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カテゴリー: 人間

「あたりまえ」からズレても

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 藤本 文明、 森下 博 、 出版 日本機関誌出版センター
ひきこもりの体験者が書きつづった本ですので、実感が伝わってきます。
ひきこもり人口は、日本で少なくとも100万人。これは人口の1%。その家族などの関係者は300万人。
「ひきこもり」というと、外からは何もしていないように見えるかもしれない。しかし、そのなかでの本人の精神活動は、ひきこもる必要がなく生活している人以上に活発になり、そこで人間性が研(みが)かれている。なので、真面目に人生を考え、優しく細やかな気づかいのできる青年たちとなる。なーるほど、そうことなんですね。
学校は行かなければならないもの…。学校を卒業したら、会社に就職して働くもの、収入を得るもの、いずれ自立して生活していくもの…。でも、それが出来なかったら…。
中学2年生の夏に優等生を維持できなくなって、それから7年半のあいだ引きこもった。現在は、ひきこもり支援の資格を得て、自助グループを運営している。
大学を卒業して、就職を失敗して3年間ひきこもった。27歳のとき、個別指導の塾をはじめ、今は、「どんな子でも楽しく学べる塾」を営んでいる。
ひきこもりの体験者にも、いろんな人がいるのですね…。
ひきこもりの人は、自分のせいで家族に迷惑をかけてしまったという罪悪感がある。
ひきこもりから脱出するため、まず一番に、毎日、家を出る習慣を身につけるようにした。小さい挑戦をし、その成功体験を積み重ねた。
引きこもりを克服する三つのステップ。初めのゼロ・ステップは、親の心を休めるステップ。第一のステップは、子どもに興味をもつステップ。第二ステップは、社会的常識を捨てて、子どもの求めているものに目を向ける。第三ステップは、子どもに何か書いてもらって、子のニーズを引き出す。
ひきこもっている人は、自分自身に対する価値を信じていない。自己肯定感が欠如している。自分のことですら、自分で決定できなくなり、基準のすべてが想像上の他者か社会になっている。
ひきこもり対策に、マニュアルは存在しない。親といえども、子育てについては、みんな初心者なのだ…。
母親が酔って泣きわめいているのを見て、「しんどい」って吐き出せる余地が、自分の周りになかった。泣きわめく母親に、「助けて」と頼めるわけには行かない…。自分のせいで、母親が、こんなに泣いて苦しんでいるのが分かって辛かった。
不登校経験者で、教員になった人が周囲にいた。それで、やってもいいかなと思ってはじめた。
私の依頼者の家族にひきこもりの男性が数人いて、毎月、法律事務所に来ていただいています。外に出れること自体がいいことなので、私は何か変わったことはないかとたずねます。法律事務をしているというより、カウンセリングしている感じです。
それにしても、体験者の手記には重みがありますね…。
(2020年3月刊。1300円+税)

産んじゃダメだと思ってた、産んでみたら幸せだった。

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 たんたん、カネシゲタカシ 、 出版 幻冬舎
愛する男性と結婚してやりたいことをやっている女性なのに、子どもをつくったらダメだと思い込んでいた…。なぜ、どうして??それは、自分が生きづらい人間だったから。
見捨てられた感、愛が足りないかん、子ども時代をやり残した感があるので、子どもを産まないことは正義だと考えていた。
小さいころの母親は、いつも不機嫌、口答えすると無視。見捨てられ不安がつのる…。
父親は自己愛の強い人。そのパパにバカにされないかな、嫌われないかな…。
母親は子どものために我慢しているという。だったら、母親なんかになりたくない。子どもなんて、つくらないほうがいい…。
父にはほめられず、母には叱られる。そんな家庭に育ったので、自己肯定感の低い人間になってしまった。
高校に入ってすぐに中退。でも定時制高校に入り、音楽に出会った。そして短大にすすむ。実家も出て一人暮らしをはじめた。
交際をはじめた彼に病院に行くように誘われ、医師から境界性パーソナリティ障害だと診断される。そして薬を飲みながら、生きづらい日々を穏やかな日々に少しずつ変えていったのでした。すべては自己肯定感をとり戻すために…。
子どもを産んだらダメな三つの理由。その一、不幸の連鎖を止めたい。その二、女性を卑下する女性は子育てしてはいけない。その三、子どもにヤキモチを焼く母親に子育ては無理だから。
だけど、愛とは無限のもの。ありのままの自分でいいんだ。
よく描けたマンガ(絵)が、このストーリーがよくよく伝わってきます。すごい絵です。
著者は2度の流産を経て、3度目は、ついに出産へ。苦しい苦しい出産だったようです。これまた、すごくよく分かる絵です。そして、ついに赤ちゃん(娘)が誕生し、かつて著者を追い詰めていた両親とも和解が成立するのでした。
タイトルの意味が本当によく分かる、すばらしいマンガ本です。
(2020年3月刊。1100円+税)

