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カテゴリー: 人間

どこからお話ししましょうか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 柳家 小三治 、 出版 岩波書店
 このごろ落語を聴くことはちっともありませんが、落語はとても好きです。尊敬する山田洋次監督も子どものとき落語大全書を読みふけっていたそうです。映画「男はつらいよ」は落語のペーソスをベースにした展開ですよね。万が一、目が悪くなって本が読めなくなったら、オーディオブックスで落語を聴くつもりです。心をほっこりさせ、豊かな気分に浸ることができるからです。
 落語協会の会長をつとめ人間国宝にもなった著者は40代のころはオートバイに乗って北海道を周遊していたとのこと。また、クラシック音楽を好むそうです。忘れられない映画として「バベットの晩餐(ばんさん)会」が紹介されているのには、我が意を得たりと思いました。私は映画館でこの映画を観ましたし、本も買って読みました。すばらしい映画です。観ていない人はぜひDVDを借りて観て下さい。
人間を理解できなきゃ、落語はできない。落語は、人生の、社会の縮図ですから。
 著者は落語のせりふがなかなか覚えられないそうです。言葉で覚えるというより、了見で覚えていく。登場人物の気持ちになって、その人の発言として覚える。登場人物の気持ちに、すっかり沿えないと、せりふは出てこない。むなしいせりふは言えない。せりふが、ただなま覚えになっちゃったら、それは私としては言えない。せりふを覚えるってことは、私にとって至難のわざ。名人でも、そうなんですね…。
 うまくやろうとしない。でも、それがとても難しい。下手なまんまでいいのかっていうと、そうじゃない。
人間が分かんなきゃ、落語にならない。
落語の面白さは、歌とか声帯模写とは違って、我慢がいる。我慢しながら、歯を食いしばりながら、頑張る。
 落語をくり返しやっていると、慣れて、飽きてきます。それが表に出ると、お客さんもつまらなくなっちゃう。そこで、落語を面白くやるコツ。師匠の柳家小さんは、初めて聞くお客さんにしゃべるつもりで落語をやれと言った。客もよく知ってる。はなし手もよく知ってる。だけど、噺(はなし)の中に出てくる登場人物は、この先どうなるのか、何も知らない。そう気がつくと勇気が出てくる。そう思ってやると、いつもやってる噺ではなくなる、なぞることをしなくなる。しゃべるっていうより、その人にまずなるというわけです。なーるほど、ですね。
 著者は高校生のとき、昼休みにクラスで独演会をやっていたそうです。お弁当はその前、3時間目の休みのときに済ましておきました。クラスのみんなは弁当を食べながらゲラゲラ笑っていたとのこと。さすが、すごいですね。
 そして、高校3年生のときは、ラジオの「しろうと寄席」に出て、15週、勝ち抜いたそうです。いやあ、たいしたものです。さすが、です。
世の中が進んでくればくるほど、人間の本来のおろかしさバカバカしさに気づかされたとき、人はみんな心底、腹がよじれるほど笑いたがるもの…。
 客を飽き飽きさせてはいけない。いくら面白くても…。最初から盛り上げてしまうと、自分もくたびれてくるし、客もくたびれる。そりゃあ、まずい。ふむふむ、なるほど、なるほど。
 落語っていうシンプル芸は、いろんなものを極力おさえて、お客さんを感じさせ、誘導していって、最後にほっと安堵(あんど)感を感じさせる。これは、他の芸能にはないもの。
 いやはや、さすがは人間国宝になるだけの人の言葉です。腹にズシンと響きました。
(2019年12月刊。1650円)

