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カテゴリー: 司法

私の五つの仕事術

カテゴリー:司法

著者   谷原 誠 、 出版   中経出版
 「同業の弁護士から『どうしてそんなに仕事ができるの』と言われる私の5つの仕事術」というのが、この本の正しいタイトルです。まだ43歳という若い弁護士ですが、既に25冊もの著書があるそうです。たいしたものです。
自分の決めた目標をやり抜くには、何かを犠牲にしなければいけない。覚悟を決め、捨てるべきものは捨てなければいけない。
 私の場合には、本を読むためにテレビは見ないことに決めました。また、二次会もつきあわないことにしています。これで、自分の時間がかなりつくれます。たくさんの新聞を読んで、日本と世界で起きていることの意味を知りたいので、スポーツ・芸能欄は素通りしてまったく読みません。
 たくさんの仕事を素早くするには、自分の手元にある仕事は、すぐに相手に返してしまうことである。
 自分の器を広げれば、相手が期待する以上の仕事をすることだ。上司に仕事を頼まれたときには付加価値をつけて、上司の期待を上回らなければいけない。これを続けていくと、まわりから評価され、自分の成長にもつながっていく。
仕事でイライラしないためには、相手に期待しすぎないこと。感情をコントロールする方法を身につけると、コミュニケージョンでイライラすることがなくなり、気分よく仕事に専念することができ、高いパフォーマンスを維持できる。
 弁護士の仕事は同情することではなく、クライアント(依頼者)の利益を守ること。だから第三者の視点を常にもち続けることが大切である。クライアントの話を聞くとき、どっぷりと入りこまない。できるだけ依頼者と同じレベルの感情になって感情に支配されてしまわないように努める。
できるだけ先手を打つ必要がある。期限が過ぎて提出された99%の出来の報告書より、期限前に提出された90%の出来の報告書のほうが評価される。
 仕事を効率的に、確実に進める最大のポイントは、目の前の仕事にとにかく着手することだ。
私も、ちょっとした細かい仕事を片付けて、モチベーションが高まったところで、重量級の本格的な仕事に取りかかるといった工夫をしています。そして、机の上は、いつもすっきりした状態にしておきます。今、何をやるべきか、いつも明確にしておくべきです。こうやって、私もたくさんの本を書いてきました。
私の日頃の考えと共通するところが多かったので、うんうん、そうだよねとうなずきながら読みすすめていきました。
(2012年2月刊。1400円+税)

弁護士探偵物語

カテゴリー:司法

著者   法坂 一広 、 出版   宝島社
 ミステリー大賞受賞作品です。賞金はなんと1200万円。すごーい。私が、1200万円はすごいすごいと言ってまわっていると、なんだモノカキって、お金欲しさでやっていたんですか・・・と皮肉を言ってのけた後輩の弁護士がいました。いえ、別に、あの、この、1200万円という大金が欲しくて言っているんじゃなくて、いや、やっぱり1200万円って欲しいです、とか、しどろもどろで、弁解にならない弁明をしてしまいました。
 福岡の若手弁護士が自分と同じような福岡の若手弁護士を主人公に仕立て上げて展開するミステリー小説です。次々に殺人事件が起き、それを弁護士が決して見事とは言えない手法で解き明かしていきます。年齢相応の良識というべきか、大人の常識を十二分に身につけ過ぎた私にはとても書けない文体で物語は進行していきます。はて、これはアメリカの探偵物語で読んだ気がするよな、と思わせるセリフと表現が満載です。
 足の指先の感覚なんて、懲戒弁護士が分不相応なメルセデスを買って頭金を払ったあとの口座残高のように、きれいさっぱり消え去ってしまった。
 この表現は、まるで日本人離れしていますよね。日本人は欧米の人と違って、超高級車のメルセデスベンツをベンツとは呼びますが、一般にメルセデスと呼ぶことはありません。ところが、欧米ではメルセデスと呼ぶのだそうです。それにしても、きれいさっぱり消え去る例証として、ベンツを買ったあとの口座残高というのは、分かったようで分からない話です。
以下のような表現には弁護士として大いに共感を覚えました。
 裁判官や検事は、事件を数多く処理できれば許され、内容は問わない。その一方で、裁判員裁判制度が導入されて分かりやすい裁判をしなければならないなど言われ、弁護士は法廷で書面を読みあげるだけでは許されなくなりつつあるらしい。どうにも不公平だ。
ところが、次のような警察官のセリフもあります。うむむ、そう言われても、立場が違うんですが・・・。
 弁護士なんて、偉そうに特権階級にあぐらをかいているだけやろうが。お前らがあぐらをかいとる、その下の秩序を命がけで守っとるのは誰や。人権だか何だか知らんが、俺たち警察が命がけで守っとる秩序を、お前らは、金や自己満足のために壊しとるだけや。
 ミステリー大賞をもらうと、この本にある解説によるれば、受賞したあと選考委員や編集者のアドバイスによって徹底した書き直しがあるそうです。うむむ、これはすごい。大変そうです。
 まあ、それはともかくとして、394作のなかで見事に大賞を仕留めた「おそるべき強運とデビューのあとの変貌」に、私も大いに期待しています。
(2012年1月刊。1400円+税)

