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カテゴリー: 司法

偽囚記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 鬼塚 賢太郎 、 出版  矯正協会
東大法学部生がニセの看守になり、また囚人として刑務所に入ったときの体験記です。
ときは戦後まもなくの昭和22年(1947年)のことです。団塊世代の一人である私の生まれる前年です。教授になったばかりの国藤重光教授が志願囚をつのったのでした。4人の学生が応じ、そのうち3人が実際に看守となり、また、囚人となって刑務所に入っています。
場所は横浜刑務所です。横浜修習だった私も横浜刑務所のなかに見学者として入りました。高い塀があり、模範囚が塀の外で花壇の手入れをしている光景を思い出します。
しかし、学生が3人もニセ囚人になるというのは容易なことではありません。いったい、どんな犯罪をしたことにするのか、家族や出身地、そして当時なら兵隊経験はあるのか、どこに行ったのか、嘘をつき通して、つじつまを合わせなければいけません。
囚人から次第に疑われていく様子がリアルに描かれています。要するに当局から送り込まれたスパイではないかと疑われるのです。それが確定したら、ひそかにリンチされるのは必至です。そのとき、本当に誰かが助けてくれるのか・・・。
体験者は、無事に「出所」したあと、国藤教授に「もう、あとの人には、こういう体験をすすめるようなことをしないで下さい」と迫ったそうですが、それもなるほどだと思いました。
罪名はPCとされています。要するに、進駐軍(アメリカ軍のことです)の物資の不法横流しをしたというのです。それで刑期は5年。
刑務所内ではタバコを吸っていた。その火種はどうしていたか・・・。
ホウキの柄と綿くずを使って、ゴリという発火の方法を利用していた。
今から30年ほど前でしたか、福岡刑務所でピストルを製造していたことが発覚したことがありました。戦後間もなくの刑務所では、それこそいろんなことがあっていたことでしょう。タバコを吸っているというのは、20年ほど前の刑務所の話としても聞いたことがあります。今はないのでしょうか・・・。
それにしても、この体験をした著者が、裁判官になり、機会の許す限り矯正施設を訪問していたというのにも感銘を受けました。やはり、刑事裁判では行刑の実際を知ることも大切だと思います。裁判員裁判を担当する人には、事前に刑務所見学もしてもらい、その実情の一端を知ってほしいものだと思います。いかにも貴重な体験記です。
先日の本(原田國男『裁判の非情と人情』)に紹介されていましたので、早速ネットで注文して読んでみました。
(昭和54年3月刊。850円+税)

刑事司法への問い

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 指宿 信 ・ 木谷 明 ・ 後藤 昭 、 出版  岩波書店
シリーズ刑事司法を考えるの第0巻として刊行されました。
いま、日本の刑事司法は、確実に、そして予想を上回る勢いで変わりつつある。
この本は、この認識をベースとしつつ、そのかかえている問題点を縦横無尽に斬って、解明しています。
刑事被告人とされ、長い苦労の末に無罪を勝ちとった元被告は鋭く指摘しています。
冤罪は、なぜ起こるのか。一言でいえば、捜査権力が誤った目的意識をもっているから。肌で感じた冤罪の要因の一つは、検察官の取調べ能力の高さ、つまり調書作成能力の高さである。一人称で書かれながら、検察官が怪しいと思う部分は、符丁として問答形式が挿入されるといった枝巧が用いられる。
取調べのプロである検察官に対して、知力、気力、体力で伍することができなければ、取調べをイーブンに乗り切ることは不可能である。
そして、捜査権力の無謬性を、もっとも信頼しているのが裁判官である。
裁判官に対しては、圧力をかけていると一切感じさせない、しかし、国民が注視しているという意識をもたせることが必要。なーるほど、工夫が必要ということですね。
検察庁では「言いなり調書」を作成すると上司から叱責される。「あるべき」「録取すべき」供述とは、有罪の証拠として十分に使える供述調書のこと。このような調書を作成できることが重視される。
冤罪の大きな原因は、違法な取調べによる虚偽自白。これは捜査機関、ひいては裁判所までもが自白を必要としているから。
動機の解明に固執すると、捜査機関に合理的かつ詳細な自白獲得という無理を強い結果になりかねないことが意識されるべきだ。
最近、さいたま地裁では拘留請求の却下率が急増し、平均1%だったのが8.11%にまでなっている。
刑務所を満期釈放で出た人の60%以上が、10年以内に再び刑務所に入っている。
しかし、仮釈放になった受刑者の再入院率は低い。
刑務所での作業の労賃は時給6円60銭。最高でも時給は47円70銭。これでは出所するときに5万円ほどにしかならない。受刑者が刑務所を出て社会に復帰するときに必要なアパートを借りたり、給料をもらうまでの生活費には、まったく不足する。
矯正施設に収容される人は減り続けている。刑務所は8万1255人(平成18年)が、6万486人(平成26年)へと2万人も減っている。少年院は、6052人(平成12年)がピークで、今やその半分以下の2872人(平成26年)。
刑事司法の現場にいた人、身近に接している人たちの論稿ばかりですから、さすがに深く考えさせられます。
末尾の座談会の議論に、真実主義者の弁護士がいるのに、私は驚いてしまいました。真実は、もちろん私も俗人としていつも知りたいものです。しかし、法廷で弁護人に求められているのは決して「真実」ではないと教わってきましたし、自らの体験でもそれが正しいと考えています。
いずれにしても、あるべき刑事司法を考える有力な手がかりとなるシリーズの刊行が始まったわけです。ご一読をおすすめします。
(2017年2月刊。2800円+税)

