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カテゴリー: 人間

決定版・受験は母親が9割

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 佐藤 亮子 、 出版  朝日新書
三男一女の子どもたち全員を最難関の東大理Ⅲ(医学部)に合格させた佐藤ママの最新刊です。といっても、実は先の単行本を増補・改訂した新書なので、とても読みやすくなっています。なにより先の単行本との違いは、3兄弟が東大理Ⅲに合格だったのが、下の妹まで東大理Ⅲに合格して4人になったこと、そして、入試制度が変わっても入試合格に必要なことは変わらないことが強調されています。
子育ては、30年以上先を生きて活躍する人間をつくっていくことなのに、親は意外に祖父母の考え方に影響を受けて、数十年前の考えにとらわれていることが多い。
いつの時代でも、どのような制度に下でも、大切なのは基礎学力だ。
今後の入試は読解力の勝負だ。本や新聞を読む生徒は「読解力」の点数が平均よりも高い。文章を頭の中でいかに映像化できるかが、読解力の強化につながり、これからの入試の要になる。
子どもが小学3年生になったら、新聞記事を1日15分だけ読むことをすすめる。新聞を毎日読んでいると、活字に慣れてきて、文章を読むのが少しずつ速くなる。
国語の読解力を身につけることが、英語力の向上にもつながる。親が、まず家の中に活字の文化をつくる。かつてのテレビ育児、今のスマホ育児をやめよう。佐藤家はテレビは見ない。2階にあるテレビを見るときは1時間だけ。
家庭で親が目を話すことなく手助けしてあげて、初めて、子どもは勉強する習慣を身につけることができる。
4人の子には虫歯が一本もない。母親が小学6年生間で、ひとりに20分ずつかけて毎日歯磨きした。また、3ヶ月に1回は歯医者に行き、チェックしてもらい、帰りに「ごほうび」として、ファストフードの店に行った。だから、子どもたちは歯医者を怖がらないどころか、みな大好きだった。
佐藤家の子どもたちが勉強するのは、みな1階のリビング。子ども部屋はない。3人の男兄弟はリビングの隣の和室で寝る。
子どもたちは、一切、比較しない。全員、完全に平等に扱う。お兄ちゃんだから…ということはまったくない。
ほめて伸ばすというけれど、あまり大げさにほめすぎるのもよくない。ほめなかったときに、子どもが落ちこんでしまう。どんなときにも母は感情的にならず、何事にも動じないことが大切。点数が良かったときも悪かったときも、テンションを変えずに子どもたちに接するのがよい。
子どもたちが勉強しているあいだは母は寝ないで起きている。小学生のころは夜0時半まで。中学生になったら、子どもがやりたい限り、やらせる。そして、母親は午前4時半に起床する。午前6時には子どもたちは出発し、1時間40分かけて神戸の「灘」へ通う。
佐藤家には家庭用のコピー機があり、大活躍した。
100頁の英単語帳なら、半分の51頁から始めさせる。
東大の英語は経験準一級合格レベルなので、それに挑戦し、みな合格した。
日本史はマンガで勉強する。服装までイメージできる。
佐藤ママの勉強法は見事なまでに合理的です。それでも、1歳半で公文式を始め、国語と算数を学ぶというのには、さすがに私には抵抗があります。うちの子は小学1年生に入るとき、自分の手の指を顔にあてて一桁の足し算をしていましたし、自分の名前をひらがなで書けるくらいでした。まあ、それでもなんとかなりました。とはいっても、子どもを学校に楽しく通わせたいと願う親にぴったりの本だと思います。佐藤ママの愛情の深さと精神力、そして計画どおりに遂行できる身体のつよさにも感服します。
佐藤ママの夫君(弁護士)から贈呈していただきました。
(2020年2月刊。810円+税)

