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カテゴリー: 司法

前に進むための読書論

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  山口 真由 、 出版  光文社新書
 東大法学部を首席で卒業して財務省に入り、今は弁護士をしている著者が、どんな本を読んできたのか、それを知りたくて読んでみました。
児童文学やファンタジーをたくさん読んでいるとのこと。これはいいですね。もちろん、私も、多少は読んでいますが、著者ほどではありません。ノンフィクションやエッセイにも、私と重なる本は多くはありませんでした。日本と海外の小説も、いくつか重なるだけでしかありません。
でも、私は著者が読書をすすめる文章には、まったくもって同感です。
読書が好きだということは、とても幸せなこと。それは「前に進む力」がすでに備わっているということ。読書には、自分と向き合う力、前に進む力という、とてつもないパワーがある。
著者にとっての読書は、現実の世界から離れること。小説のなかで、まったく違う人生を生きることが出来る。これは、私も実感しています。そうやって弁護士生活40年以上を生きてきました。
実用・合理性・短期的視点だけでは、人間は前に進めない。前に進むためには、実務能力とともに、人間性という推進力が必要。この人間性を育てるためには、読書ほど有用なものはない。
読書をしているとき、本を読んでいる自分自身と主人公になりきろいうとするもう一人の自分をつくる。これが自分と他人との距離感を取るときに、とても有用な訓練となる。
著者にとって、一日の仕事を終えて書店に行くのは至福の時間。1時間から2時間、店内を見てまわる。本は、ネット書店では買わないようにしている。
私も似たようなものです。新聞の書評のチェックは欠かしませんが、書店まわりも大好きです。というか、私の行く店と言ったら、本屋くらいしかありません。あとは、本を読むために喫茶店に入るくらいです。買い物するために店に入るということはありません。
読書と学力は関係している。「読む力」以上に「書く力」が育つことは絶対にない。自分の読める文章以上のものを書くことが出来る人はいない。
忙しいから本を読めない。嘘です。忙しいからこそ、たくさん本を読めるのです。私は、もう20年ほども年間500冊の単行本を読んでいますが、それは忙しくて、気力が充実しているから可能なのです。暇になったら、恐らくとても無理だと思います。
敬愛する著者に対して、歴史の本、そして生物と宇宙の本を、もし読んでいなかったら、ぜひ読んでほしいと思いました。いずれも、人間とは何か、自分はいかなる存在なのかを考えるうえに必要な本だと考えています。
ちなみに、私は自慢するわけではありませんが、大学で「優」をとったのは一つもなかったように思います。大学では3年あまり学生セツルメント活動に没入していて、授業についていけませんでした。ですから、全「優」なんて、どうやったら取れるのか不思議でなりません。
(2016年7月刊。740円+税)

元検事が明かす「口の割らせ方」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  大澤 孝征 、 出版  小学館新書
相手の心情をある程度は分かってやったうえで、相手のプライドを立ててやるのも口を割らせるために必要なこと。
元検察官で、いまは弁護士をしている先輩法曹による体験に裏付けられた「白状」のさせ方を公開した本です。とても実践的なので、実務にすぐ生かせそうで勉強になりました。
罪を犯した人が嘘をつくのは、人間の防御本能として自然なこと。だから、被疑者にいくら「嘘をつくな」と言っても通用しない。
取り調べられる側にとっては、自分が助かるかどうか、自分の処罰がどうなるかのほうに関心がある。
被疑者の話を持ち出すのは、被疑者自身が自分の行動や感情を吐露することで自分の内面をつかみ、しおらしい気持ちが出てきたあとにしたほうがよい。
それより、まずは自分自身の話をさせるのが先決。まずは相手のホンネを聞くこと。
詐欺師は、騙す相手のことを淡々と探りながら、相手が何を大事にしているのか、何を欲しているのかを見きわめている。
取調べにあたるときには、「自分にはできる」と前向きに、自信をもってのぞむことが大切。こちらに自信がないと、それは相手にも伝わってしまう。もし自信がなくても、さも自信があるように見せる必要がある。
取調べの過程において、相手を断罪してはいけない。
相手から話を聞き出すことと、相手の評価をすること、この二つはしっかり分けておく必要がある。話を聞くときには、「きみの言うことは理解できる」という態度をとらなくてはならない。
すぐに事件の核心を話してくれない被疑者に対しては、雑談から入っていく。そのとき大切なことは、「事件の話」という、当方の関心を押しつけるのではなく、相手の関心がどこにあるのかを探り、そこにこちらが合わせていく。そのためには、他愛もない話をどれだけ豊富に、相手の話にうまく合わせて出していけるかである。
話を聞く側は、相手をほめることを忘れないこと。人間は、この相手は自分を決して否定しないと分かると、安心するもの。
相手の話し方にあわせて、自分も話す。ときには、ガツンとやることも欠かせない。
事件を担当する裁判官がどんな人物なのか、詳しく調べ、それを前提として、たたかっていく必要がある。用意周到に勝負にいどむのだ。
とりわけ若手弁護士には読んで役に立つ本として、一読をおすすめします。
(2016年8月刊。780円+税)

