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カテゴリー: 司法

反核・平和を貫いた弁護士・池田眞規

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 池田 眞規 著作集刊行委員会 、 出版  日本評論社
昨年(2016)11月に88歳で亡くなった池田眞規弁護士を追悼する著作集です。その一生涯を反核・平和のために過ごしたと言ってよい池田弁護士は世界中に知己をつくっていたようです。
問題を多方面から見ながら生まれる豊かな発想、ときに周囲をはらはらさせる天衣無縫、自由な行動、そしてそれを進める強い意思と頑固さ。
池田弁護士は、ものすごいバイタリティーで世界中を駆け巡りました。
この本の圧巻は、反核・平和のための世界法廷での池田弁護士の活躍ぶりを紹介した部分です。このとき、日本の外務省は核兵器廃絶に反対する立場から、陰に陽に足をひっぱったようです。本当に残念なことです。たとえば、広島・長崎の市長は世界法廷に出廷するとき、証人として意見は言えないと外務省はタガをはめようとしました。とんでもないことです。しかも、両市長の発言内容への干渉もしたのです。
外務省は両市長に対して事前に発言原稿を見せろと求め、それに応じた長崎市長は12回も訂正を求められた。他方、広島市長は、「原稿ができていない」と言って逃げた。また、事前に公表するのは、裁判所に対して失礼にあたると言って逃げきり、当日は、核兵器の使用等は違法だし、国際法にも反すると陳述した。日本の外務省は政府の方針を忠実に実践しているだけとは言え、あまりにも情ない限りです。アメリカの核兵器によって日本の平和が守られているなんて神話に取り込まれすぎです。
池田弁護士は百里(ひゃくり)基地の訴訟にも関与しています。一審で敗訴したとき、原告団が弁護士たちを次のように言って励ました。
「裁判だから、勝つこともあらあな・・・。敗けることもあらぁな、へへへ・・・」
自衛隊が憲法違反かどうか調べるため、防衛庁(当時)の統幕部長や空幕長(源田実)を証人として呼んで法廷で質問しています。合計9人です。そして、二審でも12人もの学者などを証人として調べています。すごいことです。
いま、全国で安保法制が憲法違反だということを明確にさせる裁判が係属中です。ぜひ裁判所に明確な違憲判決を出してほしいものです。
故池田弁護士の遺思を受け継ぎ、次世代に反核・平和の動きの橋をつないでいくうえで、大いに役に立つ追悼集だと思いました。
(山形・T氏)

知らぬは恥だが役に立つ法律知識

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 萩谷 麻衣子 、 出版  小学館新書
弁護士生活も40年を過ぎてしまうと、自分の法律知識は果たして大丈夫なのかと、つい不安になってしまうことがあります。いえ、認知症の心配をしているのではありません。そうではなくて、新しい法律がどんどん生まれていて、法改正も次々になされているので、ちゃんと追いついているのか不安になるのです。
それで、ときどき、こんな一般向けの法律解説書を読んでみます。すると、やっぱり教えられることが多々あります。
自転車は、車両の一種である軽車両にあたるので、お酒を飲んで運転したら飲酒運転が成立するとのこと。恥ずかしながら、私は知りませんでした。そして、自転車の運転に青切符的な制度が導入されている。自転車についても賠償保険に入っておかないと大変です。
痴漢と間違われたとき、堂々と立ち去れる状況なら立ち去るのがベスト。下手に駅長室に入ってきちんと事情を説明して冤罪だと分かってもらおうとすると、現行犯逮捕されたとして勾留されることがあるのです。怖い世の中です。
過払金の返還について、「消費者問題に取り組む弁護士たちが、苦労の末に勝ち取ったもの」だと著者は正しく評価しています。本当にそのとおりです。過払金の取戻は全国のクレサラ問題対策協議会のメンバーの血と汗の結晶だったのです。
未払残業代の請求について、先日、相談を受けました。2年間の時効の問題もありますが、残業したことをどうやって立証するかがポイントになります。記録、メモ、タコグラフなど、なにか手がかりになるようなものがほしいです・・・。
不倫の慰謝料の相場を、この本は300万円から400万円としています。これは合計金額で、その内訳を夫が200~250万円、愛人が100~150万円とします。福岡でも同じようなものではないでしょうか・・・。
離婚不受理届について、6ヶ月という有効期間がなくなっていることを初めて知りました。取り下げ申請するまで効力があります。
死後離婚というのは姻族関係終了届です。姻族の了解を得る必要はなく、いつでも提出可能。
不倫した社員をそれだけで懲戒処分することは出来ない。何らかのトラブルが起きて業務に支障をきたしていれば別だが・・・。
テレビでコメンテーターしている女性の弁護士のようですが、私も勉強になりました。
(2017年10月刊。780円+税)