最期の言葉の村へ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ドン・クリック 、 出版  原書房
パプアニューギアの奥地に入り込んだアメリカ生まれのスウェーデン人の人類学者によるルポタージュです。
パプアニューギニアは、世界のどの国よりも多くの言語を有している。カリフォルニア州くらいの面積に800万人あまりが住み、そこには1000以上の異なる言語を話す人々がいる。それは、方言とか変種というのではなく、まったく別の言語だ。その言語の多くは、たいてい500人ほどしか話さない。
1985年以来、パプアニューギニアの奥地の村ガプンにのべ3年間ほど滞在した。村人は、白人である人類学者を幽霊だと思っていた。
1942年、日本軍はパプアニューギニアにも侵攻して、いくつもの基地をつくった。
ガプンのコトバであるタヤップ語を話す人は、多いときで150人ほどだった。いまやトク・ピシンはパプアニューギニアで400万人が話している。共通語になっている。
タヤップ語では、日本語と同じく「アール」と「エル」を区別せず、どちらの発音でも通じる。
ガプンでの生活にこの人類学者が順応するのは難しかった。常にものを与えなければならなかった。性生活は欠如した。ガプンの女性は死者とみなされた人類学者を誘うこともなかった。蚊に悩まされ、泥も大変だった。そして、現地の食べ物を食べるのは、きわめて困難だった。ゆでたツカツクリ(鳥)の卵。卵といっても、ヒナの状態になっているもの。これを現地の少女は目を輝かせて食べる。また、サゴゾウムシの幼虫を生きたまま、おやつとして食べる。ゆでても食べる。ナッツのような味がして、バター風味だ。カブトムシの幼虫も食べる。
現在、言語は前例のないスピードで消滅している。言語学者は、世界の6000の言語のうち、90%が絶滅の危機にさらされていると推測している。ひとつの言語が消滅するとき、独特で、繊細で、複雑で、昔からあるものが永遠に失われてしまう。
この人類学者はマラリアに5回、デング熱に2回かかった。何度も熱帯潰瘍にもかかった。そんな著者が、なんとかタヤップ語の文法を習得したのでした。
タヤップ語を話すガプンの人々は、決して手つかずの未開人ではない。そして辺ぴな奥地に住むすべての人々は、植民地主義や資本主義的搾取によって、ひどい扱いを受けている。その結果もたらされたのは、幸福とはほど遠い。
著者は大金をもっているという噂が流れて若者チンピラ5人組に襲われたのでした。
アマゾンの奥地と同じように、現代文明との接触を断って生活している人々がいるんですね…。世界は広くて、深いことをちょっぴり実感させてくれた本です。
(2020年1月刊。2700円+税)

