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カテゴリー: ヨーロッパ

軍服を着た救済者たち

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  ヴォルフラム・ヴェッテ 、 出版  白水社
 「ドイツ国防軍とユダヤ人救出工作」というサブタイトルのついた本です。
 ユダヤ人の絶滅を図ったナチス・ドイツですが、ドイツ国防軍とは一定の緊張関係があったようです。その典型が、ヒトラー暗殺を計画して未遂に終わった7月20日事件(ワルキューレ作戦)でした。
 この本に登場してくるドイツ国防軍の兵士は、そんなトップ将官ではなく、一般兵士たちのなかで、ユダヤ人救出を図った人たちがいることを掘り起こしています。
 順応した人たち、臆病から、あるいは喜んで勇んで「共犯者」となった人がいた一方、いずれかの時点で、不安や恐怖にうちかつ勇気、積極的な抵抗姿勢をとる勇気を示した人たちがいた。
 アントーン・シュミット軍曹は、リトリアのヴェルナで敗走兵集合所の主任だった。そして、ユダヤ人抵抗組織と接触をもち、武器と数十名の抵抗運動の兵士を他のゲットーに送り込んだ。
 アントーン・シュミットは1942年1月に逮捕され、軍事法廷で死刑が宣告された。このとき、シュミットは、自分はユダヤ人を死から救助するために移送したと確信をもって陳述した。そして、1942年4月13日、銃殺された。
 刑場に向かう直前に書いた妻と娘への遺書には、次のように書かれている。
 「愛する妻たちよ、気を落とさないでくれ。私はそれと折りあいをつけたし、運命もそう望んだのだ。われらが愛する神によって天上から決定されたのだ、そのことは変更のしようがない。今日、私の心は平静で、自分自身がそれを信じられないくらいだ。
 ここでは絶えず、2~3000人のユダヤ人が銃殺された。
 敗走兵集合所には140人のユダヤ人が働いていて、彼らは、私にここから連れて逃げてほしいと要請した。そして、私は説得に負けた。どうか、どうか私を許してほしい。私は人間として行動したまでで、実際、誰にも苦痛を与えたくはなかったのだ」
 映画「戦場のピアニスト」で有名になったシュピルマンを救ったヴィルム・ホーゼンフェルト大尉の場合は、同僚が「ドイツ人であることを恥ずかしく思う」と語る状況にいた。そして、言う。
 「なぜ、人々は沈黙して抗議しないのだろうか。われわれは、皆、臆病で怠情であり、あまりにも不実で堕落している。そのため、われわれも全員、奈落に落ちなければならない」
 1942年、20歳のラインホルト・ロフィ少佐は、上官からユダヤ人の老人を銃殺せよという命令を受けたとき、これを拒絶し、「自分はキリスト教徒であり、それは出来ない」と答えた。
 ヴィリ・シュルツ大尉は、1943年3月、ドイツ国防軍の貨物自動車に25人の若いユダヤ人(13人の女性と12人の男性)を乗せて逃亡することに成功した。
 ナチス・ドイツの体制のなかで上官の命令は絶対的で、それに抵抗することは不可能だったという定説を打ち破る本でもあります。でも、それは口で言うほど簡単なことではありませんよね。文字どおり、命がけの行為なのですから・・・。
(2014年6月刊。2400円+税)