日曜日の歴史学

カテゴリー:司法

著者  山本 博文  、 出版  東京堂出版 
 江戸時代について、たくさんの本を書いてきた著者の本を読むたびに目が開かれる思いです。伊能忠敬の目的が日本全国の地図づくりにあったのではなく、もっと大きな、地球の大きさを計算することだったというのを初めて知りました。しかも、歩いて算出した地球の外周(4万キロ近く)は、139キロの誤差しかなかったというのです。恐るべき精度ですね。腰を抜かしそうになりました。
家康も秀吉から豊臣の姓と羽柴の名字を与えられた。後に成立した江戸幕府は家康のこのような屈辱的な歴史を消そうとした。
 家康は秀吉に対して尺取虫のように平身低頭していたのが現実である。
家康が羽柴武蔵大納言と署名していたことがあるなんて、今の私たちからすると信じられませんよね。
嘆願すると住民は「恐れながら」と幕府を立てながら申し出た。しかし、それは武士が威張っていて、百姓が卑屈になっていたというものではなく、あくまで嘆願書の形式にすぎなかった。実際には、支配階級の武士といえども、被支配層の理解と支持なくして、自らの支配が成り立たないことを十分に承知していた。
  有名な桜田門外の辺について、彦根藩は、君主が傷つけられたというだけで、藩主の井伊直弼の首を取られたことを認めなかった。藩の面子があったからだ。そのため、この事件は殺人事件ではなく、幕府高官を集団で傷つけたという障害事件として処理された。ええーっ、ウソでしょ、と叫びたくなりました。ここまでホンネとたてまえを使いわけるのですね。まあ、これって、今でもありますね。
足軽というのは、最下層の武士かと思っていました。ところが、最近の研究では、足軽は百姓の出身者によって占められ、世襲されていない。つまり、足軽は士格ではあっても、武士とは言いがたい身分だった。
 私よりひとまわり若い著者ですが、さすがは東大史料編纂所教授だけあって、いつも史料を駆使した内容で、面白いうえに説得力があります。
(2011年11月刊。1500円+税)

修復的司法とは何か

カテゴリー:司法

著者   ハワード・ゼア 、 出版   新泉社
 わずか1000円ほどの万引や無銭飲食によって懲役2年という判決をもらうことがたびたびあります。そうすると、司法の役割って何なのだろうかと考えさせられてしまいます。そんなとき、いい本にめぐりあいました。
修復的司法理論では、真に確証するものは、被害者の損害とニーズを認めることである、同時に、加害者が責任を引き受け、悪を健全化し、行為を引き起こした原因に向きあうように促す努力も積極的に行われなければならないと主張する。修復的司法は、被害者と加害者の双方を肯定する可能性をもっており、彼らの人生ストーリーを変容させる手助けをする。
 多くの被害者は激しい怒りの感情を体験する。怒りの鉾先は、犯罪を起こした人間、それを防いでくれなかった人たち、そして、それを許し、あるいはそれを引き起こしさえした神に向けられる。
 被害者は自己の感情を表現し、その感情の正当性を認めてもらう機会が必要になる。怒りや恐れや痛みの感情である。
 被害者の観点から見て、もっとも深刻なのは被害者は放置され、彼らのニーズが満たされないとき、その体験を背後に追いやることは難しいと悟る。
加害者は、自尊心と人格的自立心の欠如からトラブルに巻き込まれた。そして、刑務所での体験は、ますます自尊心と自立心を奪い取り、合法的な方法では自尊心と自立心を手に入れられない状態に置かれてしまう。刑務所の中で、対人関係の歪んだ理念を身につける。他人を支配することが目標となる。他人に配慮し、面倒をみることは弱さであるとみなされ、弱いものは他人の餌食になることを意味する。刑務所の中ではごまかしは普通のことであるということを学ぶ。受刑者はだますことを覚えてしまう。
 貧しく、社会の底辺に生き、人生は刑務所のようなものだと信じている人間にとって、刑務所の脅威は犯罪の抑止にはならない。こうした状況の人にとって、拘禁刑の判決は、監禁の形態をAからBへただ交換するにすぎない。
人々は自立心のように根本的なものを剥奪されると、再びそれを主張しようと模索しはじめる。自立の欲求を満たし、社会による「犠牲者」だという意識に対処する一つの方法は、自らが支配する被害者を別に見つけることである。刑務所で起こる同性間のレイプは、まさにそのような現象である。
 多くの犯罪は、歪んだ形での自分の力や価値の主張であり、不器用な自己顕示や自己表現なのである。
中・上流階級の家庭で育った人のほとんどは、自分の運命を司る主人は基本的に自分であると信じて育つ。自分は運命を決定づけるような真の選択権や能力を何かしら持っていると信じている。だが、貧しい人の多くは、このことを信じていない。
 死刑に関する研究において、死刑が犯罪を抑制する効果があるという証拠は見つかっていない。刑罰を司法の焦点とすべきではない。
 司法を応報と規定するのではなく、修復と規定したい。事態を健全化するために何ができるかを考えるべきである。
司法のあり方と役割について、根本的なところでじっくり考えさせられる良書です。
(2003年6月刊。2800円+税)
 日曜日、庭の手入れに精を出しました。夕方6時まで明るく、ずいぶん陽が長くなってきました。チューリップが地上から芽を出しています。梅の花も小さなつぼみをつけています。黄水仙そしてピンクのアネモネが、それぞれ一つずつ咲いています。告げ花のようです。
 春のきざしを浴びながら、ジェーマンアイリスの植えかえをしました。