もうひとつの「帝銀事件」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  浜田 寿美男 、 出版  講談社選書メチエ
 1948年に事件が起きました。東京は池袋の帝国銀行椎名町支店で銀行員16人が青酸性の毒物を飲まされ、12人もの人が亡くなったという大事件です。
「帝銀」というのは、今の三井住友銀行のことです。犯人は、現金16万4千円と1万7千円の小切手を持ち去り、小切手は翌日、換金されていました。
この帝銀事件と同種の事件は前年末から2つも起きていて、まったく同じ手口でした。しかも、犯人が銀行員に飲ませた青酸性の毒物は、青酸カリではありません。つまり、青酸カリなら即効性があり、20人もの人が飲んで、しばらくして死に至るという経過をたどりません。ですから、犯人は戦前「731部隊」にいた毒物扱いに慣れた人物としか考えられません。ところが犯人として捕まり、裁判で有罪とされたのは著名の画家であった平沢貞通でした。平沢には毒物扱いの経験はありません。
著者は、平沢の「自白」が信用できないということをさまざまに論証しています。なるほど、なるほどと大きくうなずきながら私は読みすすめました。
青酸カリのような無機青酸化合物は即効性がある。被害者は数分間生きていたし、飲まされた16人のうち4人は生き残った。すると、旧日本軍が開発していた遅効性の有機青酸化合物ではなかったかという疑いがある。ところが、茶碗が洗われていて、科学的な解明ができない。
平沢貞通は33歳のとき、狂犬病の予防注射を受け、その副作用として記憶障害を主症状とするコルサコフ症候群を発症した。そのため、平沢は、誰にでも分かるようなその場かぎりの作話をするようになった。
平沢は、目撃者からの情報によってではなく、「松井」名刺の線から「犯人」として浮びあがったというだけ。平沢を有罪とした判決はいくつもあるけれど、結局、平沢の「自白」と目撃者の供述だけ。帝銀事件を平沢につなぐ客観的な物的証拠は何もない。
平沢には詳細な「自白」がある。しかし、その「自白」によってあらたに暴露された事実というのは何もない。平沢の「自白」については、それを「補強すべき証拠」が物的証拠に関する限り皆無である。
平沢は「青酸カリ」の入手経路を語ることも出来なかった。青酸カリではないだろうとされているのに、青酸カリの入手経路も明らかにできない「自白」を裁判所が信用するなんて、とんでもないことですよね・・・。
平沢は、こんな「自白」もしています。
「ただ困ったことは、腕章も手に入らず、薬も手に入らないので、どうして人殺しが出来たか、それでつじつまが合わないので困ります」
ええっ、こんな「自白」があるのでしょうか。他人事(ひとごと)ですよ、これって・・・。
自分の体験していない「事実」を、自分の体験であるかのように語るときの、その奇妙な感覚を、平沢は実に自然に語っている。私も、本当にそう思います。これは無茶ですよ。こんな「自白」を信用した裁判官なんて、よほど予断と偏見に満ちているとしか言いようがありません。
「自白」した平沢は帝銀事件の実際を知らなかったのである。
「私は、もう現し身ではなくて仏身なのです。だから、頼まれれば何にでもなりますよ。帝銀犯人にでも何にでもなりますよ」。これが平沢の言葉でした。これだけでも、私は平沢は帝銀事件の犯人なんかじゃないと確信します。
平沢は取調の場で、何回となく反省と謝罪の言葉を繰り返し、それを短歌や漢詩にも反映させている。平沢は、「自白」したあとも、犯行の具体的なところを語りきることが出来なかった。その「語れなさ」こそが平沢「自白」の大きな特徴だった。その「語れなさ」を埋めるかのように、その謝罪の表現では「犯人になりき」った。平沢は、顕著な空想性虚言者だった。「自白」は明らかに間違いだった。この「自白」で、40年も獄にとらわれ、95歳で獄死した。
本当に恐ろしいことです。誤判した裁判官の責任は重大だと改めて思いました。
(2016年5月刊。1850円+税)

