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カテゴリー: 人間

ヒトはどこからきたのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 伊谷 原一 ・ 三砂 ちづる 、 出版 亜紀書房
 ヒト(人間)がアフリカで生まれたこと自体は今や確定した真実です。「人類みな兄弟」という人類は、それこそアフリカ起源なのです。なので、白人優位とか黒人は劣等人種なんて全くの間違い。黄色人種も同じこと。そんなレベルで優劣を論じること自体がナンセンスです。
 では、ヒトは森の中で誕生したのか、草原(サバンナ)で生まれたのか…。著者は従来の通説を「おとぎ話のような説」として、徹底して否定しています。
その通説は何と言っているか…。ヒトと類人猿の共通祖先は森の中で誕生し、乾燥帯に出た祖先がヒトになったというもの。ではでは、著者の主張はどういうものか…。
 類人猿やヒトの共通祖先は乾燥帯、あるいは森と乾燥帯の境界あたりに生息していて、ヒトの祖先はそのまま乾燥帯に残り、類人猿は森に入りこんだのではないか。ヒトが乾燥帯にいられたのは、肉食が始まったから…。なーるほど、ですね。
 ボノボは、ものすごく上手に二足歩行する。
 アフリカの類人猿はチンパンジー、ゴリラ、ボノボのすべてがナックルウォーキングする。類人猿とヒトの違いは、四足歩行か二足歩行か。足と骨盤を見ると歩行様式が分かる。
 この本を読んで、衝撃的だったのは、文字どおりショックを受けたのは、アフリカに学生を連れていって、ある場所で放り出して、そのあと何ヶ月間も誰もいない無人地帯で生きのびるようなことをしていた(している)ということです。著者自身も、自転車に80キロもの荷物を積んで5カ月も一人で「放浪の旅」をした(させられた)とのこと。いやいや、これは大変、ありえないのでは…。だって、現地のコトバはまったく話せないのですよ…。猛獣から身を守るのに、まさか鉄砲は持っていないでしょうし、夜、どこに、どうやって安全を確保しながら眠るのでしょうか…。「万一、自分が死んで発見されても絶対に文句は言いません」なんて念書をとっておくのでしょうか…(もちろん、そんな念書は意味ありません)。安全が確保できたとして、コトバのほうはどうなりますか…。
ところが著者は、現地を自転車に乗って一人で旅しているうちに、自然と喋れるようになったというのです。現地のリンガラ語です。すごいですね、勇気がありますね。
勇気があるといえば、著者は有名な伊谷純一郎の息子ですが、自称「不良少年」(グレ)で、高校2年生のとき、家を出て一人暮らしを始めたというのです。すごいですね、本人も親も…。といっても、父親のほうはアフリカに長期滞在していて、家(自宅)にはあまりいなかったようですが…。
 著者は小学生のころから放浪癖があり、北海道に行ったり、沖縄で漁師をしたり…。
 日本人学者は、サルもチンパンジーもゴリラも、みな個体識別して名前をつけて観察しています。欧米人は、それができなかった、できるとは思わなかったようです。でも、今では、日本人学者は金華山のシカまで個体識別しているというのです。すごいことですよね、これって…。そして、そのためにエサを与えていたのが、今では近づく人に慣らすだけ(「人付け」)だというのです。
著者はチンパンジーの子どもを引きとって大きくなるまで一緒に育てたこともあるそうです。すると、大きくなっても、同じ部屋にいることができるようになるそうです。単なる飼育員だと、危険すぎて、それは禁止されているとのこと。
ヒトと類人猿との違いと共通点、そして、学者のフィールドワークの実際など、対話形式の本なので、とても面白く、すらすらと読みすすめることができました。
(2023年4月刊。1800円+税)

物語・遺伝学の歴史

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 平野 博之 、 出版 中公新書
 遺伝学で高名なヨハン・メンデルは修道院に入り、そこでエンドウ豆の交配実験をしてメンデルの法則を発見した。なぜ、修道院で生物学の研究がなされたのか、できたのか…。この時代、修道院は単なる宗教施設というだけではなく、その地方の学術や文化の中心だった。蔵書も20万冊ほどあった。
 なーるほど、そういうことだったのですね。いわば大学とか研究所のような存在だったのでしょう…。メンデルの法則を中学校(?)で学んだとき、私もその規則性には目を見開く思いでした。今でも、そのときの感触を覚えています。
 メンデルは、自分の研究成果を論文としてまとめて、1866年に科学雑誌に発表した。しかし、この論文について、当時は、まったく反応がなかったそうです。メンデルの法則として学界で認知されたのは、1900年のこと。
 遺伝学ではショウジョウバエとともに、トウモロコシが大活躍したそうです。というのも、トウモロコシの染色体は大きいので観察しやすいこと、雌花と雄花とが分化していて、交配しやすいことによる。
驚いたことに、大腸菌にも性があり、有性生殖をして遺伝子組み換えをする。
 遺伝子はタンパク質ではなく、DNAであることが確認された。遺伝子配列の中に「CAT」というのがあります。この本では、これを「ネコ」と呼んで説明します。野生型では「CAT」の3塩基が「ネコ」というアミノ酸を指定しているが、第1の変異により、「G」の塩基が挿入されると、読み枠がずれるため、「タコ」(GCA)や「チコ」(TCA)という別のアミノ酸になってしまい、タンパク質は機能を失ってしまう。ところが、第2の変異により塩基(T)が1個欠失すると読み枠が元に戻るため、大部分のアミノ酸は「ネコ」となり、タンパク質の機能は復活する。
 細胞は同じ染色体をもつにもかかわらず、なぜ、脳や肝臓など、いろいろなタイプの細胞が分化するのか。現在では、いろいろな細胞が生じるのは、遺伝子が共通していても、発現している遺伝子が細胞ごとに異なっているためだということが分かっている。そうなんですか…。
 遺伝子について、少しだけ分かった気になりました。
(2022年12月刊。980円+税)

