法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 中国

中国の政治体制と経済発展の限界

カテゴリー:中国

(霧山昴)

著者 劉 徳強 ・ 湯浅 健司 、 出版 文眞堂

 習近平の現代中国について、政治と経済の両面から実証的に分析していて、大変勉強になりました。

 消費不振が経済成長減速の大きな要因となっている。消費不振の最大の要因は不動産不況の長期化にある。 内需低迷のもう一つの要因は、地方政府の財政危機にある。地方政府は、これまでに国有地の使用権を確保してきた。不動産不況の長期化によって使用権販売が滞り、2023年の売却収入はピーク時の2021年から3割以上も減少し、2024年はさらに前年比16%減となっている。不動産関連産業は中国GDPの30%を占め、地方政府の土地収入と深く結びついている。中国は日本と違って、不動産所有権の売買は認められず、あくまで使用権の売買なのです。

 習近平政権は「住宅は住むもので、投機のためのものではない」として、不動産市場に対して強烈な引締め策を導入した。販売不振によって、住宅在庫が積みあがっている。2024年の住宅販売面積の7年分の在庫がある。中国政府は現在、大手デベロッパーの債務返済を猶予させているため、大規模な金融危機は抑えられている。

習近平政権下において、党の総書記と首相の分担は徐々にあいまいとなり、首相の存在感は薄れる一方になっている。そして、習近平に権力が集中するあまり、誰も経済面での失政を指摘できず、対策は極めて機動性を欠いたものになっている。

 2024年現在、中国経済はかつての勢いを失い、深刻な停滞に直面している。

 「党政軍民学」(共産党、政府、解放軍、民間、教育、学術研究)のすべての分野で中国共産党の絶対的支配が協調され、習近平総書記(国家主席)は、「核心」的地位を確立し、「習近平思想」を党員に学習させ、個人崇拝の色合いを強めている。

司法組織の独立性は失われ、完全に共産党支配の道具と化している。国営企業の優遇が顕著となり、国有企業の民営化は事実上廃止された。

 腐敗が蔓延している。大きな権力は、より大きな収益につながっている。中国はますます権力社会になっている。中国の発展途上国に対する対外援助は、内政不干渉の原則にもとづいて、民主化、人権状況を不問にしていることから、多くの途上国で歓迎された。しかし、同時に金利が高く、透明性が低いという特徴もあった。

 2022年以降の中国のスタートアップ(起業)は、「官製創業」の色が強まっている。かつての創業熱を支えた消費系スタートアップは、出る幕がない。民営企業が主な担い手である、IT創業ブームがしぼんだため、中国経済では国有企業が幅をきかせて民業を圧迫する。「国進民退」が現実化している。

習近平総書記と李克強首相の対立は、「南北院の争い」と呼ばれた。中国政治の中枢である北京の中南海の中で、政府と国務院が北側に位置し、党中央機関が南側に位置することによる。

 近年、中国の労働コストは大幅に上昇している。

「未富先老」とは、国民が豊かになる前に高齢化が進んだということ。中国でも現役労働世代が減り続けている。総人口の減少も始まっている。若年層の失業が大きな社会問題となっている。前は、「統包統配」といって、大学生は学費が無料で、就学は国が統一的に割り当てるものだった。国が全員に就職を保証し、その反面、学生に職学選択の自由はなかった。

「双減政策」とは、宿題と郊外学習という2つの負担を軽減する政策。0歳から大学卒業までのコストは、上海市101万元、北京市93万6000元、チベット自治区34万9000元、青海省37万「9000元などで、大都会は全国平均の2倍になっている。

大学生の希望する就職先は国有企業が圧倒する。中国人の海外への留学生は、ピーク時の2020年に110万人超だったのが、2022年には105万人超に減っている。

 中国の高等教育の就学率は2023年に60%超となった。1990年には3.4%、2000年でも12.5%だった。今は経済的にゆとりのない家庭でも子どもが大学に進学している。

日本は中国からの頭脳流出を受け入れて生かすべきだ。

中国は食糧自給率95%を下回らないことを目標としている。世界の7%の耕地で、世界の22%の人口を養うとしている。

 多面的な分析に圧倒されました。こんな中国と「戦争しよう」なんて、絶対にダメです。

( 2025年5月刊。3520円+税)

