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カテゴリー: 司法

弁護士はBARにいる

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 前岨 博 、 出版  イースト・プレス
私は久しく「バー」なるものに行ったことがありません。若いころにはスナックにもクラブにも、そしてたまにバーに行ったことがありました。宴会のあと、若者たちが先輩に率いられて、ゾロゾロと二次会、三次会に流れていったのです。そして、当然のように先輩弁護士が勘定をもってくれていました。今では、ちょっと考えられない光景ですよね。先輩が後輩を誘うことはまれにありますし、少しだけ余計に負担することはあっても、「全額おごり」だなんて、考えられません(少しとも私には・・・)。
それはともかくとして、この本では、バーのカウンターの内側にいる男性が客の悩みに的確なアドバイスをするという趣向です。そのアドバイスは明確です。それは危いからやめたほうがいい、それは大丈夫だ、問題ない、このようにきっぱり小気味良く断言します。もちろん、そのあと解説が続きますので、納得もします。
たとえば、従業員の横領が発覚して頭をかかえている社長に対して、何と言ったか・・・。
「法的見地から申し上げると、現段階で警察に駆け込むのは、早計というもの」
このアドバイスには、私も、まったく同感でした。民事、刑事、処遇、会社の組織・システム、それぞれの問題についてよく整理しておくことが先決。警察は、すぐには動いてくれない。そして、懲戒解雇ではなく、諭旨解雇にして、支払うべき退職金を賠償金に充てるという解決法がある。
この点は、私も同じように処理したことがあります。
有力な従業員が競争相手の同業者に引き抜かれてしまった。さあ、どうしたらよいか・・・。
「法的見地からすると、残念ながら、その同業同社を訴える条件はそろっていないと考える」
従業員を、退職したあとまで、競業避止(きょうぎょうひし)業務でしばることはできない。例外的に、事前に競合禁止の誓約をとっていると、限定的に認められることはある。それでも、営業秘密をもらして元の会社に損害を与えたという事実の主張・立証ができないと、損害賠償が認められる可能性は小さい。
著者の名前は、「まえそ」と読むそうです。200頁ほどの新書版サイズの手頃な本です。バーでのやりとりを通じて、悩める社会の法律トラブル対策が書かれていて、気楽に読み通せました。
(2017年11月刊。1100円+税)

取調べのビデオ録画

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 牧野 茂 ・ 小池 振一郎 、 出版  成文堂
今市(いまいち)事件の判決には驚かされました。裁判員をふくむ裁判所が録画されたビデオ映像を見て、被疑者の様子から有罪の心証を得たというのです。
これは、とんでもないことです。いったい、何のために取調過程を録音・録画するのか・・・。それは取調過程の透明化、つまり、密室での取調べのとき、被疑者に対して不当な追及、違法なことが行われないように監視するためのものなのです。
ところが、実質証拠として機能してビデオ映像が使われ、有罪の証拠になりました。そうなると、調書を証拠採用して判断するという、いわば調書裁判を強化する方向へ、取調室を法廷としかねない方向に行ってしまいます。
ビデオ録画するときには、本来の目的からするならば、むしろ取調にあたっている捜査官の態度・表情こそ録画の対象とすべきです。せめて、取調室を横からビデオ録画して、被疑者がウソを言ってるのかどうかなど、見た人が考えられないようにしたほうがいいのです。
お隣の韓国では、ビデオ録画は実質証拠として利用することを禁止している。また、弁護士は取調での際に被疑者のそばに立ち会える。
ところが、日本では依然として弁護士立会は認められていません。
ビデオ録画が実質証拠に使われると、皮肉なことに、公判中心主義ではなく捜査取調べ中心主義になってしまう恐れがある。
先進国で弁護人立会権の保障がないのは日本だけ。有罪無罪の判断のためには、悪性格証拠は使わないようにとルール化されている。ビデオ映像をみたら錯覚はまちがいなく起きる。この影響を与える可能性を完全に払拭することはできないが、この危険性を減少させるためのものが、せめて横から操るという方法なのである。
なるほど、そうだったのかと思わず、うなってしましました。まさしくタイムリーな本です。
(2018年8月刊。2000円+税)

