法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 司法

2円で刑務所、5億で執行猶予

カテゴリー:司法

著者   浜井 浩一 、 出版   光文社新書
 高松で開かれたシンポジウムで著者の話を聞きました。まことに明快な問題提起がなされ、聞いているうちに日頃の胸のもやもやがすっきり解消されていく思いでした。
 日本は、他人(ひと)は殺されないが、自分自身を殺す人の多い国である。日本では年間600人が殺人や傷害事件で殺害されている。この数字は年々、減少傾向にある。そして、ほかの先進国諸国に比べると、かなり低い。これに対して、日本の自殺者は年間3万人をこえている。
治安が悪化したと感じたり、厳罰化が望ましいと思っている人は同時に、若者が嫌いだという共通点がある。
 統計上の日本の治安には、自転車盗の動向が大きく影響している。暴力犯罪という視点からみると、日本は世界でもっとも安全な国である。
 日本で殺人が最も多かったのは、映画『3丁目の夕日』や『となりのトトロ』の部隊となった1950年代後半、昭和30年代前半である。昭和30年代は、ささいな理由での一家皆殺し事件が多かった。経済的に余裕がなく、社会全体にゆとりがなかった。日本において、家族殺は全体の4割を占める伝統的な殺人の形態であった。昔は良かったとは必ずしも言えないのですよね。 
 現代社会の方が教育に対する家庭内の関与は充実してきている。
 少年による殺人は減少し、非行にピークは14歳から16歳に上昇している。
60歳以上の高齢層においてのみ検挙人員が増加している。高齢者が犯罪を起こしやすく、また警察に検挙されやすいことを示している。
 1980年代には、万引きは少年の犯罪だった。しかし、2006年に高齢者の比率が30%をこえ、少年を上回った。今や、万引きは高齢者の犯罪といってよい。
 監視カメラは、駐車場での車上狙いなどの防止には一定の効果があっても、路上や公共交通機関などでの犯罪、そして暴力犯罪には、ほとんど効果が認められない。また、軍隊的な規律が非行を防止することもない。
 警察に検挙される日本人は200万人。そのうち受刑者となるのは3万人である。
 受刑者の4割が、窃盗・詐欺であり、そのなかには、被害額1000円以下の万引きや無銭飲食が多くふくまれている。
 一度負け組になると、条件がより悪化するため、刑務所を出所したあと再犯を繰り返し、累犯者として、さらに不利な扱いを受けることになる。
 今の日本社会に必要なのは、少額の無銭飲食や万引き犯が実刑にならないような、支援の仕組みである。
 私も、まったく同感です。そんな「犯罪」で刑務所に送って隔離するなんて、まさしく税金のムダづかいそのものです。それよりも、よほど福祉政策を充実させたほうが安上がりです。社会に余裕がなくなり、高齢や障害によって一般人と異なり言動をする人々を不気味な不審者として排除すれば、その人の居場所は刑務所しかない。刑務所には自由も快適さもないが、たらいまわしも、餓えも、身分差別もない。社会が思いやりと寛容さを失い、排他的になるほど、刑務所に社会的弱者といわれる人が集まることになる。刑務所は社会の思いやり度をはかるバロメーターである。
 受刑者は決して私たちとは異質なモンスターなんかではない。私たちだって、仕事を失ったり、家族・友人を失えば、同じような境遇になりうる。今の日本社会が人々を犯罪や刑務所へと追いやっているという現実を、自分自身の問題として考えることが必要なのだ。
 本当にそのとおりだと私も思います。わずか1000円前後の万引き、タクシーの無賃乗車、無銭飲食のために懲役1年とか2年の実刑判決が下されるというのを、私も何度となく体験しています。むなしさに胸がかきむしられます。これは社会全体で考えるべき問題です。刑務所に隔離しておけばいいというものではまったくありません。すっきり明快な問題提起の本ですので、ぜひご一読ください。
(2009年10月刊。760円+税)

