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カテゴリー: 司法

我、市長選に挑戦す

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 小宮 学 、 出版  海鳥社
飯塚市で活動している小宮学弁護士が飯塚市長選挙に立候補し、見事に落選した経過をふり返った奮闘記です。
小宮弁護士の前著『筑豊じん肺訴訟』(海鳥社)は、なかなか感動的ないい本でした。このコーナーでも紹介し、高く評価しました。2008年の発刊ですから、以来、9年ぶりの著書になります。今回の本も、とても平易な文章で分かりやすく、80頁あまりのブックレット・タイプですので、ぜひみなさん、買って(500円)読んで下さい(私は贈呈を受けましたが・・・)。
小宮弁護士は福岡県南部の高田町(現みやま市)に生まれ、久留米で弁護士生活をスタートさせました。そして3年後、筑豊・飯塚市に移り、じん肺裁判に弁護団事務局長として18年あまり関わってきました。
小宮弁護士は、本人は「弁護団員のなかでは穏かな方だ」という自己評価ですが、原田直子弁護士は、「すぐに怒り出し」、「すぐに泣き出す人」と評価します。原田弁護士は続けて、小宮弁護士は「正義感が強く、相手が誰であろうと、決して屈しない人」だと街頭演説のときに紹介したとのことです。この点は、私も、まったくそのとおりだと思いますが、この本を読んで、ますますその意を強くしました。
なぜ小宮弁護士が飯塚市長選挙への立候補を決意したのか・・・。
市長と副市長が執務時間中に庁舎を脱け出して、元市会議員で事業経営者のマージャン店で賭けマージャンをしていたことが発覚したのです。それ自体が大問題ですが、当初は開き直っていた市長が辞意を表明するとともに、後継者として、同じ賭けマージャン仲間の教育長を指名しました。これを小宮弁護士の正義感は許すことが出来ませんでした。
これって、本当にひどいですよね。許せませんね・・・。
ところが、この点を西日本新聞筑豊支局はまったく問題にせず、むしろかばってやるかのような報道で一貫させたというのです。ジャーナリズム精神が泣きますよね。この点について、筑豊支局の総局長は「我が社の自由です」と答えたそうですが、これってジャーナリズムの自殺行為と言うほかありません。
西日本新聞は私も購読していますが、これには、正直いって、大変に失望させられました。それほど、筑豊では麻生一族に歯向かえないというわけなのでしょう・・・。残念です。
小宮弁護士は、本書のなかで、西日本新聞に対して、「襟を正せ」、「権力に媚びるな」と叫んでいますが、私も声をそろえて同じことを叫びたいと思います。
この本には、私もよく知っている故・松本洋一弁護士の言葉が紹介されています。がんのため早くに亡くなられましたが、本当にたいした弁護士でした。私も小宮弁護士と同じく、心から尊敬していました。
「たたかいは勢いである。小さくても勢いがあるほうが勝つ」
久々に松本節(ぶし)を思い出しました。切れのいいタンカで松本弁護士は法廷を見事に圧倒していました。
民法学の大家で、立命館大学の総長もつとめた末川博博士が小宮弁護士に次のようなフレーズを書いた色紙を贈ったとのことです。
「法の理念は正義であり、法の目的は平和である。だが、法の実践は社会悪とたたかい、時代の逆流とたたかい、自分自身とたたかう闘争である」
小宮弁護士は、この末川博士の教えを守って、これからもがんばる覚悟で本書をいち早く刊行したのです。とりわけ法曹を志望する人にぜひ読んでほしい冊子です。
(2017年8月刊。500円+税)