心友、素顔の井上ひさし

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 小川 荘六 、 出版 作品社
井上ひさしが亡くなったのは2010年4月9日。75歳だった。飾り花は一切ない祭壇。棺のなかには、花の代わりにたくさんの芝居のチラシが入れられた。骨壺には、愛用の丸いメガネと太い万年筆が入れられた。
著者は上智大学以来、54年間、ずっとずっと井上ひさしと親密に交際していたことがよくよく分かる本です。そして、著者の娘さんが井上ひさしの秘書をつとめていました。すごいです。
それにしても、井上ひさしは、まことに天才的人物ですよね。私にとっては、手塚治虫に匹敵する人物です。
著者が井上ひさしに出会ったのは1956年(昭和31年)4月、上智大学文学部のフランス語学科です。男子学生ばかり15人ほど。井上ひさしは、いちどドイツ語科に入って、そのあとフランス語科に入りなおしたのです。ところが、井上ひさしは、フランス人の神父さんから中学・高校のときフランス語の基礎を叩き込まれていましたので、それほど苦労せずフランス語はできたのでした。
しかも、入学当初から、浅草フランス座(ストリップ劇場です)の文芸部員であり、放送作家のアルバイトもしていたのです。そんな井上ひさしは、学生仲間のくだらない遊びに率先して参加していたというのです。なーるほど、さすがユーモアあふれる作家は実践の人だったのです。
そして、著者の実家のある横須賀まで、金欠病の井上ひさしたちは巧妙なキセルで通い、麻雀にいそしんだのでした。往復300円かかるところを90円ですませたのです。
私も東京での大学生のとき何回かキセルをしましたが、そのうちに、そのスリルのドキドキ感がバカらしくなってやめました。そんなことより安心して車中で本を読むのに集中したかったのです。
ところが、井上ひさし自身は麻雀をしないで、徹夜組につきあっていたというのです。これまた驚きます。実家の稼業であるもやし栽培の手伝いをしていたようです。そのほかは、世界文学全集を徹夜で読んでいたというのですから、さすが偉大な作家は違います。
井上ひさしには家庭の団らんの経験がなかったこともあり、貧乏学生にとって「天国のような所」だったと振り返っています。
井上ひさしは、大学について、こう語った。
「大学で必要なのは、学問の中味ではなく、そこで誰に会ったか、誰と友だちになったか、誰とつきあったか、そして自分の人生を生きていくための新たな基本的な姿勢といいますが、それをつちかっていくというのも大事なこと、大事な役目だと思います」
まったく依存ありません。私にとって、それはセツルメントというサークルでしたし、セツラー仲間でした。あれから50年だった今も大切にしています。
井上ひさしの人形劇「ひょっこりひょうたん島」が始まったのは1964年(昭和39年)4月。私の高校1年生のときでしたが、夕方、楽しみにみていました。視聴率25%というお化け番組で、ついには40%近い視聴率になった国民的な人気番組でした。
ところが、その内容が左翼思想で、拝金主義を揶揄したものになっているというのにNHK上層部が気がついて、5年も続いたあと打ち切りになったのでした。
このころビデオ録画ができなかったというのが、本当に残念です。それが出来ていたら「寅さん」シリーズのように何度も繰り返し再放送されていることでしょう。
井上ひさしは、本を速く読むコツがあるかと著者がたずねたとき、「あるよ。速く読もうとすればいいんだ」と答えたそうです。私も同じです。井上ひさしほど速くはありませんが、年間500冊の単行本を30年来、読んでいるのは速く読もうとつとめているからです。でも、これ以上は、速く読むつもりはありません。頭に何も残らなければ意味ありませんからね…。
井上ひさしは、高いところは大の苦手で、飛行機も大嫌い。
井上ひさしは、旅行するときには、記録用の新しいノートを必ずもっていく。私も海外旅行するときには、毎回、小さなノートブックを購入し、肌身離さず日時とともに記録していました。そして、帰国してから写真と一緒に冊子をいくつもつくりました。こうすると、行く前、行ったとき、帰ってから、3回も楽しみがあるのです。
すばらしい本でした。おかげで井上ひさしという偉大な作家の雰囲気をたっぷり味わうことができました。ありがとうございます。
(2020年7月刊。2200円+税)