想定外シナリオと危機管理

カテゴリー:司法

著者    久保利  英明  、 出版   商事法務
 企業法務の第一人者として名高い著者は、全農全国中央会や原発被害を受けた農家の代理人として東電との交渉にあたっているとのことです。
 著者は、本件は、東電対国民の事件であり、自分は生産者と消費者である国民の側に立つと宣言した。すなわち、福島原発事件は、東電が真面目にリスクと向きあい、時代の変化に応じたリスクマネジメントを採用していれば、防げたという意味で人災であり、東電の責任である。本件については、東電や原子力安全保安院には予見可能性も回避可能性も認められ、巨大津波の影響ではなく、さまざまな人災の集合として重大な注意義務違反が認められる。
 東電の想定は考えられないほど甘いものであり、それに対して運転許可を与えてきた保安院など政府の対応は国民の安全を軽視したものであった。東電も国も、最悪事態を想定し、そこで発生する過酷事故対策マニュアルを用意する義務を怠った。
福島第一原発だけで合計5000本もの高温の燃料棒が浸かっている。原子力発電とは、サイクルが完結していないものであり、それを安価、経済的と説明してきたことの説明責任も問われる。
謝罪するのは社長でなければならない。これがなされなければ何一つ始まらない。真摯な謝罪の意思を社長が表明したうえで、その後の会見は担当役員(総勢3人以内)で行うことを明示する。
 被害者への謝罪はできるだけ低い姿勢で、目線をすりあわせるコミュニケーションが必要である。説明は定性的でなく定量的に、具体的かつ論理的に、また平易に述べる。
 記者会見終了のタイミングは難しい。概ね1時間がすぎたころ、一瞬発言がとぎれたタイミングをすかさず、「それでは本日のところは、この程度とさせていただきます」とびしっと締め、出席者は全員が素早く起立して淡々と一礼し、特設した退場口から引き上げる。
 お詫びの礼は、長めに5秒。一斉にお辞儀をし、一斉に顔を起こす。服装もクールビズはやめ、ダークスーツで、前のボタンをかけ、白いYシャツに地味なネクタイをキッチリ締めておく。汗を拭いたり、眼鏡をずらしたりなどの動作はしない。カメラの前で絵になってしまうから。
 さすがは長らく企業法務を手がけてきた弁護士らしく実践的かつ説得力があります。東電だけではなく、一般に企業の不祥事対応としても役立つ書物だと思いながら読みました。
(2011年6月刊。1600円+税)