みみずくは黄昏に飛びたつ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 村上 春樹・川上 未映子 、 出版  新潮文庫
川上未映子が村上春樹にインタビューしたのでした。村上春樹は、私と同じ団塊世代の人間です。ノーベル文学賞に何度も名前が登場しましたが、もうダメなんでしょうね…。
私は、実は、村上春樹の小説はほとんど読んだことがありません。食わず嫌いの典型です。
「マジックタッチ」がないと、お金をとって人に読ませる文章は書けない。大事なのは「マジックタッチ」で、これがないと作家にはなれない。
ええっ、「マジックタッチ」って、一体何なの…。
事実としては何ひとつ足したり引いたりしていない。ただ、その人のボイスを、より他者と共鳴しやすいボイスに変えているだけ。そうすることによって、その人の伝えたいリアリティがよりリアルになる。
最初にまず、ひととおり書いておいて、それを何度も何度も書き直して、磨いていって、ほとんど、このまま永遠に手を入れ続けるんじゃないかと心配になるくらい手を入れていくうちに、だんだん自分のリズムというか、うまく響きあうボイスになっていく。目よりは主として耳をつかって書き直していく。
私も似たような感じで書いています。何回も何回も書き直しています。
自分が納得いくまで時間をかけて書き直し、そこで初めて活字になる。
本を好きになるっていうことは教えられない。好きになりなさいと強制することもできない。すべての偶然が一致して、本と出会わなければ、本の世界を熱烈に求めていく魂でなければ、書きつづけるというところには行かない。
村上春樹は一度も病気したことがない。入院したことがないし、寝込んだこともない。風邪をひくのは4年か5年に1回くらい。そして、フルマラソンを毎年ひとつは走っている。
私も46年間、入院したことありませんし、仕事を休んだこともありません。少し寒気がしたなと思ったときには、卵酒をつくって飲んで、いつもより早く寝ます。すると、だいたい5日でフツーに戻ります。マラソンしない代わりに、週1回、30分間で1キロ、泳ぎます。これが健康・疲労のバロメーターです。無理しないこと、強すぎるストレスを自分にかけないことにしています。
村上春樹は手を使って文章を書くことによって物を考える人間だ。私は、原稿は完全に手書きです。赤川次郎もそうだったと思うのですが、村上春樹はパソコンなのでしょうね…。
小説になるには、半年から1年、1年から2年という歳月がどうしても必要になってくる。
村上春樹は1日に10枚は書く。何はともあれ、10枚は書く。長編小説は、ワンテーマでは絶対にかけない。出だしは少なくとも三つ。三つあると、三角測量みたいな感じで、立体的に進めていける。
小説は馬鹿でも書けないし、賢(かしこ)すぎても書けない。その兼ねあいが難しい。
長編小説の最終には、ポジティブなものを残しておかないとダメだと思う。もし、それが悲劇的なエンディングであったとしても、それは次の段階にしっかりつながっていくものでなければならない。長編小説は、書くのも大変だけど、読むのだってすごい作業だ。なので、そのすごい作業を終えた人に対する、ある種の報酬というものがどうしても必要になってくる。
これには、私もまったく同感です。やっぱり読者としては最後には、何か「救い」を求めたいです。疲れたまま、突き放されては恨みが残ってしまいます。
何もかも忘れて神経を文章に集中していると、厚い雲間から太陽の光がこぼれるみたいな感じで、自分の意識の情景がさっと俯瞰できる瞬間がある。
チャンドラーは、「私にとって眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい」と書いた。こんな、はっとするような比喩を書くことが作家に求められる。
さすがに村上春樹って、いろんなことを考え、工夫して書いていることがよく分かるインタビューです。
(2019年12月刊。750円+税)

寅さんの人生語録(改)

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山田 洋次、朝間 義隆 、 出版  PHP文庫
映画『男はつらいよ50、お帰り寅さん』をみました。元気一杯の寅さんに再び映画館の大スクリーンで会うことが出来て、思わず涙があふれてきました。
初めて寅さんに会ったのは1969年夏、大学3年のときのことです。その後、司法試験の勉強の合い間にも頭を休めに新宿までみに行きました。そして、結婚して、子どもたちが一緒に行けるようになると、正月休みの恒例でした。
寅さんが映画のなかで語ったセリフを紹介した本です。人生って、いったい何なのか、よくよく考え抜かれた珠玉の言葉が並んでいます。さすが山田洋次監督です。単なる喜劇映画ではないことを改めて実感させてくれます。
といっても、残念ながら私の周囲の20代くらいの若い人には映画館はもちろんのこと、テレビでも寅さんの映画を一度もみたことがないという人ばかりなので、とても残念です。
寅さんが隣のタコ社長の営む印刷工場に働く若者たちに「労働者諸君」と呼びかけ、笑いが起きます。このセリフは山田洋次監督の脚本にはなかった。撮影現場で、渥美清がふと口にしたアドリブである。
森川さん(おいちゃん)が「馬鹿だね」も同じくアドリブが脚本にとり入れられた。
御前様(笠智衆)が、寅さんの後姿を眺めながら「困った」と熊本なまりでつぶやくのもアドリブ。名優は、脚本家が及びもつかないような素敵なセリフを現場で吐くものだ・・・。
寅さんのタンカバイの文句も、渥美清が少年時代に実際に大道で商売をしている香具師(やし)から聞いていたのを思い出してもらってセリフにしたもの。
「ほら、いい女がいたとするだろう。なあ?男がそれを見て、ああ、いい女だなあ、この女を俺は、大事にしてえーそう思うだろう、それが愛っていうもんじゃねえか」(『柴又より愛をこめて』)
「秀才よ、法律の勉強してるの」
「へーえ、悪いことしよってのか?」(『寅次郎恋愛塾』)
「大学へ行くのは何のためかな。何のために勉強すんかな」
「ほら、人間、長いあいだ生きてりゃ色んなことにぶつかるだろう、な。そんなときに、俺みたいに勉強してない奴は、この振ったサイコロで出た目で決めるとか、そのときの気分で決めるよりしょうがないんだ、な。ところが、勉強した奴は、自分の頭でキチンと筋道を立てて、はて、こういう時はどうしたらいいかなと考えることができるんだ。だから、みんな大学へ行くんじゃないか、だろう?」(『寅次郎サラダ記念日』)
「人間は、何のために生きてんのかな」
「うーん、何て言うかな、ほら、ああ、生まれて来てよかったなって思うことが何べんかあるじゃない、ねえ。そのために人間、生きてんじゃないのか」(『寅次郎物語』)
50話もある、本当にいい映画シリーズをありがとうございます。
(2019年12月刊。740円+税)