海賊と商人の地中海

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  モーリー・グリーン 、 出版  NTT出版
 海賊というと、カリブ海の海賊をイメージしますが、この本では、地中海の海賊がテーマとなっています。そして、海賊というと、社会の落ちこぼれの、ならず者集団というイメージですが、実は地中海海賊の正体は、れっきとしたマルタ騎士団だったのです。
 ええーっ、キリスト教の信仰のあつい騎士団が海賊だったなんて・・・。信じられません。でも、騎士団には、イスラム教徒への聖なる戦い(十字軍)という口実があったのです。
 それにしても、本当に騎士団が海賊行為をしていたのでしょうか。その被害者は誰だったのでしょうか・・・。
被害者となったのは、ギリシア商人たち。彼らが、海賊行為の不当を主張して、賠償を求めて裁判に訴えた記録が残っているのです。
 この本は、その裁判所に残された文献を読み解いたものです。
 17世紀、東地中海では、商人を恐怖におののかせたのは、キリスト教徒の海賊だった。赤字に白の十字架が描かれたマルタ騎士団の旗がオスマン帝国の海域にひるがえると、イスラム教徒、ユダヤ教徒、そして、正教キリスト教徒からなるオスマン商人たちは、恐怖に震えあがった。この旗は、200年のあいだ、この海域を闊歩した。
 マルタ騎士団は、東地中海におけるカトリック勢力再興の一翼を担った。
 被害にあったギリシア商人たちは、マルタまで訴訟を起こすためにやってきた。海賊行為を働いたマルタ騎士団は、なんと自前の裁判所をもっていた。
 マルタ騎士団の海賊行為の背景にあったのは、地中海におけるキリスト教徒とイスラム教徒の永久戦争という理念だった。
 17世紀のイタリアで、メディチ家はリヴォルノを自由港とし、商品移動の自由ときわめて低率の関税を保証した。
 マルタ騎士団による私掠は公的性格をもっていた。公式の航海で得た利益は、すべて修道会の財政に組み込まれた。
 マルタ騎士団は、ガレー船を次第に増やしていった。一隻のガレー船は200人ほどの漕ぎ手が必要だった。マルタ騎士団の騎士は、300人から600人へと増加した。
 私的な私掠は、栄光のための十字架であったと同時に、利益のための十字架でもあった。30年間に出帆したマルタ騎士団のガレー船は、400隻をはるかに上回っていた。
 マルタの奴隷収容所には、1万人のイスラム教徒奴隷が辛酸をなめていた。
 マルタ騎士団が海賊として襲ったオスマン船の船長、船乗り、船主あるいは荷主の多くはキリスト教のギリシア人だった。マルタ騎士団は、法廷において、この矛盾をどう言い繕うかという問題に直面した。マルタ騎士団の法廷は、腐敗した組織だった。訴訟を取り仕切った判事たちも、奪略品の3%を受けとっていた。そもそも、マルタ島全体が私掠で成り立っていたのだ・・・。
 地中海の海賊、「十字軍」の汚い正体を見た思いがしました。
(2014年4月刊。3600円+税)

スターリン

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  横手 慎二 、 出版  中公新書
 ヒトラーと並ぶ昭和時代の怪物であるスターリンを見事に的確にとらえていると思いました。
 現在のロシアでは、スターリンの人格や役割についての評価が真っ二つに分かれており、ロシア史におけるスターリンの役割について、肯定的に評価する声と、否定的に評価する声が拮抗している。
 ええっ、信じられません。スターリンを肯定的に評価する人が半分ほどもいるなんて・・・。
 スターリンは、母親のおかげで、稼ぎの悪い呑んだくれの靴職人の子どもにしては、不釣りあいな教育を受けた。スターリンは、教会学校を成績優等で卒業した。
 スターリンは、その前は「コーバ」を通称とした。コーバとは、グルシア人の義賊の名前。帝国の支配に粘り強く抵抗する山岳民のため、身の危険もかえりみずに奔走するグルジア版ロビン・フッドである。幼いスターリンは、コーバに夢中になった。
 スターリンは、人並みほどの母親思いの人間だった。
 スターリンは、一度目はグルジア人の娘と結婚し、2度目は、アゼルバイジャン(バクー)に生まれたロシア人の娘と結婚した。
 スターリンは、詩を書いていた。だから、これまで想像されてきた以上に、豊かで多面的な才能を有していた。
 スターリンは、15歳になるまで、革命活動には、まったく関与していなかった。スターリンが聖職者になるために入学した神学校は、反抗心旺盛な若者を輩出する教育機関になっていた。この神学校で、スターリンは、何度も懲戒された。そして、結局、退職処分を受けた。
 20世紀の初め、スターリンは民衆が心の底から支配層を憎み、体制の打倒を願っているので、誰かが率先して挑戦すれば、社会の遅れた臆病部分がこれに続くと考えていた。情勢認識が甘かった。
 銀行強盗事件については、レーニンが具体的に指示していたとも言われている。
スターリンの文体は非常にシンプルである。また、小さな疑問と結論を繰り返す論証スタイルは、この神学校で身につけたのだろう。
 レーニンとスターリンは、少数民族の取り扱いでは、かなり機会主義的に対応した。スターリンは、レーニンとともに少数民族の権利を尊重する側に位置していた。
 スターリンは、少数民族に心情的に味方したのではなく、政治的現実として少数民族を味方にすることの意味をよく理解していた。
 レーニンは、1923年に政治的活動が出来なくなり、1924年1月に死去した。
 スターリンは、1922年4月、レーニンの同意の下に共産党中央委員会書記長に就任した。書記長とは、当初は、純粋に技術的性格の職務でしかなかった。
 共産党が権力を掌握したあと、党員数は1919年3月の31万人から1921年3月の73万人に急増した。政治局、組織局、書記局が設置された。スターリンは、この三つに席を占めた。
 国家機関が変質し、共産党の組織に依存する形で再編された。ソヴィエトは、県レベルから全国レベルへと、上層に行けば行くほど共産党一党に支配され、自立した国家機関としての意味を失った。国家機関の自立性を奪ったのは、共産党による人事権の掌握である。
 スターリンは、高等教育を受けていないが、独学で、役立つと思われる知識を貪欲に吸収していた。つまり、高度な書物を読むだけの知的能力を発揮していた。ただし、抽象的な論理に終結する理論的訓練は受けていなかった。
 1932年から翌年にかけて、党内にはスターリン離れの働きが起こっていた。この時期に党から除名されたものは40万人にのぼった。
スターリンとは何者か、なぜ独裁者になったのか、独裁者として何をして、どうやって生きのびたのかについて、簡潔にまとめた画期的な本だと思います。いま、別に600頁もの大作を読んでいます。ヒトラーと同じく、スターリンも、私にとって目が離せない人物です。
(2014年8月刊。900円+税)