習近平体制の中国

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 平井 潤一 、 出版 新日本出版社
 2015年の統計ですが、台湾貿易の4割、対外投資の6割は中国大陸向け。台湾の中国進出企業は10万社をこえる。そこで働く台湾ビジネスマンと家族は100万人以上。台湾から中国大陸への旅行者は550万人で、その逆は414万人。あわせて1000万人近い人々が相互に訪問している。
 台湾人の世論調査では、毎回「現状維持」が多数で、「早期統一」や「台湾独立」は少数派。「台湾人か中国人か」という問いに対しては、6割以上の人が「台湾人」だと答える。これは、最新の世論調査でも変わりません(日弁連は、この7月初めに台湾調査を敢行しています)。
中国は、長く「平和統一」を正面にかかげて、武力使用の表明を避けてきた。ところが、習近平は、2019年以来、状況によっては武力行使もありうるという「硬軟両面」の態度を示している。実際にも、台湾周辺での軍事演習を展開している。
 中国共産党の第20回党大会(2022年10月)では、政治局24人に女性が1人も選ばれず、205人の中央委員にも女性は11人のみ。
 習近平の総書記は4期目となり、しかも伝期は「2期10年」という制限は廃止され、終身制となっている。これはロシアのプーチン大統領と同じですね。
 中国は「絶対貧困」の解消から「共同富裕」方針を打ち出した。しかし、格差は10倍以上に広がり、6億人の1ヶ月の収入は月1000元(2万円)でしかない。
中国がGDP総額で日本を追い抜いて、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国になったのは今から15年も前の2010年のこと。
中国も、かつては「核兵器廃絶」に賛成しかけていたが、今では核兵器禁止条約に反対し、核戦力維持に固執している。
 中国の軍事費は、前年比7.1%増の26兆1千億円。国民生活よりも軍事力強化を志向している。これは日本と同じ傾向ですが、金額がケタ違いです。日本が中国に「勝てる」わけがありません。
 中国の軍事力強化は、主力の陸軍ではなく、主として海空軍に向けられている。空母も3隻ももっている。
中国には農民が都会に出稼ぎに行っているため農村留守児童が6千万人以上いる。これは全国農村児童の3分の1以上、全国児童の2割を占めている(2013年)。
中国では、久しく「一人っ子」政策がとられていたが、2016年から「二人っ子」を認めている。
 中国でも労働力不均衡、老後扶養の困難などがあらわれている。中国でも「高齢化」が急速に進んでいる。上海市では60歳以上の市民が市内人口の3分の1を占めている(2017年)。
中国の人口は14億2千万人超で、インドが14億3千万人弱なので、人口世界一はインド(2023年4月)。
 台湾の対中国投資は大幅に落ち込んでいる。しかし、それでも、台湾企業にとって、中国は依然として大きな市場であり、中国にとっても、台湾製の半導体・情報通信関連機器への依存度は相変わらず高い。
 日本と中国、そして中国と台湾の関係を考えるうえで、絶好の参考文献だと思いました。
(2025年6月刊。2310円)