シンプルな勉強法

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 河野 玄斗 、 出版  KADOKAWA
いま、東大医学部5年生の著者が、昨年、司法試験に一発合格した、その体験記です。信じられない話ですが、読んでみると、なるほど、とうなづける点も多々ありました。
でも、とでも出来そうもないという違和感を抱いたところも少なくありません。
たとえば、著者は数学を楽しんでいたようです。まあ、そうでしょうね。数学が好きでなければ東大理Ⅲに合格できるはずもありません。
著者は、小学3年生のときに、公文式(くもんしき)で、数学の高校過程をすべて終了していたといいます。独学で、楽しい科目を学年のしばりがなくて好きなだけやれたので、高校3年まで進めたといいます。
ええっ、そんなこと、ありえない、私は、つい叫びそうになりました。
ただ、著者の勉強法はきわめて合理的で明快です。この点は、誰でも実践していいんじゃないかなと思いました。
たとえば、授業を受ける目的は、メリハリを押さえつつ、全体像を把握することにある。予習の時間は最小限にして、残りの時間は復習にまわしたほうがい。一度覚えたものは、なるべく早いうちに反復したほうが、復習時間を短縮できる。脳は、ある情報に何回も接すると、おっ、この情報はきっと重要なんだと思い込むので、反復すればするほど、長期記憶に定着する。
一度教科書を読んだとき、1章分を読み終えたら、もう1回、その章を初めから飛ばし読みするといい。このとき、30秒で、1つの章をおさらいする。1回目にじっくり読んでおけば、その直後だと30秒で全体像を把握できる。
著者は、医師と弁護士の資格をもった医療弁護士になりたいと思って司法試験を目ざしたとのこと、大いに期待します。がんばってください。残念な事件で途中辞任した米山・前新潟県知事も医師・弁護士でしたよね。ときどき、世の中にはそんな人が誕生するのですね。
まあ、それにしても、時給4万円になる将来が約束されているんだから、「なんで、みんな、そんなに勉強しないの?」と問いかけられても困惑します。だって、時給4万円もらえるからって、それを目ざした人生設計(職業選択)って、本当に考えられるものでしょうか・・・。
私には想像もつきません。そんな人が弁護士になってどんな人間関係を築いていくのか、いささかの不安を感じます。それでも大いに知的刺激を受けました。
私も必死で勉強して司法試験になんとか合格しましたが、その苦闘のあとを『小説・司法試験』(花伝社)にまとめています。この本を読んだ人に読み比べていただけたら幸いです。なにしろ、私の本はさっぱり売れず、大量の在庫をかかえて困っているのです。朝日新聞の一面下に広告も出しましたが、反応がちょっとよろしくありません。応援するつもりで私の本も買って読んでください。
(2018年9月刊。1400円+税)