セカンド・チャンス

カテゴリー:司法

著者  セカンドチャンス 編    、 出版  新科学出版社 
 いい本です。読んでいて、心がじわんと温まってきました。だって、少年院を出て立派に自信を持って人生を歩いている人たちが、こんなにいるって。うれしいじゃありませんか。
 立ち直った元犯罪者と、まだ現役の犯罪者の話すことの違いは、3点にある。
第1. 本物の私は磨けば光るダイヤモンドの原石であるという発見をしていること。
第2. 自らの運命を支配できるという楽観主義に立っていること。
第3. 社会、とりわけ次の世代にお返しをしたい、貢献したいという気持ちをもっていること。
これって、大切なことですよね。どうせ自分はダメな存在なんだと、つくづく自らを卑下して、足を一歩前へ踏み出すことのできない若者がなんと多いことでしょう・・・。
 少年院を出て通信制の高校を卒業。そして社会人推薦で大学の夜間部に入学した人がいます。そして、大学では犯罪社会学の授業を受けたのです。少年院を出て、今は牧師になっている人がいる。少年院を出て、ブラジルに行って新聞記者になった人がいる。少年院を出て、ダルクの職員をしている人がいる。
少年院で働いていた人が代表をしているのがセカンドチャンスなんだ。すごいことですね。こんなネットワークが日本全国に広がるといいですね。
 元レディース総長だった女性の体験談も壮絶です。12歳でセックスした。タバコを吸った。13歳で万引した。シンナーを吸った。15歳の総長。雑誌に取り上げられて、絶好調だった。少年院を出てもとの仲間に会ったとき、リンチされた。
 「みんな、お前のことをねたんでいたんだよ」
「てめーだけ雑誌に取りあげられて、さぞかし、いい気分だっただろう」
 そして今、34歳。4人の子の母親。同じく13歳でセックスし、風俗嬢になり、少年院を出たあと大検をとって2年間のアメリカ生活。そして今は大学生という女性も登場します。
 周りに認められたいという思いをセックスでなんとか埋めようとした。身体を求められているということは自分が必要とされているということだって思い、「13歳」というブランドを武器に、どんどん自分の身体を大人に委ねていった。
 お金を手にするたびに、自分にはこれだけの価値があるって、どこか満たされた気持ちになっていた。これって錯覚なんですよね。それに気がつくまでに時間がかかることとは思いますが・・・・。
 少年院を出た16~17%が少年院に再入し、10年以内に2割弱が刑務所に入っている。このことは少年院で身につけたことが良好な社会生活を保障するわけではないことを意味している。非行少年が社会でやり直すことの難しさを示している。しかし、逆に8割は、それなりに社会で生活していることも見落としてはならない。これは、すごいこと。
立ち直った人のストーリーには共通点が3つある。
 一つは、生育過程で家庭あるいは学校から十分な保護や支援を受けていないことが非行の遠因となっている。ある意味で過酷な運命の被害者だったのが、ある時点で自分の人生の主人公となっている。
 二つ目に、人との関係性、あるいは運命といった大きな流れに自分が生かされていることの気付きと感謝がある。
 三つ目に、自分にできることで社会に役立ちたい。非行から立ち直った経験を生かして、立ち直り途上にある後輩を助けることが自分の努めであり、もっとも自信を持って自分にできることだと考えていること。
 このようなセカンドチャンスです。これからも元気でがんばってくださいね。応援しています。
(2011年1月刊。1500円+税)

証拠改竄

カテゴリー:司法

著者    朝日新聞取材班  、 出版   朝日新聞出版
 検察官が被告人に有利な重要証拠を隠すというのは古くからありました。松川事件の諏訪メモが有名です。しかし、被告人を不利にするため、証拠をいじって不利なものにする(改ざんする)というのは、初めて聞いたとき、まさかそこまで・・・と信じられませんでした。弁護士生活38年になる私自身もいつのまにか法曹一家意識に毒されてしまっていたのですね。大いに反省させられました。警察も検察も我が身の保身のためなら平気で証拠をつくりかえてしまう。これは古今東西、どこにでもある、ありふれた話なのです。そんな権力の不正とたたかうために私たち弁護士が憲法上の存在として位置づけられているわけなのです。申し訳ありませんが、久しぶりに弁護士の責務の原点にまで思いを至らせました。
 それにしても大阪地検の特捜部の対応はお粗末でしたね。前田検事の証拠改ざんを容認したかどうかはともかくとして(起訴された特捜部長は刑事責任を争っています)、それを聞知した時点で公表し、被告人に対して謝罪すべきは当然でしょう。その時点までに、特捜部内で大激論になったとされていますので、そのとき臭いものに蓋をしてしまった上層部の責任は重大ではないでしょうか。
 本件の発覚する端著はご多聞にもれず、内部告発でした。やっぱり、これだけひどいことが起きると、闇から闇に始末するのは許せないと思う人が出てくるものなのですよね。それにしてもフロッピーディスクで改ざんの立証が出来てよかったですね。客観的な裏付けがないと、問題があいまいにされてしまう危険が大いにありますからね・・・。
 検察用語でフタをするというのは、対多者に都合の悪い調書をつくっておいて、裏切ったら暴露するぞ、別件で逮捕するぞと脅しの道具に使うこと。なーるほど、それも駆け引きの道具なのですね。
 大阪地検特捜部の主任検事は、検事や検察事務官からの捜査報告書や供述調書など、担当する事件すべての証拠に目を通す。特捜部長よりも事件の構図を詳しく把握し、権限はなくても捜査を実質的に指摘していると言える。
 フォレンジック調査。コンピュータに関する犯罪があったとき、電子的記録を分析し、データ上で起きたことの証拠を集める調査技術のこと。不正アクセスの痕跡を探ったり、破壊・消去されたデータを復元したりすることから、電子記録に対する鑑識作業とも言われる。費用は1件あたり数十万円から100万円ほど。本件では20万円かかった。
 事件の容疑者や参考人から重要な供述を引き出すことを「割る」と検察では呼ぶ。それに長けた検事は「割り屋」と呼ばれる。
 関西検察。大阪高検が管轄する近畿2府4県を中心に、大阪高検と各地検を軸に、異動をくり返してキャリアを積んでいく検事たちが築く人的ネットワークのことをさす。関西検察に対して、関東検察という言い方はしない。関西検察の幹部たちは、大阪地検特捜部に配属された経験をもつ検事が多い。特捜部は関西検察にとって、いわば母胎のような組織だ。
 検察の底知れぬ腐敗が暴かれた事件を追った迫真の本です。
(2011年3月刊。1400円+税)

