひょっとして、自分も、我が子を殺してしまったかもしれないという巧みな心理描写がありますので、裁判員裁判の進行過程が一気に読みものになっていくのです。そこらあたりは、さすが作家の筆力です。
 子どもと一日中ずっと一緒にいたら、かなりのストレスがたまると思います。保育園は、その意味でも不可欠だと、私は体験をふまえて考えています。
この裁判員裁判では、検察側の提示する鬼のような母親と、弁護側の提起する哀れな母親のどちらが真相なのか、そのはざまに置かれて裁判員たちは悩みます。実は、その点は、裁判官だって同じことなのです。裁判官だから分かるということでは決してありません。文章をもっともらしく書くのには長けているだけなのです。
この本では、真相が明らかにされるということはありません。
 40年以上も弁護士をしている私ですが、ことの真相って、本当に分からないものだと、日々、昔から実感しています。
(2016年1月刊。1500円+税)

小説 司法修習生

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  霧山 昴 、 出版  花伝社
 お待たせしました。このコーナーの著者が1年がかりで書きすすめていた司法修習生(26期)の前期修習生活がついに本となりました。
 いまの最高裁長官は親子二代、はじめて長官をつとめていますが、司法修習26期生です。その26期修習生の湯島にあった司法研修所での前期修習の4ヶ月間が日記のようにして話が展開していきます。
全国の学園闘争(紛争)を経てきていますので、修習生を迎えた司法研修所はかなり緊張して身構えていた気配です。それでも、その前年の「荒れる終了式」とは違って、平穏裡にスタートします。前年に「荒れた」というのは、まったくの嘘でした。司法研修所は、当日、異例なことにわざわざテレビカメラを導入するなど、謀略的です。
司法研修所では要件事実教育がなされます。白表紙というテキストによって、民事では準備書面や判決文、刑事では弁論要旨、論告そして判決文などを修習生が起案していきます。それを5人の教官が講評するのですが、その講評がシビアなのです。
 青法協会員裁判官の再任が拒否され、24期では裁判官への新任を希望したのに拒否された7人のうち6人が青法協会員でした。青法協に入っていたら、そんな不利益を受けるのです。
司法研修所の教官は任官や任検を必死で勧誘します。そして、青法協には入るなと、口を酸っぱくしてクギを刺すのです。したがって、青法協会員は、そう簡単なことでは増やすことが出来ません。任官希望者は、例外的な修習生をのぞいて、青法協には近寄ろうともしませんでした。それでも、会員のまま裁判官になり、裁判所で冷遇されていた人もいます。
 前期の終わりころに青法協の結成総会を迎えます。25期よりも少しだけ会員が増えるのが期待されていましたが、なかなか伸びませんでした。それでもなんとか、期待にこたえて少しだけ増勢となりました。
堂々440頁もある大部な本ですが、厚さの割には1800円(税は別)という安さなのです。ぜひとも買ってお読みください。そして友人にも教えてやってくださいな。売れないと、困ってしまう人が出るのです。なにとぞよろしくお願いします。
(2016年4月刊。1800円+税)

典獄と934人のメロス

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  坂本 敏夫 、 出版  講談社
 関東大震災のとき、横浜刑務所は文字どおり全壊しました。収容されていた1000人ほどの囚人はどうしたか・・・。
刑務所から凶悪な囚徒が脱走した。そして、混乱に乗じて各所で悪事をはたらいている。そんなうわさが飛びかったようです。
 朝鮮人が移動を起こしているという噂は官製の部分もありました。それに乗せられた自警団が各地で朝鮮人を虐殺するという悲しい出来事が相次ぎました。その極致が甘粕憲兵大尉たちの大杉栄一家虐殺事件です。本当に許せない蛮行でした。
 実際には、横浜刑務所の典獄(刑務所長)が、法律にもとづき、独自の判断で24時間の開放措置をとったのでした。そして、大半の囚人は指定されたとおり戻ってきたのです。都市機能が壊滅状態になっていたため、制限時間内に戻れなかった囚人もいましたが、それでも問題を起こしていたのはありません。それどころか、船で横浜港に届いた救援物資を港で荷揚げし、被災者に分配する作業に従事するなど、解放された囚人たちは救援復興活動に役立っていたのです。
 著者は、事実を丹念に掘り起こして、感動的な物語として語ります。ここには、まさしく『走れ、メロス』の世界があります。読んでいると自然に目頭が熱くなってきます。やはり、人間って、信用されると、その期待にこたえようと頑張るんですよね・・・。根っからの悪人なんてこの世にはいないと、つくづく思わせる本です。
 実際には、逃走した囚人はゼロだった。ところが、司法省は未帰還人員は240人と発表し、その数字は訂正されることがなかった。そして、受刑者を開放して帝都一帯を大混乱に陥れたとして、椎名通蔵・典獄はすっかり悪者にされて今日に至っている。
 この本の登場人物は、ほとんど実名。それだけ史実に忠実だという自信があるわけです。
 典獄とは監獄の長。今日の刑務所長のこと。横浜刑務所の典獄になった椎名は36歳。東京帝大出身。着任して、毎日2~3回、構内をくまなく巡回し、囚人たちの名前を覚えていった。囚人も典獄の巡回を楽しみにしていた。
 当時の給料は、看守は月30~70円、看守部長が月50~80円。看守長は月85~160円。典獄は年俸制で3100円。
 椎名典獄は、囚人に鎮と縄は必要なし。刑は応報・報復ではなく、教育であるべきで、その根底には信頼がなければならないと考え、実践してきた。
 関東大震災のときに日本人が何をしたのか、その一端を知ることが出来る本としても貴重な記録だと思いました。
(2015年12月刊。1600円+税)

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