裁判の非情と人情

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 原田 國男 、 出版  岩波新書
読んでいると、なんだか、ほわーっと心が温まってくる、そんな本です。
私は東京から帰ってくる飛行機のなかで読了しましたが、それこそフワーッと心が浮き上がってしまいました。その心地良さにです。
ここまで言えるというのは、タダ者ではありませんね。
無罪判決は、楽しくてしょうがない。筆が自然と伸びる。文章の長さなど気にならない。気が付いてみれば、長文となっただけで、それを目ざしたわけでもなく、長文を書かなければと苦しんだわけでもない。ここまで言えるというのは、タダ者ではありませんね。
そもそも、しっかり書けないような無罪判決は、その判断や理由づけに問題があるからであり、考え直したほうが賢明である。無理して無罪にする義理はない。
無罪判決を続出すると、出世に影響し、ときに転勤させられたり、刑事担当から外されたりする。これは、残念ながら事実である。だから、無罪判決をするには勇気がいる。
しかし、無罪だと信じる事件を有罪とする裁判官がいたら、それだけで失格であり、裁判官が犯罪者に転落してしまう。
私も、現実に、裁判官に勇気がないから無罪判決を書けなかったんだなと感じたことが複数回あります。重大事件とか警備公安事件ではなく、一般のフツーの事件について、です。
被告人の更生に関心をもたなくなったら、刑事裁判は終わりである。
裁判官は、訓戒すべきだと著者は言いますが、私も同じ考えです。ムダなので何も言わないという裁判官にあたると、ガッカリします。
著者は、裁判官は小説や映画をたくさん読んで観てほしいと強調しています。これまた、まったく同感です。
寅さん映画は、ぜひ観てほしい。まさしく人情とは何かを語っているからだ。
裁判官は、多くの文芸作品や小説を読むべきである。自分では経験できないようなことも、小説を通じて感得することが可能なのだ。
著者が勧めているのは藤沢周平と池波正太郎の『鬼平犯科帳』です。
私は、山本周五郎もいいと思います。藤沢周平は、「たそがれ清兵衛」など映画になったのもいいですよね。
『世界』の連載コラムが本になったものです。コラムは読んでいませんでしたので、すべて初めて読んだわけですが、こんな芯のある裁判官が残念ながら少なくなりました。「青法協」退治の負の遺産が今も残念ながら確固として生きているのです。そして、それを打破すべき弁護士任官も、裁判所の厚い壁にぶつかっている現実があります。
軽く読めて、フワッとする心地よいコラムですが、よくよく考えてみると、実に重たい内容ばかりです。
法曹関係者には広く読まれてほしい本です。
(2017年2月刊。760円+税)
春になりました。チューリップの花が色とりどりに咲き誇っています。ウグイスの鳴き声を聞きながら春の陽差しの下で庭を手入れするのが至福のひとときです。とはいっても、実は花粉症に悩まされる季節でもあります。なんとか薬に頼らずに乗り切りたいと、毎年はかない抵抗をしています。毎朝のヨーグルトと寝る前の鼻洗いだけが予防薬です。
それにしても春は陽が長くて、いいですよね。暑くもなく、寒くもなくて・・・。