刑務所のいま

カテゴリー:司法

著者   日弁連   、 出版   ぎょうせい
 受刑者の処遇と更生について、日弁連拘禁制度改革実現本部がまとめた分かりやすい170頁余の冊子です。
 日本の刑務所のなかが実際にどのように運営されているのか、それは諸外国とどこが違うのか、コンパクトによくまとめられています。
刑務所の収容数のピークは2006年で8万1000人。2009年は少し減って7万5000人。
無期懲役は、今では運営上、死ぬまで刑務所を出られない終身刑化しつつある。
 日本は刑務所職員の1人あたり4.5人の受刑者をかかえている。これは、過剰収容のアメリカでさえ1人あたり3人、ドイツやフランスでは2人、イギリスでは1.5人というのに比べて、明らかに多すぎる。日本の刑務所の労働条件は、きわめて過酷である。
 今の世の中、厳罰化を求める声がかまびすしいのですが、収容所を増やせば刑務所の職員も増やさなくてはいけません。ところが、もう一方で公務員を減らせという圧力もかかっています。これでは、まともな矯正教育を保障することは出来ません。
 出所後5年以内の再犯率は50%。受刑者の4分の1を占める薬物事犯(女性では40%をこえる)の再犯率は年々ふえている。彼らは薬物依存症という病気にかかっている。
3割の再犯者によって6割の犯罪がなされている現実がある。だから、犯罪対策としては、とりわけ再犯防止対策が重要である。
 刑務所内で収容者が働いても、その賃金は月4200円が平均。この金額は日給ではなく、あくまで月給である。異常に低いものです。ですから、刑務所を出るときの所持金は平均4万3000円でしかない。
 アメリカの刑務所の収容者は230万人。ところが、20年前の1992年には130万人だったので、20年足らずで受刑者は2倍になったわけである。これだけ多いと、アメリカでは収容者を対象としたビジネスが成り立っているというのも、よく理解できます。
 収容者の高齢化がすすんでいる。60歳台では6年前の10%未満が12%超へ、70歳台では2%強が3%強へと、受刑者に占める割合も実人員も増えている。
高齢者が増えると、医療費もかさむ。全国の刑務所の医療関連予算は、2005年に30億円だったのが、2009年度には49億円になった。
刑務所も拘置所も収容者の高齢化には頭を悩ませており、専門の介護職が必要だと指摘されているようです。やはり刑務所の実情をふまえた量刑が必要です。市民が刑務所を訪問できるようになっているそうです。もっと交流する必要がありますよね。
(2011年5月刊。1714円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.