「心の病」の脳科学

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 林 朗子 ・ 加藤 忠史 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 脳の機能を良くすると称してグルタミン酸やGABAを体外から摂取することが広告・宣伝される。しかし、体外からこれらを摂取しても、脳には到達しない。神経伝達物質は脳の中で生産され、その合成と分解の過程も緻密(ちみつ)に制御されている。
 タバコのニコチンも神経伝達物質で、脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、ドーパミン神経細胞を介して快楽物質であるドーパミンの分泌を促すため、快感や覚醒作用が生じる。
一つの神経細胞には、1万個ほどの興奮性シナプスがある。シナプスには、情報を伝える側のシナプス前細胞と、受け手のシナプス後細胞がある。
 統合失調症は遺伝要因が強い疾患だが、発症するのは3割だけで、残り7割は発症しない。環境要因が加わることによって発症する。たとえば、心理的ストレスが発症の引き金となる可能性がある。
 うつ病は、世界に2億8千万人もいる。日本では100人のうち6人がうつ病。
 うつ病の治療薬(抗うつ薬)は、7割の患者の症状を改善する。双極性障害の人が抗うつ薬を服薬すると、気分は落ち込んでいるのに、自殺する元気は出てしまうということになりかねない。
 ASD(自閉症スペクトラム症)の発症頻度がふえている原因として、晩婚化の影響がある。というのも、父親の年齢が高くなると、精子のゲノムに変異が入る確率が高まるから。
ASDは親の育て方に原因があるというのは誤り。生まれつきの脳機能に原因がある。
ASDの子どもに適切な睡眠をとらせることで、社会性が改善する。
 ADHD(注意欠如・多動症)は、ごくありふれた病気。男女比は1対1、20人に1人の子ども、40人に1人の大人がADHD。
 人間は3歳までの記憶はまったくない。なぜなのか…。ずっと疑問に思ってきました。それは脳のなかの海馬が、この3歳ころまでが神経派生がとくに盛んなので、神経回路の再編が次々に起きてしまうので、それまでの出来事は消去されてしまうということ。なーるほど、ですね。
 古い記憶を思い出すには、海馬は必要ない。海馬は、さまざまな情報の記憶を束(たば)ねる「扇の要(かなめ)」のような役割をしている。
PTSDを引き起こす恐怖記憶の要(タグ)は、恐怖記憶がいつも思い出されているため、海馬に残り続ける。
 「心の病」と脳の働きが、かなり分かりやすく解説されている新書です。
(2023年3月刊。1100円+税)