おまえがガンバれよ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 岡 英男 、 出版  司法協会
日本の弁護士がモンゴルで調停制度を発足・普及させるのに関わった体験記です。
かなり自虐的な表現がありますが、活字に出来る限りで、JICA専門家としての活動を率直にレポートした本として面白く読ませていただきました。
著者は、裁判所に勤務した経験もある、大阪の弁護士です。日本の調停も同席調停制度にすべきだという意見のようです。私は、これに必ずしも賛同できないのですが・・・。
著者は、2010年から2015年にかけて、JICA専門家の弁護士としてモンゴル国最高裁判所に派遣され、モンゴルに調停制度をつくる仕事をしてきた。
モンゴルの調停は2014年に始まった。そして、2015年には調停で1万5000件を処理した。民事訴訟が年間2万件なので、高い比率を占めている。
著者は国際協の専門家ではなかったし、調停についてとくに人並み以上に詳しいわけでもなかった。モンゴル語は分からず、英語についても、英検4級(中学生のとき)しかなくても、モンゴルでは日本語だけで著者は仕事をしてきた。これって、たいした度胸ですね・・・。
モンゴルでは、雨と一緒に来る人は、縁起が良いとされる。というのも、春先の雨で、草原の草が生い茂るようになり、それによって牧畜が支えられている。
モンゴルの裁判所には女性が多い。弁護士をふくめた法律家全体をみても女性のほうが多い。民事の裁判官は圧倒的に女性が多く、刑事は半々ほど。
モンゴルで司法試験を受験するには、4年制大学の法学部を卒業したうえで、国内外を問わず2年間の法律実務経験を要する。合格率は20%で、合格者は300人ほど。
モンゴルの人口は300万人で、家畜の総数は4500万頭。
モンゴルでうまく仕事をすすめるためには、人との関係がとても重要。
モンゴルは、厳しい学歴社会、大学卒業は知的職業につくための最低限の基礎資格。
モンゴルでは、バッジや勲章は人の評価を高める効果的な道具である。モンゴルでは、世界中で一人口比でいちばん勲章・メダル授与数が多い。
モンゴルの調停は、同席調停がほとんど。そして、1回の期日だけで、大半が終了している。民事調停の成功率は一般に85%。ところが、離婚調停に限っては成功率は15%にも達しない。というのはモンゴルの調停は、夫婦を仲直りさせるものしか和解できない仕組みになっているから。
この本を読みながら、著者は、つくづく勇気のある人だなあと感嘆しました。
(2016年9月刊。900円+税)

民事裁判実務の留意点

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 圓道 至剛 、 出版  新日本法規
ひところ福岡地裁で裁判官だった著者(弁護士任官でした。今また弁護士に戻っています)による若手弁護士のためのハウツー本です。裁判官だった経験も生かして、とても実践的な本です。
ちなみに、著者の名前は、「まるみち むねたか」と読むそうです。なかなか読めない名前ですね。
この本には、100頁もの書式サンプルまでついていますので、その点からいっても、すぐに今日から参考にできる本です。
証人尋問心得という書面があります。この本では5頁にもわたる詳細な心得です。
「証言中はメモを見ながら答えることはできません。裁判官のほうを見て、回答して下さい。裁判官は、供述内容と同じくらい、供述態度を見ています。正面を見て、堂々と答えて下さい」
反対尋問については、「想定外の質問もあり得ます。よく考えたうえで、端的に答えて下さい。言葉尻をとらえられる恐れがありますので、できるだけコンパクトに答えて下さい。意図的に挑発してくることも考えられますが、決して熱くならないで下さい。常に冷静さを保ち、淡々と答えるようにして下さい。どうしても回答に困ったら、ちらっと私のほうに目をやって下さい。何らかの異議を出すなどの方法により、適宜、助け船を出すようにします」
うーん、どうでしょうか。私は、「そんなときには『分からない』と答えていいのです」とアドバイスしています。もちろん、異議を出すべきだと判断したら、立ち上がって異議を述べることもあります。
事前の証人との打合せは、私ももちろんしていますが、この本では証人テストを3回するとしています(事案が比較的単純な場合には1、2回ですが・・・)。
3回目の証人テストは、前日ないし当日午前中に行うといいます。しかし、私は、依頼者や証人に対して、「前日は記録など読み返すことなく、ぐっすり眠っておいてください」といつもアドバイスしています。前日読んで、「どう書いていたかな、ここは何と言うべきかな」などと考えて、一瞬の間があいてしますのが裁判官から変に勘繰られたりして良くないからです。
この本にも、尋問事項の丸暗記はまずいとしています。つまり、記憶にもとづいて自分の言葉で答えるというのが一番大切なことです。
裁判所に対して、マイナンバーの提供はすべきでないと断言しています。まったく同感です。
和解を成立させる形式として、受諾和解(法264条)、裁定和解(法265条)そして、「17条決定」(調停に代わる決定)がある。
私は裁定和解なるものがあることを知りませんでした。この本では、あまり使われていないということなので、少しだけ安心しました。
反対尋問では深追いしないことが肝要。敵に塩を送ってやるような有害無益な結果になりかねない、からです。
控訴権の濫用だと思えるようなら、控訴答弁書において制裁金の納付を命じるよう裁判に求めることが出きるそうです。私は、そんな条文があること自体を知りませんでした。これは申立権はないものの、裁判所の職権発動を促す目的です。
大変勉強になりました。著者のひき続きのご活躍を心より祈念します。
(2016年7月刊。4200円+税)

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