勾留120日

カテゴリー:司法

著者   大坪 弘道 、 出版   文芸春秋
 大阪地検特捜部で証拠改ざん事件が起きて、特捜部長が逮捕されました。この本は、その元特捜部長が書いたものです。無実を訴え、最高検察庁および古巣の検察庁を激しく糾弾しています。
 検察官による証拠改ざんが前代未聞と言えるものなのかどうか、実は疑問があります。警察と検察による証拠隠しは弁護士にとって日常茶飯事、いつものことという感覚です。被告人に有利な重要証拠を検察官が手にしていても隠して出してこないというのは、これまで無数といってよいほどありました。今回の証拠改ざんは、このような証拠隠しの延長線上にあるものではなかったでしょうか。
 それはともかくとして、取り調べる側が取り調べを受け側に転落したことの苦しさ、悔しさが本書を貫いています。同時に、逮捕・勾留された身の辛さを初めて実感したことも正直に書かれています。
 大阪拘置所で過ごした120日間、著者は3畳の独房で自らの胸に去来する事柄を日々ノートに書きつづったのでした。ちなみに、著者の逮捕罪名は、犯人隠避(いんぴ)容疑です。
取り調べのはじめに有無を言わせない形で相手の弱点をせめて萎縮させ、一気に有利な立場に立ち、その動揺に乗じて自白をとる。これは取り調べのテクニックの一つ。ただし、弱い相手にだけ通用する取り調べ方法である。
 今回の逮捕はマスコミの風圧に検察が扇動されたようなものであり、結果的にマスコミに殺された。著者はこのように自分の気持ちを吐露しています。
 ホワイトカラーは、勾留生活に入るとき下着を脱いで裸にされたうえで屈辱的な手続を受けるが、これによって、それまでの地位から転落した現実に直面させられ、絶望感と苦痛の心理状態に陥る。
拘束される立場に置かれることによって、初めて拘束させることの厳しさと辛さをこの身をもって思い知った。自分がかつてここに送り込んだ多くの人たちも、今の自分同様の苦しみの中にあったことを思った。
 知らず知らずの間に多くの罪を重ねてきたという罪悪感を心の中で感じるようになった。司法というものは恐い。これが偽らざる気持ちであった。
 あれほど、熱い気持ちを抱き続けてきた検察という組織は、これまでの著者の努力といささかの貢献を一顧だにせず、内部調査と称して完全な被疑者扱いをし、無理筋の容疑で逮捕するに至った。
 そして、これまで親しい関係にあった検察官たちは、ひとたび組織が「大坪を切り捨てて、逮捕する」と決定すると、忠実に「一捜査官」になり切った。
 27年前、若い血をたぎらせ、検察は国民の最期の拠り所であると憧れて任官した検察の組織が、かくも冷酷非情で脆弱な組織であったことを思い知らされた。
「私が知っているすべての秘密をバラして、検察をがたがたにしてやる」と著者は大声で怒鳴った。
 この本には、その「すべての秘密」が何かは明らかにされていません。例の裏金のことなのでしょうか、それとも他にも検察がガタガタになるような秘密があるのでしょうか。
 司法というものは、まことに恐ろしい権力である。人を極限に追い詰める権力である。人の生身を切りきざむ物理的な権力である。
 いつしか自分自身が権力の魔力に取りつかれていたのかもしれない。
 若いころは、おののきの気持ちをもって恐る恐るその権力を行使していたのが、いつのまにかその権力行使に慣れ、習熟するなかで権力の側からしか相手を見なくなっていたのかもしれない。
 まことに権力というのは恐ろしいものだと実感させる本でした。現在、無罪を主張して公判中です。判決はどうなるのでしょうか・・・?
(2011年12月刊。1400円+税)

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