中国手仕事紀行

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 奥村 忍 、 出版 青幻舎
 中国各地に行って民芸品を買い付け、日本で売るのを仕事をしている著者が、中国での買い付けに至る状況をルポしています。30年以上も中国に渡って、民芸品を買い付けているのです。すごいですね。各地の言葉を話せるのでしょうか…。
 どの町にも路地裏があり、そこにはおだやかな暮らしの時間がある。この本で見られる写真は、その光景をまざまざと伝えてくれています。
この本では、中国のなかでも秘境・絶景と呼ばれる場所がそこかしこにある雲南省、そして最貧の省とも呼ばれ、独自の文化を今なお残す貴州省の2省が紹介されています。
 土地を歩き回りながら、五感で感じとる。たくさんの刺激をかつて手仕事を探して旅をした先人たちも感じてきたのだろう。
 雲南省は中国も南の方に位置する。南の低地はプーアル茶の産地として知られる。雲南省には25の少数民族の居住区がある(全国で55の少数民族がいる)。
 省都の昆明は日本読みで「コンメイ」、現地読みは「クンミン」。
 雲南省には、銅鍋がある。たとえば、ごはん鍋。
 プーアル茶は、生茶と熟茶の二つに大別される。生茶は本来のお茶。熟茶は、最近つくられるようになったお茶。日本で飲むのは、大量生産しやすい熟茶。
雲南省のタイ族やシャン族には入れ墨の文化があり、蛇、虎、龍といった信仰のモチーフを彫り込む。
 雲南省の人は麺をよく食べる。それも米でつくった麺が主流。
チベット族の人々は、チベット自治区だけでなく、雲南省、四川省、青海省と、かなり広い範囲に及んでいる。
 ヤク肉は普通に煮ると硬くて食べられたものじゃない。一度冷凍して細胞を壊して柔らかくするのがポイント。
 昆明には世界最大と言われる野生菌市場があり、24時間、絶えずどこからかキノコが届き、またそれを求める人たちでにぎわっている。シロアリの巣の上に生えてくるキノコがあり、とにかく食感が良い。まあ、私はあまり食べようという気になりませんでした。
 貴州省には、太陽が貴重なので貴陽という名前がついた町がある。
 「天に三日の晴れなし、地に三里の平地なし、民に三分の銀もなし」と言われるほど、曇りと雨が多い。
 中国映画『山の郵便配達』は、私も観ましたが、映画に出てくる風景がここかしこに見られるところがあるそうです。
トン族伝統の食材はウシやヤギの胃の消化液から成る。草を食べる動物の胃の消化液なので草が溶けたドロドロの汁。苦くて変わった味だけど、食べ慣れると、クセになる味。
貴州省では、闘鳥が盛ん。鳥かごで小鳥を飼うが、そのエサでありこおろぎを入れておくために古くから使われているのが、こおろぎかご。竹細工の工芸品。ベトナムでは、まるまると太ったこおろぎの唐揚げは、レモングラスと一緒に食べると、最高にうまい。ところが貴州省は虫食は盛んなのに、なぜかこおろぎは食べない。
貴州省のたれは独特。ドクダミの根と焦がし唐辛子が入っているのがスタンダード。クセの強い香りに驚くが、慣れてしまうと、これ抜きでは物足りなさを感じるようになる。
中国の最奥地まで足をのばして民芸品を買い付けているわけです。たいした度胸がありますよね…。
(2025年1月刊。2700円+税)
 「日本人ファースト」を掲げる参政党は外国人排斥です。外国人の犯罪が増えているというのですが、私たちは、アメリカの軍人がとりわけ沖縄で重大犯罪(強姦殺人など)をしても、実は多くの事件で冤罪されている現実があります。さっさとアメリカに帰ってしまうのです。そして、民事賠償責任を負っても本人は負担せず、日本政府が肩代わり負担している現実もあります。そもそもアメリカの軍人や政府要人は横田基地から入国して、入管のチェックを受けていないのです。信じられない現実です。
 外国人の犯罪を問題にするのなら、まずはアメリカ軍人の犯罪が沖縄で繰り返されていること、そしてそれは、あたかも治外法権のようになっているアメリカ軍基地があるからだという現実を直視すべきだと思います。そもそも日本にアメリカ軍の基地は必要なのですか?アメリカ軍の基地と軍人の維持のための「思いやり予算」って、全廃していいのではありませんか?日本の国の根本に関わることは問題とせず、身近な人を敵視するような参政党はまったく信用できません。