汚染訴訟(上)(下)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 ジョン・グリシャム 、 出版  新潮文庫
アメリカの若い女性弁護士が進路選択に苦悩していく姿を描いた司法小説でもあります。いま、日本では、地方に根ざして弁護士活動をしてみようという若手弁護士が急減しています。いまや雪崩をうってビジネス界へ一目散という雰囲気のようで、怖い気がします。
この本に描かれているように、ビジネス弁護士は、下手すると、へとへとになるまで超こきつかわれて、しかも、実は悪(わる)の手伝いをさせられていたということになりかねません(もちろん、すべてだなんて決して言いません。超高給取りの一部に、そんな弁護士がいるようです、と言っているのです)。
なんのために弁護士になったのか、弁護士として何を生き甲斐にするのか、主人公の女性弁護士は真剣に悩んでいます。ぜひ、日本の若手弁護士も同じように悩み、そのうち何人かは、ビジネス弁護士から華麗なる転身をとげてほしいものです。
この本の主人公は、ついに、ニューヨークではなく、超高級取り(年俸16万ドル、1600万円を提示されます)ではなく、アメリカのド田舎で年3万9000ドル(390万円)の給与で働くことを選択したのでした。
「お願いですから、助けてください。私たちを助けてくれる弁護士さんは、あなた以外にはいません。石炭会社を相手にして戦おうとした勇敢な弁護士さんは、あなただけなんですから・・・」
石炭会社、つまり○○鉱山ですね、は森林を大規模に破壊して地域の環境を破壊するうえ、働く労働者をじん肺にし、その補償をしないで切り捨てる。医学的立証ができない状況に追いやり、証拠隠滅を図るのです。そのため、強力な法律事務所をかかえています。
労働者たちは会社に反抗しようという気力を失っているし、孤立している。労働組合はとっくの昔になくなってしまった。わずかな労働者を原告として裁判をしていた弁護士には尾行がつき、盗聴され、ついには不可解な事故で死んでしまう。
さあ、そんな大変な現場に、まだ弁護士としての力量もない、都会育ちの女性が弁護士としてやっていけるのか・・・。
さすがジョン・グリシャムです。ぐいぐい引っぱって読ませます。
ケンタッキー州に本拠を置く地方住民法律センターに取材したり、NPO法人に取材して出来あがった本のようですから、大変な迫力があります。旅行の友の文庫本として、一読をおすすめします。
(2017年10月刊。1600円+税)
天神で韓国映画「密偵」をみてきました。日本の統治下にあった朝鮮が舞台です。日本警察の下で働く朝鮮人が二重スパイのようになって活躍するのですが、日本警察が朝鮮独立運動の志士たちを拷問するシーンはとても残虐です。小林多喜二を拷問死に追いやった特高警察を思い出しました。
朝鮮半島を植民地として支配する日本の醜い姿が描かれています。史実をベースにしたフィクションですが、爆弾で世の中を変えようとしたこと自体は本当にありました。今の自爆テロと共通したところがあります。でも、結局のところ暴力ではうまくいくはずがありません。日本人として大いに考えさせられる、いい映画でした。

破天荒弁護士クボリ伝

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 久保利 英明・磯山 友幸 、 出版  日経BP社
私の先輩になりますが、まだまだ若い、現役バリバリの弁護士です。
日本一訪問した国が多い弁護士。なんと170ヶ国。私の自慢はもっとささやかです。日本全国、行ってない県はありません。
日本一著作の多い弁護士。本書が76冊目にとのこと。巻末に、そのタイトルが紹介されていますが、私が読んだのは数冊だけだと自覚しました。私も自費出版の小冊子を含めて40冊ほど刊行していますが、せいぜい半分ですね。
よく働き、よく遊べ。これは真似できません。なにしろ著者は、年に5週間(夏3週間、冬2週間)も、海外へ出かけているのです。私も30歳代から年に1回は海外旅行してきましたが、最長40日で、あとは長くて1週間から2週間です。とても著者にはかないません。
23期司法修習生の終了式のとき「騒動を起こした」首謀者として罷免された阪口徳男修習生について、この終了式に携帯用テープレコーダーを持ち込んでいたのは著者だったことを初めて知りました。阪口修習生の発言時間はわずか1分13秒間だったのです。明らかな冤罪事件です。これも権力犯罪ですよね。
弁護士とは闘争業だ。法律という「権力の言葉」を操りながらも、弱者の側、正義のある側に寄り添って、より良い社会を実現するのが弁護士の役割。目的と手段に正義を要求する。単なる法律解釈から一歩も二歩も踏み出して、戦略を練り、戦術を工夫して、武器を改良し技量を練磨して、依頼者の思いに応えるのが弁護士の仕事。必ず解決法を明確に提示する。
社長と専務(この二人は親子)を同時に解任するという離れ技(わざ)を実現したというのには驚きました。綿密に計画を立て、入念に予行演習して成功したとのこと。さすがです。そして、取締役会のスタートと同時に社長室と専務室に鍵をかけて入れないようにしたのでした。うむむ、見事ですよね・・・。
目立った存在になってから、著者は東京地検特捜部から狙われたことが2度もあるとのこと。さすが大物です。そして、そのとき、裁判官面前調書として尋問を受けたのでした。いやはや、この手があったのか・・・。と驚きました。私が弁護士になった40年以上も前のことですが、同じように裁判官面前調書を活用するという話をしていたのを懐しく思い出してしまいました。
ヤクザや総会屋だけでなく、ときには依頼者の側に立って国家権力と対峙する。それが他の職業では味わえない弁護士の醍醐味である。
著者が1日1食主義だというのに驚きました。タバコを吸い、酒は毎日欠かさず、塩分もカロリーも紫外線も気にしない。嫌なことはせず、やりたいことだけする。
新しい弁護士の活躍できる分野を次々に開拓していった著者ならではの意気込みあふれた本です。後輩にあたる私も、いささか発奮してしまいました。多くの若手弁護士に一読をおすすめします。
(2017年11月刊。1700円+税)