免疫力を強くする

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  宮坂 昌之 、 出版  講談社ブルーバックス
 病原体の強さと免疫の強さはシーソー関係にあり、病原体の力よりも免疫系の力が勝れば、感染症は起こらない。人間のからだには感染症になるのを防ぐために二つのしくみがある。
一つは自然免疫機構、もう一つは獲得免疫機構。
風邪には抗菌薬(抗生物質)は効かない。風邪はウイルスで起きるもので、抗菌薬はウイルスには効かない。抗菌薬は、その名前のとおり細菌に対する薬。風邪とは、感染によって上気道の炎症が起きる病気のこと。かぜ症候群の9割はウイルス感染によるもの。
細菌と真菌とウイルスはそれぞれ違うもの。細菌は1個の細胞からできている単細胞生物。真菌(カビ)は、核のまわりに角膜という膜をもち、遺伝情報であるDNAは核の中に存在する。
ウイルスは、生命の最小単位とされる細胞をもたず、タンパク質の殻と核酸からなる粒子。ウイルスは自分でエネルギーをつくれないし、自分一人では増殖できない。
インフルエンザに関して、マスク着用の予防効果はほとんどない(きわめて低い)。これは網目のサイズがインフルエンザウイルスの100倍も大きいから。マスクによって他人からもらうのは防げないが、他人に風邪をうつしにくくなるだけのこと。
インフルエンザにかかったかなと心配して医療機関に行くのは考えもの。かえって、そこで感染する可能性がある。インフルエンザを治す特効薬は今のところない。
ワクチンとは、病原体あるいは細菌毒素の力を弱めたり、なくしたりした、人工的につくり出された製剤のこと。ワクチンの9割は、海外の大きな製薬会社が作っている。というのは、10~15年かけて、1000億円もの開発費用がかかるものだから。
日本の毎年のインフルエンザによる死亡は200人ほど。ところが、今、アメリカでは1万2000人もの死者が出ているそうです。なのに、日本ではなぜか、ほとんど報道されていません。これも怖い話です。
インフルエンザにかかったかなと思ったときには医療機関には行かず、よく水分をとり、よく休むこと。免疫力全体を正確に測定するのは、現状では困難。
いま自信をもって言える免疫力増強法は、ワクチン接種だけ。血液循環やリンパ循環を良くしてやれば、その分、免疫力は高まる。ストレスがかからないかたちで、血流とリンパ流をよくするのが免疫力を高める。たとえば、ウォーキング。また、ぬるいお風呂に入って、からだをゆっくり動かす。過剰なストレスは免疫力全般を低下させる。
ストレスは健康に悪いと思いすぎる人は、そうでない人に比べて短命である。ストレスは自分の味方だと思えるくらいの図太さが大切。適度なストレスは、免疫系を刺激して免疫反応を強める可能性が強い。そして、実は免疫力は高ければ高いほどよいというものでもない。
ほどほどが一番なのですよね…。
(2019年12月刊。1100円+税)

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