根に帰る落葉は

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 南木 佳士 、 出版 田畑書店
著者の作家生活40年を記念して出版された文庫本のようなハンディーサイズの本です。
落葉帰根。おまえも、もう 根に帰ったらどうだい、と葉っぱたちに諭(さと)されて、なんだかうれしくなった。そんな著者の最新エッセイ集なのです。
ことばが、からだが、しみじみ深呼吸する。こんなフレーズ(文章)がオビにありますが、まさしく、それを実感させられます。
最近、映画になった『山中静夫氏の尊厳死』はみていませんが、映画『阿弥陀堂だより』は20年ほど前にみて、心を揺さぶられました。
著者は団塊世代より少し遅れた世代(1951年生まれ)なので、勤めていた病院は既に定年で退職し、今は嘱託医として週4日間だけ働いているといいます。
医師である著者は芥川龍之介の手紙を読んで、発熱、胃痛、下痢、神経衰弱という身体状況の描写から、胃痛はヘリコバクター・ピロリ感染胃痛と診断し、こんな患者には旅に出ることをすすめるとし、また、神経衰弱というのは恐らく「うつ病」にあったのではないかと推測しています。なるほど、と思いました。
著者は、小説を書く、という行為の業の深さを思い知ったとしています。そうですか、だから私には本格的な小説が書けないということなんですね…。本当に私は、そう思います。
よい小説を書きたかったら、まじめに暮らすこと。これは、著者に向かってベテラン編集者が放った言葉でした。この点、私も、言われてみたら、すごくもっともな指摘だと思われます。
ある程度の年齢の人には、人生を考え直させるきっかけが満載の小さな本でした。
(2020年5月刊。1300円+税)

食の歴史

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ジャック・アタリ 、 出版 プレジデント社
人間にとって、食事は本当に大切なものだと思います。
食事中の会話は、きわめて重要だ。親は子どもが食卓でしゃべるのを禁じてはいけない。会話は、健全な食事を促す。
ギリシア人にとって、食事は何よりもまず会話の場だった。食は、すなわち言葉だった。
ユダヤの伝統では、食卓で子どもはおとなしくするのではなく、反対に発言するように促された。
フランス人は、1日に食事で2時間11分を過ごす。これはアメリカ人の2倍。そしてフランス人は食事中にテレビを見る人の割合が低い。朝食事に10人に1人、昼食時に5人に1人、夕食時に4人に1人。
食べ過ぎないためには、時間をかけてゆっくりかんで食べる。そうすると、食道や胃腸の負担も軽減できる。ゆっくりかんで食べると、摂取カロリーは15%も減り、菌を健康に保つことができ食べすぎを防げる。
ところが、今日の大半の若者にとって、食よりも衣服、娯楽、ケータイのほうが大事だ。
肥満が原因で、毎年280万人のヨーロッパ人が亡くなっている。赤肉よりも健康に良くないのは加工肉。つまりハム・ソーセージなど。加工肉の発ガン性は間違いない。
1万年前のヒトの食は5000種もの植物にもとづいていたが、今日では60%は4種類の食物、つまり小麦、トウモロコシ、ジャガイモそして米だけで確保されている。
2019年の世界の人口は76億人。毎年910万人が栄養失調で亡くなっている。1億5千万人の子どもは栄養失調のため、発育不全の状態にある。
アメリカでは、年間40万人(主として最貧層)が食生活を原因とする心臓病で亡くなっている。
世界の食品業界の主要企業は相変わらず、アメリカ系かヨーロッパ系だ。食品業界の上位10社のうち5社はアメリカ企業だ。
世界でもっとも人気のある国の料理は、1位のイタリア料理、2位が中国料理、3位は日本料理、第4位はタイ料理、そして5位のフランス料理へ続く。
2018年、地球で生産された食料の3分の1、13億トンの食糧がゴミとして捨てられた。
いま、昆虫食が注目されている。フランスの会社は昆虫からステーキをつくっている。
食事は大切だと私も考えていますが、平日の夜は、いつも新聞を読みながら夕食をとっています。ちなみにテレビは全然みません。昼も、さっさと食べ終わったら、パソコンに向かい、メールやFBをじっくり眺めています。
コロナ禍のおかげで、会食の機会が激減しましたので、食事に2時間もかけるなんてことは、とんとなくなってしまいました。残念です。
(2020年3月刊。2700円+税)

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