中華満腹大航海

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 酒徒 、 出版 KADOKAWA
 まだ30代も初めのころ、初めてのヨーロッパ旅行でした。スイスのジュネーブに夜も遅く着いたのに、みんな腹ペコなのです。みんなで町に出てレストランを探しました。やっと見つけたのが中華料理店です。いやあ、中華料理というのはヨーロッパで食べても日本と同じ味がするんだ…と感激しました。慣れた味ですから、まったく違和感もなく満ち足りてホテルに戻りました。その後、アメリカでもチャイナタウンに行きましたが、そこも日本と同じ日本でした。  
著者はなんと、毎日、中華料理を食べる生活を送りたくて中国に留学したそうです。いやあ、それはすごい。よほど胃腸が丈夫なのでしょうね。
 この本は、奥地をふくめて中国各地に出かけて、その大地の名物料理を食べて紹介しています。いかにも美味しそうな料理の写真がたくさんあって、なるほどなるほど、これは変わっているけれど、うまそうだなと思わせます。
 中国の都市のトップバッターは上海です。私も2度行きましたが、とてつもない大都会です。人口2500万人という、中国最大にして世界最大級の国際都市です。個人経営のローカル店は家賃高騰、強制立ち退き、営業取り締まりの強化などから次々に姿を消してしまったとのこと。きっとそうだと私も思います。上海ならではの炊き込みご飯はラードを使ったもの。
 次は雲南省。ここでは漢族は少数派。ここでは、レモン鶏の料理。そして、牛肉の激苦スープ。ところが、この苦みが、あるところでスッと消えてしまう。むしろ、さっぱり爽やかな清涼感が残る。ニガウリの苦さのようなものでしょうか…。
ここの名物にドクダミの地下茎の黒酢漬けというのがあるそうです。ドクダミなら、わが家にもたくさん生えているのですが、まさか食べるとは…。
 広州市では湯(タン。スープ)にこだわりがある。ここでは食事の初めに、まずスープを飲むのが決まり。漢方薬の素材をスープとしているので、薬膳スープを飲んでいるようなもの。
 飲茶の真価は、のんびりお茶を飲みながら、ボーッと一人で考え事をしたり、家族や友人と語らったりする時間にこそある。ふむふむ、なるほど、ですね。
福建省の厦門(アモイ)では、サメハダホシムシを食べる。海底の砂地にすむ大きなミミズみたいな生物。食感はプリンプリンで、旨味(うまみ)は上品。
ウイグル自治区のトルファンには私も一度行きました。孫悟空の火焔(かえん)山のあるところです。トルファンでは禁酒のウルムチと違って、ビールやワインには寛容。ここでは、コシのある麺が食べられる。
 山車省の青島(チンタオ)は、なんといっても青島ビール。コクのあるビールが飲める。賞味期限は、なんとわずか6日間。
 湖南省の長沙市は毛沢東の生家に近い。湖南人は、1年に1人50キロもの唐辛子を消費する。ええっ、ホントですか…。
蘇州や上海では羊肉と山羊肉を区別せず、どちらも羊肉と呼ぶ。いやあ、この二つ、違うんじゃないでしょうか…。
 たしかに、この本の写真を見て、解説を読むと、中華料理といっても、いかにも幅広く、底も深いということが実感できます。こんな豊かな食生活をもっている中国と「戦争」するなんて、とんでもないことです。いたずらに「台湾有事」をあおりたて、今にも中国からミサイルが飛んでくるかのような危機をあおり立てるのはぜひやめてほしいです。
 みんなで仲良く、ゆっくり中華料理を堪能したいものです。
(2024年12月刊。1870円)
 いま、日本の食料自給率は38%です。参政党は「自給率100%」にするとしていますが、まったく不可能なことです。農業を営む人を大切にする、減反をやめて、米作を増産するという地道な政策こそが求められていると思います。
 出来もしないことを公約にかかげる参政党はまったく信用できません。

漢字はこうして始まった。族徴の世界

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 落合 淳思 、 出版 ハヤカワ新書
 3000年以上前、中国最古の王朝「殷(いん)」で発明され、部族固有の徴章(シンボル)として青銅器に鋳(い)込まれた原初の漢字、「族徴」を紹介した新書です。
 かつて殷代の社会は氏族制だと考えられていた。実際の血縁で結ばれた集団が社会を構成していると考えられていた。しかし、近年の研究では、「氏族(クラン)」とは、必ずしも実際の血縁ではなく、仮想の祖先説話によって結合している集団だと考えられている。「同じ血筋である」という概念を共有する集団だと考えられている。その象徴のひとつとして族徴が用いられる。
 複数の血縁集団が仮想の祖先を共有して、氏族を形成したら、実際の血縁関係がないので、氏族の結束を強固にする必要がある。そこで、氏族を象徴する族徴が必要とされた。そのうえで、実際の血縁で結ばれた氏族にも族徴が普及したと考えられる。
 殷が滅亡したあと、殷系の諸族は文化を維持し、族徴を使い続けた。しかし、次の周の文化では族徴を使うことはなかった。その代わり、より大きな単位として、「姓」という社会組織を持った。姓は結婚に関わる組織であり、結婚は必ず異姓の間でなされ、同姓同士は結婚できなかった(同姓不婚の原則)。春秋戦国時代になると、族徴は使われなくなった。
 族徴は、家族(リネージ)よりも大きな単位である氏族(クラン)を表示する機能を有していた。
 族徴は青銅器だけでなく、印章(印鑑)にも使われた。族徴は漢字の一種であり、「徴」は「しるし」という意味のコトバ。
動物に由来する族徴がある。牛は貴重品だった。中国には黄河流域にも長江流域にも象が生息していた。黄河流域には虎も生息していて、人々に恐れられていた。
 殷王朝は戦車を主力兵器としていた。大諸侯は千台ほどの戦車を保有していた。
 皇帝は気前よくばらまくことが求められた。そして、この「ばらまき」に適した「威信財」として、宝貝が多用された。宝貝は、王のみが入手でき、王が与えるものだった。
青銅器に剛り込まれた古代文字を解読していくのも楽しそうですね…。
(2025年2月刊。1240円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.