合理的配慮義務の横断的検討

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 大分県弁護士会 、 出版  現代人文社
すごい本です。私は、心底から驚嘆しました。この本を私が手にとったのは10月末に大分市内で開かれたシンポジウムの会場です。
障害者権利条約が2006年に国連で採択され、日本は2014年に批准した。そして、前年の2013年に障害者差別解消法が成立し、2016年4月に障害者雇用促進法が改正・施行された。そのなかで「合理的配慮義務」が公法上の義務として規定されている。
この本は、障害者法制における「合理的配慮」の現状と課題を確認し、その合理的配慮の視点から、その他の法分野についての裁判例に至るまで広く分析・検討していて、まさしく「チャレンジングな試み」となっています。
この本のサブタイトルは「差別・格差等をめぐる裁判例の考察を中心に」とあり、本当に広い視野で問題点を網羅的にすくいあげ、そして、それに対して的確なコメントを付しています。しかも、鋭い問題提起をするだけでなく、実務的にも大変役立つ実務的手引書になっています。実際、私は本書にあるようなケースで法律相談を受けたばかりでしたので、すぐに役立ちました。私が実践的に役立ったところから説明しますと、本書(299頁以下)には、「不動産取引において心理的瑕疵が問題になる場面」という項があり、「心理的瑕疵」を扱った判例を紹介し、コメントしています。
「心理的瑕疵」とは、その物件で自殺や自然死があったときの扱いです。私も相談者の息子が東京の賃借マンションで自殺した案件について代理人として対応したことはあったのですが、「人夫出し」企業の社長から、長期滞在型のホテルで突然死(心筋梗塞)した従業員について、そのホテルから50万円もの弁償要求を受けたというので、法律上の見解を求められたのでした。
本書は、「階下の部屋で半年以上前に自然死した者がいる」というとき、そのような事実は「社会通念上、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥に該当するものとまではいえないから、かかる事実を告知し、説明すべき義務を負っていたものとは認め難い」との判例(東京地判、H18.12.6)を紹介しています。私にとっては、大変参考になる判例であり、コメントでした。
日本の障害者差別解消法や障害者雇用促進法で規定された合理的配慮義務には、私法上の効力は認めておらず、合理的配慮義務違反に対する救済は、公序良俗・信義則などの民法上の法理を理由として当該行為について無効ないし権利濫用を主張するか、あるいは債務不履行ないし不法行為を理由とする損害賠償請求によって解決するほかない。この点は、合理的配慮の不提供に対する一種の履行請求が認められるアメリカなどと大きく異なっている。
合理的配慮論を障害者分野以外の法分野に適用ないし展開することは不可能ではない。その視点から、本書では、労働法分野(人事、セクハラ雇用平等、母子保護、非正社員、外国人労働者など)、その他の性的少数者、信仰、消費者契約についてまで広く合理的配慮論を展開しています。その視野の広さには思わず息を吞むほど圧倒されました。
ところで、合理的配慮とは、障害者が日常生活や社会生活において受ける様々な制限をもたらす原因となる社会的な障壁を取り除くため、その実施にともなう負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して個別の状況に応じて講じられるべき措置です。
なお、最近では「障がい者」と表記することが多いことを知ったうえで、本書では法律上「障害者」になっているので、そちらに統一したという断りも明記されています。
私は、この本をシンポジウム会場入口で受けとりました。堂々350頁もある大作です。判例もたくさん紹介されていて、しっかり読みごたえがありますから、シンポジウムそっちのけで読みふけってしまったのでした。そして、千野博之弁護士を先頭とする大分県弁護士会のシンポジウム部会の理論的レベルの高さはほとほと敬服しました。
九州のなかでは何かと異論を唱えることも多い大分県弁ですが、本書のような理論書をまとめあげる集団的力量の高さを私は率直に高く評価したいと思います。
実務的にも大いに価値ある本として一読を強くおすすめします。
(2017年10月刊。3600円+税)

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