私たちは戦争を許さない

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 安保法制違憲訴訟の会 、 出版  岩波書店
最高裁判所の元長官が安保法制法の前提となる集団的自衛権の行使を容認する安倍内閣の閣議決定は憲法違反だと断言したのには驚き、かつ、勇気をもらいました。
多くの国民が反対運動に立ちあがり、全国すべての弁護士会で反対の取り組みがすすむなかで、国会で強引に成立した安保法制は、やっぱり憲法違反だし、無効だという裁判が日本全国で起きています。
九州では、長崎、福岡、大分、宮崎、鹿児島、沖縄で裁判がすすんでいます。「もし安保法制が裁判所によって合憲と認定されたら、安倍政権を利するだけではないのか・・・」 そんな疑問があるのは事実です。
しかし、三権の一角を担う司法が、一見して明白な違憲状態を看過するようなことになれば、そのこと自体が三権分立制度の自殺を意味する。平和憲法そのもの破壊を座視するような司法は、とうてい民主国家における司法とは言えないだけでなく、最終的には国民の信頼も失ってしまうだろう。そこで、「安保法制違憲訴訟」が真正面から提起された。
つまり、国の政策について、唯々諾々と追認することがたびたびある司法のあり方を根底から問い、三権分立の一角を担い、かつ憲法保障の役割を担うべき裁判所に、その職責を果たしてもらう必要があると考え提起された裁判である。
憲法学者である青井未帆教授(学習院大学)が巻末で次のように解説しています。
日本国憲法9条が守ろうとしているのは、自由や私たち市民の普通の生活です。「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(憲法13条)の基礎を確保すること。日本国憲法は、軍権力がコントロール不能になって自由が現実に侵害されてからでは手遅れになってしまうからこそ、仕組みとして9条をもうけた。このような予防的な仕組みにとって、その目的である自由や市民の生活が危険にさらされる「おそれ」に敏感であることが、本質的に要求される。
今の日本では、行政府が自らに大きな権力を集中させ、これまでの慣行を壊し、あるいは作法を無視する一方で、立法府がそれに対する効果的な抑制をできないでいる。そういう状況だからこそ、三権分立におけるもいう一つの柱である司法府が権力抑制に果たさなくてはいけない役割が、これまで以上に大きくなっている。
この本は、原告となった人々のさまざまな思いが熱く語られていて、読む人の心を熱くします。ジャーナリスト、元自衛官、元パイロット、元船員、宗教者、戦争体験者、被爆者、元原発技術者、元マスコミ関係者・・・。とても多彩ですし、その真剣な訴えには思わず、エリを正して傾聴しようという気にさせられます。
代表の寺井一弘・伊藤真の両弁護士、事務局長の杉浦ひとみ弁護士の労苦を多とするほかありません。一人でも多くの人に読まれることを私も心から願います。200頁で1300円です。いま価値ある本として、あなたもぜひ買ってお読みください。
(2017年8月刊。1300円+税)

こんなにおもしろい弁護士の仕事

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 千原 曜・日野 慎司 、 出版  中央経済社
弁護士になって40年以上もたつ私ですが、私にとって弁護士は天職、本当になって良かったと思っています。司法試験の受験生活はとても苦しく辛いものでしたが、なんとか辛抱して勉強を続け、弁護士になれて幸運でした。
大都会で3年あまり修業をして、故郷にUターンしてきましたが、それからはひたすら「マチ弁」です。狭い地方都市ですから下手に顧問先は増やせません。昔も今も利害相反チェックは重大かつ深刻です。
幸い懲戒処分は受けていませんが、懲戒請求を受けたことは何回もあります。サラ金会社から「処理遅滞」で請求を受けて、なんとかはね返したこともあります。ネット社会で法的処理のスピードが速くなっているにつれ、スマホも持たないガラケー族の身として、いつまで弁護士をやれるか心配にもなります。
40年以上も裁判所に出入りすると、いろんな裁判官にめぐりあいました。少なくない裁判官はまともに対話が出来て、尊敬すべき存在です。しかし、やる気のない裁判官、自分の一方的な価値観を押しつける裁判官、威張りちらすばかりの裁判官にもたくさん出会いました。先日も書きましたが、騙されたほうが悪いと頭から決めつける裁判官に出会うと、本当に悲しくなります。
以上は、この本を読んで触発された私の実感をつらつらと書いたものです。すみません。
この本の後半に出てくる日野弁護士は福岡で活躍している弁護士夫婦の子どもです。双子で弁護士になって、一人は広島で、もう一人は東京で弁護士をしているとのこと。なるほど、親の影響下にないほうが、お互いに気がねなく伸びのび弁護士活動を展開できると思います。福岡には親子一緒の法律事務所がゴマンとありますが、どうなのかな・・・、遠くから眺めています。
法科大学院で勉強してきた日野弁護士は、法科大学院の衰退を大変残念に思っているとのこと。私も、まったく同感です。昔の司法試験が万万才だったなんて、私には思えません。予備試験コースが昔の司法試験と同じ状況になっているのに、私は強い疑問を抱いています。
日野弁護士の仕事ぶりはすさまじいものです。前の日、午前3時まで仕事をしていて、2時間ほど仮眠をとって、午前7時25分の羽田発で福岡に向かい、福岡地裁で朝10時30分から夕方5時すぎまで証人尋問。6人の証人のうち、4人は敵性証人。相手方の弁護士も敵対的な態度なので尋問は長く、激しいものだった。
うひゃあ、す、すごーい・・・。今の私には、とても無理なスケジュールです。
ボス弁の生活は、もっとゆったりしています。平日ゴルフもあります。ただし、プレーの合い間にもメールチェックを怠らないとのこと。
顧問会社は150社。月額の顧問料収入が1000万円。う、うらやましい・・・です。でも、私は福岡市内で弁護士をしていませんので、顧問先の拡大なんて絶対にやってはならないことです。自分で自分の首を絞めるだけです。
刑事事件も、顧問先の関係で年に2、3件は担当するとのこと。これはいいことです。
民事訴訟の醍醐味は、三つある。
一つは、中身の充実した書面を書くこと。どのように説得力のある内容にするかという努力、テクニックがポイント。
二つは、どう解決するかという判断。判決をとるのが良いか、和解で解決するか、どのタイミングが良いか・・・。
三つは、どう交渉するかという交渉面。すべて、自分が主体的に絵を描いていく。裁判所の受け身ではなくて・・・。
まったく、そのとおりです。私は次回期日のいれ方にしても、自分のほうから先にリードするようにしています。そのほうが時間のムダも少なくなります。
裁判官のあたりはずれには、いつも苦労しているという文章には、まったくそのとおりなんです。
銀座でとても美味しい食事にめぐりあったとのこと。まあ、これは福岡にも、東京ほどでなくても美味しい店があると、ガマンすることにしましょう。
「こんなに面白い弁護士の仕事」は、田舎の福岡のさらに田舎にもある、このことをぜひ若い法曹志望の人に知ってほしいと思いました。
(2017年8月刊。1800円+税)