1984年

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  ジョージ・オーウェル 、 出版  ハヤカワep:文庫
 ジョージ・オーウェルの『動物農場』は読んだことがありますが、この『1984年』は初めて読みました。読んだつもりではあったのですが・・・。
 ある会合で、馬奈木昭雄弁護士が60年前に書かれた本だけど、現代日本の社会とまるで似た状況を既に描き出した本だと指摘したのを聞いて、この「新訳版」を手にとって読みはじめたのです。
 いま「朝日新聞たたき」がさかんです。本当に「誤報」だったのかどうかはともかくとして、読売もサンケイもこれまで誤報など一度もしたことがないかのように「朝日」をたたく姿は、あまりに異常です。そして、一部の週刊誌と右派ジャーナリズムの波に乗って吠えたてる人がなんと多いことか・・・。言論統制としか思えません。
 従軍慰安婦の問題の本質は、強制連行があったかどうかでは決してありません。女性が望まぬ性行為を軍部によって強いられ、その状況から自由に脱出することが出来なかったことにあります。まさしく性奴隷です。「朝日」を声高に非難する人たちは、自分の娘をそんな境遇に置いていいとでも考えているのでしょうか・・・。
 安倍首相の強引な憲法破壊策動に乗っかかって、平和な日本社会を根本からひっくり返そうとする動きに、心底から私は恐怖を覚えます。
党の三つのスローガンが、町のどこにでもある。
 戦争は平和なり
 自由は隷従なり
 無知は力なり
 1984年の、この国には、もはや法律が一切なくなっている。だから何をしようとも違法ではない。しかし、日記を書いていることが発覚すると、死刑か最低25年の強制労働収容所送りになることは間違いない。
 最近の子どもは、ほとんど誰もが恐ろしい。子どもたちは、党と党に関係するもの一切を諸手をあげて礼賛(らいさん)する。党賛美の歌、行進、党の横断幕、ハイキング、模擬ライフルによる訓練、スローガンの連呼、「ビッグ・ブラザー」崇拝、それらはすべて華々しいゲームなのだ。かれらの残忍性は、ごくごく外に、国家の敵に、外国人、反逆者、破壊工作者、思考犯に向かう。だから、30歳以上の大人なら、他ならぬ自分の子どもに怯えて当たり前だ。
党員間の結婚は、すべて任命された専門委員会の承認を得なければならない。党の狙いは、性行為から、すべての快楽を除去することにある。敵視されるのは、愛情よりも、むしろ性的興奮。それは、夫婦間であろうとなかろうと同じだ。だから、当事者たる男女が肉体的に惹かれあっているという印象を与えてしまうと、決して結婚について専門委員会の承認は得られなかった。
 結婚の目的はただひとつ、党に奉仕する子どもをつくることだけだった。党は離婚を許さなかったが、子どものいない場合には、別居を奨励していた。セックスをすると、エネルギーを最後まで使い切ってしまう。その後は幸せな気分になって、すべてがどうでもよくなる。党の連中はそうした気分にさせたくはない。どんなときでも、エネルギーはち切れんばかりの状態にしておきたいわけ、あちこちデモ行進したり、歓呼の声を上げたり、旗を振ったりするのは、すべて、腐った性欲のあらわれそのものだ。心のなかで幸せを感じていたら、党の連中の言うくだらない戯言(たわごと)に興奮したりしなくなるから・・・。いやはや、とんだ社会です。
 世界は三つの超大国に分裂している。ユーラシアは、ヨーロッパ大陸など。オセアニアはアメリカ大陸など。そしてイースタシアは、中国や日本などからなる。この三つの超大国は、敵味方の組合せをいろいろにかえながら、永遠の戦争状態にあり、そうした状態が続いている。