ユマニチュード入門

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ、本田美和子 、 出版 医学書院
 認知症ケアの新しい技法として注目を集めているものを紹介した本です。
 イラストがついていますので、とても分かりやすく、スラスラと読めました。10年前に発刊された本ですが、決して古くはなっていないと思います。
 人間は物事に関する概念を有し、ユーモアをもち、笑い、服を着ている。また化粧をして、家族や社会と交流するなどの社会性と理性をもっている。これが人間であることの特性、つまり人間らしさ。これらの特性を欠いてしまえば、私たちは他の動物との差がなくなってしまう。
 人間の、動物の部分である基本的欲求に関してのみケアを行う人は「人間を専門とする獣医」でしかない。
ユマニチュードは、強制ケアをゼロにすることを目指す。
 ユマニチュードは精神論ではない。ユマニチュードは、自分も他者も「人間という種に属する存在である」という特性を互いに認識しあうための、一連のケアの哲学と技法。
 人間は、他者によって認められることが、人間の尊厳の源である。人間の尊厳を取り戻すためには、見る、話す、触れる、立つことへの援助が必要。
 見る。…水平に目を合わせることで「平等」を、正面から見ることで「正直・信頼」を、顔を近づけることで「優しさ・親密さ」を、見つめる時間を長くとることで「友情・愛情」を示すメッセージとなる。
 「見る」には、0.5秒以上のアイコンタクトが必要。目が合ったら2秒以内に話しかける。
 話す。…声のトーンは、あくまで優しく、歌うように、穏やかに…。常に話しかける。前向きな言葉で話しかける。
 触れる。…広い面積で、ゆっくりと、優しく。
 立つ。…骨に荷重をかけることで、骨粗しょう症を防ぐ。立位のための筋肉を使うことで筋力の低下を防ぐ。40秒立っていられたら、立位でケアができる。
 出会いから別れまで、5つのステップを踏む。①出会いの準備、②ケアの準備、③知覚の連結、④感情の固定、⑤再会の約束。
本人が嫌がったときは、絶対に引く。
 やや大げさに表現するのは効果的。
とても実践的な、認知症の人に対するケアの仕方が満載でした。でも、これって認知症の人だけに有効というのではなく、弁護士の前にいる、相談に来た人に対しても使える技法だと思います。
(2014年8月刊。2200円)

うんこの世界

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 アダム・ハート 、 出版 晶文社
 子どもたちに大人気の「うんこドリル」の類の本ではありません。腸内細菌と健康について真面目に研究成果を紹介している本です。
うんこの固形物の3分の1、最大60%が細菌。
炎症性腸疾患(IBD)は増加傾向にある。
石鹸で手を洗えば下痢性疾患を40%も減らせる可能性がある。
細菌性胃腸炎は、たいてい、感染してから症状が現れるまでに1日ほどかかる。
衛生の観点から最善なのはペーパータオル。
目下の大問題は、最近の進化を通じた抗生物質耐性の獲得。
ピロリ菌は、40~50%の人の胃で見つかる。たいてい、子どものころに獲得している。そして、ピロリ菌の保菌者のうち、潰瘍を発症する人は10~15%ほどにすぎない。
 小腸は科学的消化と吸収を担っている。ここはとくに細菌のたまり場というわけではない。小腸にいる細菌数は1ミリリットルあたり1万個もいない。小腸にいる細菌が増えすぎると、栄養の吸収がうまくいかなくなり、問題を引き起こす。
 大腸は小腸の3倍の幅があり、消化系の最後の部分。大腸の役割は、水分を吸収し、残ったものをきれいに整ったうんこにまとめることにある。
 腸内の最近は消化を助けてくれる。たとえば、人間に吸収できるブドウ糖などの単糖に分解してくれる。また、粘液でよくみられる複雑な分岐構造をもつ炭水化物も分解できる。最終生成物としてブドウ糖ができれば、細胞はすぐにそれを利用できるので、人間にとってはありがたい。
 腸内細菌の消化活動の大部分は、糖分解発酵と呼ばれるプロセスにより、さまざまな種類の炭水化物を短鎖脂肪酸に変換することに関係している。
 ビタミンは、ごく微量でも体の機能に欠かせない働きをする重要な物質。しかし、人間は体内でビタミンを生成することはできない。ところが腸内細菌が、ビタミンをつくってくれる。
細菌は、食物に含まれる重要な金属を吸収しやすくしてくれる。カルシウム、マグネシウム、鉄など…。
 細菌は、食物を消化し、金属吸収を助け、ビタミンをつくるだけでなく、有害な病原性細菌の増殖を抑えるうえでも役に立っている。
腸内細菌の多様性と存在量は、人によって驚くほど異なっている。腸内細菌と免疫系は、かなり密接かつ重要な接触をもっている。腸内細菌は、その生息場所で免疫系と密接にかかわりあっている。
 肥満は1980年に比べて倍増している。世界人口の65%は食料不足より過食のせいで死亡する人のほうが多い国に住んでいる。20歳以上の成人の35%は過体重で、11%は肥満。4000万人をこえる5歳未満の子どもが過体重。子どもの肥満は虐待の一形態。
腸内細菌とヒトの精神状態とは興味深くつながっている。
 妊娠中に長期にわたって高熱を経験した女性の産んだ子どもは、最大7倍の確率で自閉症になる。
高級ヨーグルトを飲んでも、効果はない。その効果は実証されていない。
 要は、細菌の群衆がバランスよく生育し、維持されていることが宿主であるヒトの健康につながる、ということ。この本を読んでスッキリしました。
(2024年10月刊。2300円+税)