日本一やさしい「憲法」の授業

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 伊藤 真 、 出版  KADOKAWA
安保法制、秘密保護法が制定されたあと、憲法はどうなったのか。「日本一やさしい」かどうか保証はできませんが、大切なことを分かりやすく説き明かしています。
憲法と民法や刑法などの法律とは、三つの点で大きく違っている。
その一は、法律は強い者が弱い者を支配する道具になってしまうことがあるのに対して、憲法は弱い者が国家権力という強い者に歯止めをかけて自分の身を守るための道具である。国家権力という強い者というのは、テレビで見る安倍首相や菅(すが)官房長官です。「こんな人たち」が勝手なことをしないようにしばるのが憲法です。
その二は、法律は国際情勢や経済状況に応じて改変していくべきものですが、憲法は時代に流されない恒久的な価値を示すものです。安倍首相や菅官房長官が「北朝鮮や中国の脅威」をあおって法律改正をすることがあっても(その当否はともかく)、憲法は、もっと根本的に世界と日本の平和を守るための方策を考えます。
その三は、法律は現実からかけ離れていると意味がないけれど、憲法は理想を掲げるものなので、現実と食い違っていてもあたりまえです。
憲法改正するには、国民投票にかけなくてはいけません。ところが、憲法改正手続法は重大な欠陥があります。
まず、第一に、最低投票率の定めがありません。
第二に、マスコミ規制が尻抜けです。投票日より15日前以前は、テレビCMの規制はありませんので、有名人がテレビで「私は憲法改正に賛成です」と、誰が、何回言ってもいいのです。これでは、お金のあるほうが勝ちになってしまいます。
私はこの本を読んで初めて知りましたが、イギリスがEUから離脱するかどうか国民投票にかけるときには、賛成、反対の西派の広告費用の上限が7万ポンド(9億円)と決められていました。これは、日本にとっても大変重要なことです。
「憲法の伝道師」として全国を文字どおり飛びまわっている著者は、福岡にも何回も来ています。先日は、久留米で2回目の講演会がありました。
憲法って、意外に私たちの毎日の生活の土台になっていることを気づかせてくれる「やさしい憲法」の本です。ぜひ、とりわけ中学生や高校生に読んでほしいと思いました。
(2017年4月刊。1400円+税)

八法亭みややっこ、世界が変わる憲法噺

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 飯田 美弥子 、 出版  花伝社
着物姿がぴったり似合う女性弁護士です。
落語家としての気風(きっぷ)の良さが人一倍なのは、高校生(水戸一高)のときの落語研究会(おちけん)以来のキャリアがあるからです。
32歳で離婚して、法律事務所で事務員として働きながら受験勉強をして司法試験に合格。40歳で弁護士になりました。
「あなたの当たり前が、私の当たり前とは限らない」日本では、その意識が弱い。みんな違って、みんないい。この金子みすずの詩が評価されているのは、多くの日本人が同質でないと不安になることを反映しているのかもしれません。
みややっこさんは、東京は八王子の現役の弁護士です。現役としたのは、弁護士の本業のかたわら日本国憲法の意義を落語によって語っているからです。日本全国を駆けめぐっています。ちょっと前に本人から聞いたのは、宮崎と佐賀ではまだ話していないということでした。その後、九州全県を制覇されたのでしょうか・・・。
憲法ネタは、著者オリジナルです。そして、著者の噺は90分(1時間半)かかります。
ごく最近、私の知人が古典落語に挑戦しはじめたのですが、今は、まだせいぜい30分しかやれないと正直に告白していました。なのに、90分、憲法を落語として語るのですから、すごいものです。私は、実は、DVDで見聞しただけなのですが、それはそれは堂々たるものでした。さすがは高校生以来のキャリアです。まったく堂々たる落語家です。
ちなみに、「八法亭」というのは著者が東京は三多摩にある八王子合同法律事務所に所属しているからです。六法全書の連想ゲームみたいなものでしょうね。
安倍首相がモリそばカケそば疑惑から目をそらさせようとして、強引な改憲策動を前倒しにしている状況で、日本国憲法が実は身近な存在だし、それを守ることが毎日の平穏で安心な生活を保障するものだということを実感させる本でもあります。
本書は「みややっこの憲法噺」シリーズの第三弾です。著者がますます美しく光り輝かれんことを祈念しています。

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