 社会の上層の目的は、現状を維持すること。中間層の目的は上層と入れ替わること。
 上層は、自由と正義のために戦っている振りをして下層を味方につけた中間層によって打倒される。中間層は、目的を達成するや否や、下層を元の隷従状態に押し戻し、自らは上層に転じる。下層グループだけは、たとえ一時的にしても、目的達成に成功したことがない。
 プロレタリアは、党に入る資格を得ることが認められていない。そのなかでもっとも才能があり、不満分子の中核になる可能性のある者は、ひたすら思考警察にマークされ、消されてしまう。
党のメンバーは、私的感情を一切もってはならないが、同時に熱狂状態から醒めることのないよう求められる。常に熱狂のうちに生きることを求められる。
 オセアニアの社会ではビッグブラザーは全能であり、党は誤りを犯さないという信念の上に成立している。
 党の求める忠誠心は、黒を白と信じこむ能力、さらには黒を白だと知っている能力、かつてはその逆を信じていた事実を忘れてしまう能力のことだ。そのためには、絶えず過去を改変する必要が生じる。過去は、党がいかようにも決められるものなのだ。
 党は、人生をすべてのレベルでコントロールしている。人間というのは、金属と同じで、うてばありとあらゆるかたちに変形できる。
 「1984年」から30年たった今、日本社会の現実は、「アベノミクス」礼賛一色、安倍内閣持ち上げ一辺倒のマスコミ操作が強力に進行していて、本当に恐ろしい限りです。でも、まだ、希望を捨てるわけにはいきません。そんな社会にしないため、一人一人が声を上げるべきだと思うのです。
(2014年2月刊。860円+税)

沈黙を破る者

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  メヒティルト・ボルマン 、 出版  河出書房新社
 ドイツ・ミステリー大賞、第一位という小説です。
 ドイツでは、ヒトラーのナチス・ドイツ時代の幹部連中が今なお名前も変えて生き、栄えている現実があるようです。この小説もそれを背景としています。
 オビの文章を紹介します。
 「不可解な殺人事件を追う一人の巡査。50年の時をこえてよみがえる戦時下の出来事。気鋭の女性作家による静かな傑作」
 話は現代のドイツと戦中のドイツとが交錯して展開していきます。
 仲良し6人組の男女が戦争に突入するなかで、バラバラになっていきます。
 そして、戦後、死んだ父親の遺品の写真や証明書を手がかりに、聞かされていない過去を調べはじめると、協力者の女性ジャーナリストが惨殺されてしまうのです。
 戦前、一組の夫婦が行方不明となりました。それを担当していた刑事は、わずかな捜査で早々に打ち切ってしまいます。なぜか・・・。
 1960年生まれの著者が、知るはずもない戦前のドイツの状況をことこまかに描いています。
 戦時中の話を幼いころに母親から聞かされた経験が生かされているとのことです。
 著者の関心事は、ナチが政権を握っていた第三帝国時代に、ごくふつうの人間が、どのように暮らしていたのかを描き出し、その運命を読者にありありと感じとってもらうことにあった。その目標は達成していると思います。推理小説だと思いますので、ネタバラシはやめておきます。
 良質のミステリー小説です。
(2014年5月刊。2200円+税)

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