志は高く、目線は低く

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  久保利 英明、 出版  財界研究所
 大先輩の弁護士が50年前にアフリカへ単身で渡って旅行したときの体験を書きつづっています。
 旅へ出発したのは、1968年4月のことです。私は大学2年生になったばかり。セツルメント活動に打ち込んで、大忙しの毎日でした。やがて、6月に東大闘争が勃発し、翌年3月まで、まともな授業はありませんでした。
 著者は4月13日に日本を出て、日本に戻ってきたのは9月27日です。この5ヶ月間のうちの2ヶ月間をアフリカで過ごしています。
 私自身は大学生のときもそうですし、弁護士になるまで海外旅行するなんて考えたこともありませんでした。勇気がなかったというもありますが、なによりお金がありませんでした。
 では、著者は、いったい海外旅行の費用をどうやって工面したのか・・・。なんとなんと、中学生になるころから、株式投資をしていたというのです。これには参りました。すっかり降参です。株式投資なんて、今に至るまで考えたこともありません。株式投資に失敗した人の相談は何度も乗りました。先物取引の失敗は詐欺商法だということで、弁護団をつくって取り組み、それなりの成果もあげました・・・。著者は株式投資が成功したため、結局、「無銭旅行」を楽しめたというのです。すごいですね。
 著者は50万円を用意して出発。6ヶ月間の世界旅行なので、1日5ドルの貧乏旅行。勇気ありますよね。私はとても真似できません。
ところが、父親は、こう言って反対した。「せっかく難しい試験に受かって弁護士になれるというのに、アフリカで死んでしまったらどうするんだ・・・」。これに対して母親は、反対しなかった。「3人も子どもがいるんだから、一人くらい死んだって仕方ないわよ」。ええっ、冗談にしても、すごいセリフですね・・・。
 著者は出発時に84キロあった体重が、帰国したときには、20キロも減って62キロになっていた。今では、かつての80キロは軽くオーバーしているのではないでしょうか・・・。
 なぜ20キロも減ったのか。それは、この本を読むと一目瞭然。すごい貧乏旅行なのです。現地の人と同じ水を飲んでも、ほとんど下痢することもなかったというのですから、よほど著者の胃腸は頑丈なのでしょうね。うらやましい限りです。
 アフリカでもどこでも、著者は日本人だというだけで、現地で優遇された。
 あのころの日本人は、世界中で特別な存在たった。もう戦争はしない、軍隊も持たないと言っている。そして、柔道や空手をしていて、武士道に精通した人たちばかりだと思われていた。
 今では、日本人は、アメリカべったりで、「戦争するフツーの国の人」になり下がってしまいましたよね。あのアベ首相のせいで・・・。
 スーダンではラクダのくるぶしを丸ごとグツグツ煮こんだ料理を食べたそうです。空腹だったせいもあって、とても美味しかったとのこと。牛のテール料理みたいなものなんでしょうか・・・。
 最後に著者は、弁護士にとって大切は「3つのY」を強調しています。一つは、柔らかい頭。二つ目は、優しい心。そして、三つ目は、勇気。
 なるほど、これは私もまったく同感です。
「ことは急げ。見るべきものはすぐに見る。ほしいと思ったらすぐ買え。チャンスは二度ない」
 23歳の東大生が書いたというのです。見事です。
 ちなみに、私は、司法試験に合格したあと、小さな診療所で受付事務していました。お金がなかったので、アルバイトをして生活費を稼いだのです。海外旅行するなんでいう選択肢はありませんでした
 本書が著者の年齢と同じ71冊目になるというのもすごいことです。今後ますます元気にご活躍ください。
 たまには、自分40年前50年前を振り返って初心を思い出すのも、人間にとってもいいことだと思いました。
(2016年2月刊。1500円+税)

檻の中のライオン

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  楾 大樹   出版  かもかわ出版
 権力をライオンにみたて、そのライオンに自由勝手なマネをさせないための、檻(おり)が憲法だという、とても分かりやすい憲法の解説書です。
 ところで。著者の名前は何と読むでしょうか・・・。こんな漢字は見たこともありません。「はんどう」と読みます。ちなみに、手元の漢和辞書で、引いてみました。すると、どうでしょう・・・。角川の漢和中辞典にはありませんでした。木と泉という、よく見る字の組み合わせなので、あってもよさそうですが・・・。
 「ライオンは強いうえに、わがままなことがあります。暴れ出したら手がつけられません。
 歴史を振り返ると、ライオンが私たちを襲いかかることがよくありました」
 そうなんですよね。今のアベ政権をみていると、よく分かります。ネコなで声で、ささやきながら、とんでもない恐ろしいことを平気でやっています。マスコミを支配していますので、自分の都合の悪いことは、多くの国民に知らせないようにしています。
ライオンが「緊急事態には檻から飛び出してキミたちを守れるように、内側からカギを開けられるような檻を作りかえよう」と言い出した。
 でも、ライオンは、本当に私たちを守るためだけに檻から出るのでしょうか。勝手な都合で檻から出て、私たちを襲わないという保障がどこにあるのでしょうか・・・。
 ライオンが自ら「緊急事態だ」と言いさえすれば、檻から出すことが出来るのなら、檻がないのと同じということです。
 たくさんの絵とともに解説されていますので、中学生以上だったら理解できる内容だと思います。小学生でも、高学年だったら、読んで聞かせて、問答形式にしたら、かなり分かってもらえるように思います。
 広島の若手の弁護士である筆者のますますのご活躍を心から期待しています。
(2016年6月刊。1300円+税)

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