腸と脳の科学

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 坪井 貴司 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 現代日本人は、世界でも屈指の平均寿命の長さを誇っている。しかし、健康寿命(健康上の問題がなく日常生活を送れる期間)は、平均寿命よりも10年短い。その原因は、がん、糖尿病、肥満そしてアルツハイマー型認知症などにある。
怒りや不安、そして安心といった情動がかき立てられるような出来事が起こると、腸の活動が変化する。
脳にあるニューロンとグリア細胞と同じものが腸管神経系にも存在し、腸の蠕動(ぜんどう)運動などを自ら考えて調節するために機能している。腸の蠕動運動自体は、腸管神経系によって独立に調節されていて、ヒトの意思で自由に止めたり、あるいは動かしたりすることは出来ない。
 脳は交感神経や迷走神経を介して腸管神経系に指令を与え、機能を調節することができる。
 日本人の10~15%が過敏性腸症候群にかかっている。この過敏性腸症候群の患者では、副腎(ふくじん)は質刺激ホルモン放出ホルモンの影響で腸管の求心性迷走神経が過敏になっているため、ほんのわずかなストレスや情動によって便通異常が起こる。
 腸は、腸内分泌細胞から分泌する消化管ホルモンや腸から脳へのつながっている求心性迷走神経を介して脳へ情報を伝えている。
 脳腸相関とは腸と脳が相互に情報をやりとりしながら、お互いに影響を及ぼしあっているという概念。
腸内常在微生物叢(そう)を腸内フローラともいい、本書では腸内マイクロバイオ―タと呼ぶ。腸内マイクロバイオ―タは、ヒト自身が消化・吸収できない、さまざまな物質を分解している。腸内マイクロバイオ―タにはビタミンB類やビタミンKなどを産生するものがいる。腸内マイクロバイオ―タが産生した短鎖脂肪酸を体内のエネルギー源として利用し、ビタミンKには血液を凝問させるために利用している。
セロトニンやGABAといった神経伝達物質は、腸管神経系の活動を調節するために用いられている。住む国や地域、さらには人種によって腸内マイクロバイオ―タは大きく変化する。
 腸内マイクロバイオ―タのうち、20%が善玉菌で、10%が悪玉菌、残りの70%が日和見菌。
腸は、体内で最大のホルモンを分泌する内分泌腺。
 腸を整えるには、毎日、バランスの良い内容の食事をとり、ストレスと上手につきあい、運動をして、しっかり睡眠をとることが大事。安易に健康食品やサプリメントに頼らないこと。
 腸って本当に大切なんですね、脳と直結してるっていうのは、私の実感にもあいます。
(2024年12月刊。1210円)

高倉健の図書係

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 谷 充代 、 出版 角川新書
 高倉健は無数の読書家だったことを初めて知りました。
 山本周五郎。「周五郎さんの言葉に励まされ、勇気をもらっていた」
時代小説を中心に、人生をひたむきに生きる人間の哀歓を描き出した山本周五郎は、高倉健がひときわ好きな作家だった。真田広之にも、「この本を読め」と言って渡している。
 三浦綾子。「いろいろな人間が出てきて、あえぎながらも乗り越えていく」
 「時間があったら本(活字)を読め。活字を読まないと顔が成長しない。顔を見れば、そいつが活字を読んでいるかどうか分かる」(内田吐夢監督)
 読書家の高倉健から、著者は「図書係」の役目をまかされた。1980年代後半のころ。
高倉健は、慎重に出演作品を選ぶことで有名だった。
 高倉健は、小学校に上がってすぐ肺浸潤に冒され、兄妹から離されて親戚のおじさんの家で闘病生活を過ごした。母親は毎日、ウナギを買ってきて、黒焼きにして食べさせ、肝まで飲ませた。そのおかげで健康を回復したものの、毎日のウナギは辛かった。それで高倉健にとって、川魚類は一番苦手な食べ物になった。
 高倉健は比叡山の滝に打たれに行ったことがある。滝行は、最初に右腕を出して流れ落ちる滝に当て、ついで左腕と、順に身体のあちこちに水をかけていく。そうしないと心臓麻痺を起こしてしまう。準備を終えると、滝に打たれながら合唱し、一心にお経を唱える。
 高倉健と取材旅行に行くと、「いつも一人で過ごす休暇と同じにしたい。散歩も自由時間も食事のメニューも」、「コーヒーは砂糖なし、ミルクたっぷりでお願いします」。「旅先に持ってくるのは、本と好きな映画のビデオだけ」、「好きな本を読んでぐっと来るものがあれば、その旅は最高だよ」。なーるほど、ですね。超有名人でしたから、ときどきは一人になりたかったのでしょうね。真似できませんが…。
 高倉健が亡くなって、もう10年がたつのですよね。すごい役者でした。『幸せの黄色いハンカチ』は最高でしたね。いい本でした。
(2024年11月刊。940円+税)

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