渥美清、最後の日々

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 篠原 靖治 、 出版 祥伝社黄金文庫
 寅さんこと、渥美清の付き人を14年つとめあげた人の見た寅さんの実像です。
 読めば読むほど、偉大な役者だったことがよく分かります。残念なことに、私の周囲には映画館で寅さん映画をみたという人は、ほとんどいません。残念というより、お気の毒に…、というのが私の本心です。
 私は第一作からほとんどみていますし、それは映画館です。そのうえ、テレビでのリバイバル上映もみたことがあります。
渥美清の好きなコトバに「知恩」がある。出会った人はすべて大切にしなければいけない。人は恩を忘れてはいけない。知恩とは、そういうこと。
渥美清は自分の私生活は決して明らかにしなかった。そうなんです。この本で初めて、男女一人ずつの子どもがいて、長男・健太郎氏はラジオ局に勤めているというのを知りました。
 自宅には決して他人を寄せつけず、代官山にマンションをもっていました。本名の田所康雄から渥美清に変身するために必要だった部屋。なーるほど、ですね。国民的俳優になるには、そんな助走のための部屋が必要だったのでしょう。なんとなく分かる気がします。
 家族には「渥美清」を見せず、スタッフには「田所康雄」を見せない。そんな二重生活を亡くなるまで、何十年も続けたのです。偉いというか、とても真似できることではありませんね。
 渥美清と山田洋次監督の関係について語られているところも興味深いものがありました。
 この二人は、「本当は、仲がいいのか悪いのか」、と周囲に思われていたというのです。それくらい、この二人には、「ある種の距離」があった。「なあなあ」の関係ではなかった。
渥美清にとって山田洋次は、「とてつもなく頭のいい人」であると同時に、大変な努力家だと知っていた。
渥美清は肉や油っこいものは決して食べなかった。戒名もつけなかった。位牌も生前から用意していた。
 渥美清は、基本的に山田監督から渡された台本を尊重し、決めのセリフは、絶対に台本どおりに演じる。アドリブは、それ以外の場面で入るだけ。
渥美清は柿とリンゴが好物で、イチゴやメロンは食べなかった。うへー、これはどうしてなの…。私はみんな大好きなんですが…。
渥美清は、本をよく読み、知識も教養もあった。
記憶力は並外れていた。セリフは、1回台本を読むと、ほとんど頭に入った。
20数年間、寅さん役を続け、「マンネリ」として、そっぽを向かれることがなかった。それは、渥美清が、まさに骨身を削る思いで、寅さんの役に取り組んでいたということ。
まったく、そのとおりです。その恩恵を受けた私などは、このありがたさに涙が出ます。
人に笑ってもらえる、喜んでもらえるというのは、渥美清の役者人生のエネルギー源だった。
まったくまったく、そのとおりではありませんか。
寅さん映画を見ていないという人は、この世の最大傑作の一つを見逃しているということなんです。ぜひ、一度みてみて下さい。
(2019年12月刊。680円+税)

謎が解かれたその日から

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 国立ともこ・宮本郷子 、 出版 クリエイツかもがわ
 3人の子どもが全員、発達障害、学校に行かなかったり、保健室登校だったり、日々の生活で強いこだわりがあったり・・・。大変な日々をしっかり母親が受けとめて過ごした日々が紹介されています。心を打たれながら、居ずまいを正しつつ読みすすめました。
 人間って、本当に厄介な生き物なんですよね。つくづくそう思いました。いえ、これは我が身と私の周辺を振り返っての実感でもあります。
 「行かないといけないのに、行けない。行きたいのに、行けない。何で行けないの・・・」
自分の欲求を聞き入れてもらえないと、拒否されたと思い、泣く、わめく、かんしゃくを起こす。
 握りしめた手が、不安と緊張と恐怖心で震えているのを感じ、心にため込んできた辛い経験の傷の深さをあらわしている。
 みんなが学校に行っている時間帯は、自分が学校に行っていない罪悪感で外へ出られず、夕方も同級生に会うのが嫌で外に出られない。
楽しそうに振るまっていても、実は周囲の人や状況に適応させるのにエネルギーを注いできた。自尊感情が低く、相手を優先し、自分はいらない人間だと感じていること、自分を守る解釈ができない・・・。
 長女が中学2年生のころ、自分の体形も顔も醜いという思考に襲われ、食べ物のカロリーにひどくこだわり、食事をとらなくて急激にやせていった時期があった。また、強い孤独感や寂しさを感じて、赤ちゃんのころに戻ったかのようなスキンシップを求めてきた。
 二男は小学生のころ、菌に対して過敏な反応を示した。学校はイコール菌なので、学校から帰ってくると、玄関で服を脱ぎ、すぐにお風呂へ入る。学校のものや学校で使っていたものを部屋に持ち込むのは絶対禁止。とくに、布団に入るときの体はきれいな状態でないといけない。母親が風呂上りに、そんな場所を踏んだりすると、「もう一回、お風呂に行って・・・」となる。
 ところが、そんな二男は、運動神経は良く、手先も器用で、いろんな発想力が豊かだと、学校の教員は見ていてくれていたのです。
 母は3人の子どもの一人一人を見守り続けた。これは母たるが故にできること。3人の子どもたちが、それぞれにまったく違った特性をもち、社会の中で生きるのがしんどいと思い続けていた。その一人ひとりの歯車がどの方向に向いているのか、なかなかつかめなかった母だが、いつ、どんなときも口出し、手出しするのではなく、観察し、見守っていた。その母の優しさと忍耐にクリニックの医師は共感しながら応援した。
 「生きろと無理やり産んでこさせられた。生まれたくなかった」
 わが子から、こう言われたとしたら、あなたはどう思い、どう対応しますか・・・。
 ところが、本人は、やがて、「生きてて何が悪い!」と一言つぶやいたのです。お互いの妥協点を出し合い、話し合いながら、折り合いをつけてくれるようになったのでした。
 いやあ、あきらめないでいると、子どもは成長するのですね・・・。心が震えました。こんな教員がいたら、いいですよね、そう思いました。ゆとり感やゆるみ感がにじみ出てくる教員。何も求めず、無条件で受け入れてくれる、大きな包容力・・・。
 こんな態度って、客観的にも余裕がないと出来ませんよね・・・。
 漫画風のカットがあって、情景がよく想像できます。一読を強くおすすめしたい本です。
(2023年1月刊。1200円+税)

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