弁護士、好きな仕事・経営のすすめ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 北 周士 、 出版  第一法規
分野を絞っても経営を成り立たせる手法。これがサブタイトルの本です。つまり、この本は弁護士が「好きな仕事」を仕事にしつつ、事務所の経営も十分していこうというコンセプトで書かれています。
ふだんの業務でそれなりに稼ぎ、余力で好きな活動をする。これが伝統的な日本の弁護士の一般的やり方だった。
うむむ、そうかな・・・。我が身を振り返ってみると、「ふだんの業務」も「好きな活動」も、「地域に根ざして、さまざまな法的トラブルの適正・妥当な解決に資する」ということにあり、この両者はあまり対立・矛盾するものではありません。そして、私の場合、その活動を通じて人間の営みとは何か、いったい人間とはどういう存在なのかを掘り下げて考えるところに喜びを見出していますので、「ふだんの業務」が苦になることは、あまりありません。
もちろん、依頼者とうまくいく場合だけではありませんので、ストレスを感じることも少なくないのですが、弁護士生活45年になった私にとって最大のストレスは、理不尽な裁判官の言動・判決です。ぺらぺら「難解な」議論を口にして、実は勇気がなく、長いものに巻かれろ式の裁判官ばかりで絶望的になります。いえ、それでも、たまにきちんと当事者の主張に耳を傾け、適正・妥当な解決に尽力する裁判官にあたることもあり、まだそんなに捨てたものじゃないかと思い直すのです。
本書は、法律事務所の経営に関する本でもある。せっかく弁護士になったのだから、「好きな仕事」で食べていくことを、もっと皆が目ざしたらよい。
ふむふむ、なるほど、そうも言えるのか。果たして、みんな「好きな仕事」をもっているのかな、それが問題じゃないかしらん・・・。
カルト脱会者を扱う弁護士のセキュリティ面の注意は参考になりました。
自転車通勤なので、家に帰るルートは毎日変える。尾行を避けるため、自転車で一方通行を逆走するとか・・・。事務所は、警察官のパトロールの多い地域とし、カメラ付きインターホン。ドアはすべてICカードによるオートロック。事務局は顔をきちんと確認し、お茶替えを口実に、ときに面談中の会議室に様子を見に来てもらう。依頼者を信用しつつも、言い分をうのみにせず、確実に裏をとることを心がける。
ただし、この弁護士について絶対にマネしたくないことがありました。それは勤務時間です。朝は9時半から10時半のあいだに出勤。これはフツーです。ところが、夜はなんと深夜0時か1時まで仕事をしていて、たまに夜の11時に帰路につくと、「今日は早い」と感じるとのこと。いやはや、こればかりは絶対にご免こうむります。
福祉関係を専門分野にしている弁護士は、固定費削減を努力しつつ、逆に人と関わることを大切にするため、旅費・交際費は惜しまないといいます。いやあ、お見事です。
クレプトマニアを専門としている弁護士は、インターネットによって全国の事件を受任し、その他の弁護士と共同受任して対応しているとのこと。うん、これって、いいですよね。みんなウィン、ウィンの関係になりますよね。そして、弁護士報酬は、旧報酬基準の上限を最低限に設定しているとのこと。それだけの労力を1件あたりにかけるので、当然だといいますが、私も、その心意気を買います。
弁護士4万人の時代です。やはり、それなりに専門性を打ち出す必要があります。いつまでも、「田舎の雑貨屋」です、何でも対応できます、という時代ではありません。もう「田舎の雑貨屋」なんて、どこにもありません。そこにあるのは、コンビニなんです。そんな時代に対応して工夫し、苦労するしかないように思います。そのためのヒントが満載(たくさんあるという意味)の本です。
(2017年10月刊。1600円+税)

ほんまにオレはアホやろか

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 水木 しげる 、 出版  新潮文庫
米子に行ったとき、足をのばして境港にある水木しげる記念館で買った文庫本です。
「ゲ・ゲ・ゲの鬼太郎」は、私の中学、高校生のころ、テレビでもやっていました。高校1年の文化祭のとき、紙粘土で大きな鬼太郎をつくったのを覚えています。
生い立ちから、兵隊にとられて南方の島へ行って片手をなくしてしまう話まで出てきます。
著者はラバウルでアメリカの飛行機が落した爆弾で腕を切断されてしまいました。マラリアにかかって、小屋のなかに20日間じっとしていたら、若さと生来の頑丈さで直った。便秘になっていたのを無理して木片で削るようにして掘り出した。
野戦病院にいるとき、土人と仲良くなった。土人たちの生活は精神的に豊かで充実していた。午前中に3時間ばかり畑仕事をするだけ。それだけで、自然の神々は腹を満たしてくれる。冷蔵庫に貯えておく必要なんかない。いるだけつくって、いるだけ食べればいいのだ。自然の神は、心まで豊かにしてくれる。
そして、戦後、著者が漫画家として成功したあと、その南の島に行き、前に世話になった土人たちと再会します。感動的な場面です。
土人たちは年齢なんか気にしない。生き物には、生きるか死んでいるかの2種類しかない。
「急ぐことは死につながり、ゆるやかに進むことは生を豊かにする」(アフリカのピグミーの言葉)
土人たちは、自然のリズムに従って生活しているから、こんなに楽しく生きている。この大地の中に、木の霊、草の霊、山の霊と、この踊りさえあれば、何もいらない、そんな感じだ。
土人たちは、ゆっくり働く。自然の法(のり)をこえないことをモットーにしているようだ。だから、朝、畑に行って、穴をほってペケペケ(糞)をして、埋めて、その日の食料をもって帰るだけ。
月の夜は、みんな寝そべって話をしている。だから、家族間、部族間のコミュニケーションもうまくいくらしく、あまりケンカはない。のびやかに暮らしている。
子どもたちも、こんなに笑っていいのかなと心配になるぐらい、のびやかに笑う。
いやあ、いい話ですね。今どきは「土人」なんて言ったらいけないと思うのですが、なにしろ40年前に刊行された本なのです。
(2010年9月刊。460円+税)

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